硫酸ヒドラジンとは
図1. 硫酸ヒドラジンの構造
硫酸ヒドラジン (英: Hydrazine sulfate) とは、化学式N2H6SO4で表される無機化合物です。
IUPAC命名法に則った正式名称は、硫酸水素ヒドラジニウム (英: Hydrazinium hydrogensulfate) であり、CAS登録番号は10034-93-2です。
別名は、ヒドラジン硫酸、ヒドラジン硫酸塩、ヒドラジン-1,2-ジイウム=スルファート (ヒドラジン-1,2-ジイウム=サルフェート) 、硫酸ヒドラジニウム(2+)、硫酸第二ヒドラジンなどがあります。硫酸ヒドラジンは、ヒドラジニウムイオンと硫酸水素イオンから成る塩です。
硫酸ヒドラジンの使用用途
硫酸ヒドラジンは、分析化学や有機化合物の合成、及びプラスチック発泡剤製造用、農薬などの用途があります。分析化学や有機合成などにおいては、特にヒドラジンの安全な供給源として用いられることが多い物質です。
ヒドラジンは強力な還元剤であり、反応性の高い物質ですが、分解しやすく揮発性が高い性質があります。硫酸ヒドラジンは、ヒドラジンよりも安定性が高く、保存時にも空気酸化の影響を受けにくいためより安定に取り扱うことができます。
1. 農薬・医薬品
硫酸ヒドラジンは、殺菌・防腐剤としての用途もあり、農薬原料として試用されています。硫酸ヒドラジンは、栄養補助食品として販売されてはいますが、安全で効果的な治療薬として法的に承認されたことはありません。
2. 化学的・化学工業的用途
図2. アセテート繊維の構造
硫酸ヒドラジンは、前述した化学反応におけるヒドラジンの安全な供給源としての使用法の他、酢酸塩を用いてアセテート繊維を製造する際の触媒、鉱物の人工合成、金属中に含まれるヒ素の検出試薬、合成樹脂発泡剤などがあります。
硫酸ヒドラジンの性質
硫酸ヒドラジンは、分子量130.12、融点254℃であり、室温での外観は無色の結晶または白い粉末です。密度は1.37g/mLであり、水溶性があります。水への溶解度は30g/L (20°C) です。
硫酸ヒドラジンの種類
硫酸ヒドラジンは、主に研究開発用試薬製品や工業用化学薬品として販売されている物質です。
1. 研究開発用試薬製品
研究開発用試薬製品としては、25g、100g、250g、500g、1kgなどの容量の種類があります。実験室で取り扱いやすい容量が中心ですが、小容量から比較的大きめの容量まで様々な種類での提供があります。通常、室温にて取り扱い可能な物質として扱われる試薬製品です。
2.工業用化学薬品
工業用化学薬品としては、金属表面処理剤、還元剤 (金属回収) 、有機合成用原料などの用途を想定して販売されています。工場などで使用しやすい大容量の紙袋などの荷姿で販売されることが多いです。
硫酸ヒドラジンのその他情報
1. 硫酸ヒドラジンの合成
図3. ヒドラジンを原料とする硫酸ヒドラジンの合成
硫酸ヒドラジンは、ヒドラジン水溶液に硫酸を作用させることで合成することができます。
2. 硫酸ヒドラジンの有害性
硫酸ヒドラジンは、人体への有害性が指摘されている物質です。GHS分類では下記のように分類されています。
- 急性毒性 (経口) : 区分4
- 皮膚感作性: 区分1
- 生殖細胞変異原性: 区分2
- 発がん性: 区分2
- 特定標的臓器・全身毒性 (単回ばく露) : 区分1 (神経系、肝臓)/区分3 (気道刺激性)
- 特定標的臓器・全身毒性 (反復ばく露) : 区分1 (肝臓、副腎) 、区分2 (腎臓、血液系、中枢神経系)
また、環境に対する有害性では、水生環境急性有害性及び、水生環境慢性有害性で区分1に指定されています。
3. 硫酸ヒドラジンの法規制情報
硫酸ヒドラジンは前述の有害性により法規制を受ける物質です。労働安全衛生法では健康障害防止指針公表物質に指定されており、消防法では、第5類自己反応性物質、ヒドラジンの誘導体に指定されています。法令を遵守して正しく取り扱うことが必要です。
参考文献
http://www.chemicoco.env.go.jp/
https://anzeninfo.mhlw.go.jp/anzen/gmsds/10034-93-2.html