オキシ塩化リンとは
オキシ塩化リンとは、酸素原子が三塩化リンに付加された化合物のことです。
水と激しく反応し、塩化水素、リン酸を含む分解物が生じます。また、空気中の湿気により塩化水素ガスを発生します。三塩化リンと酸素を反応させて、直接酸化する方法で作ることが可能です。さらに、三塩化リンに塩素を作用させて作られた五塩化リンを、水で分解して生成する方法もあります。三塩化リンは、リンに塩素を反応させると得られます。
オキシ塩化リンの使用用途
オキシ塩化リンは、油圧用作動液、可塑剤 (リン酸トリクレジル) 、ガソリン添加剤、防火剤の製造に使用されます。また、医薬 (サルファ剤、ボタミンB1など) の「製造」「染料」「リン系農薬」「香料」「不燃性フィルムの原料」「ウラン鉱抽出剤」などにも利用可能です。その他、半導体製造工程では拡散剤としても使われています。
オキシ塩化リンは、劇物取締法により毒物に指定されており、眼、鼻、喉などの呼吸器および中枢神経系に対する刺激性があるので取扱いに注意が必要です。
オキシ塩化リンの性質
図1. オキシ塩化リンの構造
オキシ塩化リンの融点は1.25℃、沸点は105.8℃です。外観は、無色の発煙性液体で、刺激臭があります。蒸気は、空気よりも重いです。塩化ホスホリルやリン酸トリクロリドとも呼ばれています。分子式はPOCl3で、モル質量は153.33g/molです。
オキシ塩化リンはリンを中心とする四面体型構造の化学物質です。P-Cl結合を3つとP=O結合を1つ有しています。P=O結合は非常に強く、結合解離エネルギーは533.5kJ/molです。ショーメーカー・スチーブンソン則 (英: Schomaker-Stevenson rule) によって、結合強度や電気陰性度からも、フッ化ホスホリル (POF3) と比べて二重結合の寄与がかなり大きいことがわかっています。
オキシ塩化リンのP=O結合は、ケトンのカルボニル基のπ結合とは違います。P-Clのσ*軌道にO原子の孤立電子対が供与されることで、P-Oのπ結合が生じるようです。ただし、P-O間の相互作用は、未だに長い間論争が続いています。
オキシ塩化リンのその他情報
1. オキシ塩化リンの反応
塩化マグネシウムのようなルイス酸とともに、過剰のフェノールとオキシ塩化リンを加熱すると、トリアリールリン酸エステルを得ることが可能です。
オキシ塩化リンは、ルイス塩基としても働きます。例えば、四塩化チタンなどのルイス酸と反応すると、付加物を生成します。
オキシ塩化リンと塩化アルミニウムの付加物は安定であり、フリーデル・クラフツ反応 (英: Friedel–Crafts reaction) の後の混合物からでも、塩化アルミニウムを完全に除去可能です。塩化アルミニウムの存在下で、オキシ塩化リンは臭化水素と反応して、POBr3を生じます。
2. オキシ塩化リンを用いた反応
図2. オキシ塩化リンを用いた反応
実験室でオキシ塩化リンは、よく脱水試薬として利用されます。具体的には、アミドからニトリルへの変換に用いられています。
ビシュラー・ナピエラルスキー反応 (英: Bischler-Napieralski reaction) にも、オキシ塩化リンを使用可能です。つまり、アミド前駆体が閉環して、ジヒドロイソキノリン誘導体を生成できます。
3. オキシ塩化リンを用いたビルスマイヤー・ハック反応
図3. オキシ塩化リンを用いたビルスマイヤー・ハック反応
ビルスマイヤー・ハック反応 (英: Vilsmeier-Haack reaction) とは、オキシ塩化リンの存在下で起きる、活性芳香族化合物とアミドの反応のことです。オキシ塩化リンによって芳香環が活性化され、アシル化して芳香族アルデヒドや芳香族ケトンを生成します。