ポリアクリロニトリル

ポリアクリロニトリルとは

ポリアクリロニトリルとは、アクリロニトリル (CH2=CHCN) が重合したポリマーです。

Polyacrylonitrileの頭文字をとってPANとも呼ばれます。ポリアクリロニトリルの工業的な用途として、アクリル繊維が有名です。

他のビニル化合物とも容易に共重合する特徴を生かして、さまざまな物性のものが広く流通しています。

ポリアクリロニトリルの使用用途

1. アクリル繊維

ポリアクリロニトリルは、軟化点が高く、繊維として優れた性質をもっています。ポリアクリロニトリルを主成分とする繊維をアクリル繊維といいます。

アクリル繊維の特徴は、耐熱性や光沢感、遮光性が高く、優れた耐久性と撥水性があることです。アクリル繊維は、染色性が良く、保湿性にも優れるため、衣料品や寝具、カーペット、自動車の内装などに広く使われています。

また、アクリル繊維は、ウールや綿、レーヨンなどの天然繊維との混紡が容易で、セーターや肌着、毛布、カーペットなどにも有用です。

2. 炭素繊維用原料

ポリアクリロニトリルは、炭素繊維や炭素繊維強化樹脂 (CFRP) の原料としても重要です。炭素繊維は、非常に軽く、高い強度を持ち、耐熱性や耐薬品性があります。そのため、宇宙開発や高級スポーツ用品、軍事用途などに利用されています。

3. 医薬・バイオ

ポリアクリロニトリルは、医薬、バイオ産業で用いられる分離膜の材料としても使用されています。ポリアクリルニトリルを用いた中空糸膜はタンパク質の吸着が少なく、分離性能にも優れています。

アクリル繊維や炭素繊維用原料、水処理向けに需要が伸びており、その成長は特に中国の炭素繊維産業と水処理産業の成長に牽引されています。中国は世界最大のポリアクリロニトリルの生産国です。政府も炭素繊維産業の発展に向けた投資を積極的に行っています。

ポリアクリロニトリルの性質

ポリアクリロニトリルは、白色または黄色の固体です。軟化点が高いため、溶融せずに300℃以上の高温で分解します。

炭化水素やアルコール類、エーテル等には不溶ですが、ロダン塩や塩化亜鉛等の濃厚水溶液、N,N-ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、スクシノニトリル、2-オキサゾリドンには溶けます。ポリアクリロニトリルは、水酸化ナトリウム等のアルカリを添加するか、200℃以上で加熱すると、ピリジン環が生成されて茶褐色に着色します。

ポリアクリロニトリルのその他情報

1. ポリアクリロニトリルの製造方法

ポリアクリロニトリルは、アクリロニトリルを、過酸化ベンゾイル等によってラジカル重合させるか、金属ナトリウムやナトリウムメトキシド等によってイオン重合させることで、生成されます。工業的には懸濁重合や溶液重合によるラジカル重合で製造されています。

2. アクリル繊維の製造方法

ポリアクリロニトリルを主成分とするアクリル繊維は、アクリロニトリルが主成分ですが、アクリル酸メチル、酢酸ビニル、メタクリル酸メチルなどと共重合させたものもあります。アクリル繊維は、このポリマーを溶剤に溶かした溶液をノズルから押出して紡糸する溶液紡糸法と呼ばれる方法で製造されます。

3. 炭素繊維の製造方法

アクリル繊維 (PAN繊維) を原料にして、PAN系炭素繊維は作られています。PAN系炭素繊維は、強度と弾性率が非常に高く、信頼性を求められる宇宙産業から、身近なレジャー用品まで幅広く使用されています。

耐炎化工程と呼ばれる、空気中で200〜300℃で加熱してアクリル繊維の分子を環状構造にします。続く炭素化工程で、不活性ガス中で1,000℃以上の熱を加え、水素、酸素、窒素を除き炭素のみからなる結晶構造へと変化させます。その後2,000℃以上の熱を加えて、黒鉛化しPAN系炭素繊維が完成します。

参考文献
https://www.jstage.jst.go.jp/article/kobunshi1952/11/6/11_6_445/_pdf

ペンタゾシン

ペンタゾシンとは

ペンタゾシンは、化学式C19H27NOで示される化学物質です。ペンタゾシンは、分子量285.424の白色または微黄白色の無臭結晶性粉末です。ペンタゾシンは、水には溶けにくい性質を持ちますが、エタノールにはやや溶けやすく、酢酸クロロホルムにはよく溶けます。ペンタゾシンの融点は、150℃から158℃です。

ペンタゾシンは、細胞表面の受容体であるオピオイド受容体に親和性があり、オピオイド受容体作動薬としての機能を持ちます。

ペンタゾシンの使用用途

ペンタゾシンは、ペンタゾシン注射液のかたちで、鎮痛剤として使用されています。

ペンタゾシンの適応として、閉塞性動脈炎、腎・尿路結石、心筋梗塞、胃・十二指腸潰瘍などの疾患に伴う鎮痛に用いられています。そして、ペンタゾシンは、術後の鎮痛剤としても使用されています。

ペンタゾシン使用時の主な副作用として、アナフィラキシーやショック、呼吸抑制、中毒性表皮壊死融解症、神経原性筋障害、無顆粒球症、痙攣などが挙げられます。

また、ペンタゾシン連用により、依存性を生じることがあるため、投与にあたっては、薬物依存に注意する必要があります。

参考文献
高久史麿 矢崎義雄 治療薬マニュアル 医学書院

ヘキサメチレンテトラミン

ヘキサメチレンテトラミンとは

ヘキサメチレンテトラミンの基本情報

図1. ヘキサメチレンテトラミンの基本情報

ヘキサメチレンテトラミンとは、化学式がC6H12N4で示される複素環脂肪族アミンの1種です。

ヘキサメチレンテトラミンは、ヘキサミン (英: Hexamine) 、ウロトロピン (英: Urotropine) 、メテナミン (英: Methenamine) 、1,3,5,7-テトラアザアダマンタン (英: 1,3,5,7-Tetraazaadamantane) の別名でも知られています。

海洋汚染防止法で「D類物質」、PRTR法で「第一種指定化学物質」、食品衛生法で「指定外添加物」に指定されています。

ヘキサメチレンテトラミンの使用用途

ヘキサメチレンテトラミンは、治療薬に使用可能です。具体的には、適応症や膀胱炎、尿路感染症などが挙げられます。作用機序は、まずヘキサメチレンテトラミンが尿中でホルムアルデヒドになります。

そのホルムアルデヒドは、尿路で防腐性を有するため、尿路防腐剤として利用可能です。また、食品用の防腐保存剤も使用用途として挙げられます。海外では、チーズやイクラに添加されて使用されていますが、日本では食品防腐保存剤として用いられていません。

ヘキサメチレンテトラミンの性質

ヘキサメチレンテトラミンは、無色で無臭の結晶または結晶性粉末です。280°Cで昇華し、発火点は410°Cです。

ヘキサメチレンテトラミンは、水、エタノールクロロホルムに溶けます。その一方で、ベンゼンアセトン、エーテルには溶けにくいです。

ヘキサメチレンテトラミンの構造

ヘキサメチレンテトラミンは、アダマンタン (英: Adamantane) に似ている四面体のカゴのような構造をしています。 4つの頂点には窒素原子があり、メチレンによって繋がれています。クラウンエーテル (英: Crown ether) やクリプタンド (英: Cryptand) とは異なり、内部には他の原子や分子を取り込むための隙間はありません。

なお、モル質量は140.186g/mol、20°Cでの密度は1.33g/cm3です。

ヘキサメチレンテトラミンのその他情報

1. ヘキサメチレンテトラミンの合成法

ヘキサメチレンテトラミンの合成

図2. ヘキサメチレンテトラミンの合成

1859年にアレクサンドル・ブートレロフ (英: Alexander Butlerov) によって、ヘキサメチレンテトラミンは発見されました。工業的に、気相や溶液中で、ホルムアルデヒドアンモニアを反応させて合成可能です。

2. ヘキサメチレンテトラミンの反応

ヘキサメチレンテトラミンの反応

図3. ヘキサメチレンテトラミンの反応

ヘキサメチレンテトラミンは、有機合成で幅広く使用可能です。具体的には、芳香環をホルミル化するための、ダフ反応 (英: Duff reaction) に用いられます。酸存在下でフェノール類のような電子豊富な芳香環を、ヘキサメチレンテトラミンを使用して、ホルミル化可能です。

また、ヘキサメチレンテトラミンは、ソムレー反応 (英: Sommelet reaction) にも利用されます。ハロゲン化ベンジルからアンモニウムの加水分解によって、アルデヒドを合成可能です。

さらに、デレピン反応 (英: Delépine reaction) では、ハロゲン化アルキルからアミンを合成可能です。ヘキサメチレンテトラミンとハロゲン化アルキルが反応して、第4級アンモニウム塩が生じ、酸加水分解によって第1級アミンが生成します。

3. 塩基としてのヘキサメチレンテトラミン

ヘキサメチレンテトラミンは、アミンのような塩基と同じように振る舞います。そのため、プロトン化や N-アルキル化が進行します。

例えば、1,3-ジクロロプロペン (英: 1,3-dichloropropene) を用いて、ヘキサメチレンテトラミンをN-アルキル化すると、第4級アンモニウム塩であるヘキサメチレンテトラミンクロロアリルクロライド (英: hexamethylenetetramine chloroallyl chloride) を生成可能です。ヘキサメチレンテトラミンクロロアリルクロライドはクオタニウム-15 (英: Quaternium-15) とも呼ばれ、シス体とトランス体の異性体混合物として生じます。

プロピルアルコール

プロピルアルコールとは

プロピルアルコールとは、分子式がC3H8Oである脂肪族アルコールの総称です。

n-プロピルアルコールとイソプロピルアルコールという2種の異性体が存在します。n-プロピルアルコールは末端炭素に水酸基をもつ1級アルコールで構造式はCH3CH2CH2OHとなり、1-プロパノールとも呼ばれます。一方、イソプロピルアルコールは3つのうち中央の炭素に水酸基がある2級アルコールで構造式はCH3CH(OH)CH3となり、2-プロパノール、ジメチルカルビノール、プロパン-2-オールとも呼ばれます。

プロピルアルコールの使用用途

n-プロピルアルコールは、工業用溶剤として幅広く利用されており、印刷用インク、繊維用途、化粧品・乳液、窓清掃剤、研磨剤、防腐剤などに用いられています。

イソプロピルアルコールは、容易に酸化されアセトンに変わるため、アセトンの合成原料として用いられています。また、その他にも、消毒液、溶剤、メガネやコンタクトレンズ、CD等の洗浄液、自動車の燃料タンクの水抜き剤としても利用されています。

プロピルアルコールの性質

1. n-プロピルアルコール

n-プロピルアルコールは、エタノールに似た香りをもつ無色の液体で、フーゼル油中に数%含まれています。融点が -126.5 ℃、沸点が 97.2 ℃ で、水、エタノール、ジエチルエーテルによく溶けます。引火点は 24℃であるため常温で引火します。

n-プロピルアルコールは、消防法では「危険物第4類アルコール類」に、労働安全衛生法では「名称等を表示・通知すべき危険物及び有害物」、「危険物・引火性の物」に、それぞれ指定されており、取り扱いには注意が必要です。

2. イソプロピルアルコール

イソプロピルアルコールは、引火性と揮発性を有した無色の液体で、融点が -89.5℃、沸点が 82.4 ℃ で、水、アルコール、エーテルなどによく溶けます。引火点 は11.7℃であるため常温で引火します。またイソプロピル基が酸化によりメチルケトンになる性質をもつため、ヨードホルム反応を示します。

イソプロピルアルコールは、消防法では「危険物第4類アルコール類」に、労働安全衛生法では「名称等を表示・通知すべき危険物及び有害物」、「第2種有機溶剤等」、「危険物・引火性の物」に、それぞれ指定されており、取り扱いには注意が必要です。 

プロピルアルコールのその他情報

プロピルアルコールの製造方法

1. n-プロピルアルコール
工業的には、フーゼル油から分留することで生成するか、プロピオンアルデヒドを水素化することによって合成されます。現在はエチレンのヒドロホルミル化によって得られるプロピオンアルデヒドを、ロジウム錯体等の触媒によって水素化する方法で作られています。

  C2H4+CO+H2⟶CH3CH2CHO
  CH3CH2CHO+H2⟶CH3CH2CH2OH

2. イソプロピルアルコール
工業的には、石油分解ガスから分離したプロピレンを原料として水分子を付加させる水和反応により作られます。酸化タングステンや酸化チタンなどの金属酸化物の存在下、水蒸気を25MPa、270℃の高温高圧で直接付加させる直接水和法と、硫酸化した後、加水分解を行う間接水和法の2つがあります。

間接水和法は古くからある方法で、世界的には間接水和法が主流ですが、日本国内は直接水和法で製造しているメーカーが多いです。また、近年はアセトン法と呼ばれる別のプロセスで製造する事例も増えてきています。

  • 直接水和法
    CH3CH=CH2+H2O ⟶ CH3CH(OH)CH3
  • 間接水和法
    CH3CH=CH2+H2SO4⟶CH3CH(OSO3H)CH3
    CH3CH(OSO3H)CH3+H2O⟶CH3CH(OH)CH3+H2SO4

参考文献
https://docs.google.com/document/d/1rzLq5LOxbqC9zkAOURYXKkGOqZ30eh8_cqICGQClw7A/edit
https://labchem-wako.fujifilm.com/sds/W01W0116-0483JGHEJP.pdf
https://www.nihs.go.jp/hse/ehc/sum2/ehc102/ehc102.html

プロトポルフィリン

プロトポルフィリンとは

プロトポルフィリン (英: Protoporphyrin) とは、有機化合物に分類される物質で、ポルフィン環に、4つのメチル基、2つのビニル基、2つのプロピオン酸基が結合した構造をもつポルフィリンの総称です。

化学式はC34H34N4O4で表されます。特に断りのない場合、プロトポルフィリンIXのことを指し、CAS登録番号は553-12-8です。

テトラピロールの1種であるポルフィリンファミリーに属します。プロトポルフィリンは、鉄、マンガン亜鉛、マグネシウムなどと結合して、金属プロトポルフィリンを作ります。プロトポルフィリンの二価鉄錯塩は、ヘモグロビンの色素です。

プロトポルフィリンの使用用途

プロトポルフィリンは、プロトポルフィリン二ナトリウムとして医薬品に用いられる物質です。効能・効果としては、慢性肝疾患における肝機能の改善が挙げられ、肝硬変、慢性肝炎、肝機能障害などの治療に使用されています。また、プロトポルフィリンは体内ではヘムやクロロフィルの前駆体です。

試験研究の用途では、プロトポルフィリンアッセイの標準物質や、蛍光スペクトル分析、ヘム媒介型フェロポーチン1転写を研究する細胞培養における細胞の処理などに用いられます。また、プロトポルフィリンIXは可溶性グアニル酸シクラーゼを活性化することが知られています。

プロトポルフィリンの性質

プロトポルフィリンの基本情報

図1. プロトポルフィリンの基本情報

プロトポルフィリンIXは、分子式C34H34N4O4で表され、分子量562.66の物質です。密度は1.27g/mL、常温では暗紫色の粉末です。

医薬品としては、プロトポルフィリン二ナトリウムとして用いられます。このナトリウム塩は、常温において赤紫色~黒紫色の粉末であり、融点は300℃以上です。無臭で、弱い塩味があるとされます。水やエタノールに溶けやすく、ジエチルエーテルやクロロホルムにはほとんど溶けない性質です。

プロトポルフィリンの種類

プロトポルフィリンの誘導体群

図2. プロトポルフィリンの誘導体群

プロトポルフィリンIXは、主に研究開発用試薬製品として販売されています。容量は5mg、25mg、1gなどであり、実験室用の容量の中でも比較的小さい容量での提供です。

通常のプロトポルフィリンの他に、安定同位体標準物質として2H6-プロトポルフィリンIXも販売されています。また、誘導体も多く提供されており、亜鉛プロトポルフィリンや、プロトポルフィリン IX ジメチルエステル、ヘミン、などが挙げられます。

プロトポルフィリンのその他情報

プロトポルフィリンの生合成

プロトポルフィリンの生合成の例

図3. プロトポルフィリンの生合成の例

プロトポルフィリンは、生体内でδ-アミノレブリン酸を出発物質として、数段階の酵素反応を経て合成されています。具体的な酵素反応は下記のとおりです。

1. ピロール環構造を持つポルフォビリノーゲンの生成
δ-アミノレブリン酸2分子がアミノレブリン酸脱水酵素によって脱水縮合。

2. ヒドロキシメチルビランの生成
ポルフォビリノーゲン4分子が、ポルフォビリノーゲン脱アミノ酵素によってアンモニアを脱離して結合し、ピロールが4つ直線状に連結した構造となる。

3. ウロポルフィリノーゲンIIIの合成
ヒドロキシメチルビランがウロポルフィリノーゲンIIIシンターゼによって縮合し、環構造となる。

4. コプロポルフィリノーゲンIIIの合成
ウロポルフィリノーゲン脱炭酸酵素によって4つの酢酸基が脱炭酸され、メチル基となる。

5. プロトポルフィリノーゲンIXの合成
コプロポルフィリノーゲン酸化酵素によって2箇所のプロピオン酸基が酸化され、ビニル基に変換される。

6. プロトポルフィリンIXの合成
プロトポルフィリノーゲン酸化酵素によって酸化される。

参考文献
Yi Liu-Chittenden, et al. Genetic and pharmacological disruption of the TEAD–YAP complex suppresses the oncogenic activity of YAP. Genes Dev. 2012 26(12):1300-5.

フーゼル油

フーゼル油とは

フーゼル油の基本情報

図1. フーゼル油の基本情報

フーゼル油 (Fusel oil) とは、糖類やでんぷんを発酵してエタノールを製造する際に、得られる副産物の1種です。

具体的には、エタノールを分留して精製する際に高沸点の揮発性成分として得られる留分のことを指します。CAS番号は8013-75-0です。フーゼル油は混合物であり、その成分は、発酵原料や酵母の種類、発酵方法、蒸留方法などによって異なります。各成分はそのどれもがエタノールよりも沸点が高い物質です。

主な成分としては、 (S)-2-メチル-1-ブタノール、3-メチル-1-ブタノールなどの炭素数5のアルコールが挙げられ、残りはイソブチルアルコールやn-プロピルアルコールといった、その他の高級アルコールなどが含まれています。

なお、フーゼル油は水に溶けにくく比重が水よりも軽いため、蒸留酒を作った際に油滴として分離し酒を濁らせたり表面に浮いてくることもあります。また、フーゼル油は、独特の臭気をもっているため、フーゼル油の含有率が高い酒類は、飲料に適さないとされています。

フーゼル油の使用用途

フーゼル油は、アミルアルコール (3-メチル-1-ブタノール) やtert-アミルアルコール (2-メチル-2-ブタノール)が工業的に生産されるようになるまでは、これらのアルコールの主要な供給源として利用されていた物質です。

化学処理や蒸留によって精製されたフーゼル油は、アミルアルコールがほとんどの割合を占める混合物となります。そのため、そのまま使用するか、あるいは酢酸エステルにして、アルキド樹脂・ニトロセルロース等の合成樹脂類や塗料などに、高沸点溶剤として用いられています。

フーゼル油を分留し、含有成分を分離することによって得られた各成分は、香料や溶剤として用いられています。フーゼル油には独特の臭いがあり、酒類にとって好ましくありませんが、微量含まれている場合には、香気成分として役立っています。

フーゼル油の性質

フーゼル油の主成分

図2. フーゼル油の主成分

常温では通常、無色或いは黄色ないし褐色の液体です。沸点は110〜130℃、密度0.810〜0.850g/mLであり、エタノールに溶けやすい性質を示します。一方、水には溶けにくい性質です。

フーゼル油の主成分は、 (S)-2-メチル-1-ブタノール、3-メチル-1-ブタノールといった炭素数5のアルコールです。その他の成分には、アルコール類 (プロパノール、ブタノール、2-メチル-1-プロパノール、1-ヘキサノールなど) や、酢酸エステル (酢酸イソアミルなど) 、中鎖脂肪酸のエチルエステル (ヘキサン酸エチル、オクタン酸エチル、デカン酸エチルなど) などを含みます。

また、発酵に使用された原料によっては、遊離の脂肪酸やフルフラールの誘導体やピラジン類などを含むことがあります。

フーゼル油の種類

フーゼル油は、香料原料や研究開発用試薬製品として販売されています。研究開発用試薬製品は100g , 500g , 1kgなどの実験室で取り扱いやすい容量で提供されています。通常、常温で保管可能な試薬製品です。

フーゼル油のその他情報

1. フーゼル油の保管

フーゼル油は、通常の保管条件では安定な物質とされていますが、高温・直射日光・炎・静電気などを避けて保管することが必要です。また、強酸化剤との混触も好ましく有りません。危険有害な分解生成物として、一酸化炭素二酸化炭素が挙げられます。

2. フーゼル油の安全性情報

フーゼル油は、引火性のある物質であり、引火点は45.5°C (密閉式引火点試験) です。そのため、消防法では「危険物第四類 第二石油類 危険等級Ⅲ」に指定されており、労働安全衛生法では「危険物・引火性の物」に指定されています。

法令を遵守して正しく取り扱うことが求められています。

フルオレセイン

フルオレセインとは

フルオレセインとは、化学式C20H12O5で、分子量332.31の黄赤色の粉末です。

1871年にドイツの化学者アドルフ・フォン・バイヤーにより合成されました。フルオレセインは、水に溶けず、エタノールには、わずかに溶けます。

蛍光色素の1種であり、鮮やかな緑色の蛍光を発することで知られています。この光学的性質から、バイオサイエンス、診断薬、顕微鏡技術など、さまざまな分野で利用可能です。

フルオレセインは、無水フタル酸とレソルシノールを塩化亜鉛下で、210℃に加熱させ、縮合反応を起こすことにより、フルオレセインを得られます。

フルオレセインの使用用途

フルオレセインは、その独特な蛍光性を活かして、バイオサイエンス、医療用診断薬、分析化学など、さまざまな分野で用いられています。

1. バイオサイエンス

フルオレセインは、蛍光顕微鏡や細胞生物学で広く使用されています。抗体や核酸プローブにフルオレセインを共役させ、特定のターゲット分子や細胞構造に結合させることで、観察対象の位置や動きの追跡が可能です。

2. 医療用診断薬

蛍光免疫測定法や蛍光in situハイブリダイゼーション. (FISH) などの手法では、フルオレセインが病原体や遺伝子変異の検出に活用されます。また、眼科学の領域では、フルオレセインを血管造影をする際に用いることで、診断試薬として使用可能です。

3. 分析化学

フルオレセインを基にした蛍光プローブは、特定のイオンや小分子を検出するための化学センサーとして用いられます。解析対象と結合することで蛍光強度が変化するため、定量分析が可能です。

また、フルオレセインは、井戸水や河川に含まれるアンモニアを検出するために用いられています。

フルオレセインの性質

フルオレセインは、光に対する感受性が高く、紫外線や可視光の照射によって緑色の蛍光を発します。また、水に溶けやすく、pHによって蛍光強度が変化することが知られています。

このpH感受性はフルオレセインの特徴で、一般的に、pH 7-9の範囲で最も蛍光強度が高くなります。これは、フルオレセイン分子内の水酸基がプロトンを受け渡しやすく、環境の酸性度に応じて分子の形態が変化するためです。

フルオレセインは、酸や塩基に対して比較的安定であり、多くの場合で分解されることはありません。ただし、極端なpH条件下では分解する可能性があります。フルオレセインは、光安定性に優れているとは言い難く、照射される光によって分解が進行することがあります。使用時や保存時には遮光が必要です。

フルオレセインの構造

フルオレセインは、紫外線や可視光に対する感受性が高く、光を照射することで鮮やかな緑色の蛍光を発します。この蛍光は、分子内の共役π電子系により引き起こされ、励起状態から基底状態へ戻る際に光子が放出されます。

フルオレセインはキサンテン骨格を持つ有機化合物です。キサンテン骨格は3つの環構造からなる、平面性の高い構造で、共役π電子系の形成によって、特異な光学的性質を示します。

また、フルオレセイン分子内には、3位と6位に水酸基が存在します。これらの水酸基はフルオレセインの水溶性を向上させるほか、プロトンの受け渡しによって、pHに応じた蛍光強度の変化が起こります。

フルオレセインのその他情報

フルオレセイン の製造方法

フルオレセインは、フタレインとレソルシノールを原料として合成されます。この反応には主に2つの方法が用いられます。

1. フリーデル・クラフツ反応による合成
この合成法は、フタレインとレソルシノールを塩基存在下で反応させる方法です。フタレインのカルボニル基がレソルシノールのベンゼン環上の水酸基と反応し、9-オン構造を形成することで反応が進行し、フルオレセインが得られます。

2. ウィッティヒ反応による合成
こちらの合成法では、まず、ヨードメタンとトリフェニルホスフィンを用いてウィッティヒ試薬を生成します。

ウィッティヒ試薬をフタレインに作用させ、オレフィン結合を形成させた後、レソルシノールと反応させることで、フルオレセインが合成されます。

フェノールレッド

フェノールレッドとは

フェノールレッドとは、化学式C19H14O5Sで表される暗赤色から赤色の無臭結晶性粉末です。

別名フェノールスルホンフタレインとも呼ばれます。フェノールレッドは、スルホン酸基を含む二酸化フェノールの誘導体です。溶液は中性で黄色、アルカリ性で赤色を呈します。

フェノールレッドは、フェノールをo-スルホ安息香酸無水物とともに加熱して反応させることで得ることができます。

フェノールレッドの使用用途

1. pH指示薬

フェノールレッドは、その溶液が中性で黄色に、アルカリ性で赤色に呈する特徴から、pH指示薬として用いられています。pHの変色域は、pH6.8で黄色〜pH8.4で赤色です。この性質を利用して、化学実験や、生化学分析などの用途に広く利用されています。

2. 細胞培養

フェノールレッドの、中性付近で赤色、酸性よりになると黄色、アルカリ性よりになると赤紫色になる性質を利用して、細胞培養の分野でも利用されています。

一般的に多くの細胞は、pH7.0付近の中性条件を好みます。培地の色を確認することで、細胞の状態を予測することが可能となります。

培地が黄色のときは、細胞数が多すぎる、またはカビ、バクテリアが繁殖していることを予測可能です。赤紫色に変化した場合は、なんらかの原因によって培養時のCO2濃度が低下していることを予測できます。

3. 腎機能検査

フェノールレッドは、生体内で分解されず、通常はほぼ100%尿中に入り、尿より体外に排出されます。そのため、フェノールレッドは、腎機能検査にも使用されます。

通常尿のpHは6.0前後であることから、基準値より低い場合は、栄養不足、発熱、糖尿病の可能性があり、高い場合は尿路感染症の可能性があることを予測することができます。

フェノールレッドの特徴

フェノールレッドは、分子量354.38、CAS登録番号143-74-8の有機化合物です。

1. 物理的性質

300℃以上で分解する性質を持ち、沸点、分解温度、引火点に関するデータはありません。また、密度、蒸気圧、爆発範囲、粘度に関するデータもありません。

2. 化学的性質

水への溶解度は約1g/1300mLであり、ほとんど溶けません。また、エタノールにやや溶け、ジエチルエーテルにはほとんど溶けません。薄い水酸化ナトリウム溶液に溶けます。

通常の取扱条件において安定ですが、光の暴露により徐々に分解する性質があります。また強酸化剤と接触すると激しく反応することがあります。

一酸化炭素、二酸化炭素、硫黄酸化物などの危険有害分解生成物を発生する可能性があるため、日光、光、高熱、強酸化剤との接触を避ける必要があります。

フェノールレッドのその他情報

1. フェノールレッドの安全性

GHSでは、皮膚腐食性 / 刺激性では区分2、眼に対する重篤な損傷性 / 刺激性では区分2Aに分類されています。皮膚や眼に付着した場合は、直ちに多量の水で洗い流し、刺激等が続く場合は医師の診断、手当てを受ける必要があります。

急性毒性や発がん性、生殖毒性、特定標的臓器毒性 (単回・反復暴露) は確認されていません。また、環境に対する毒性、有害性も確認されていない状況です。廃棄時は、関連法規ならびに地方自治体の基準に従って廃棄を行います。

2. フェノールレッドの取扱方法

作業者は、呼吸器保護具、保護手袋、保護眼鏡、長袖作業衣し、必要に応じて保護面、保護長靴を着用する必要があります。また、取扱い中は飲食、喫煙をせず、取扱後は手をよく洗います。

作業場は、換気装置を設置し、局所排気または全体換気が必要です。そのほか、粉じん、ミスト、蒸気、ガスの発生を防止し、粉じんの堆積を防ぐ対策を行います。

湿気、水、高温体、強酸化剤、日光などで分解する可能性があるため、接触を避けて取扱います。

3. フェノールレッドの保管

製品が他の物質に汚染されないよう清潔な場所で保管し、光の暴露や高温多湿を避けます。容器は密閉し冷暗所にj保管します。

保管容器は、ポリエチレン、ポリプロピレン、ガラスなどを使用し、食料や飼料などとは離して保管します。

フェノチアジン

フェノチアジンとは

フェノチアジン (英: Phenothiazine) とは、有機化合物の一種で、化学式C12H9NSで示される複素環式化合物です。

チアジンの両端にベンゼン環がそれぞれ2つ縮環した構造をしています。「10H-フェノチアジン」や、「ジベンゾチアジン」などの別名で表記されることもあり、CAS登録番号は、92-84-2です。フェノチアジンは、さまざまな種類の誘導体が知られており、多様な用途で活用されています。

フェノチアジンの使用用途

フェノチアジンの主な使用用途は、殺虫剤、尿路感染症の治療薬や、重合禁止剤、酸化防止剤、染料などです。また、フェノチアジンの誘導体は、フェノチアジン系抗精神病薬として広く使用されており、特に統合失調症治療薬としての効能が知られています。

代表例としては、クロルプロマジンやプロメタジンなどが特に有名です。また、プロメタジンは、抗ヒスタミン薬、抗パーキンソン剤として知られています。

フェノチアジンの性質

フェノチアジンの基本情報

図1. フェノチアジンの基本情報

フェノチアジンは、分子量199.27、融点185.1℃、沸点371℃であり、常温での外観は淡黄色の結晶性粉末です。わずかに臭いがあり、また、昇華性があります。密度は1.362g/mLであり、アセトンに溶けやすく、エタノールにはやや溶けにくく、水に極めて溶けにくい性質です。

フェノチアジンの種類

無置換のフェノチアジンは、主に研究開発用試薬製品として販売されています。容量の種類には25g、500g、1kgなどがあり、実験室で取り扱いやすい容量での提供です。

通常、室温で保管可能な試薬製品として扱われています。フェノチアジンには多数の誘導体があり、各方面で活用されていますが、必ずしもフェノチアジンから直接合成されるわけではなく、各分子によって合成経路は異なっています。化審法や労働安全衛生法で指定を受ける物質であるため、法令を遵守して正しく取り扱うことが必要です。

フェノチアジンのその他情報

1. フェノチアジンの合成方法

フェノチアジンの合成

図2. フェノチアジンの合成

フェノチアジンは、ジフェニルアミンと硫黄を触媒存在下で溶融させることで合成が可能です。この際、硫化水素が副生します。

2. フェノチアジンの化学反応

フェノチアジンの酸化体

図3. フェノチアジンの酸化体

フェノチアジンは光により酸化される性質があり、光に当たると徐々に濃緑色になります。また、容易に酸化を受けて、3H-フェノチアジン-3-オンや、7-ヒドロキシ-フェノチアジン-3-オンや、フェノチアジン-5-オキシドを与えます。

通常の保管条件では安定ですが、 加熱または酸との接触により分解し、窒素酸化物、硫黄酸化物などの刺激性有毒物質を与えるとされる物質です。保管時には加熱と酸を避け、容器を密閉して冷乾所にて保存するべきとされます。

3. フェノチアジンの誘導体

フェノチアジンの誘導体の1つに、メチレンブルー (染料、酸化還元指示薬) があります。また、抗精神病薬として、アルキルアミノ側鎖を持つプロマジンがよく知られており、更にプロマジンの誘導体群も統合失調症などに対する抗精神病薬として知られています。具体例は以下のとおりです。

  • プロマジン
  • クロルプロマジン
  • アセプロマジン
  • レボメプロマジン
  • プロメタジン (抗パーキンソン剤。抗ヒスタミン薬としても用いられる。)

その他、抗精神病薬としては、ピペリジン側鎖を持つ誘導体であるプロペリシアジンや、ピペラジン側鎖を持つフルフェナジン、ペルフェナジンが知られています。

4. フェノチアジンの法規制情報

フェノチアジンが指摘されているリスクは、以下のとおりです。

  • 皮膚刺激
  • 肝臓、腎臓、血液、神経系、循環器系の障害
  • 呼吸器への刺激
  • 水生生物に対する非常に強い毒性

そのため、化審法では、第3種監視化学物質に指定されており、労働安全衛生法では 名称等を表示すべき危険有害物に指定されている物質です。法令を遵守して正しく取り扱うことが求められます。

ピロリジン

ピロリジンとは

ピロリジンの基本情報

図1. ピロリジンの基本情報

ピロリジン (英: pyrrolidine) とは、化学式がC4H9Nで表される複素環式アミンです。

複素環式アミンは、環の中に2種類以上の異なる元素を含んだ環式アミンのことを指します。ピロリジンの別名は、テトラヒドロ-1H-ピロール (英: tetrahydro-1H-pyrrol) です。

ニンジンやタバコの葉などに含まれ、消防法で「第4類危険物第1石油類」に該当します。

ピロリジンの使用用途

ピロリジンは、有機合成の材料に広く用いられています。具体的には、ピロリジンとケトンの縮合によって、エナミン (英: enamine) を合成できます。さらにピロリジンは、強塩基性を示すため、塩基性の反応溶媒としても使用可能です。

また、ピロリジン骨格を持ついくつかの物質が医薬品に使われています。例えば、頻脈性不整脈、持続性心房細動、狭心症の治療薬に用いられているベプリジル (ベプリジル塩酸塩水和物) は、ピロリジン骨格を有します。

ピロリジンの性質

ピロリジンは無色の液体で、特有の刺激臭があります。融点は−63°C、沸点は87 °Cであり、pKaは11.27、pKbは2.74です。

水に溶けると、強塩基性を示します。クロロホルムエタノール、エーテルにも溶けます。なお、ピロリジンは5員環構造を有するアミンです。

分子量は71.12で、密度は0.8660g/cm3です。ピロリジンの骨格を持つ化合物は、ピロリジン誘導体と呼ばれています。

ピロリジンのその他情報

1. ピロリジンの合成法

ピロリジンの合成

図2. ピロリジンの合成

工業的にピロリジンは、アルミナに担持されたコバルト酸化物またはニッケル酸化物を触媒として、165~200°C、17~21MPaで、1,4-ブタンジオール (英: 1,4-butanediol) とアンモニアの反応によって合成可能です。

実験室でピロリジンは、通常4-クロロブタン-1-アミン (英: 4-chlorobutan-1-amine) を強塩基で処理して合成できます。ピロリジン誘導体は、カスケード反応 (英: Cascade reaction) によって合成されます。

2. ピロリジンの反応

ピロリジンの反応

図3. ピロリジンの反応

一般的なジアルキルアミンのように、ピロリジンは塩基性を示します。多くの二級アミンと比較すると、ピロリジンは環状構造を持つため、そのコンパクトさによって特徴的な反応が起こります。

具体的には、複雑な有機化合物の合成のために、ビルディングブロックとして使用可能です。ケトンやアルデヒドからエナミンを形成し、求核付加反応の活性化のために利用されます。エナミンとは炭素の二重結合上にアミノ基を有する化合物のことです。この反応はストークエナミン反応 (英: Stork Enamine Reaction) と呼ばれています。

ストークエナミン反応ではエナミンがアルキル化試薬に付加して、アルキル化されたイミニウムが生じ、酸による加水分解によってモノアルキル化されたケトンやアルデヒドを合成可能です。

3. ピロリジンの関連化合物

ピロリジン骨格は、多くの天然化合物に存在し、ピロリジン誘導体と呼ばれています。具体例として、ヒグリン (英: Hygrine) 、ヒグロリン (英: Hygroline) 、クスコヒグリン (英: Cuscohygrine) 、スタキドリン (英: Stachydrine) などのアルカロイド (英: Alkaloid) が挙げられます。

アルカロイドとは、窒素原子を含んだ天然由来の有機化合物のことです。例えば、ニコチン (英: Nicotine) は、ピリジン環とピロリジン環を有します。ピロリジンの構造は、プロリン (英: Proline) やヒドロキシプロリン (英: Hydroxyproline) のようなアミノ酸にも存在します。