ポリアクリロニトリル

ポリアクリロニトリルとは

ポリアクリロニトリルとは、アクリロニトリル (CH2=CHCN) が重合したポリマーです。

Polyacrylonitrileの頭文字をとってPANとも呼ばれます。ポリアクリロニトリルの工業的な用途として、アクリル繊維が有名です。

他のビニル化合物とも容易に共重合する特徴を生かして、さまざまな物性のものが広く流通しています。

ポリアクリロニトリルの使用用途

1. アクリル繊維

ポリアクリロニトリルは、軟化点が高く、繊維として優れた性質をもっています。ポリアクリロニトリルを主成分とする繊維をアクリル繊維といいます。

アクリル繊維の特徴は、耐熱性や光沢感、遮光性が高く、優れた耐久性と撥水性があることです。アクリル繊維は、染色性が良く、保湿性にも優れるため、衣料品や寝具、カーペット、自動車の内装などに広く使われています。

また、アクリル繊維は、ウールや綿、レーヨンなどの天然繊維との混紡が容易で、セーターや肌着、毛布、カーペットなどにも有用です。

2. 炭素繊維用原料

ポリアクリロニトリルは、炭素繊維や炭素繊維強化樹脂 (CFRP) の原料としても重要です。炭素繊維は、非常に軽く、高い強度を持ち、耐熱性や耐薬品性があります。そのため、宇宙開発や高級スポーツ用品、軍事用途などに利用されています。

3. 医薬・バイオ

ポリアクリロニトリルは、医薬、バイオ産業で用いられる分離膜の材料としても使用されています。ポリアクリルニトリルを用いた中空糸膜はタンパク質の吸着が少なく、分離性能にも優れています。

アクリル繊維や炭素繊維用原料、水処理向けに需要が伸びており、その成長は特に中国の炭素繊維産業と水処理産業の成長に牽引されています。中国は世界最大のポリアクリロニトリルの生産国です。政府も炭素繊維産業の発展に向けた投資を積極的に行っています。

ポリアクリロニトリルの性質

ポリアクリロニトリルは、白色または黄色の固体です。軟化点が高いため、溶融せずに300℃以上の高温で分解します。

炭化水素やアルコール類、エーテル等には不溶ですが、ロダン塩や塩化亜鉛等の濃厚水溶液、N,N-ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、スクシノニトリル、2-オキサゾリドンには溶けます。ポリアクリロニトリルは、水酸化ナトリウム等のアルカリを添加するか、200℃以上で加熱すると、ピリジン環が生成されて茶褐色に着色します。

ポリアクリロニトリルのその他情報

1. ポリアクリロニトリルの製造方法

ポリアクリロニトリルは、アクリロニトリルを、過酸化ベンゾイル等によってラジカル重合させるか、金属ナトリウムやナトリウムメトキシド等によってイオン重合させることで、生成されます。工業的には懸濁重合や溶液重合によるラジカル重合で製造されています。

2. アクリル繊維の製造方法

ポリアクリロニトリルを主成分とするアクリル繊維は、アクリロニトリルが主成分ですが、アクリル酸メチル、酢酸ビニル、メタクリル酸メチルなどと共重合させたものもあります。アクリル繊維は、このポリマーを溶剤に溶かした溶液をノズルから押出して紡糸する溶液紡糸法と呼ばれる方法で製造されます。

3. 炭素繊維の製造方法

アクリル繊維 (PAN繊維) を原料にして、PAN系炭素繊維は作られています。PAN系炭素繊維は、強度と弾性率が非常に高く、信頼性を求められる宇宙産業から、身近なレジャー用品まで幅広く使用されています。

耐炎化工程と呼ばれる、空気中で200〜300℃で加熱してアクリル繊維の分子を環状構造にします。続く炭素化工程で、不活性ガス中で1,000℃以上の熱を加え、水素、酸素、窒素を除き炭素のみからなる結晶構造へと変化させます。その後2,000℃以上の熱を加えて、黒鉛化しPAN系炭素繊維が完成します。

参考文献
https://www.jstage.jst.go.jp/article/kobunshi1952/11/6/11_6_445/_pdf

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