硫化アンモニウムとは
硫化アンモニウム (英: Ammonium sulfide) とは、硫化水素のアンモニウム塩です。
通常、一硫化アンモニウムを指し、水溶液として販売されています。別名として、アンモニウムスルフィドやジアンモニウムスルフィド (英: Diammonium sulfide) 、アンモニウムモノスルフィド (英: Ammonium monosulfide) と呼ばれます。
硫化アンモニウムの使用用途
1. 分析試薬
硫化アンモニウムは、陽イオンの定性分析試薬として用いられます。ニッケルやコバルト、鉄、マンガン、クロム、アルミニウム、亜鉛などの陽イオンと硫化物イオンが反応し、沈殿物を形成します。
各金属の硫化物が沈殿しており、沈殿物の色は金属によってさまざまです。例えば、硫化ニッケルは黒色、硫化亜鉛は白色、硫化マンガンは淡紅色、硫化コバルトは黒色を示します。
2. 有機合成反応試薬
硫化アンモニウムは、ジニトロベンゼンの2つのニトロ基のうち1つだけを選択的にアミノ基に還元するための試薬としても使用できます。
3. その他
硫化アンモニウムは、殺虫剤や写真の現像液、黄銅や青銅の表面着色処理剤としても利用されています。
硫化アンモニウムの性質
化学式はH8N2Sで表され、分子量は68.14です。無色の溶液は、CAS登録番号は12135-76-1です。無色の針状結晶で、-18℃で分解が始まり、黄色へと変化します。
吸湿性があり、卵が腐ったような硫化水素の臭いとアンモニア様の臭いを持ちます。水やエタノール、液体アンモニアに溶けますが、エーテルには溶けません。また、熱水中では分解します。
水と反応すると硫化水素アンモニウム (NH5S) を生成し、水溶液はアルカリ性です。45%濃度の水溶液はpH9.5を示します。水溶液は空気酸化して黄色を呈し、ポリ硫化物やチオ硫酸塩、硫酸塩に分解します。
硫化アンモニウムの種類
無色と黄色の2種類の水溶液が販売されています。無色はアンモニア水に硫化水素を通じた液であり、黄色は無色の溶液に硫黄を溶かした液です。また、それぞれ濃度が異なり、無色は0.5〜1.0%、黄色は5.0〜6.0%の濃度を示します。黄色のCAS登録番号は、12135-77-2です。
硫化アンモニウムのその他情報
1. 硫化アンモニウムの製造法
水を含まないアンモニアと硫化水素を、-18℃に冷却されたジエチルエーテル中で混合させることで針状結晶が得られます。また、アンモニア水に硫化水素を飽和させた硫化水素アンモニウム水溶液にアンモニア水を混合した後、-18℃に冷却することでも同様に硫化アンモニウムを合成可能です。
ただし、常に硫化水素アンモニウムが含まれるため、純粋な硫化アンモニウムを得ることは困難です。
2. 法規情報
硫化アンモニウムは、以下の国内法令に指定されています。
- 危険物船舶運送及び貯蔵規則
腐食性物質 (危規則第3条危険物告示別表第1) - 航空法
腐食性物質 (施行規則第194条危険物告示別表第1) - 水質汚濁防止法
有害物質 (法第2条、施行令第2条、排水基準を定める省令第1条)
3. 取り扱い及び保管上の注意
取り扱い時の対策
強酸や金属、水反応可燃性物質は混触危険物質です。取り扱い時や保管時に接触させないようにしてください。
取り扱う際は、保護手袋と袖の長い保護衣、側板付きの保護メガネを着用します。必要に応じて、粉塵マスクや保護面を使用します。
火災の場合
熱分解で、窒素酸化物 (NOx) 、硫黄酸化物 (SOx) 、アンモニアなど刺激性で有毒なガスと蒸気を放出するおそれがあります。散水や噴霧水、粉末消火剤、二酸化炭素、泡消火剤、乾燥砂を使用して消火してください。棒状放水は使用してはいけません。
保管する場合
硫化アンモニウムは、光により変質する恐れがあります。容器は遮光して密閉し、換気の良い涼しい場所に保管してください。保管場所は必ず施錠します。
参考文献
https://labchem-wako.fujifilm.com/sds/W01W0101-0349JGHEJP.pdf
https://labchem-wako.fujifilm.com/sds/W01W0101-0346JGHEJP.pdf
https://pubchem.ncbi.nlm.nih.gov/compound/25519
https://kikakurui.com/k8/K8943-2012-01.html