ヨウ化水素

ヨウ化水素とは

ヨウ化水素とは、ヨウ素と水素からなる無機化合物です。

ヨウ化水素の水溶液はヨウ化水素酸 (英: hydroiodic acid) と呼ばれ、57%の水溶液が市販されています。気体であるヨウ化水素と水溶液であるヨウ化水素酸は、相互変換可能です。

ヨウ化水素酸は天然ゴムや皮膚を侵すため、取り扱いには注意が必要です。ヨウ化水素は「毒物及び劇物」、取締法では「劇物」に該当します。

ヨウ化水素の使用用途

ヨウ化水素は、同じハロゲン化水素である塩化水素や臭化水素と比べて不安定で、酸化されやすいです。そのため、強い還元剤として利用されます。また、塩化物、臭化物、金属酸化物などと反応してヨウ化物を生成するため、無機ヨウ化物の製造に利用可能です。

さらに、ITO (インジウムスズ酸化物) のドライエッチング剤としても知られています。エッチングとは、物質の腐食作用を利用して、ICの回路を形成する工程のことです。 

ヨウ化水素の性質

ヨウ化水素の融点は−50.8°C、沸点は−35.1°Cです。常温では無色で刺激臭のある気体です。還元力が強いため、空気中の酸素によって容易に酸化して、赤紫色のヨウ素を生じます。ヨウ化水素の酸化では、こげ茶色のHI3も生成され、ヨウ化水素の熟成溶液がこげ茶色に見える場合もよくあります。

水に非常によく溶け、塩化水素や臭化水素と同じく、水に対する溶解熱は非常に大きいです。イオン半径は大きいヨウ化物イオンと水素イオンの静電気力は小さく、電離しやすいため、水溶液は強い酸性を示し、pKaは−10です。

ヨウ化水素の構造

ヨウ素から構成されるハロゲン化水素の1種です。分子量は 127.90g/molであり、-47°Cでの密度は2.85g/mLです。化学式はHIで表されます。

水素とヨウ素の電気陰性度にはほとんど差がないため、分子の極性は小さいです。水素原子とヨウ素原子の距離は160.9pmです。

ヨウ化水素のその他情報

1. ヨウ化水素の合成法

工業的に、ヨウ素とヒドラジンの反応によって窒素ガスが発生し、ヨウ化水素が得られます。水中での反応の場合には、ヨウ化水素を蒸留する必要があります。

ヨウ化物にリン酸を加えて加熱しても、ヨウ化水素を合成可能です。ヨウ素水溶液に硫化水素ガスを吹き込んで、ヨウ化水素酸と硫黄を生成する方法もあります。

実験室では、水とヨウ素の混合物に赤りんを加えて、PI3の加水分解によって生成可能です。この反応では、I2とリンの反応によりPI3が生じ、水と反応するとヨウ化水素と亜リン酸が生成されます。

2. ヨウ素と水素の反応

ヨウ素と水素の反応

図1. ヨウ素と水素の反応

水素とヨウ素を組み合わせるだけでも、ヨウ化水素を合成可能です。通常この方法は、高純度のヨウ化水素を得るために使用されています。

H2とI2の反応では、まずI2が2つのヨウ素原子に解離して、それぞれがH2の側面に結合し、H-H結合を切断すると考えられています。I2の解離エネルギーである578nmに近い波長の光を照射すると、反応速度が著しく増加したためです。

2. ヨウ化水素によるSN2反応

ヨウ化水素のSN2の反応

図2. ヨウ化水素のSN2反応

HBrやHClと同様に、HIはアルケンに付加します。有機化学でHIは、第一級アルコールをヨウ化アルキルに変換するために利用可能です。この反応はSN2置換であり、活性化された水酸基がヨウ化物イオンと交換されます。

3. ヨウ化水素によるSN1反応

ヨウ化水素のSN1の反応

図3. ヨウ化水素のSN1反応

臭化物や塩化物より優れた求核剤であるヨウ化物イオンは、加熱しなくても反応が起こりやすいです。二級アルコールや三級アルコールでは、SN1置換によって反応が進行します。

HIはエーテルをヨウ化アルキルとアルコールに切断できます。化学的に安定で不活性なエーテルを、反応性が高い化合物に変換できるため、重要な反応です。例えば、ジエチルエーテルをエタノールとヨードエタンに分解できます。

メラミン

メラミンとは

メラミンとは、化学式C3H6N6で表される有機窒素化合物で、無色または白色の柱状結晶です。

熱水、DMSOに溶けますが、冷水やエタノールには溶けにくい性質を持ちます。また、メラミンは昇華性を有します。

また、ジシアンジアミドと液体アンモニアを加圧下で反応させて得ることができます。しかし、現在は尿素を原料とした以下の2つの製法が主に用いられています。1つ目の製法は、触媒を用いて1-10気圧下でメラミンを得る低圧接触法です。2つ目の製法は、約100気圧下、無触媒でメラミンを得る高圧液相法です。

メラミンの使用用途

メラミンの主な使用用途は、メラミン樹脂の原材料です。メラミン樹脂は、メラミンとホルムアルデヒドの縮合重合により作られる熱硬化性樹脂です。このメラミン樹脂は、耐水性、耐熱性、耐摩擦性に優れ、他の熱硬化性樹脂と比べて安価であることから、幅広い用途に使われています。例として、メラミン樹脂は食器、スポンジ、塗料、建築材料、繊維の材料が挙げられます。

また、電気絶縁性、難燃性にも優れているため、コネクターやスイッチ、電気部品を作る際にも用いられています。その耐火性や耐熱性の高さを活かし、炎遅延剤としても使用されることがあります。

メラミンの性質

メラミンは、化学式C3H6N6で表される三級アミンの1種で、白色結晶性の固体です。水にやや溶けにくく、常温では約3.2g/100mlの水に溶解します。また、熱水やエタノール、メタノールなどの極性有機溶媒にも溶けにくいですが、アンモニアやアルカリ水溶液中では溶解しやすくなります。

熱に対して安定であり、高温 (約345℃) まで加熱されると分解し始めます。分解時には、アンモニア、水、炭素などが放出されることがあります。

メラミンは、アルデヒド類 (特にホルムアルデヒド) と反応して、メラミン-ホルムアルデヒド樹脂を生成します。これは、メラミンの最も一般的な用途の1つであり、プラスチック、接着剤、コーティング剤などの製造に広く利用されています。

メラミンは一般的に無毒で、人体への影響はほとんどありません。ただし、高濃度で摂取された場合や、メラミンが食品や飲料に混入した場合は、腎臓に悪影響を与えるリスクがあります。これらの性質により、メラミンはプラスチック製品、接着剤、コーティング剤、光学材料などの分野で広く利用されています。

メラミンの構造

メラミンは、化学式C3H6N6で表される有機化合物です。3つの炭素原子と3つの窒素原子が交互に配置されており、これら6つの原子が六員環構造を形成しているのが特徴です。 

メラミンは共有結合による電子の共有が強いため、分子間の引力が強くなり、結晶性を持つ固体となります。メラミンの熱安定性や耐熱性は、この構造が関係しています。

また、これらの特性によって、アルデヒド類との反応性や架橋反応が促進され、メラミン-ホルムアルデヒド樹脂などの高分子化合物の形成に役立っています。これがメラミンが広く利用される理由の1つとなっています。

メラミンのその他情報

メラミン の製造方法

メラミンは、シアン化水素を原料として製造されることが一般的です。主に使用される製造方法は、シアン化水素をアンモニアと反応させてメラミンを生成させる方法で、生成されたメラミンは、固体として分離され、精製されます。

まず、シアン化水素とアンモニアを反応させて、ジシアンジアミド (DCDA) を生成します。

HCN + NH3 → DCDA

次に、生成したジシアンジアミドを高温 (約400℃) および高圧 (約50~100気圧) の条件下で熱分解させることにより、メラミンが生成されます。

6DCDA → 3C3H6N6 + 6NH3

最終的な製品は、白色の結晶性粉末として得られます。この粉末は、さまざまな用途で使用されるメラミン樹脂の原料として利用可能です。この製造方法は、効率的で大量生産に優れているため、メラミンの主要な製造プロセスとして広く用いられています。しかし、シアン化水素は有毒であり、安全対策が重要です。また、環境への影響も考慮する必要があります。

メタン

メタンとは

メタンの基本情報

図1. メタンの基本情報

メタンとは、炭素原子1個と水素原子4個から構成される炭化水素です。

天然ガスの主成分であり、都市ガスに使用されています。温室効果ガスの一つで、地球温暖化に影響を及ぼします。自然界では、湿地や沼で枯れた植物の有機物が発酵して、メタンを得ることが可能です。そのため、沼気とも呼ばれます。工業的には、天然ガスから分離して、メタンを得ています。

メタン自体にはヒトへの毒性がありませんが、高純度のメタンを吸入した場合には、酸素欠乏症になる可能性があるため注意が必要です。

メタンの使用用途

メタンは都市ガスに使われている液化天然ガスの主成分であり、燃料用ガスとして使用されます。

メタンは、微生物によるメタン発酵により生ゴミ、家畜ふん尿を発酵させて得るバイオガスに含まれています。このバイオガスを精製してメタン濃度を90%以上にしたバイオメタンは、電力や熱として供給可能です。

さらに炭素を含む化合物を工業的に製造する際の原材料にもなります。例として、メタノールホルムアルデヒド、蟻酸はメタンを原材料として誘導されます。

メタンの性質

メタンの分子式はCH4で、モル質量は16.042g/molです。メタンの融点、沸点はそれぞれ-182.5℃、-161.6℃です。そのため常温では、気体として存在しています。引火点は−188°C、発火点は537°Cです。メタンの比重は、常温常圧で0.555です。アルカンの中で空気の平均密度より、唯一小さい物質でもあります。

メタンの分子は中心に炭素原子が位置し、正四面体構造を取っています。炭素-水素 (C–H) 間はσ結合で結ばれています。sp3混成軌道を取っていて、結合角は109°です。

メタンのその他情報

1. メタンの合成法

工業的にメタンは、水素と一酸化炭素の反応によって、大量生産できます。実験室では、強塩基の存在下で酢酸塩を熱して脱炭酸させると生じます。例えば、酢酸ナトリウム水酸化ナトリウムを加熱すると、メタンを得ることが可能です。室温で炭化アルミニウムを水で加水分解してもメタンは生成しますが、不純物による強烈な臭いがあります。

それ以外にも、メタン菌の嫌気醗酵でもメタンが生じます。ちなみに自然界で生じるほとんどのメタンは、メタン菌によって合成されており、この反応には強い嫌気度が必要です。

2. メタンの反応

光のような刺激で励起されたハロゲン元素と、メタンは反応しやすいです。これは激しい発熱反応であり、水素原子からハロゲン原子へ置換されます。具体的に、常温で塩素を含む混合気体を直射日光に当てると、メタンは発火します。

その一方で、1molのメタンは、完全燃焼によって二酸化炭素1molと水2molになり、890kJの熱を得ることが可能です。メタンの不完全燃焼では、一酸化炭素と水が生じます。

3. メタンに関連する置換基

メタンに関連する置換基

図2. メタンに関連する置換基

メタンを置換基と考えると、メチル基、メチレン基、メチン基などがあります。メタンの水素原子が1つ取れたアルキル基は、メチル基 (CH3−) と呼ばれます。メタンの水素原子が2つ取れたアルケン基はメチレン基 (−CH2−) で、メタンの水素原子が2つ取れたアルキン基はメチン基 (−CH<) です。

結合の相手が同一原子で、H2C=Xで表される構造を有する際には、メチリデン基とも呼ばれています。結合の相手が同一原子で、HC≡Xで表される構造を有する際には、メチリジン基とも呼ばれます。

4. メタンに関連する化合物

メタンに関連する化合物

図3. メタンに関連する化合物

炭素数が1個の化合物の多くは、同じく炭素数が1個のメタンから誘導されています。化学工業の原料として、重要な化合物が存在します。具体例は、メタノール、ホルムアルデヒド、蟻酸、シアン化水素などです。

メタノール

メタノールとは

メタノールとは、最も簡単な構造のアルコールです。

別名として、メチルアルコール (英: methyl alcohol) 、木精 (英: wood spirit) 、カルビノール (英: carbinol) とも呼ばれています。主に天然ガスや石炭ガスを原料に、高温高圧下で複数の製造工程を経て生産されています。

メタノールは、アルコール類の中でも最も引火点や沸点が低く、危険物第四類アルコール類に分類されているほか、毒性も高いため、毒物及び劇物取締法で管理されています。したがって、取り扱いには十分な注意が必要です。

メタノールの使用用途

メタノールは薬品や塗料などの基礎原料です。フェノール樹脂や接着剤だけでなく、酢酸ホルムアルデヒドの合成原料として用いられています。それに加えてメタノールは、あらゆる化学反応における溶剤としても広く使用可能です。

近年では、エネルギー関連での利用が注目されており、ガソリン添加剤・バイオディーゼル燃料の原料のほか、燃料電池の水素供給源としての利用が進められています。

メタノールの性質

メタノールは特有の刺激臭のある無色透明の液体です。融点は-97°C、沸点は64.7°Cです。水、エタノールベンゼン、エーテル等、多くの溶媒に溶解します。

メタノールは引火性が高いです。揮発性も高く、メタノールが入った容器を火に直接かけると爆発します。メタノールの炎は薄青色ですが、昼間はとくに視認しにくいです。

メタノール中毒においてヒトの経口での最小致死量は、推定では0.3〜1.0g/kgほどです。故意の摂取、誤飲、取り扱い時の吸入、多量の皮膚接触などでメタノール中毒が起きます。メタノール中毒の症状として、目の網膜の損傷による失明が知られています。

なお、メタノールはアルコールの中で、最も単純な分子構造を有します。示性式はCH3OHで、分子量は32.04、密度は0.7918g/cm3です。

メタノールのその他情報

1. メタノールの製法

現代のメタノールの工業製法は、コスト面を考えて、天然ガスからの製造が主流です。酸化銅-酸化亜鉛/アルミナ複合酸化物を触媒として、50〜100気圧、240〜260℃で、一酸化炭素 (CO) と水素 (H2) を反応させることで、メタノールが生成します。このとき一酸化炭素は、石炭や天然ガスの部分酸化によって製造できます。

また、メタノールは、木材由来による木酢液の蒸留によっても得ることが可能です。さらに、メタノール産生菌による発酵でも得られます。そのほか副産物として、メタノールが生成することもあります。具体的には、ワインなどの植物を原料とした酒の醸造において、細胞壁の主成分として含まれるペクチンの発酵によって生じます。

2. メタノールの反応

メタノールの燃焼によって、二酸化炭素と水が生じます。熱した (Cu) との反応でメタノールは酸化し、ホルムアルデヒド (HCHO) が得られます。

ただし、メタノールは代謝によってギ酸 (蟻酸) を大量に生成して、失明や代謝性アシドーシスに至るため、人体に有毒な化学物質です。ほかにもメタノールとナトリウム (Na) が反応すると、ナトリウムメトキシド (CH3ONa) と水素 (H2) が生成します。

3. メタノールによる燃料改質

メタノールを加熱すると、水素と一酸化炭素の合成ガスが生じます。必要な温度は300〜400°Cほどであり、エンジンの排熱を利用可能です。メタノールの燃焼反応は吸熱反応なので、見かけ上の燃料のエネルギー量は増加して、熱効率が高くなります。分解ガスのオクタン価が極めて高く、熱効率が40%近くのエンジンも実現可能です。

メタノールは水素燃料電池の燃料としても利用できます。直接メタノール燃料電池 (DMFC)よりも、エネルギー効率は高いです。ただし、SOFCやMCFC以外の白金を用いた燃料電池では、一酸化炭素に被毒するため、徹底的に除去する必要があります。

ポリエチレンテレフタレート

ポリエチレンテレフタレートとは

ポリエチレンテレフタレートの構造

図1. ポリエチレンテレフタレートの構造

ポリエチレンテレフタレートとは、工業的に生産されているポリエステルの一種です。

プラスチック素材の中でも最も有名なもので、頭文字をとってPETと表記されることもあります。ポリエチレンテレフタレートは、形状などにもよりますが、透明性や強度、靭性、耐熱性、耐寒性、耐水性、耐薬品性、染色性などに優れたポリマーです。電気絶縁性が良いことや、燃焼しても有毒ガスを放出しないことも特徴として挙げられます。

ポリエチレンテレフタレートの使用用途

ポリエチレンテレフタレートの主な使用用途は、ペットボトルや包装容器、磁気テープの基材などです。また、ポリエチレンテレフタレートを使用して作られた合成繊維は、フリースなどの様々な洋服に使用されています。

ポリエチレンテレフタレートの代表的な使用用途であるペットボトルは、ボトルの形状や厚み、加工時の処理方法によって、炭酸飲料に耐えられる耐圧ボトルや、温かい飲料に耐えられる耐熱ボトルなど用途が異なります。

ポリエチレンテレフタレートの原理

ポリエチレンテレフタレートの合成方法

図2. ポリエチレンテレフタレートの合成方法

ポリエチレンテレフタレートは、テレフタル酸ジメチルまたはテレフタル酸エチレングリコールを反応させた後に、この生成物からグリコールを留去して重縮合することで得られます。ポリエチレンテレフタレートは加工方法によって、C-PET (結晶性ポリエチレンテレフタレート) とA-PET (非晶性ポリエチレンテレフタレート) に作り分けることが可能です。

1. C-PET

C-PETはポリマーを溶融させた状態からゆっくりと冷却させることによって、結晶性を高くした状態です。高結晶性ゆえに、強度や耐熱性が高いです。

その耐熱性を活かし、オーブンでの加熱が可能な容器や、レトルト食品の容器などに用いられます。また、酸素バリアー性も高いため、食品容器の場合は長期保存を可能にします。

2. A-PET

一方で、A-PETはポリマーを溶融させた状態から高速で冷却することによって得られます。C-PETよりもしなりやすく、高い耐衝撃性が特徴です。ただし、長期間にわたって使用したり熱がかかったりすることによって結晶化が進んでしまうことがあります。こちらも食品容器などの用途があります。耐熱性が必要ない、サラダや刺身などの容器に良く用いられます。

ポリエチレンテレフタレートのその他情報

1. G-PET

ポリエチレンテレフタレートの中には、エチレングリコールの一部を1,4-シクロヘキサンジメタノールに置き換えたG-PET (グリコール変性ポリエチレンテレフタレート) というポリマーがあります。G-PETは成型加工時の冷却速度に関係なく、非晶性のポリマーです。長期間の使用や熱への暴露によって結晶化してしまうこともありません。

G-PETは、透明性や光沢性、印刷特性、引張強度、耐衝撃性などに優れています。そのため、高機能な化粧品用の容器や、3Dプリンター用のフィラメントとして用いられる場合が多いです。

普通のPETで厚みの大きい容器を製造しようとすると、冷却速度が遅いことで結晶が生成し不透明な見た目になりますが、G-PETは肉厚でも透明性の高い綺麗な外観の製品を製造することが可能です。

2. GF-PET

ポリエチレンテレフタレートとガラス繊維を混ぜることで、本来の耐熱性や耐薬品性、寸法安定性に加え、高い機械強度を示すエンジニアリングプラスチックのGF-PET (ガラス繊維強化ポリエチレンテレフタレート) になります。この加工によって軽量かつ高強度の素材となったポリエチレンテレフタレートは、自動車や家電製品、電子機器の部品として用いられます。

参考文献
https://www.petbottle-rec.gr.jp/more/characteristic.html
https://nature3d.net/explanation/petg.html

ポリビニルアルコール

ポリビニルアルコールとは

ポリビニルアルコールは水溶性の合成樹脂の一種です。

もっとも単純な構造を持つエノールである(CH2CH(OH))が重合した形である(−CH2CH(OH)−)nという示性式で表される化合物です。1924年にドイツで発明されました。その後、日本の企業により工業的に発展してきました。

ポリビニルアルコールの製法

ポリビニルアルコールの単量体であるビニルアルコールは、より安定なアセトアルデヒドに異性化してしまうため、単量体として存在できません。そのため、ポリ酢酸ビニルを経由してポリビニルアルコールが合成されます。

工業的には、石油由来のエチレンと、酢酸と酸素から、酢酸ビニルが合成されます。この反応ではパラジウム触媒が用いられます。

この酢酸ビニルを付加重合させることでポリ酢酸ビニルを得ます。その後、ポリ酢酸ビニルを加水分解することで、ポリビニルアルコールが合成されます。

酢酸ビニルからポリビニルアルコールの合成

ポリビニルアルコールの性質

常温の状態では固体として存在し、温水に溶けやすいという特徴を持っています。この温水に溶けるという特徴は、合成樹脂の中では特異なものです。この特徴は、分子中に親水性のヒドロキシ基(-OH基)を多量に有することによるものです。

このポリビニルアルコールは、親水性の表面に対し接着力を出したり、皮膜を形成したり、粘度を上げたりするような性質を持っています。

また、安定した高分子であることから、様々な環境でも変質や劣化がしにくいため、長期の取り扱いもしやすい物質といえます。耐薬品性を持ち、ジメチルスルホキシドなど特殊な溶剤と水にしか溶解しません。皮膚刺激性、眼刺激性、皮膚感作性などはほとんどなく、人体に対しても安全な物質と言えます。

ポリビニルアルコールの使用用途

ポリビニルアルコールはその性質から、多様な用途に用いられます。

水溶性、接着性を生かし、化粧品や、接着剤・糊剤として使用されています。

化粧品として使用される場合は、皮膜形成や乳化安定化の目的で使用されます。皮膜を形成することで、ファンデーションやマスカラなどの液状のものが柔らかい皮膜となり、肌に留まりやすくなります。

また、接着剤として配合する場合は、そのまま接着の役割を果たす物質として使用され、液状のりの状態で売られていることが多いです。切手の裏面の糊にも使用されます。糊剤として合成洗濯のりとしても使用されています。

液晶ディスプレイに用いられる偏光板の基材としても用いられます。そのほか、合成繊維であるビニロンの原料としても使用されます。

ペンタン

ペンタンとは

ペンタンの概要

図1. ペンタンの概要

ペンタンとは炭素が5個のアルカンで、炭素鎖の分岐が異なるノルマルペンタン(n-ペンタン)、イソペンタン、ネオペンタンの3種類の構造異性体があります。ただし、一般的に「ペンタン」と呼ぶ場合は直鎖のn-ペンタンのことを指します。ペンタンは無極性化合物で水に不溶ですが、エーテルやアルコール類などの多くの有機溶媒とは混和します。

ペンタンは危険物第四類 特殊引火物に該当する物質で、揮発性が高く、室温でも引火性の高い化合物です。そのため、ペンタンを取り扱う際は着火源の除去、漏洩対策、局所排気装置の使用など適切な対策を施す必要があります。

ペンタンのデータ

  • CAS番号: 109-66-0
  • CAS Name: Pentane
  • 分子量: 72.15
  • 沸点: 36.1度
  • 融点: -129.7度

出典: American Chemical Society

ペンタンの使用用途

ペンタンは揮発性が高く、非極性物質をある程度溶解させられるため、接着剤、印刷インキなどに使われています。また有機合成実験において抽出用溶剤として用いられたり、麻酔剤としても使用されています。最近では地熱発電で利用されている、加熱源によって沸点の低い媒体を蒸発させてタービンを回す「バイナリー発電」の媒体としてもペンタンは用いられています。

その他、ペンタンはガスクロマトグラフィー(GC)の標準物質として用いられることもあり、各試薬メーカーにはGC標準物質専用のn-ペンタンが販売されています。

ペンタンの安全性と法規制

ペンタンは炭素と水素原子のみから構成される非常に燃えやすい化合物で、引火点が-49℃(密閉式)である、室温でも容易に引火しうる化合物です。消防法の第4類 特殊引火物に該当しており、使用時は静電気の除去など着火源となるものを排除することが求められます。

また、ペンタンは急性毒性が小さいですが、吸入ばく露による麻酔作用、気道刺激性がある化合物です。呼吸器に有害であると考えられており、揮発性も高い物質であるため、使用時にはドラフト外への漏洩防止などの対策が必要です。なお、ペンタンは労働安全衛生法に基づいて取り扱い時にリスクアセスメントが必要な物質でもあります。

参考文献
https://anzeninfo.mhlw.go.jp/anzen/gmsds/0958.html
https://www.jawe.or.jp/topics/2018/ramtrl18.pdf

ベンゼン

ベンゼンとは

ベンゼンの基本情報

図1. ベンゼンの基本情報

ベンゼンとは、最も単純な化学構造の芳香族炭化水素のことです。

甘い芳香を有し、引火性が高い無色の液体です。石油化学では基礎的な化合物の一つで、原油中にも含まれています。

ベンゼンの蒸気は有毒です。造血機能を阻害する作用があるため、有害大気汚染物質に定められています。以前は自動車用のガソリンにも5%程度のベンゼンが含まれていましたが、大気汚染防止法が改正され、現在では1%以下となっています。

ベンゼンの使用用途

ベンゼンは芳香族化合物の出発点として、非常に多くの用途に利用されます。例えば、染料、合成ゴム、合成洗剤、有機顔料、有機ゴム薬品、医薬品、香料、合成繊維、合成樹脂、農薬、爆薬、防虫剤などに使われています。

ベンゼンの誘導体として最も需要が大きいのが、スチレンモノマーです。ベンゼンとエチレンからポリスチレンが製造され、テレビやエアコンのキャビネット、断熱材や容器などに使用されます。

その他には、ナイロンポリカーボネートポリウレタンの原料としても利用されます。 

ベンゼンの性質

ベンゼンは揮発性・引火性の高い無色透明な液体で、特有のにおいを持っています。融点は5.5°C、沸点は80.1°Cです。ベンゼン環を有し、化学式がC6H6、分子量が78.11で、密度が0.8765g/cm3です。ベンゼン環とは、6個の炭素原子からなる正六角形の6員環のことです。

ベンゼンは、それぞれの炭素がsp2混成軌道を取っています。炭素原子間の結合距離は1.397Åで、C−C間やC=C間の結合距離の中間の値です。したがって、ベンゼン環の平面上にある6個の炭素結合はすべて平等で、構造式で表されるような3個の二重結合が存在するわけではありません。

そして、一つのベンゼン環内に存在する6個のπ電子は、6個の炭素原子に共有され、非局在化しています。 非局在化を強調するため、六角形内部に丸を書いた形を、ベンゼン環として表示する場合もあります。

ベンゼン環が置換基になる場合にはフェニル基と呼ばれ、フェニル基はPhと書くことも可能です。

ベンゼンのその他情報

1. ベンゼンの置換反応

ベンゼンの置換反応

図2. ベンゼンの置換反応

構造式上ではベンゼンは二重結合を有しますが、アルケンとは違って置換反応の方が、付加反応と比べて起こりやすいです。ベンゼンの置換反応の具体例として、ハロゲン化が挙げられます。ハロゲン化には、例えば塩素化や臭素化などがあり、クロロベンゼンやブロモベンゼンなどが生成します。

また、ベンゼンのスルホン化によってベンゼンスルホン酸を、ニトロ化によってニトロベンゼンを得ることが可能です。さらにベンゼンは、アルキル化やアセチル化などの反応も進行します。

2. ベンゼンの付加反応

ベンゼンの付加反応

図3. ベンゼンの付加反応

ベンゼンに紫外線を当てて、塩素と反応させることで、ベンゼンヘキサクロリドが生成します。ベンゼンヘキサクロリドは、1,2,3,4,5,6-ヘキサクロロシクロヘキサンとも呼ばれます。

ベンゼンと水素の反応では、シクロヘキサンが得られます。

3. ベンゼンの合成法

沸点が80〜200℃の炭化水素を水素ガスと混合して、触媒を用いて8〜50気圧、500〜525℃で反応させます。脂肪族炭化水素が環を形成して、水素を失い芳香族炭化水素が生成します。生成物を蒸留して、溶媒抽出により分離精製し、ベンゼンを得ることが可能です。

水素とトルエンを混ぜて、触媒とともに40〜60気圧、500〜600℃で反応させても、ベンゼンが生成します。それに加えて、2分子のトルエンから、ベンゼンとキシレンを合成可能です。化学原料としてベンゼンやキシレンは、トルエンよりも需要があるため、経済的にも成立するプロセスです。それ以外にも、赤熱した鉄触媒や石英触媒を使用して、3分子のアセチレンからベンゼンを合成できます。

ヘキサン

ヘキサンとは

ヘキサン (英: hexane) とは、ガソリンのような匂いのある無色透明の液体です。

示性式CH3(CH2)4CH3で表される鎖状構造の化学物質で、分子量は86.18です。CAS登録番号は110-54-3で、脂肪族炭化水素の代表的化合物です。

n-ヘキサンの他にも、イソヘキサン等、5種の構造異性体が存在します。異性体と区別するため、特にノルマルヘキサンと呼ばれることもあり、また、異性体を含めた炭素6個のアルカン群の呼称としてHexanes (複数形) という言葉を使うこともあります。

ヘキサンの性質

1. 物理的特性

ヘキサンの融点は-95℃、沸点は69℃、比重は0.65g/mLです。エタノール及びジエチルエーテル等の有機化合物に対して極めて溶けやすいため、重要な溶剤として広く利用されていますが、水にほとんど溶けません。600〜700℃まで加熱すると熱分解を起こし、水素やメタンエチレンなどを生じます。引火性が高く有害性もあるため、取り扱いには注意が必要です。

2. 人体への影響 

n-ヘキサンは、体内で酵素シトクロムP450によって触媒され、2-ヘキサノール、2,5-ヘキサンジオールに生体内変換されます。2,5-ヘキサンジオールは、神経毒性のある2,5-ヘキサンジオンに酸化される可能性があり、歩行困難などの多発性神経症を引き起こします。このため、溶媒としてのn-ヘキサンの置換が議論されており、n-ヘプタンは代替手段の1つです。

ヘキサンの使用用途

1. 溶剤

ヘキサンは有機物をよく溶かすため、溶剤として広く利用されています。ポリオレフィン重合や医薬品、農薬、精密化学品等の製造、塗料・インク・接着剤用の溶剤等として用いられています。また、高速液体クロマトグラフィーをはじめとする分析用の溶剤としてもよく用いられています。

2. 洗浄剤

ベンジンの主成分でもあるため、工場や実験室等で機械や器具等の油脂汚れを落とす洗浄剤として使用されることが多いです。イソヘキサンはクリーナーとして市販されていますが、プラスチックやゴムを侵す場合があるため注意が必要です。

3. 食品添加物

ヘキサンは食品衛生法に適合しているため、食用油脂の抽出等でも使われています。大豆の脱脂加工法の一つである溶媒抽出法は、大豆を破砕した後にヘキサンを溶剤として使い油脂 (大豆油) を抽出するものです。ヘキサンには毒性があるものの、沸点が低く加工過程で完全除去される加工助剤なので、添加物として表示されることはありません。

ヘキサンのその他情報

1. ヘキサンの製造法

ヘキサンは、主に原油を精製することによって得られます。画分の正確な組成は、原油など石油の供給源および精製の制約に大きく依存します。工業製品 (通常、直鎖異性体の約50重量%) は、65〜70°Cで沸騰する画分です。

2. 法規情報

毒物および劇物取締法において非該当ですが、消防法では「第4類引火性液体、第一石油類非水溶性液体」に該当します。労働安全衛生法では、「名称等を表示・通知すべき危険有害物」、「リスクアセスメントを実施すべき危険有害物」、「危険物・引火性の物」などに指定があり、注意が必要です。化学物質の審査及び製造等の規制に関する法律 (化審法) で「第2種監視化学物質」に指定されています。

3. 取扱いおよび保管上の注意

取扱い及び保管上の注意は、下記の通りです。

  • 容器を密閉し、涼しく乾燥し換気の良い場所に保管する。
  • 極めて燃えやすいため、熱・火花・火炎など着火源から遠ざける。
  • 火災及び爆発の危険があるため、酸化剤との接触を避ける。
  • 屋外や換気の良い区域のみで使用する。
  • ミストや蒸気、スプレーを吸入しない。
  • 使用時は保護手袋、保護眼鏡を着用する。
  • 使用後は適切に手袋を脱ぎ、本製品の皮膚への付着を避ける。
  • 取扱い後はよく手を洗浄する。

参考文献
https://anzeninfo.mhlw.go.jp/anzen/gmsds/110-54-3.html

プロパン

プロパンとは

プロパン (英: Propane) とは、飽和鎖式炭化水素の1つで、弱い特異臭のある無色の可燃性気体 (純粋なものは無臭) です。

化学式はC3H8、分子量は44.09、CAS番号は74-98-6です。プロパンは、主にガス燃料として用いられる化学物質で、1857年にフランスの化学者マルセラン・ベルテロによって発見されました。

プロパンの構造

プロパンの構造式はCH3-CH2-CH3で表され、折れ線形の構造をしています。炭素原子同士の結合距離は約154pmで、折れ線構造のなす角度は約110°です。プロパンの結晶の空間群はP21/nで、スタッキング特性が悪く空間充填率が低いため、特に低い融点の理由にもなっています。

プロパンの性質

1. 物理的特性

プロパンは、融点が-187.6℃、沸点が-42.1℃です。他の天然ガス成分と異なり、沸点が低く空気よりも1.5倍重いことが特徴です。エーテルやエタノールには溶けますが、水への溶解度は62.4mg/Lでほとんど溶けません。

2. その他の特徴

プロパンは、液化しやすく、熱や火に触れると大きな炎を出して燃えるという性質をもちます。さらに、高濃度のプロパンには、麻酔作用があります。

プロパンの使用用途

1. ガス燃料

プロパンは単独で、または、プロペン・ブタン・ブテン等との混合物で、液化石油ガス (LPガス) として燃料に用いられています。プロパンの沸点は、大気圧下で-42.1℃と低いことから、寒冷時でも容易に気化するため、家庭用や業務用LPガスの主成分として利用されます。LPガスは、調理用、給湯用、空調の熱源用、自動車燃料用として広く用いられています。

2. 冷媒

プロパンは、ガス吸収式冷凍機の冷媒としても用いられており、冷媒番号はR-290です。米国では、1930年代からプロパンガスを冷媒に使った、稼働時に電力を必要としない高効率なガス吸収式冷凍機を販売しています。駆動部分を持たないため、メンテナンスが簡便な点も特徴です。

3. その他

プロパンのその他の用途としては、潤滑油精製の脱蝋用溶剤など、溶剤としての用途が挙げられる他、エアロゾル剤としても用いられています。プロパンは、ゼオライト触媒を用いて芳香族炭化水素を合成する際に、原料として使用されることもあります。

プロパンのその他情報

1. プロパンの製法

プロパンは天然ガスプロセッシング、石油の分留または分子量の大きいアルカンのクラッキングなどによって得ることができます。天然ガスプロセッシングとは、気体の天然ガスから凝縮点の差を利用して、プロパンとブタンを分離する方法です。プロパンは、石油や天然ガスに含まれている成分であり、分解ガスとして石油精製工程で副生します。

2. プロパンの反応

プロパンの化学反応性は低いですが、プロパンを脱水素することでプロピレンが、塩素化することで塩化プロパンが、ニトロ化することでニトロプロパン等を生成させることができます。

3. 法規情報

プロパンは、毒物及び劇物取締法や化学物質排出把握管理促進法では指定がありません。労働安全衛生法では、危険物・可燃性のガス (施行令別表第1第4号) に、高圧ガス保安法では液化ガス (法第2条3) に指定されており、取り扱いには注意が必要です。 

4. 取扱いおよび保管上の注意

取扱い及び保管上の注意は、下記の通りです。

  • 保管容器には専用の高圧ガス容器を使用し、換気の良い40 ℃以下の場所で保管する。
  • 発火の恐れがあるため、高温の物体、火花、裸火との接触は避けて保管する。
  • 使用後は、容器のバルブを完全に閉め、口金キャップと保護キャップを付ける。
  • 爆発の恐れがあるため、酸素に富む物質 (強酸化剤) との接触は避ける。
  • 屋外や換気の良い区域、防爆仕様の局所排気設備などで使用する。
  • 使用時は保護手袋、保護眼鏡を着用する。
  • 窒息の恐れや麻酔作用があるため、蒸気の吸入を避ける。

参考文献
https://anzeninfo.mhlw.go.jp/anzen/gmsds/1404.html