ベンゼンとは
図1. ベンゼンの基本情報
ベンゼンとは、最も単純な化学構造の芳香族炭化水素のことです。
甘い芳香を有し、引火性が高い無色の液体です。石油化学では基礎的な化合物の一つで、原油中にも含まれています。
ベンゼンの蒸気は有毒です。造血機能を阻害する作用があるため、有害大気汚染物質に定められています。以前は自動車用のガソリンにも5%程度のベンゼンが含まれていましたが、大気汚染防止法が改正され、現在では1%以下となっています。
ベンゼンの使用用途
ベンゼンは芳香族化合物の出発点として、非常に多くの用途に利用されます。例えば、染料、合成ゴム、合成洗剤、有機顔料、有機ゴム薬品、医薬品、香料、合成繊維、合成樹脂、農薬、爆薬、防虫剤などに使われています。
ベンゼンの誘導体として最も需要が大きいのが、スチレンモノマーです。ベンゼンとエチレンからポリスチレンが製造され、テレビやエアコンのキャビネット、断熱材や容器などに使用されます。
その他には、ナイロン、ポリカーボネート、ポリウレタンの原料としても利用されます。
ベンゼンの性質
ベンゼンは揮発性・引火性の高い無色透明な液体で、特有のにおいを持っています。融点は5.5°C、沸点は80.1°Cです。ベンゼン環を有し、化学式がC6H6、分子量が78.11で、密度が0.8765g/cm3です。ベンゼン環とは、6個の炭素原子からなる正六角形の6員環のことです。
ベンゼンは、それぞれの炭素がsp2混成軌道を取っています。炭素原子間の結合距離は1.397Åで、C−C間やC=C間の結合距離の中間の値です。したがって、ベンゼン環の平面上にある6個の炭素結合はすべて平等で、構造式で表されるような3個の二重結合が存在するわけではありません。
そして、一つのベンゼン環内に存在する6個のπ電子は、6個の炭素原子に共有され、非局在化しています。 非局在化を強調するため、六角形内部に丸を書いた形を、ベンゼン環として表示する場合もあります。
ベンゼン環が置換基になる場合にはフェニル基と呼ばれ、フェニル基はPhと書くことも可能です。
ベンゼンのその他情報
1. ベンゼンの置換反応
図2. ベンゼンの置換反応
構造式上ではベンゼンは二重結合を有しますが、アルケンとは違って置換反応の方が、付加反応と比べて起こりやすいです。ベンゼンの置換反応の具体例として、ハロゲン化が挙げられます。ハロゲン化には、例えば塩素化や臭素化などがあり、クロロベンゼンやブロモベンゼンなどが生成します。
また、ベンゼンのスルホン化によってベンゼンスルホン酸を、ニトロ化によってニトロベンゼンを得ることが可能です。さらにベンゼンは、アルキル化やアセチル化などの反応も進行します。
2. ベンゼンの付加反応
図3. ベンゼンの付加反応
ベンゼンに紫外線を当てて、塩素と反応させることで、ベンゼンヘキサクロリドが生成します。ベンゼンヘキサクロリドは、1,2,3,4,5,6-ヘキサクロロシクロヘキサンとも呼ばれます。
ベンゼンと水素の反応では、シクロヘキサンが得られます。
3. ベンゼンの合成法
沸点が80〜200℃の炭化水素を水素ガスと混合して、触媒を用いて8〜50気圧、500〜525℃で反応させます。脂肪族炭化水素が環を形成して、水素を失い芳香族炭化水素が生成します。生成物を蒸留して、溶媒抽出により分離精製し、ベンゼンを得ることが可能です。
水素とトルエンを混ぜて、触媒とともに40〜60気圧、500〜600℃で反応させても、ベンゼンが生成します。それに加えて、2分子のトルエンから、ベンゼンとキシレンを合成可能です。化学原料としてベンゼンやキシレンは、トルエンよりも需要があるため、経済的にも成立するプロセスです。それ以外にも、赤熱した鉄触媒や石英触媒を使用して、3分子のアセチレンからベンゼンを合成できます。