テトラヒドロピランとは
テトラヒドロピラン (英: Tetrahydropyran) とは、無色透明液体の環状エーテルです。
IUPAC名はオキサン (英: Oxane) 、別名として、THP、オキサシクロヘキサン (英: Oxacyclohexane) 、1-オキサシクロヘキサン (英: 1-Oxacyclohexane) 、1,5-エポキシペンタン (英: 1,5-epoxypentane) 、ペンタメチレンオキシド (英: Pentamethylene oxide) とも呼ばれます。
テトラヒドロピランの使用用途
1. 保護基
有機合成において、2-テトラヒドロピラニル基は、アルコールの保護基として汎用されます。基質のアルコール部位に対し、酸性条件下、2,3-ジヒドロピランを作用させることでテトラヒドロピラニルエーテルへと変換可能です。
典型的な条件では、アルコールをジクロロメタン溶媒中でp-トルエンスルホン酸存在下、ジヒドロピランを作用させます。脱保護は、酸加水分解により行われ、5-ヒドロキシペンタナールが複製されます。水を作用させることが好ましくない場合は、水の代わりにアルコールを用いることも可能です。
2-テトラヒドロピラニル基は、塩基や求核剤、還元剤の存在下で比較的安定なため、有用な保護基です。しかし、保護の過程でテトラヒドロピラニル基の2位に不斉中心を生成させるため、NMRスペクトルが複雑になるなどの欠点があります。
また、不正中心を有する基質の保護に用いた場合、ジアステレオマーが生成しうるため、反応系が複雑になる可能性があります。ジアステレオマーは、立体異性体のうち鏡像異性体でないもののことです。ジアステレオマー同士は、沸点や溶解度、カラムクロマトグラフィーでの挙動など物理的性質が異なります。
2. その他
テトラヒドロピランは、酸性条件や塩基性条件、還元条件に強い耐性を持つため、反応溶媒、抽出溶媒、晶析溶媒といった様々な用途で使用できる有機溶媒です。
n-BuLiなどの強塩基性条件下では、同じ環状エーテル構造を持つ、五員環のテトラヒドロフランに比べ、テトラヒドロピランはより強い耐性を有します。そのため、医薬・農薬原料としても使用されます。
テトラヒドロピランの性質
化学式はC5H10Oで表され、分子量は86.13です。CAS番号は142-68-7で登録されています。融点は-45 °C、沸点は88 °Cで、常温で液体です。
密度は、0.880g/ml (20℃) です。揮発性とエーテル系の刺激臭を持つ液体で、アルコールやエーテルなど多くの有機溶媒、および水に溶けます。
テトラヒドロピランのその他情報
1. テトラヒドロピランの合成法
ラネーニッケル触媒に代表されるラネー合金を触媒として用い、2,3-ジヒドロピランに水素添加することで合成できます。また、酸性条件下、1,5-ペンタンジオールの脱水を伴う環化反応によっても合成可能です。
2. 法規情報
テトラヒドロピランは、以下の国内法令に指定されています。
- 消防法
危険物第四類 第一石油類 危険等級Ⅱ - 労働安全衛生法
危険物・引火性の物 (施行令別表第1第4号) - 危険物船舶運送及び貯蔵規則
引火性液体類 (危規則第3条危険物告示別表第1) - 航空法
引火性液体 (施行規則第194条危険物告示別表第1)
3. 取り扱い及び保管上の注意
取り扱う場合の対策
使用の際は、局所排気装置であるドラフトチャンバー内で、個人用保護具を着用してください。テトラヒドロピランは、強酸化剤との接触で激しく反応する恐れがあります。
強酸化剤には近づけないようにしてください。また、空気との長時間の接触により過酸化物を生成します。テトラヒドロピランは-22 °Cに引火点を持つ、引火性の非常に高い液体です。高温物や熱、炎、火花、静電気、スパークには近づけないようにしてください。
火災の場合
熱分解により、刺激性で有毒なガスと蒸気を放出する可能性があります。水スプレー (水噴霧) や二酸化炭素 (CO2) 、泡、粉末消火剤、砂などを用いて消火活動をしてください。
皮膚に付着した場合
使用時は、白衣や作業着などの保護衣と保護手袋を着用し、皮膚が暴露しないようにしてください。
皮膚に付着してしまったら、すぐに石けんと大量の水で洗い流します。汚染された衣類は、すべて脱いで隔離します。皮膚刺激が続く場合は、医師に連絡してください。
眼に入った場合
使用時は、保護メガネまたはゴーグルを必ず着用してください。万が一眼に入った際は、コンタクトを着用している場合は外し、水でしっかり洗浄します。眼の刺激が持続する場合は、医師の診断、手当てを受けてください。
保管する場合
直射日光を避け、換気が良好かつ涼しい場所で、ガラス製容器に入れ、密閉して保管します。保管庫は、必ず施錠してください。
参考文献
https://anzeninfo.mhlw.go.jp/anzen/gmsds/142-68-7.html
https://labchem-wako.fujifilm.com/sds/W01W0120-0508JGHEJP.pdf
https://pubchem.ncbi.nlm.nih.gov/compound/Tetrahydropyran