フェノチアジンとは
フェノチアジン (英: Phenothiazine) とは、有機化合物の一種で、化学式C12H9NSで示される複素環式化合物です。
チアジンの両端にベンゼン環がそれぞれ2つ縮環した構造をしています。「10H-フェノチアジン」や、「ジベンゾチアジン」などの別名で表記されることもあり、CAS登録番号は、92-84-2です。フェノチアジンは、さまざまな種類の誘導体が知られており、多様な用途で活用されています。
フェノチアジンの使用用途
フェノチアジンの主な使用用途は、殺虫剤、尿路感染症の治療薬や、重合禁止剤、酸化防止剤、染料などです。また、フェノチアジンの誘導体は、フェノチアジン系抗精神病薬として広く使用されており、特に統合失調症治療薬としての効能が知られています。
代表例としては、クロルプロマジンやプロメタジンなどが特に有名です。また、プロメタジンは、抗ヒスタミン薬、抗パーキンソン剤として知られています。
フェノチアジンの性質
図1. フェノチアジンの基本情報
フェノチアジンは、分子量199.27、融点185.1℃、沸点371℃であり、常温での外観は淡黄色の結晶性粉末です。わずかに臭いがあり、また、昇華性があります。密度は1.362g/mLであり、アセトンに溶けやすく、エタノールにはやや溶けにくく、水に極めて溶けにくい性質です。
フェノチアジンの種類
無置換のフェノチアジンは、主に研究開発用試薬製品として販売されています。容量の種類には25g、500g、1kgなどがあり、実験室で取り扱いやすい容量での提供です。
通常、室温で保管可能な試薬製品として扱われています。フェノチアジンには多数の誘導体があり、各方面で活用されていますが、必ずしもフェノチアジンから直接合成されるわけではなく、各分子によって合成経路は異なっています。化審法や労働安全衛生法で指定を受ける物質であるため、法令を遵守して正しく取り扱うことが必要です。
フェノチアジンのその他情報
1. フェノチアジンの合成方法
図2. フェノチアジンの合成
フェノチアジンは、ジフェニルアミンと硫黄を触媒存在下で溶融させることで合成が可能です。この際、硫化水素が副生します。
2. フェノチアジンの化学反応
図3. フェノチアジンの酸化体
フェノチアジンは光により酸化される性質があり、光に当たると徐々に濃緑色になります。また、容易に酸化を受けて、3H-フェノチアジン-3-オンや、7-ヒドロキシ-フェノチアジン-3-オンや、フェノチアジン-5-オキシドを与えます。
通常の保管条件では安定ですが、 加熱または酸との接触により分解し、窒素酸化物、硫黄酸化物などの刺激性有毒物質を与えるとされる物質です。保管時には加熱と酸を避け、容器を密閉して冷乾所にて保存するべきとされます。
3. フェノチアジンの誘導体
フェノチアジンの誘導体の1つに、メチレンブルー (染料、酸化還元指示薬) があります。また、抗精神病薬として、アルキルアミノ側鎖を持つプロマジンがよく知られており、更にプロマジンの誘導体群も統合失調症などに対する抗精神病薬として知られています。具体例は以下のとおりです。
- プロマジン
- クロルプロマジン
- アセプロマジン
- レボメプロマジン
- プロメタジン (抗パーキンソン剤。抗ヒスタミン薬としても用いられる。)
その他、抗精神病薬としては、ピペリジン側鎖を持つ誘導体であるプロペリシアジンや、ピペラジン側鎖を持つフルフェナジン、ペルフェナジンが知られています。
4. フェノチアジンの法規制情報
フェノチアジンが指摘されているリスクは、以下のとおりです。
- 皮膚刺激
- 肝臓、腎臓、血液、神経系、循環器系の障害
- 呼吸器への刺激
- 水生生物に対する非常に強い毒性
そのため、化審法では、第3種監視化学物質に指定されており、労働安全衛生法では 名称等を表示すべき危険有害物に指定されている物質です。法令を遵守して正しく取り扱うことが求められます。