カルニチン

カルニチンとは

カルニチンの基本情報

図1. カルニチンの基本情報

カルニチン (Carnitine) とは、ヒドロキシ酸、第4級アンモニウム化合物に分類される有機化合物です。

化学式 C7H15NO3で表され、分子内にヒドロキシ基とカルボキシル基を持つことからヒドロキシ酸に分類され、更に4級アンモニウムイオン構造を持ちます。4級アンモニウムは常に正に帯電しており、カルボキシル基は負に帯電していることから、双性イオンでもあります。CAS登録番号はDL体が406-76-8、L体が541-15-1です。

分子量は161.199、密度0.64g/cm3、融点は190-195℃であり、常温では結晶性の粉末もしくは粉末です。色は、白色から黄褐色を呈します。水やエタノールには溶解しますが、アセトンにはほとんど溶けません。

L-カルチニンは筋肉細胞に多く存在しており、脂質の代謝のために必要不可欠な化合物です。L-カルニチンと脂肪酸が結合した状態で、ミトコンドリアに運ばれることによって、脂質は燃焼し、体内のエネルギーとして活用されていきます。

カルニチンの使用用途

カルニチンは、人体においては脂質の代謝に関与する物質です。そのため、近年ではサプリメントとして広く用いられています。ただし、健康な小児および成人は、1日に必要なカルニチンを肝臓および腎臓で十分に合成できるとされています。

一方で、カルニチン欠乏症に対しては医薬品として認可されている物質です。経口投与や静脈投与を行う医薬品として用いられます。カルニチン欠乏症の原因としては、食事などの要因による摂取不足、腎不全や肝不全などの生合成不足、人工透析や下痢などによる過剰喪失、医薬品の副作用などがあります。

生体内物質であることから、その他には生化学などの分野で研究開発用試薬などに用いられます。

カルニチンの特徴

カルニチンの鏡像異性体

図2. カルニチンの鏡像異性体

カルニチンは3位の炭素、すなわち水酸基が結合している炭素がキラル中心であるため、1対の鏡像異性体が存在します。鏡像異性体を区別する場合に、しばしばD-カルニチンとL-カルニチンとして区別されます。

また、これらの等量混合物であるラセミ体は、しばしばDL-カルニチンと呼ばれています。

カルニチンの種類

カルニチンは、サプリメントや医薬品、研究開発用試薬として販売されています。サプリメントとしては、L-カルニチンが多くのメーカーから販売されており、錠剤などの形状で手に入れることができます。

医薬品としては、カルニチン欠乏症に対して処方され、一般名はレボカルニチン (L-カルニチン) です。錠剤や内用液などの剤形があります。フリーのレボカルニチンの他、レボカルニチン塩化物錠も存在するため、混同しないよう注意が必要です。

研究開発用試薬としては、フリーのL-カルニチンの他、L-カルニチン塩酸塩、もしくはラセミ体のDL-カルニチン塩酸塩として販売されていることが多いです。塩酸塩であるのは、製品化の際の精製条件に由来します。常温保存可能な試薬製品であり、10mg , 1g , 5g , 25g , 100gなどの容量の種類があります。

カルニチンのその他情報

1. カルニチンの生合成

カルニチンの第4級アンモニウムの合成

図3. カルニチンの第4級アンモニウムの合成

体内ではカルニチンは、必須アミノ酸であるリジンとメチオニンから生合成されます。まず、メチオニンはS-アデノシルメチオニンに変換されます。

メチル基転移酵素の作用により、S-アデノシルメチオニンが持つメチル基をリジンの側鎖のアミノ基へと転移させ、カルニチンの4級アンモニウムの部分が合成されます。さらに、別の酵素の反応によりリジンの側鎖に水酸基が立体選択的に付加し、分子骨格が構築されていきます。

2. カルニチン欠乏症

カルニチンの欠乏症には2種類あります。1つ目は細胞のカルニチン輸送システムの遺伝性疾患です。この場合は、通常5歳までに心筋症、骨格筋の脱力、低血糖の症状が現れます。

2つ目は特定の疾患 (慢性腎不全など) もしくは特定の条件下 (特定の抗菌薬の使用など) が原因で起こるカルニチン欠乏です。このようなケースでは、カルニチンの吸収低下もしくは、排出量の増加が起こってしまいます。

こういった欠乏症の治療にカルニチン製剤が処方薬として投与されます。

参考文献
https://www.ejim.ncgg.go.jp/pro/overseas/c03/02.html

カフェイン

カフェインとは

カフェインとは、天然に存在する刺激性のあるアルカロイドの1種です。

主にコーヒー、紅茶、ココア、エナジードリンクなどに含まれており、一部の薬剤や栄養補助食品にも添加されることがあります。合成カフェインは、尿素を出発原料として製造されています。

また、天然カフェインは、コーヒー豆等からの抽出により得ることが可能です。他にも、カフェインレスコーヒー製造の副産物としても得られます。

カフェインの効果として、大脳皮質に作用し眠気を除去する効果の他、心臓に作用して冠動脈を拡張させる効果や利尿効果などが挙げられます。

カフェインの使用用途

カフェインには、覚醒作用や解熱鎮痛作用、強心作用、利尿作用などの効果があることから、中枢神経興奮剤や利尿剤、狭心症等に使用される強心剤などの医薬品として利用されています。また、脳血管収縮作用等があるため、頭痛薬や風邪薬にも含まれていることがあります。

カフェインは、苦味料等の用途で食品添加物としても使用されており、一部の清涼飲料や食品等に添加する場合も多いです。カフェインは他にも、生理作用研究や有機合成の原料に利用されています。

また、虫よけの効果もあるといわれており、農業への利用例もあります。

カフェインの性質

カフェインの化学名は1,3,7-トリメチルキサンチンで、外観は白色の柱状結晶です。水やエタノールクロロホルム、エーテル、アセトンベンゼンに可溶ですが、石油エーテル、リグロインには難溶です。カフェインには匂いはなく、苦味があります。

カフェインは中枢神経系に影響を与え、覚醒作用や注意力を高める効果があります。また、運動能力の向上や疲れを感じにくさせる効果があるとされています。ただし、過剰摂取すると不安感や神経過敏、不眠症などの症状を引き起こすことがあります。

健康に関する研究によると、適度な摂取量ではカフェインは健康に良い影響を与えるとされています。しかし、過剰摂取や持病がある場合などは、健康に悪影響を及ぼす可能性があります。したがって、カフェインの摂取には適度な量を守ることが重要です。

特に妊婦や授乳中の女性、高血圧や不整脈などの持病がある人は、カフェインの摂取制限が必要な場合があります。医師の指示に従い、カフェインの摂取量を調整することが大切です。

カフェインのその他情報

1. カフェイン中毒

カフェインを過剰に摂取することで、カフェイン中毒を引き起こす可能性があります。摂取したカフェインが中枢神経に作用して過剰な覚醒や興奮を引き起こし、摂取量や個人の感受性によっては、重篤な症状を引き起こすことがあります。

カフェイン中毒の症状としては、以下のようなものがあります。

  • 不眠、神経過敏、不安、不安定な気分
  • 心拍数の増加、不整脈
  • 胃腸の不快感、吐き気、嘔吐
  • 頭痛、めまい、手足の震え

重症の場合には、幻覚や錯乱、けいれん、呼吸困難などの症状が現れることもあります。また、多用量で長期間にわたってカフェインを摂取すると、依存症や慢性的な健康被害を引き起こす可能性があります。

カフェイン中毒を防ぐためには、適切なカフェインの摂取量を把握し、摂取量の上限を守ることが重要です。カフェインの摂取による体調不良を感じた場合は、摂取を控えるか、摂取量を減らすようにしましょう。また、症状が重い場合や継続的に症状が現れる場合は、医師に相談することが重要です。

2. 身体への影響

カフェインは頭痛を一時的に止める作用がある一方で、常用すると頭痛が起こりやすくなってしまうことがあります。これはカフェインの脳血管収縮作用によるものです。

3. 依存と耐性

カフェインを繰り返し摂取することで、軽い精神的依存が発生し、これをカフェイン依存症と言います。また、カフェインの様々な作用は、摂取を繰り返すことによって効果が減少し、耐性を持つようになります。

参考文献
https://anzeninfo.mhlw.go.jp/anzen/gmsds/58-08-2.html.html

オレイン酸アミド

オレイン酸アミドとは

オレイン酸アミドの概要

図1. オレイン酸アミドの基本情報

オレイン酸アミド (英: Oleic acid amide) とは、不飽和脂肪酸であるオレイン酸をアミド化した物質です。

通称「オレアミド (英: Oleamide) 」とも呼ばれています。分子式はC18H35NOで表され、1個のアミド結合と1個の二重結合を含みます。生物においては、このオレイン酸アミドは、オレイン酸とアンモニアの生合成によってオレイン酸から内因的に産生される物質です。

オレイン酸同様睡眠に関連する神経ペプチドと関係があると言われています。合成経路や生合成に必要な酵素は、特定されていない状態で、まだまだ研究が進んでいない物質です。

工業的にも製造され、様々な用途に使用されています。毒性や皮膚感作性は低い固体の物質ですが、目に対する刺激性があることから、目に入った場合には注意深く洗い流す必要があります。

オレイン酸アミドの使用用途

オレイン酸アミドの使用用途

図2. オレイン酸アミドの使用用途

オレイン酸アミドをはじめとする脂肪酸アミドは、親油性の高い長鎖炭化水素基と親水性の高いアミド基を持つため、様々な物質表面において機能を発現します。主な特性としては、上図のようなものがあり、様々な用途へ応用が可能です。

1. 工業的な用途

オレイン酸アミドが多用されるのが、ポリエチレンポリプロピレンなどのポリオレフィン樹脂に対する滑剤としての用途です。滑剤とは、樹脂のペレットや成型品同士、あるいは樹脂とその加工機の摩擦を低減させる添加剤のことで、流動性・離型性を高め、加工性を向上できます。

ポリエチレンフィルムの場合、一般的に約0.1%~0.5%のオレイン酸アミドの添加で効果が発現します。その他の工業的な用途は、インクの分散剤やワックスの改質剤、金属の曇り止め、さび止め剤、他の化学物質の合成原料などです。

2. 食品・生物的な用途

オレイン酸アミドは、様々な食品に含まれていることが分かっており、その中でも身近な食品としてカマンベールチーズが挙げられます。その他にも生薬として使用されるタイソウなどにも含まれています。

まだ実用化までは進んでいませんが、睡眠やストレスに働きかけることが明らかになっており、睡眠障害やうつ病の治療薬としての応用が検討中です。オレイン酸アミドは、脳内のアミロイドβなどの老廃物を除去する役割を担うミクログリアと呼ばれる細胞を活性化しながら抗炎症活性を示すと考えられています。

その他、オレイン酸アミド自体の使用例は少ないですが、その界面活性剤としての特性を生かし、誘導体が洗浄剤、泡安定剤、浸透剤、湿潤剤、乳化助剤として、シャンプーや化粧品などの原料として用いられます。

オレイン酸アミドの特徴

オレイン酸アミドの製造法

図3. オレイン酸アミドの製造法

オレイン酸アミドは、工業的にはオレイン酸とアンモニアを触媒存在下で反応させることで製造します。最初にオレイン酸アンモニウムが生成し、それを高圧で脱水することでオレイン酸アミドとする製法です。

触媒としては、ホウ酸、活性アルミナ、シリカゲル、カオリンなどが有効です。反応条件は、温度170~200℃、圧力0.3〜0.7MPa、反応時間は10〜12時間程度で製造されます。

原料のオレイン酸は限定されませんが、動物性のものよりも植物由来のオレイン酸の方が、不純物の違いから臭気の少ないものが製造可能です。その他の製法としては、オレイン酸エステルにアンモニアを反応させる方法があり、この場合では原料として油脂を用いることでグリセリンを回収することができます。

オレイン酸アミドの種類

オレイン酸アミドは、主に研究開発用の試薬製品や、産業用の粉末、フレーク、粒子として販売されています。試薬製品では、25gや500gなどの内容量の試薬瓶で販売されており、実験室で取り扱いやすい大きさです。室温で保管できます。

産業用としては、滑剤用途でプラスチック工場等へ向けて大型の荷姿で販売されています。荷姿には、20kg袋などがあります。

参考文献
https://labchem-wako.fujifilm.com/jp/product/detail/W01W0115-0055.html
https://www.kirinholdings.com/jp/newsroom/release/2015/0312_01.html
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jos1956/15/8/15_8_406/_pdf/-char/ja

オレイン酸

オレイン酸とは

オレイン酸とは、一価不飽和脂肪酸に分類される脂肪酸の一種です。

オリーブオイル、ベニバナ油、ナタネ油、またはヒマワリ油といった植物油に多く含まれています。植物油に含まれるオレイン酸は、グリセリンとエステル結合した状態、すなわちトリグリセリド (トリアシルグリセロール) の状態で存在します。

トリグリセリドは、1つのグリセリンに、3つの脂肪酸がエステル結合した物質です。したがって、トリグリセリドを加水分解することによって、オレイン酸を得ることができます。

オレイン酸は分子内に不飽和結合を有するため、ステアリン酸などの飽和脂肪酸よりも酸化しやすい性質を有します。オレイン酸が結合しているトリグリセリドは、不飽和結合の部分で酸化が起こるため、植物油は酸化しやすい性質を有します。

オレイン酸の使用用途

オレイン酸のトリグリセリドは食用油脂として使用されますが、トリグリセリドから得られたオレイン酸は主に工業用原料として使用されます。オレイン酸は、界面活性剤などの原料、印刷インキの配合成分、消泡剤、潤滑油の添加剤、化粧品や医薬品の油性成分といった用途で使用されます。

例えば、オレイン酸を反応前原料として使用し、別の原料と反応させることで界面活性剤などを合成できます。また、オレイン酸を油性成分として化粧品に配合することで、使用感の調整が可能です。さらには、オレイン酸をアルカリ剤で中和することで、せっけんのような機能を持たせることができます。

オレイン酸の特徴

オレイン酸の性質は、分子構造に起因します。炭素数が同じであるにも関わらず、不飽和結合を有しないステアリン酸は室温で固形である一方で、オレイン酸は液状です。オレイン酸は融点が13℃付近であるため、冬季のような低温にならない限りラードのように固まらず、液状のままです。しかし、オレイン酸は分子中に不飽和結合を有するため、比較的酸化されやすいという性質を有します。

また、オレイン酸は分子中にカルボキシ基を有するため、このカルボキシ基をアルカリで中和すると水中で分散することができ、せっけんのような界面活性作用を発揮できます。なお、オレイン酸は、消防法において「危険物第4類第三石油類非水溶性液体」に分類されています。

オレイン酸の構造

オレイン酸の構造 (分子構造) は、動物性油脂の主成分であるステアリン酸、または、植物性油脂に含まれているリノール酸やリノレン酸と類似しています。これらの脂肪酸はすべて、炭素数が18の脂肪酸に属します。オレイン酸を分子構造式で表すと、CH3(CH2)7CH=CH(CH2)7COOHです。

いずれの脂肪酸も炭素数が18のため、疎水性が高く水に溶解しません。また、いずれの脂肪酸もそれぞれカルボキシ基 (-COOH) を分子中に1つ有します。17の炭素がつながった部分が脂肪に相当し、カルボキシ基が酸に相当します。

オレイン酸は、不飽和結合の数および位置の点でステアリン酸やリノール酸と異なります。オレイン酸は分子中に不飽和結合を1つ有する不飽和脂肪酸です。一方、ステアリン酸は分子中に不飽和結合を有しない飽和脂肪酸です。なお、リノール酸は不飽和結合を2つ、リノレン酸は不飽和結合を3つ有します。

オレイン酸のその他情報

オレイン酸の製造方法

なお、オレイン酸などの不飽和脂肪酸を含む植物油は室温において液状です。液状の植物油は、化学反応によって不飽和結合を飽和結合に変えることでマーガリンのような固形油脂に変わります。バターに似た固形油脂を植物油から人工的に作り出すために、水素添加という化学反応が利用されます。

水素添加によって一部のオレイン酸は不飽和結合を有するままシス型からトランス型へ変化し、エライジン酸となります。エライジン酸はオレイン酸と類似しますが、トランス脂肪酸の一種です。トランス脂肪酸は、食品として多量に体内に取り入れられた場合に有害な作用を及ぼすかもしれない物質として研究対象になっています。

オレイン酸自体ではありませんがオレイン酸のトリグリセリドを含む植物油を摂取することにより、身体に良い効果があるといわれています。具体的には、悪玉コレステロールと呼ばれるLDLコレステロールを抑制するといわれています。

参考文献
https://www.kegg.jp/entry/D02315+-ja
https://www.tcichemicals.com/JP/ja/p/O0011

オルニチン

オルニチンとは

オルニチンとは、アミノ酸の1種で多数の種類があるアミノ酸のうち、血液と共に身体中を巡っている特殊なアミノ酸です。

特に肝臓で活躍します。オルニチンは自然界の生物中にも含まれ、オルニチンを含む食材としてはシジミが特に有名です。シジミが二日酔いに効くと言われている理由は、アルコールによる疲労がシジミ中のオルニチンによって抑制されるためです。

その他にも、オルニチンが成長ホルモンの分泌を促進したり睡眠を改善したりするといった効果が報告されています。オルニチンは身体に良い影響を与えるアミノ酸です。

オルニチンの使用用途

オルニチンの主な使用用途は、体の健康を保たせるための栄養補助食品です。工業用原料としての使用用途はほとんどありません。

オルニチンは、サプリメントなどに配合されており、栄養ドリンクなどに入っている場合もあります。日々の食事だけでは不足してしまうオルニチンを補うことによって、肝機能の向上、身体の成長、睡眠の改善といった効能が期待されます。

オルニチンを摂取することによって、体にとって有害なアンモニアを肝臓で解毒する機能を高める以外に、睡眠中の成長ホルモンの分泌が促進される可能性が高いです。さらに、ストレスホルモンの分泌を抑えることによって睡眠の質が改善するため、性別問わず効能が期待できます。

オルニチンの性質

オルニチンは、体内を血液とともに巡る「遊離アミノ酸」の1種です。一般的に知られているアミノ酸の多くはタンパク質を構成していますが、オルニチンはタンパク質を構成するアミノ酸ではありません。つまり、オルニチンはタンパク質を作るために体内に存在するアミノ酸ではなく、体内を遊離しているアミノ酸です。

オルニチンは天然界に存在する物質であることから、安全性は高いとされています。しかし、オルニチンを過剰に摂取すると肝臓の機能が過剰となってしまうため、肝臓に悪いです。

オルニチンは、適切な量を摂取することで、肝臓の解毒機能を高める作用、筋肉の合成を促進する作用、運動後の疲労を軽減する作用などを発揮できます。

オルニチンの構造

オルニチンの分子構造は、同じアミノ酸の仲間であるシトルリン、アルギニンの分子構造と類似しています。オルニチン、シトルリン、およびアルギニンなどは、体に有害なアンモニアを肝臓内で尿素に変える反応に必要です。有毒なアンモニアを尿素へ変える反応回路をオルニチン回路または尿素サイクルと言います。

アミノ酸を分解した後または激しい運動の後などに、有毒なアンモニアが生じます。オルニチン回路では、まずアンモニアがオルニチンと結合してシトルリンとなります。さらに酵素反応が進んでシトルリンがアルギニンとなり、続いて尿素が生じます。尿素が生じるとオルニチンが再生されるサイクルです。

このように、体内で有毒なアンモニアは、肝臓中においてオルニチンと反応し、シトルリンやアルギニンを経て尿素へと変換されます。そのため、オルニチンの分子の一部は、シトルリンやアルギニンの各分子の一部とほぼ同じ構造を有しています。オルニチンによってオルニチン回路の反応が進行しやすくなり、その結果、肝臓の解毒機能を高められると考えられています。

オルニチンのその他情報

1. オルニチンを含む食材

オルニチンを多く含む主な食材はシジミですが、シジミ以外の食材としては、ブナシメジやエリンギなどのキノコ類、キハダマグロ、ヒラメ、チーズなどが挙げられます。各食材100gあたりのオルニチンの含有量は、シジミで20mg程度、ブナシメジで140mg程度、エリンギで30mg程度、キハダマグロで2~7mg程度という研究報告があります。

2. オルニチンの安全性

オルニチンに大きな副作用はないとされていますが、過剰に摂りすぎると腹痛や下痢を起こす可能性があります。体に良さそうであるからといって、過剰に摂取しないようにしましょう。

参考文献
https://www.chemicalbook.com/ChemicalProductProperty_JP_CB2199856.htm
https://www.kegg.jp/entry/dr_ja:D08302

オクタン

オクタンとは

オクタンとは、炭素数8個からなる飽和炭化水素 (アルカン) の総称です。

18個の構造異性体、6個の立体異性体があり、合計24種類の異性体が存在します。オクタンという名称は、直鎖状のn-オクタンを指す場合と、他の異性体を総称する場合があります。

オクタンは、原油および石油中に存在する引火性が高い無色透明の液体です。蒸気は空気より重く、地面に沿って移動することがあります。オクタンは、工業的にはナフサから分留して尿素によって精製します。

オクタンの使用用途

オクタンは、主に標準燃料、有機合成、共沸蒸留の溶剤として利用されます。具体的には、ニトロセルロースやアセチルセルロース、合成樹脂、アルコール可溶染料の溶媒、防湿セロハンの接着、速乾ワニス、エナメル」などです。また鉄や硫酸銀二硫化炭素の定量用試薬にも利用されます。

n-オクタンから枝分かれしたイソオクタンは、ガソリンのアンチノック性を示すオクタン価を測定するための標準物質として利用されています。また、燃料では、高オクタン価ガソリンを製造するための混合剤として配合されています。

オクタンの性質

n-オクタンの分子式はC8H18、分子量は114.22、CAS番号は111−65−9です。CAS番号とは、世界的に利用されている化学物質固有の識別番号のことです。オクタンは、無色透明の液体で、ガソリンのような特異臭があります。

融点・凝固点は−56.76℃、引火点は13℃、沸点・初留点及び沸騰範囲は125.67℃、自然発火温度は206℃です。蒸気圧は67.1mbar (50℃) 、比重は0.703 g/mL (25℃) 、燃焼又は爆発範囲は、下限 1.0 vol %、上限 6.5 vol %で、蒸気密度は3.9 (air = 1) です。

溶解性は、水にほとんど溶けず (溶解度 0.0007 g/L) 、エタノールアセトンに可溶で、ベンゼンと混和します。物質として安定ですが、燃えやすく、燃焼により、一酸化炭素二酸化炭素などの有害な分解生成物を発生します。

強酸化物質との接触により、火災や爆発が発生する危険性があるため、混色危険物質に強酸化物質が指定されています。

オクタンのその他情報

1. オクタンの有害性

GHSラベルに炎、感嘆符、健康有害性、環境が指定されています。GHSラベルとは、化学品の危険有害性を、世界的に統一された基準に沿って、絵表示等を用いてわかりやすく分類したものです。

人体への影響として、皮膚刺激性、強い眼刺激、眠気又はめまいの恐れがあります。飲み込み気道に侵入すると、生命の危険があり、特定標的臓器毒性および吸引性呼吸器有害性が高いです。

水性生物に非常に強い毒性があり、長期継続的影響によっても水生生物に非常に強い毒性をもたらします。廃棄時は、内容物を都道府県知事の許可を受けた専門の廃棄物処理業者に依頼して廃棄する必要があります。

2. オクタンを取り扱う際の注意点

保護手袋と保護衣を着用し、眼の保護具 (普通眼鏡型、側板付き普通眼鏡型、ゴーグル型) を着用することが推奨されています。接触、吸引又は飲み込まないよう注意し、取扱い後は、保護手袋を着用した場合でも、よく手を洗います。

設備は「防爆の電気」「換気 」「照明機器」の3つが必須です。また、静電気放電に対する予防措置を行う必要があります。万が一、眼または全身に暴露した場合、速やかに洗い流せるよう、作業場に洗眼器及び安全シャワーを設置しておくと、重篤災害を回避することが可能です。

また、引火性と有害性のある蒸気を発生させるため、屋外あるいは換気設備のある場所だと、安全に取り扱うことができます。

3. オクタンの保管方法

壁、床、柱は耐火構造とし、不燃材料で作ります。床は水が侵入、浸透しない構造とします。容器は密閉し、換気の良い冷所で、熱、火花、裸火のような着火物、混触危険物質である酸化剤から離して保管します。

また、オクタンは危険物第四類の引火性液体に分類されるため、消防法の規定に則った管理が必要です。取り扱う数量により管理方法や基準が異なるため、取扱ったり保管したりするときは、消防法の確認を行ってください。

オキシトシン

オキシトシンとは

オキシトシン (英: Oxytocin) とは、分子式C43H66N12O12S2で表される有機化合物であり、ペプチドホルモンの1種です。

9種のアミノ酸 (Cys-Tyr-Ile-Gln-Asn-Cys-Pro-Leu-Gly) が重合した構造をしており、視床下部の室傍核と視索上核の神経分泌細胞で合成され、脳下垂体から分泌されます。CAS登録番号は、50-56-6です。

オキシトシンと深く関わりがあるのは女性で、生理痛の原因ともなるプロスタグランジンの分泌を促したり、陣痛を引き起こさせるホルモンとしてよく知られています。最近では、人や動物とスキンシップによって分泌されることも分かっており「愛情ホルモン」や「幸せホルモン」という異名でも呼ばれるようになりました。

オキシトシンの使用用途

オキシトシンは、一般的には体内で合成され分泌されるホルモンです。そのため、物に対して使用されるというよりは、人になにか作用させる目的で使用されることが多いです。

効果として、子宮収縮や陣痛を引き起こすというものがあるため、医療用医薬品の陣痛促進剤の中に含まれ、分娩誘発の目的で使用されています。20世紀初頭には、分娩促進と出産後の授乳時の射乳反射を惹起することが知られていて、名前のギリシア語okytokos (早い (okys) 出産 (tokos)) の由来にもなっています。 このように、子宮周りに作用させる目的で使用することが多いため、産婦人科などではなじみのある物質と言えます。

その他、微弱陣痛、弛緩出血、胎盤娩出前後、子宮復古不全、胎児の娩出後の帝王切開術、流産、人工妊娠中絶の用途で用いられることもあります。

オキシトシンの性質

オキシトシンは白色の粉末で、水に極めて溶けやすく、エタノール (99.5) や塩酸試液にも容易に溶けます。

作用としては、末梢組織で働くホルモンとして、そして中枢神経での神経伝達物質として働きます。末梢組織では主に平滑筋の収縮に関与し、分娩時に子宮収縮させます。また、乳腺の筋線維を収縮させて、乳汁分泌を促すなどの働きを持ちます。

オキシトシンの構造

オキシトシンの構造は、2つのシステインチロシン、イソロイシン、グルタミン、アスパラギンで大きな環を作り、環の中の2つのシステインのそれぞれの硫黄原子がジスルフィド結合で繋がっています。また、3つのアミノ酸 (プロリン、ロイシングリシン) が1つのシステインから分岐しています。同じく下垂体後葉ホルモンであるバソプレシンは、オキシトシンと構造が似ており、アミノ酸2つだけが異なります。

オキシトシンは、1906年にヘンリー・ハレット・デールによって発見され、1952年に分子構造が決定されました。生合成に初めて成功し、構造を明らかにした研究者であるヴィンセント・デュ・ヴィニョーらには、1955年ノーベル化学賞が授与されています。

オキシトシンの種類

現在市販されているオキシトシン製品の種類には、主に臨床用の医薬品と研究開発用試薬とがあります。臨床用の医薬品は、主に注射剤アトニンとして販売されおり、主に分娩時に用いられます。

オキシトシン経鼻薬は、授乳促進の適応として欧州で承認されています。自閉スペクトラム症の社交性改善に対する有効性についても、国内外の研究者らにより検証が進められています。

オキシトシンを検出するための試験キットも市販されており、培養上清、ミルク、血清、血漿中のオキシトシンを測定することができます。脳脊髄液、唾液、組織、尿サンプルでの使用も多数報告されています。

オキシトシンのその他情報

1. 法規情報

消防法に定める危険物、および毒物及び劇物取締法に定める毒劇物には該当しません。

2. 取り扱い及び保管上の注意

取り扱い及び保管上の注意は、下記の通りです。

  • 容器を密閉し、2~8℃程度の換気の良い場所に保管する。
  • 使用時は保護手袋、保護眼鏡を着用する。
  • 使用後は適切に手袋を脱ぎ、本製品の皮膚への付着を避ける。
  • 取扱い後はよく手を洗浄する。
  • 皮膚に付着した場合は、石鹸と多量の水で洗い流す。

参考文献
https://www.sigmaaldrich.com/JP/ja/product/sigma/o3251

オキシ塩化リン

オキシ塩化リンとは

オキシ塩化リンとは、酸素原子が三塩化リンに付加された化合物のことです。

水と激しく反応し、塩化水素、リン酸を含む分解物が生じます。また、空気中の湿気により塩化水素ガスを発生します。三塩化リンと酸素を反応させて、直接酸化する方法で作ることが可能です。さらに、三塩化リンに塩素を作用させて作られた五塩化リンを、水で分解して生成する方法もあります。三塩化リンは、リンに塩素を反応させると得られます。

オキシ塩化リンの使用用途

オキシ塩化リンは、油圧用作動液、可塑剤 (リン酸トリクレジル) 、ガソリン添加剤、防火剤の製造に使用されます。また、医薬 (サルファ剤、ボタミンB1など) の「製造」「染料」「リン系農薬」「香料」「不燃性フィルムの原料」「ウラン鉱抽出剤」などにも利用可能です。その他、半導体製造工程では拡散剤としても使われています。

オキシ塩化リンは、劇物取締法により毒物に指定されており、眼、鼻、喉などの呼吸器および中枢神経系に対する刺激性があるので取扱いに注意が必要です。

オキシ塩化リンの性質

オキシ塩化リンの構造図1. オキシ塩化リンの構造

オキシ塩化リンの融点は1.25℃、沸点は105.8℃です。外観は、無色の発煙性液体で、刺激臭があります。蒸気は、空気よりも重いです。塩化ホスホリルやリン酸トリクロリドとも呼ばれています。分子式はPOCl3で、モル質量は153.33g/molです。

オキシ塩化リンはリンを中心とする四面体型構造の化学物質です。P-Cl結合を3つとP=O結合を1つ有しています。P=O結合は非常に強く、結合解離エネルギーは533.5kJ/molです。ショーメーカー・スチーブンソン則 (英: Schomaker-Stevenson rule) によって、結合強度や電気陰性度からも、フッ化ホスホリル (POF3) と比べて二重結合の寄与がかなり大きいことがわかっています。

オキシ塩化リンのP=O結合は、ケトンのカルボニル基のπ結合とは違います。P-Clのσ*軌道にO原子の孤立電子対が供与されることで、P-Oのπ結合が生じるようです。ただし、P-O間の相互作用は、未だに長い間論争が続いています。

オキシ塩化リンのその他情報

1. オキシ塩化リンの反応

塩化マグネシウムのようなルイス酸とともに、過剰のフェノールとオキシ塩化リンを加熱すると、トリアリールリン酸エステルを得ることが可能です。

オキシ塩化リンは、ルイス塩基としても働きます。例えば、四塩化チタンなどのルイス酸と反応すると、付加物を生成します。

オキシ塩化リンと塩化アルミニウムの付加物は安定であり、フリーデル・クラフツ反応 (英: Friedel–Crafts reaction) の後の混合物からでも、塩化アルミニウムを完全に除去可能です。塩化アルミニウムの存在下で、オキシ塩化リンは臭化水素と反応して、POBr3を生じます。

2. オキシ塩化リンを用いた反応

オキシ塩化リンを用いた反応

図2. オキシ塩化リンを用いた反応

実験室でオキシ塩化リンは、よく脱水試薬として利用されます。具体的には、アミドからニトリルへの変換に用いられています。

ビシュラー・ナピエラルスキー反応 (英: Bischler-Napieralski reaction) にも、オキシ塩化リンを使用可能です。つまり、アミド前駆体が閉環して、ジヒドロイソキノリン誘導体を生成できます。

3. オキシ塩化リンを用いたビルスマイヤー・ハック反応

オキシ塩化リンを用いたビルスマイヤー・ハック反応

図3. オキシ塩化リンを用いたビルスマイヤー・ハック反応

ビルスマイヤー・ハック反応 (英: Vilsmeier-Haack reaction) とは、オキシ塩化リンの存在下で起きる、活性芳香族化合物とアミドの反応のことです。オキシ塩化リンによって芳香環が活性化され、アシル化して芳香族アルデヒドや芳香族ケトンを生成します。

オキシテトラサイクリン

オキシテトラサイクリンとは

オキシテトラサイクリンの基本情報

図1. オキシテトラサイクリンの基本情報

オキシテトラサイクリンとは、細菌感染症の治療に用いる抗生物質です。

放線菌の一種から分離されました。テトラサイクリン系抗生物質 (英: tetracycline antibioticsまたはtetracycline class) に含まれています。

オキシテトラサイクリンは、細菌の30Sリボソームサブユニットに結合して、タンパク質合成を阻害するため、殺菌作用があると考えられています。

オキシテトラサイクリンの使用用途

オキシテトラサイクリンは、人医療向けのテトラサイクリン系抗生物質として、細菌感染症の治療に使われます。アクネ菌によるニキビの治療、クラミジア感染症、マイコプラズマ感染症、インフルエンザ菌、リケッチア感染症の治療に使用可能です。

また、動物用医薬品として承認されているテトラサイクリン系抗生物質の中で、最も多く使用されています。牛や豚などの家畜類、魚介類の医薬品や飼料添加物として使うことも可能です。

他には農薬としても使用されており、作物の細菌病に効果があります。

オキシテトラサイクリンの性質

オキシテトラサイクリンの化学式はC22H24N2O9、分子量は460.434g/molです。黄色の結晶でにおいはなく、苦味があります。水に溶けやすく、エタノールにやや溶けやすいです。炭化水素から構成される4つの有機環の誘導体を意味します。

オキシテトラサイクリンの生体内半減期は6〜8時間であり、テトラサイクリン系抗生物質の中でも短時間作用型です。

オキシテトラサイクリンのその他情報

1. オキシテトラサイクリンの有効性

オキシテトラサイクリンは、広い抗菌スペクトルを有します。細菌だけではなく、細菌よりも小さいリケッチアや大型ウイルスにも作用します。ただし、一部の抵抗性を形成している細菌には、有効性が低いです。具体的には、グラム陽性菌、グラム陰性菌、クラミジア、マイコプラズマなど、広範囲の抗菌力を持っています。

2. オキシテトラサイクリンの副作用

オキシテトラサイクリンを外用した場合には、塗布部位の瘙痒や腫張などに注意する必要があります。菌交代症を引き起こすときもあります。

オキシテトラサイクリンを内服した際の代表的な副作用は、胃腸症状や光過敏症です。稀に、カルシウム濃度が高い歯や骨のような器官に、ダメージを与えることもあります。

3. オキシテトラサイクリン以外のテトラサイクリン系抗生物質

テトラサイクリン系抗生物質の化学構造

図2. テトラサイクリン系抗生物質の化学構造

オキシテトラサイクリンに似た天然テトラサイクリン系抗生物質の具体例として、テトラサイクリンやクロルテトラサイクリンなどが挙げられます。クロルテトラサイクリンの構造は、テトラサイクリンの1個の水素を塩素に変えたものです。

4. オキシテトラサイクリンの関連物質

ドキシサイクリンの化学構造

図3. ドキシサイクリンの化学構造

オキシテトラサイクリンは、中等度から重度のニキビの治療にも6〜8週間塗布されます。しかし、3ヶ月以上改善がないときには、他の治療法に切り替えるべきです。

海外でオキシテトラサイクリンは、クロストリジウム感染症やスピロヘータ感染症などの治療にも使用されます。眼、耳、呼吸器、皮膚、尿路などの感染症の治療に用いられることもありますが、近年は耐性菌が増えているため使用頻度は減っています。ただし、ペニシリン系薬剤やマクロライド系薬剤にアレルギーを持っている患者に用いることも可能です。

マクロライドやキノロンの代わりとして、レジオネラ症の治療にも、オキシテトラサイクリンを使うことが可能です。ブルセラ症、ライム病、チフス、コレラ、野兎病だけでなく、マイコプラズマ、クラミジア、リケッチア感染症に対しては、薬理学的特性の改善されたドキシサイクリンが選ばれやすいです。

エピクロロヒドリン

エピクロロヒドリンとは

エピクロロヒドリンとは、エポキシ基と塩素基をもつ反応性の高いモノマー (単量体) です。

別名で2-クロロメチルオキシラン、1-クロロ-2,3-エポキシプロパン、γ-クロロプロピレンオキシドとも呼ばれます。エピクロロヒドリンは、腐食性があり、眼、鼻、喉を刺激します。

吸入すると、頭痛やめまいなど中枢神経障害を起こす恐れがあります。

エピクロロヒドリンの使用用途

エピクロロヒドリンは、合成原料として使われています。特に自動車やエレクトロニクスの化学工業分野で、広く使われているエポキシ樹脂の主原料としての用途が多いです。エポキシ樹脂は、塗料の分野で一般的な塗料、自動車や工業用の電着塗装、ドラムや缶の内側のコーティングなどに使用されています。

また、エレクトロニクスの分野では、プリント基盤やコイル絶縁素材に使用され、土木建築分野では、コンクリートや鉄などの防食塗装、接着剤シーリング剤にも使われています。

エポキシ樹脂以外にも、エピクロロヒドリンゴムやグリシジルメタクリレートの原料など、グリセリンなどの合成原料としても広く用いられ、酢酸セルロース、セロハン、エステルゴム用の溶剤としても使用されます。そのほか、化粧品、医薬品、界面活性剤、イオン交換樹脂の合成原料、繊維処理剤、溶剤なども用途の1つです。

エピクロロヒドリンの性質

エピクロロヒドリンは分子式C3H5ClO、分子量92.5、常温で無色のクロロホルムのような刺激臭がある液体です。比重は1.2058、融点は-26℃、沸点は116℃、引火点は31℃で引火性です。水にはわずかに溶け、アルコール、エーテル、クロロホルム、トリクロロエチレン、四塩化炭素などの有機溶媒に容易に溶けますが、炭化水素には溶解しません。

エピクロロヒドリンは酸性、塩基性物質の存在下では不安定です。エポキシ基と塩素化アルキルの2つの反応性の高い官能基を持つため、さまざまな物質と反応します。

爆発限界は3.8~21%で揮発性が高く、空気と爆発性混合ガスを作りやすい傾向があります。蒸気は空気より重く、低所に滞留しやすいため、使用時は通風、換気を良くして、必要により局所排気装置を設置する必要があります。

金属粉末、亜鉛、アルミニウム、アルコール、フェノール、アミン類 (特にアニリン) 、有機酸、水等と激しく反応して、火災や爆発を引き起こす危険があります。

エピクロロヒドリンのその他情報

エピクロロヒドリンの製造方法

エピクロロヒドリンの製造方法は、プロピレン塩素を反応させて得られるアリルクロライドを原料にして生産する方法と、プロピレンと酢酸を反応させて得られるアリルアルコールを原料に生産する方法の2種類があります。

1.  アリルクロライド法
アリルクロライドを次亜塩素酸溶液と反応させて、ジクロロプロパノールを得ます。これをアルカリと反応させて脱塩酸させることで、粗エピクロロヒドリンを作り、蒸留により不純物を取り除いて生産されます。

CH2=CHCH3 + Cl2 → CH2=CHCH2Cl + HCl (アリルクロライドの合成)
CH2=CHCH2Cl + HOCl → CH2ClCH(OH)CH2Cl 
CH2ClCH(OH)CH2Cl → CH2CHOCH2Cl + HCl

2. アリルアルコール法
アリルアルコールを塩酸水溶液中で塩素により塩素化してジクロロプロパノールを得ます。これにアルカリを加えることで脱塩酸して、粗エピクロロヒドリンを作り、蒸留により製品のエピクロロヒドリンを得ます。

2CH2=CHCH3 + 2CH3COOH + O2 →CH2=CHCH2OCOCH3 +H2O→ CH2=CHCH2OH + CH3COOH (アリルアルコールの合成)
CH2=CHCH2OH + Cl2 → CH2ClCH(OH)CH2Cl 
CH2ClCH(OH)CH2Cl → CH2CHOCH2Cl + HCl

参考文献
https://anzeninfo.mhlw.go.jp/anzen/gmsds/106-89-8.html