臭素酸

臭素酸とは

臭素酸とは、臭素のオキソ酸の1つです。

単に臭素酸という場合は、トリオキソ臭素(V)酸HBrO3を指します。他の臭素のオキソ酸と同様に、遊離酸は単離できず、無色の水溶液としてのみ存在します。

水溶液は強酸性であり、強い酸化作用があります。酸としては臭化水素酸より弱く、ヨウ素酸より強いです。純粋なものは無色ですが、室温に放置すると一部が分解して淡黄色を帯びます。そのため、基本的には低温で保存します。

臭素酸の使用用途

臭素酸や臭素酸の塩は基本的に、酸化剤として使用されます。具体的には、合成原料、医薬品原料、染料の合成反応の中間処理剤として用いられる場合が多いです。

例えば、臭素酸カリウムは食品添加物 (小麦粉品質改良剤、魚肉製品添加剤) 、分析試薬に使用されます。また、臭素酸ナトリウムは医薬部外品添加物 (パーマネントウェーブ用剤) 、試薬などの用途があります。

ただし、臭素酸は強酸性、強酸化剤のため人体に有毒です。皮膚、眼、粘膜を侵すので、取り扱いに注意を要します。 

臭素酸の性質

臭素酸HBrO3 (英: Bromic Acid) は無機化合物で、臭素 (英: Bromine)  、酸素 (英: Oxygen) 、水素 (英: Hydrogen) から構成されています。性質は以下の通りです。

1. 酸性

臭素酸が溶けると水溶液中で電離し、水素イオンH+を供給します。

   HBrO3 → H+ + BrO3

このため、臭素酸の水溶液は非常に強い酸性を示し、酸として振る舞います。

2. 安定性

臭素酸は化学的に不安定で、加熱、衝撃、光に対して敏感です。特に高濃度の臭素酸は爆発的に分解する可能性があるため、取り扱いには注意が必要です。

3. 酸化作用

臭素酸は酸化剤として作用し、他の物質を酸化することがあります。この性質は、特定の化学反応や合成プロセスで活かされる場合も多いです。

臭素酸の構造

臭素酸は、臭素、酸素、水素から構成される無機化合物です。臭素酸の構造は共有結合によって形成され、化学式HBrO3で表されます。この分子の基本的な構造は次の通りです。

臭素原子Brは中心に位置し、中心原子としての役割を果たします。酸素原子Oは臭素原子に結合し、酸素原子と臭素原子の間に共有結合が形成されます。この酸素原子は水酸基 (-OH) を持つため、水酸基が結合しているということが重要です。

もう2つの酸素原子も臭素原子に結合し、臭素原子と酸素原子の間に共有結合が存在します。分子内の水酸基が酸性を示す主要な要因であり、臭素酸が水溶液中で酸として振る舞う理由です。

また、この構造において、臭素原子と酸素原子は電子対を共有しています。

臭素酸のその他情報

1. 塩基との反応

臭素酸は酸であるため、塩基と中和反応を起こして塩を生成します。例えば、水酸化ナトリウム水溶液とは次のように反応し、臭素酸ナトリウムとなります。

    HBrO3  + NaOH →  NaBrO3 + H2O

2. 水との反応

臭素酸は水と反応して臭化水素酸HBr (英: Hydrobromic Acid) と酸素ガスO2を生成します。この反応は次のように表されます。

   HBrO3 + H2O → HBr + H2O2 + O2 

不安定性と強い酸性に注意が必要で、取り扱いには慎重さが求められます。

3. 臭素酸の塩に対する規制

臭素酸の塩は、各種法規によって規制されています。例えば、臭素酸カリウムの法規は以下の通りです。

  • 化学物質審査規制法 (化審法) :一般化学物質
  • 化学物質排出把握管理促進法 (化管法) :第1種指定化学物質
  • 大気汚染防止法: 有害大気汚染物質
  • 水質汚濁防止法: 事故時措置 (指定物質)
  • 環境基本法: 水質要調査項目

そのほか、食品衛生法や消防法で規制されています。 

参考文献
http://www.chemicoco.env.go.jp/
https://anzeninfo.mhlw.go.jp/anzen/gmsds/cas-7758-01-2.html

硫酸水素ナトリウム

硫酸水素ナトリウムとは

硫酸水素ナトリウム (英: Sodium hydrogen sulfate) とは、ナトリウムイオンと硫酸水素イオンとの塩であり、白色の結晶です。

化学式はNaHSO4で表され、分子量は120.06、CAS登録番号は7681-38-1です。別名としては、酸性硫酸ナトリウム (英: Sulfuric acid hydrogen sodium salt) があります。

硫酸水素ナトリウムの使用用途

硫酸水素ナトリウムの主な使用用途として、鉱物や難溶性塩の分析用融剤、白金器具の洗浄が挙げられます。これらの用途は、本物質を含む硫酸水素塩が難溶性塩と溶融すると可溶性の硫酸塩を生じる性質を利用したものです。この現象あるいは分析手法を、硫酸水素塩融解といいます。

また、硫酸水素ナトリウムは食品添加物としても利用されています。パンケーキミックスや飲料、ドレッシング、ソースなどへの添加物をはじめ、食肉の加工や新鮮なカット農産物の褐変防止にも使用されています。硫酸水素ナトリウムは酸味を作らずにpHを下げることができるので、市販されているクエン酸、リンゴ酸、またはリン酸の代わりに使用されており、褐変防止剤としても使用可能です。

そのほか、金属の表面処理剤、にかわの処理剤、水の消毒剤、pH調整剤、せっけん、れんがやセメント・製紙業の分野も用途として挙げられます。

硫酸水素ナトリウムの性質

硫酸水素ナトリウムの沸点・融点は無く、315℃付近でNa2S2O7に分解します。密度は2.74g/cm3で、安定な酸性塩であり、無水物には吸湿性があります。硫酸水素ナトリウムの水への溶解度は50g/100mLと溶けやすく、水溶液は強い酸性を示します。

硫酸水素ナトリウムは、一部の棘皮動物には猛毒となりますが、他の生物に対してはほぼ無害です。このため、硫酸水素ナトリウムをオニヒトデの大発生の抑制に用いることがあります。

硫酸水素ナトリウムのその他情報

1. 硫酸水素ナトリウムの製法

硫酸水素ナトリウムの無水物は、塩化ナトリウムに濃硫酸を加え、加熱融解することで得られます。

   NaOH + H2SO4 → NaHSO4 + H2O

硫酸ナトリウム水溶液に濃硫酸を作用させると、硫酸水素一水和物が得られます。

   Na2SO4 + 2H2O + H2SO4 → 2NaHSO4·H2O

工業的には、硫酸水素ナトリウムは、塩化ナトリウムと硫酸の反応を伴うマンハイム法の中間体として生成されます。

   NaCl + H2SO4 → HCl + NaHSO4

2. 硫酸水素ナトリウムの反応

硫酸水素ナトリウムは、300℃以上に加熱すると、脱水してピロ硫酸ナトリウム (二硫酸ナトリウム) を生じ、さらに加熱するとSO3を放出して硫酸ナトリウムを生じます。

   2NaHSO4 → Na2S2O7 + H2O
   Na2S2O7 → Na2SO4 + SO3

3. 法規情報

硫酸水素ナトリウムは、消防法や毒物及び劇物取締法、化学物質排出把握管理促進法 (PRTR法) などの、主要な法規制のいずれにも該当していません。一方で、航空法や港則法などの輸送に関する法律では腐食性物質に指定されているため、注意が必要です。

4. 取扱いおよび保管上の注意

取扱い及び保管上の注意は、下記の通りです。

  • 容器を密栓し、直射日光を避け冷暗所に保管する。
  • 金属を侵すため、ガラス製やプラスチック製容器などで保管する。
  • 屋外や換気の良い区域のみで使用する。
  • 加熱すると分解して有毒なヒュームを発生するため、取扱時には注意する。
  • アルコールや水と反応するため、むやみに混合時させないようにする。
  • 多くの金属を侵し、引火性・爆発性の水素を発生するため、混触させないように注意する。
  • 使用時は保護手袋、保護眼鏡、保護衣を着用する。
  • 取扱い後はよく手を洗浄する。
  • 皮膚に付着した場合は、石鹸と水で洗い流す。
  • 眼に入った場合は、水で数分間注意深く洗う。

参考文献
https://anzeninfo.mhlw.go.jp/anzen/gmsds/7681-38-1.html

硫酸水素カリウム

硫酸水素カリウムとは

硫酸水素カリウム (英: Potassium hydrogen sulfate) とは、カリウムの硫酸水素塩であり、無臭で無色あるいは白色の結晶です。

化学式はKHSO4で表され、分子量は136.17、CAS登録番号は7646-93-7です。別名として、酸性硫酸カリウム (英: Sulfuric acid hydrogen potassium salt) や重硫酸カリウムがあります。

硫酸水素カリウムは、天然にはマーカライト (英: Mercallite) という無色または空色の斜方晶系鉱物として、鍾乳石などの成分に含まれることがあります。ミセナイト (英: Misenite) という鉱物には、K8H6(SO4)7というより複雑な組成で硫酸水素カリウムが含まれています。

硫酸水素カリウムの使用用途

硫酸水素カリウムの主な使用用途として、鉱物や難溶性塩の分析用融剤、白金器具の洗浄が挙げられます。これらの用途は、本物質を含む硫酸水素塩が難溶性塩と溶融すると可溶性硫酸塩を生じる性質を利用したものです。この現象あるいは分析手法を、硫酸水素塩融解といいます。

また、硫酸水素カリウムは、ワイン製造用の酒石酸カリウムを調製するためにも使用されます。そのほか、強力な酸化剤である過硫酸カリウムの調製に使用されたり、肥料や食品保存剤にも有用です。

硫酸水素カリウムの性質

硫酸水素カリウムの融点は197℃、沸点は無く300℃付近で分解し、密度は2.24g/cm3です。硫酸水素カリウムは、水への溶解度が50g/100mLと溶けやすく、水溶液は強酸性を示しますが、エタノール中では分解します。

硫酸水素カリウムの水溶液からは含水塩が得られ、結晶水は1または5.5だとされています。無水硫酸水素カリウムの結晶構造は、斜方晶系または単斜方系の無色の結晶です。

硫酸水素カリウムのその他情報

1. 硫酸水素カリウムの製法

硫酸水素カリウムは実験室的には、硫酸カリウム硫酸を反応させることで得られます

   K2SO4 + H2SO4 → 2KHSO4

硫酸水素カリウムは、硝石 (硝酸カリウム) と硫酸から硝酸を製造する際の副産物としても得られます。

   KNO3 + H2SO4 → HNO3 + KHSO4

工業的には、硫酸水素カリウムは、硫酸カリウムを製造するためのマンハイム法の初期段階に関連して、塩化カリウムと硫酸の発熱反応時に得られます。

   KCl + H2SO4 → HCl+KHSO4

2. 硫酸水素カリウムの反応

硫酸水素カリウムは、熱分解によって脱水してピロ硫酸カリウム (二硫酸カリウム) を生成します。

   2KHSO4 → K2S2O7 + H2O

さらに、600°C以上ではピロ硫酸カリウムは硫酸カリウムと三酸化硫黄に変化します。この性質を利用し、難溶性塩の硫酸水素塩融解に使用されます。

   K2S2O7 → K2SO4 + SO3

3. 法規情報

硫酸水素カリウムは、毒物及び劇物取締法、消防法、化学物質排出把握管理促進法 (PRTR法) など、主要な法規制のいずれにも該当していません。一方で、船舶安全法や航空法など輸送に関する法律では腐食性物質に指定されているため、注意が必要です。

4. 取扱いおよび保管上の注意

取扱い及び保管上の注意は、下記の通りです。

  • 容器を密栓し、直射日光を避け冷暗所に保管する。
  • 金属を侵すため、ガラス製やプラスチック製容器などで保管する。
  • 屋外や換気の良い区域のみで使用する。
  • 加熱すると分解して有毒なヒュームを発生するため、取扱時には注意する。
  • アルコールや水と反応するため、むやみに混合時させないようにする。
  • 多くの金属を侵し、引火性・爆発性の水素を発生するため、混触させないように注意する。
  • 使用時は保護手袋、保護眼鏡、保護衣を着用する。
  • 取扱い後はよく手を洗浄する。
  • 皮膚に付着した場合は、石鹸と水で洗い流す。
  • 眼に入った場合は、水で数分間注意深く洗う。

参考文献
https://anzeninfo.mhlw.go.jp/anzen/gmsds/7646-93-7.html

硫酸水素イオン

硫酸水素イオンとは

硫酸水素イオンとは、化学式HSO4-で表される、一価の陰イオンです。
別称としては、硫酸水素アニオン、水素スルファート(水素サルフェート)があります。

硫酸水素イオンの塩は、一般にM(I)HSO4で表され、硫酸塩を硫酸に溶かすことで得られます。硫酸水素塩は水に溶けやすく、水溶液は酸性を示すものが多いです。

硫酸水素塩を熱すると、まず脱水して二硫酸塩を生じ、さらに熱するとSO3を放ち硫酸塩を生じます。これを利用し、塩基性金属元素のリン酸塩や酸化物、スラッグなどの試料に硫酸水素カリウムを加えて400℃で融解することで、水溶性の硫酸塩を得ることができます。これを硫酸水素塩融解といい、硫酸水素カリウムはこの分析用融剤として用いられます。

硫酸水素イオンの使用用途

硫酸水素イオンは各種陽イオンと反応し塩を生じます。
この硫酸水素塩は主に、先述の難溶性塩の硫酸水素塩融解、白金坩堝の洗浄に用いられます。

そのほか、代表的な硫酸水素塩である硫酸水素カリウムKHSO4は、肥料、ブドウ酒製造、食品保存剤にも用いられています。

また、硫酸水素ナトリウムNaHSO4は、飲料水の消毒、セメント、香料、れんが、にかわの製造、金属の表面処理剤、pH調整剤、せっけん、製紙業の分野にも使用されています。

参考文献
https://anzeninfo.mhlw.go.jp/anzen/gmsds/7646-93-7.html

硫酸ヒドラジン

硫酸ヒドラジンとは

硫酸ヒドラジンの構造

図1. 硫酸ヒドラジンの構造

硫酸ヒドラジン (英: Hydrazine sulfate) とは、化学式N2H6SO4で表される無機化合物です。

IUPAC命名法に則った正式名称は、硫酸水素ヒドラジニウム (英: Hydrazinium hydrogensulfate) であり、CAS登録番号は10034-93-2です。

別名は、ヒドラジン硫酸、ヒドラジン硫酸塩、ヒドラジン-1,2-ジイウム=スルファート (ヒドラジン-1,2-ジイウム=サルフェート) 、硫酸ヒドラジニウム(2+)、硫酸第二ヒドラジンなどがあります。硫酸ヒドラジンは、ヒドラジニウムイオンと硫酸水素イオンから成る塩です。

硫酸ヒドラジンの使用用途

硫酸ヒドラジンは、分析化学や有機化合物の合成、及びプラスチック発泡剤製造用、農薬などの用途があります。分析化学や有機合成などにおいては、特にヒドラジンの安全な供給源として用いられることが多い物質です。

ヒドラジンは強力な還元剤であり、反応性の高い物質ですが、分解しやすく揮発性が高い性質があります。硫酸ヒドラジンは、ヒドラジンよりも安定性が高く、保存時にも空気酸化の影響を受けにくいためより安定に取り扱うことができます。

1. 農薬・医薬品

硫酸ヒドラジンは、殺菌・防腐剤としての用途もあり、農薬原料として試用されています。硫酸ヒドラジンは、栄養補助食品として販売されてはいますが、安全で効果的な治療薬として法的に承認されたことはありません。

2. 化学的・化学工業的用途

アセテート繊維の構造

図2. アセテート繊維の構造

硫酸ヒドラジンは、前述した化学反応におけるヒドラジンの安全な供給源としての使用法の他、酢酸塩を用いてアセテート繊維を製造する際の触媒、鉱物の人工合成、金属中に含まれるヒ素の検出試薬、合成樹脂発泡剤などがあります。

硫酸ヒドラジンの性質

硫酸ヒドラジンは、分子量130.12、融点254℃であり、室温での外観は無色の結晶または白い粉末です。密度は1.37g/mLであり、水溶性があります。水への溶解度は30g/L (20°C) です。

硫酸ヒドラジンの種類

硫酸ヒドラジンは、主に研究開発用試薬製品や工業用化学薬品として販売されている物質です。

1. 研究開発用試薬製品

研究開発用試薬製品としては、25g、100g、250g、500g、1kgなどの容量の種類があります。実験室で取り扱いやすい容量が中心ですが、小容量から比較的大きめの容量まで様々な種類での提供があります。通常、室温にて取り扱い可能な物質として扱われる試薬製品です。

2.工業用化学薬品

工業用化学薬品としては、金属表面処理剤、還元剤 (金属回収) 、有機合成用原料などの用途を想定して販売されています。工場などで使用しやすい大容量の紙袋などの荷姿で販売されることが多いです。

硫酸ヒドラジンのその他情報

1. 硫酸ヒドラジンの合成

ヒドラジンを原料とする硫酸ヒドラジンの合成

図3. ヒドラジンを原料とする硫酸ヒドラジンの合成

硫酸ヒドラジンは、ヒドラジン水溶液に硫酸を作用させることで合成することができます。

2. 硫酸ヒドラジンの有害性

硫酸ヒドラジンは、人体への有害性が指摘されている物質です。GHS分類では下記のように分類されています。

  •  急性毒性 (経口) : 区分4
  • 皮膚感作性: 区分1
  • 生殖細胞変異原性: 区分2
  • 発がん性: 区分2
  • 特定標的臓器・全身毒性 (単回ばく露) : 区分1 (神経系、肝臓)/区分3 (気道刺激性)
  • 特定標的臓器・全身毒性 (反復ばく露) : 区分1 (肝臓、副腎) 、区分2 (腎臓、血液系、中枢神経系)

また、環境に対する有害性では、水生環境急性有害性及び、水生環境慢性有害性で区分1に指定されています。

3. 硫酸ヒドラジンの法規制情報

硫酸ヒドラジンは前述の有害性により法規制を受ける物質です。労働安全衛生法では健康障害防止指針公表物質に指定されており、消防法では、第5類自己反応性物質、ヒドラジンの誘導体に指定されています。法令を遵守して正しく取り扱うことが必要です。

参考文献
http://www.chemicoco.env.go.jp/
https://anzeninfo.mhlw.go.jp/anzen/gmsds/10034-93-2.html

硫酸ジメチル

硫酸ジメチルとは

硫酸ジメチルの基本情報

図1. 硫酸ジメチルの基本情報

硫酸ジメチルとは、硫酸のジメチルエステルです。

別称に、ジメチル硫酸、硫酸メチル、ジメチル硫酸エステル、DMSなどがあります。ジメチル硫酸は厳密には慣用名です。

化学物質審査規制法(化審法)では、優先評価化学物質に分類されています。水質汚濁防止法では事故時措置(指定物質)の規制項目があるほか、労働安全衛生法、毒劇法、消防法でも規制項目があります。

硫酸ジメチルの使用用途

硫酸ジメチルは強力なアルキル化剤として広く用いられています。そのため、医薬品原料や合成原料としての用途が多いです。具体的には、フェノールやアルコールのヒドロキシ基 (-OH) 、アミンのアミノ基 (-NH2) 、チオールのチオール基 (-SH) のメチル化によく用いられます。

核酸の化学的メチル化に用いられるアルキル化剤としても有名です。歴史的に、マクサム・ギルバート法 (英: Maxam–Gilbert sequencing) によるDNA塩基配列の決定に使用されました。

硫酸ジメチルの性質

硫酸ジメチルの融点は−32°Cで、188°Cで分解します。タマネギのような弱い悪臭を有し、無色の油状液体です。エタノール、アセトン、ジクロロメタン、各種エーテル類に溶けます。水には溶けにくく、徐々に加水分解されます。

硫酸ジメチルには刺激性がないですが、人体にきわめて有毒です。蒸気を吸入したり、皮膚に付着したまま放置すると、体内に吸収されて中毒を起こします。腎臓、肝臓、心臓が侵され、皮膚の壊死や呼吸器粘膜の炎症から死に至る可能性もあるため、取り扱いには十分な注意が必要です。

硫酸ジメチルの構造

硫酸ジメチルは中性エステルであり、化学式は(CH3)2SO4または(CH3O)2SO2で表されます。Me2SO4とも表記されます。モル質量は126.13g/molで、密度は1.33g/mlです。

硫酸ジメチルのその他情報

1. 硫酸ジメチルの合成法

硫酸ジメチルの合成

図2. 硫酸ジメチルの合成

発煙硫酸と乾いたメタノールジメチルエーテルと反応させると、硫酸水素メチルが生成します。硫酸水素メチルを蒸留し、硫酸ジメチルに変換可能です。

クロロスルホン酸メチルと亜硝酸メチルを反応させても、硫酸水素メチルを合成可能です。

工業的にはジメチルエーテルと三酸化硫黄 (SO3) との連続反応によって合成されます。

2. 硫酸ジメチルの反応

硫酸ジメチルの反応

図3. 硫酸ジメチルの反応

一般的に硫酸ジメチルは、フェノール類をメチル化する際に使用され、アルコールのメチル化にも適しています。例えば、tert-ブタノールからtert-ブチルメチルエーテルを合成可能です。アルコキシドの場合には、すぐにメチル化します。アルコールと同様に、チオールのメチル化も容易に起こります。チオカルボン酸からチオエステルを生成可能です。

アミンのメチル化によって、3級アミンや4級アンモニウム塩を合成できます。長鎖アルキル基を有する4級アンモニウム化合物は、衣類の柔軟剤や界面活性剤に使用可能です。

さらに硫酸ジメチルは、グアニンのイミダゾール環の開環反応によって、DNAを塩基特異的に開裂でき、DNA鎖の切断や塩基配列の決定で役立ちます。また酸化銅(I)と反応すると、硫酸銅(I)が得られます。

3. 硫酸ジメチルの危険性

ラットに対して吸入や静脈内投与によって、がんの発生が確認されています。有毒で取り扱いにくいため、実験室では他のメチル化剤に代替される傾向があります。

ヨウ化メチルはO-メチル化に利用され、高価ですが、危険性が低いです。炭酸ジメチルはヨウ化メチルや硫酸ジメチルよりも毒性が低いため、N-メチル化に硫酸ジメチルの代わりとして使用可能です。ただし硫酸ジメチルは反応効率が高く、入手が容易なため、適切な試薬に判断される場合もあります。

参考文献
http://www.chemicoco.env.go.jp/detail.html
https://anzeninfo.mhlw.go.jp/anzen/gmsds/77-78-1.html

硫酸カルシウム

硫酸カルシウムとは

硫酸カルシウムとは、石膏の主成分として知られている、カルシウムの硫酸塩です。

化学式はCaSO4で表され、別称としては硫酸石灰があります。水に溶けにくい無色~白色の結晶であり、天然には二水和物が石膏、無水和物が硬石膏として産出されます。加熱すると水和物の焼き石膏を生じます。化学物質審査規制法 (化審法) では一般化学物質に分類されています。また、農薬取締法では登録農薬に分類されており、食品衛生法においても規制項目があります。

硫酸カルシウムの使用用途

1. 食品添加物

豆腐製造時の凝固剤や、ビールの食品添加物として、硫酸カルシウムが使用されます。

2. 肥料

硫酸カルシウムは難水溶性ではあるものの、炭酸カルシウムよりは溶解度が大きいです。そのため、カルシウム分と硫黄を補給するための肥料として用いられます。土壌酸度に対する影響は小さいです。

3. 石膏

硫酸カルシウムは水と混ぜて硬化することから、陶磁器の型材や建築材、医療用としては歯科模型や骨折した患部を支えるギブスとして利用されます。建築材としては、石膏を紙で挟んだ石膏ボードがよく使用されます。石膏ボードはリサイクル性が高い材料です。

また、硫酸カルシウム無水物 (無水石膏) を微粉砕し、石灰、ミョウバン、ポルトランドセメントといった硬化促進剤を加えたものは、硬石膏プラスターと呼ばれます。これは主に壁材料に使用され、特に緻密なものは装飾用に使用されます。また、先述の焼セッコウ (硫酸カルシウム・五水和物) に、フノリ、ゼラチン、デンプン、ホウ砂といった硬化遅延剤を混合したものも、同様に石膏プラスターとして使用されます。

硫酸カルシウムの性質

硫酸カルシウムの分子量は136.136、比重は2.96、融点1450 ℃、CAS番号は7778-18-9です。濃硫酸には、硫酸水素カルシウム (Ca2(HSO4)2) として溶解します。また、チオ硫酸ナトリウムやアンモニウム塩にも、錯体を生成することで溶解します。

硫酸カルシウムの種類

硫酸カルシウムは結晶水の割合によって、以下の種類に分けられます。

1. 硫酸カルシウム無水物

無水石膏、硬石膏とも呼ばれます。硫酸カルシウム無水物には結晶構造が異なる、Ⅲ型、Ⅱ型、I型が存在します。加熱温度により、異なる結晶構造が得られます。Ⅲ型はさらにα型とβ型に分類することができます。

2. 硫酸カルシウム半水和物

半水石膏、または焼き石膏とも呼ばれます。硫酸カルシウム半水和物には結晶構造が異なるα型とβ型が存在し、結晶系はいずれも三方晶であるものの、比重や硬化時間などが異なります。α型は緻密な構造で硬化強度が大きいことから、医療用等に用いられます。β型はポーラス状の空隙があり、α型と比べて粒子密度が小さく、石膏ボード等の建築資材として利用されます。半水石膏を180度以上に加熱すると、硫酸カルシウム無水物が生成します。

3. 硫酸カルシウム二水和物

二水石膏や軟石膏とも呼ばれます。通常の石膏は硫酸カルシウム二水和物を指すことが多いです。150〜180 ℃で加熱することで、硫酸カルシウム半水和物に変化します。

硫酸カルシウムのその他情報

硫酸カルシウムの製造方法

硫酸カルシウムは天然の鉱石から採掘する方法と、化学的に合成する方法があります。化学的には硫酸分とカルシウム分の反応によって硫酸カルシウムが得られます。

湿法リン酸の生産工程でも硫酸カルシウムが得られます。具体的には、りん鉱石 (Ca5(PO4)3・F) とリン酸 (H3PO4) を反応させて水溶性のリン酸一カルシウム (Ca(H2PO4)2) とフッ化水素 (HF) を得ます。そして、硫酸 (H2SO4) を加えて、リン酸と硫酸カルシウムを生成します。この生産工程で得られるリン酸カルシウムはリン酸石膏とも呼ばれます。リン酸の製造工程以外にも、排煙脱硫工程や、チタン、フッ酸の製造工程でも副次的に硫酸カルシウムが得られます。

参考文献
http://www.chemicoco.env.go.jp/detail.html?
https://anzeninfo.mhlw.go.jp/anzen/gmsds/7778-18-9.html
https://www.jstage.jst.go.jp/article/mukimate1953/1979/161/1979_161_139/_pdf/-char/ja
https://www-cycle.nies.go.jp/jp/report/recycled_gypsum_powder_guidelines.pdf
https://www-cycle.nies.go.jp/magazine/mame/201109.html
http://www.st.rim.or.jp/~shw/MSDS/03094250.pdf

硫化水素ナトリウム

硫化水素ナトリウムとは

硫化水素ナトリウムの構造

図1. 硫化水素ナトリウムの構造

硫化水素ナトリウム (英: Sodium hydrosulfide) とは、組成式NaSHで表される無機化合物です。

ナトリウムイオンと硫化水素イオンの塩で、別名には水硫化ナトリウム水硫化ソーダ、ナトリウムヒドロスルフィドなどの名称があります。

CAS登録番号は、16721-80-5です。化学式はNaSHまたはNaHSで表されます。

硫化水素ナトリウムの使用用途

硫化水素ナトリウムの主な使用用途は、合成樹脂原料、有機合成原料、染料原料、硫化染色助剤、硫化染料原料、化繊脱硫、銅鉱山浮遊選鉱、皮革加工薬剤です。具体的には、染料及び種々の有機薬品の中間体、皮革の脱毛、ビスコースレーヨンの脱硫などに用いられます。

そのほか、硫化水素ナトリウムは、水酸化ナトリウムおよび水素を作用させることで硫化ナトリウムNa2Sを生じる物質です。この硫化ナトリウムは、人絹やスフの脱硫剤、硫化染料の製造、ニトロ化合物の還元、皮革の脱毛剤、皮なめしの脱臭剤、写真のセピア調色剤、パルプの蒸解 (クラフト紙製造) 、陽イオン定性分析用試薬などに用いられます。

硫化水素ナトリウムの性質

1. 硫化水素ナトリウム (無水物) の性質

硫化水素ナトリウムは、分子量56.063、融点350℃であり、常温での外観は灰白色の固体です。硫化水素臭を有します。水によく溶ける性質があり、エーテルやアルコールにも可溶です。約40℃で空気中で自然に発火するとされています。密度は1.79g/mLです。

2. 硫化水素ナトリウム (n水和物) の性質

硫化水素ナトリウムn水和物のCAS登録番号は207683-19-0です。融点は53℃であり、常温での外観はうすい黄色~褐色の板状固体です。特異臭をもち、水やエタノールに溶解します。

硫化水素ナトリウムの種類

硫化水素ナトリウムは主に工業用化学薬品や研究開発用試薬製品として販売されています。多くは無水物ではなく、n水和物として販売されています。

1. 研究開発用試薬製品

研究開発用試薬製品には、5g、100g、500g、1kg、3kgなどの容量の種類があります。通常、水和物として販売されており、実験室で取り扱いやすい容量での提供が一般的です。通常、室温で保管可能な試薬製品として扱われます。

2. 工業用化学薬品

工業用化学薬品としての硫化水素ナトリウムは、通常水和物として純度70%製品などとして販売されることが一般的です。容量の種類は25kg紙袋など、工場などで使用しやすい大型容量で提供されています。

想定されている主な用途はPPS樹脂原料、有機合成化学用、皮革脱毛、硫化染色助剤、硫化染料原料、化繊脱硫、銅鉱山浮遊選鉱などです。

硫化水素ナトリウムのその他情報

1. 硫化水素ナトリウムの合成方法

硫化水素ナトリウムの合成方法

図2. ナトリウムメトキシドを用いる、硫化水素ナトリウムの合成方法

硫化水素ナトリウムの合成法としては、水酸化ナトリウムの水溶液に硫化水素を飽和させる方法が知られています。その他、通常、実験室ではナトリウムメトキシドと硫化水素から合成することが一般的です。

2. 硫化水素ナトリウムの化学反応

硫化水素ナトリウムと空気との反応による生成物

図3. 硫化水素ナトリウムと空気との反応による生成物

硫化水素ナトリウムは、還元性、腐食性、強い潮解性を有する物質です。空気中の酸素、二酸化炭素と反応して分解し、チオ硫酸ナトリウム亜硫酸ナトリウム炭酸ナトリウムが生じます。また、酸との接触で硫化水素を発生し、水溶液の状態でも常時ごく微量の硫化水素を生じます。

硫化水素ナトリウムの品質分析はヨウ素還元滴定によって行われます。これは硫化水素イオンSHがヨウ素に対して還元力を持つことを利用したものです。

3. 硫化水素ナトリウムの法規制情報

硫化水素ナトリウムは、労働安全衛生法では名称等を表示すべき危険有害物、名称等を通知すべき危険有害物、リスクアセスメントを実施すべき危険有害物に指定されています。法令を遵守して正しく取り扱うことが必要です。

参考文献
http://www.chemicoco.env.go.jp/
https://anzeninfo.mhlw.go.jp/anzen/gmsds/0999.html

硫化リチウム

硫化リチウムとは

硫化リチウムとは、化学式はLi2Sで表わされるリチウムの硫化物です。

別称としては、硫化二リチウム、チオビスリチウム、ジリチオスルフィドがあります。通常無色~白色の粉末状であり、卵の腐ったような独特の臭気 (腐卵臭) があることが特徴です。不燃性ですが、加熱や酸類との接触により二酸化硫黄硫化水素が発生します。

また、水に溶けやすいが加水分解しやすく、潮解性があります。水との接触時には発熱を伴い、水溶液はアルカリ性です。水溶液は硫黄を溶解し、Li2S2、Li2S4といったポリ硫化物を生じます。

硫化リチウムの使用用途

硫化リチウムは、全固体電池における正極活物質および固体電解質として有望視されています。近年、電子機器の発達に伴い、二次電池の高密度化、安全性向上が求められており、現行のリチウムイオン電池 (LiB) を代替する次世代二次電池の研究開発が進められています。

そこで、注目されているのが全固体電池であり、なかでも特に期待を集めているのが全固体リチウム-硫黄電池 (LiSB) です。全固体リチウム硫黄電池が実用化されると、ポータブル電子機器だけでなく電気自動車や航空機といった用途拡大が期待されます。

硫化リチウムの性質

硫化リチウムは、分子量45.95、CAS番号12136-58-2で表わされる白色粉末です。融点は900〜975℃、引火点、沸点に関するデータはありません。また密度、pH、溶解度に関するデータもありません。

光により変質する恐れがあるため、日光を避けた場所で取り扱い、保管を行います。

硫化リチウムのその他情報

1. 安全性

硫化リチウムは、GHSの急性毒性・経口 (区分3)、皮膚腐食性/刺激性 (区分1) に分類されます。特に、飲み込むと有毒であり、重篤な皮膚の薬傷及び眼の損傷の恐れがあることから、取り扱い時は人体に曝露しないよう注意が必要です。

消防法、毒物及び劇物取締法、労働安全衛生法において非該当ですが、危険物船舶運送及び貯蔵規則、航空法において腐食性物質に該当します。

2. 応急措置

眼に入った場合は、水で数分間注意深く洗い流し、コンタクトレンズを着用していて容易に外せる場合は外し、洗浄を続けます。皮膚等に付着した場合は、直ちに汚染された衣類を全て脱ぎ、皮膚を大量の水またはシャワーで洗い流します。

吸入し た場合は、空気の新鮮な場所に移し、呼吸し やすい姿勢で休息させ、症状が回復しない場合は医師への連絡が必要です。万が一飲み込んだ場合、口をすすぎ、無理に吐かせず、直ちに毒劇物センターもしくは医師に連絡します。

3. 取扱方法

屋内作業場で使用する場合は、発生源の密閉化、または局所排気装置を設置します。取扱い場所の近くには、安全シャワー、手洗い・洗眼設備を設け、その位置を明瞭に表示します。

保管容器は、ガラス製を用い、容器は遮光し、冷蔵庫 (2~10°C) で密閉して保管が必要です。また容器内は、不活性ガスを封入して保管します。

作業者は、防塵マスク、不浸透性保護手袋、側板付き保護眼鏡 (必要により ゴーグル型または全面保護眼鏡) 、長袖作業衣の着用が必要です。

4. 火災時の措置

硫化リチウムは、使用してはならない消火剤は無いため、現場状況および周辺環境に適した消火剤を使用して消火活動を行います。

火災時は、熱分解によって刺激性で有毒なガスと蒸気を放出する可能性があることから、消火活動を行う者は個人用保護具の着用が必要です。

5. 製造方法

硫化リチウムの製造時は、まず金属リチウムと硫黄を融点以上に加熱し反応させ生成した硫酸リチウムを炭素、有機物、水素、アンモニアと加熱し還元させます。

最後に硫化水素リチウムエタノール化物を水素気流中で加熱うることで、硫化リチウムが生成されます。ただし、反応条件が過酷であり、制御が難しいことが課題です。

その他、非プロトン性有機溶媒中で水酸化リチウムと硫化水素を反応させる方法などがあります。

参考文献
https://www.osakafu-u.ac.jp/press-release/pr20211028_2/
https://www.jst.go.jp/pr/announce/20170524/index.html

硫化アンモニウム

硫化アンモニウムとは

硫化アンモニウム (英: Ammonium sulfide) とは、硫化水素のアンモニウム塩です。

通常、一硫化アンモニウムを指し、水溶液として販売されています。別名として、アンモニウムスルフィドやジアンモニウムスルフィド (英: Diammonium sulfide) 、アンモニウムモノスルフィド (英: Ammonium monosulfide) と呼ばれます。

硫化アンモニウムの使用用途

1. 分析試薬

硫化アンモニウムは、陽イオンの定性分析試薬として用いられます。ニッケルやコバルト、鉄、マンガン、クロム、アルミニウム、亜鉛などの陽イオンと硫化物イオンが反応し、沈殿物を形成します。

各金属の硫化物が沈殿しており、沈殿物の色は金属によってさまざまです。例えば、硫化ニッケルは黒色、硫化亜鉛は白色、硫化マンガンは淡紅色、硫化コバルトは黒色を示します。

2. 有機合成反応試薬

硫化アンモニウムは、ジニトロベンゼンの2つのニトロ基のうち1つだけを選択的にアミノ基に還元するための試薬としても使用できます。

3. その他

硫化アンモニウムは、殺虫剤や写真の現像液、黄銅青銅の表面着色処理剤としても利用されています。

硫化アンモニウムの性質

化学式はH8N2Sで表され、分子量は68.14です。無色の溶液は、CAS登録番号は12135-76-1です。無色の針状結晶で、-18℃で分解が始まり、黄色へと変化します。

吸湿性があり、卵が腐ったような硫化水素の臭いとアンモニア様の臭いを持ちます。水やエタノール、液体アンモニアに溶けますが、エーテルには溶けません。また、熱水中では分解します。

水と反応すると硫化水素アンモニウム (NH5S) を生成し、水溶液はアルカリ性です。45%濃度の水溶液はpH9.5を示します。水溶液は空気酸化して黄色を呈し、ポリ硫化物やチオ硫酸塩、硫酸塩に分解します。

硫化アンモニウムの種類

無色と黄色の2種類の水溶液が販売されています。無色はアンモニア水に硫化水素を通じた液であり、黄色は無色の溶液に硫黄を溶かした液です。また、それぞれ濃度が異なり、無色は0.5〜1.0%、黄色は5.0〜6.0%の濃度を示します。黄色のCAS登録番号は、12135-77-2です。

硫化アンモニウムのその他情報

1. 硫化アンモニウムの製造法

水を含まないアンモニアと硫化水素を、-18℃に冷却されたジエチルエーテル中で混合させることで針状結晶が得られます。また、アンモニア水に硫化水素を飽和させた硫化水素アンモニウム水溶液にアンモニア水を混合した後、-18℃に冷却することでも同様に硫化アンモニウムを合成可能です。

ただし、常に硫化水素アンモニウムが含まれるため、純粋な硫化アンモニウムを得ることは困難です。

2. 法規情報

硫化アンモニウムは、以下の国内法令に指定されています。

  • 危険物船舶運送及び貯蔵規則
    腐食性物質 (危規則第3条危険物告示別表第1)
  • 航空法
    腐食性物質 (施行規則第194条危険物告示別表第1)
  • 水質汚濁防止法
    有害物質 (法第2条、施行令第2条、排水基準を定める省令第1条)

3. 取り扱い及び保管上の注意

取り扱い時の対策
強酸や金属、水反応可燃性物質は混触危険物質です。取り扱い時や保管時に接触させないようにしてください。

取り扱う際は、保護手袋と袖の長い保護衣、側板付きの保護メガネを着用します。必要に応じて、粉塵マスクや保護面を使用します。

火災の場合
熱分解で、窒素酸化物 (NOx) 、硫黄酸化物 (SOx) 、アンモニアなど刺激性で有毒なガスと蒸気を放出するおそれがあります。散水や噴霧水、粉末消火剤、二酸化炭素、泡消火剤、乾燥砂を使用して消火してください。棒状放水は使用してはいけません。

保管する場合
硫化アンモニウムは、光により変質する恐れがあります。容器は遮光して密閉し、換気の良い涼しい場所に保管してください。保管場所は必ず施錠します。

参考文献
https://labchem-wako.fujifilm.com/sds/W01W0101-0349JGHEJP.pdf
https://labchem-wako.fujifilm.com/sds/W01W0101-0346JGHEJP.pdf
https://pubchem.ncbi.nlm.nih.gov/compound/25519
https://kikakurui.com/k8/K8943-2012-01.html