エチレンジアミン四酢酸

エチレンジアミン四酢酸とは

エチレンジアミン四酢酸 (化学式C10H16N2O8) は、室温では無色の結晶個体として存在する金属キレーション剤の一種です。

別名EDTA 、エチレンジアミンテトラ酢酸、エデト酸とも呼ばれます。CAS登録番号は120-72-9です。金属イオン (キレート) を封鎖するため、金属イオンと他の成分との固有の反応を防ぐ作用があり安定的な水溶性キレート化合物を作ります。

エチレンジアミン四酢酸の使用用途

エチレンジアミン四酢酸は、主にキレート剤として様々な分野で利用されています。

1. キレート滴定

エチレンジアミン四酢酸が金属イオンと1:1で結合する性質を利用し、金属イオンの濃度を測定する用途です。まず、濃度未知の金属イオン溶液に対して、金属イオンと錯体を形成することで発色する指示薬を添加します。次に、濃度がわかっているエチレンジアミン四酢酸水溶液を徐々に滴下していきます。溶液中の金属イオンが全てキレート錯体を形成すると、発色が消えます。この時のエチレンジアミン四酢酸水溶液の滴下量から、金属イオンの濃度を求めます。

2. 水処理

エチレンジアミン四酢酸は水道水の処理において、配管中に蓄積されたカルシウムやマグネシウムの塩を取り除くために用いられています。また、食品工業や化粧品工業において、金属イオンが引き起こす不良品質を防ぐために使用されます。

3. 医療

医薬品分野においては、血液凝固を防ぐ薬剤、抗生物質、抗ヒスタミン薬、局所麻酔薬などの性質を維持するために用いられています。

また、エチレンジアミン四酢酸は重金属中毒の治療で使用されることがあり、キレーション治療と呼ばれています。金属中毒は過剰な金属イオンが体内に蓄積されることで引き起こされる症状です。エチレンジアミン四酢酸を投与して体内の過剰な金属イオンを取り除くことにより、中毒症状を緩和することができます。例えば、鉛中毒患者の治療に用いられています。

4. 生物学実験

細胞やタンパク質、DNAなどは金属イオンを介して結合しており、これらの結合を乖離させる目的でエチレンジアミン四酢酸が用いられています。

例えば、人工的に培養された細胞は互いに金属イオンを介して結合しており、細胞同士をばらばらにするためにエチレンジアミン四酢酸を添加した酵素溶液が一般に使用されます。また、DNAやタンパク質は、しばしば金属イオンと結合しているため、EDTAを添加することによって金属イオンを除去可能です。

5. 酸化防止剤

ゴムや植物油、食品などは、微量の金属イオンの触媒作用によって酸化が発生することが知られています。酸化によって品質が劣化するため、対策としてエチレンジアミン四酢酸を酸化防止剤として添加することがあります。

エチレンジアミン四酢酸の性質

1. 物性

エチレンジアミン四酢酸は、分子量 292.24、融点237-245℃で、常温では白色の固体です。水に対する溶解度は0.2g/100g、オクタノール/水分配係数は-3.86です。

2. キレート作用

製品に影響を及ぼす金属イオンに結合して錯体を形成する性質があります。金属イオンを捕捉するため、金属イオンと他の成分との固有の反応を防ぐ作用が働きます。

複数の配位座を持つ配位子が金属イオンに結合することをキレートと呼びますが、エチレンジアミン四酢酸は多くの金属イオンと安定な水溶性キレート化合物を形成することで知られています。エチレンジアミン四酢酸は4つの配位座を持つため、銀、カルシウム、、鉄などの1~4価のほとんど全ての金属イオンと結合することが可能です。

エチレンジアミン四酢酸のその他情報

1. 製造方法

エチレンジアミンシアン化ナトリウム及びホルマリンをアルカリ存在下で60〜150℃で反応させて製造します。得られたナトリウム塩状態のエチレンジアミン四酢酸を精製することで、高純度のエチレンジアミン四酢酸を得ることができます。エチレンジアミン四酢酸は通常、2価のナトリウム塩として販売されています。

2. 環境への影響

エチレンジアミン四酢酸は環境に悪影響を与える場合があります。水溶性が高く、廃水中に放出されると河川や海洋などの水域に流入する可能性があります。エチレンジアミン四酢酸を含む廃水を適切に処理しないと、水中に溶解した金属イオンを結合させることによって、水生生物や水質に悪影響を与える可能性があります。

3. 人体への影響

エチレンジアミン四酢酸は金属イオンと強く結合するため、多量に摂取した場合は骨髄抑制や腎不全などの副作用を引き起こすことが報告されています。ただし、一般的に使用される濃度範囲では安全であり、食品や医薬品に添加されていることがあります。

参考文献
https://anzeninfo.mhlw.go.jp/anzen/gmsds/60-00-4.html

エチレンジアミン

エチレンジアミンとは

エチレンジアミンとは、1級ジアミンの1種で、アンモニア臭のある室温で透明な液体です。

別名として、1,2-ジアミノエタン、1,2-エタンジアミン、ジメチレンジアミンなどがあります。主に他の化学物質を作るための原料として使用されます。

エチレンジアミンの使用用途

エチレンジアミンは、多くの化合物との反応性が高いため、新たな化学物質をつくる合成原料として使用されています。産業分野での例を挙げると、合成ワックス、除草剤、界面活性剤、乳化剤、湿潤剤、分散剤、腐食防止剤、洗剤、繊維表面処理などです。

医療分野の例では、抗ヒスタミン薬など化学的安定化剤として薬剤の合成、アレルギー性皮膚炎の診断を補助するためのアレルギー性上皮性パッチ検査など幅広い用途で使用されます。また、農薬関係では、殺菌剤、殺虫剤、除草剤などにも用いられます。

その他、キレート剤、コーティング剤、接着剤、イオン交換樹脂原料、ゴム薬品なども用途の1つです。

エチレンジアミンの性質

エチレンジアミンの化学式はNH2CH2CH2NH2で、エチレンの2つの炭素に結合する水素原子が1個ずつ、アミン基に置換された構造になっています。分子量は60.11で、密度は0.9g/cc、融点は8.5℃、沸点は117℃で、水、アルコールと自由に混和しますが、エーテルには微溶です。

強塩基性を示し、付着した生体組織部を腐食させます。また、加熱すると、窒素酸化物とアンモニアの有毒な煙が発生するため、取り扱いには注意が必要です。

不快なアンモニア臭があり、眼、鼻、のど、呼吸器系統に痛みと刺激を与え、まれに生命の危険を及ぼすこともあります。目や皮膚についた場合、多量の水で洗い流し、医師の手当てを受ける、濃厚な蒸気を吸入した場合は、新鮮な空気の場所に移動するこことが重要です。

エチレンジアミンのその他情報

1. エチレンジアミンの製造方法

エチレンジアミンは、エチレンジクロライドとアンモニアまたはアンモニア水との反応により生産されます。これらの原料を混合して、加圧下、110℃で加熱し反応させます。

ClCH2CH2Cl + 2NH3  / NH2H2CH2NH2 + 2HCl

反応により得られた生成物は、蒸留塔に送られます。そこで未反応のエチレンジクロライドは分離して反応槽へ戻されます。蒸留塔では40%苛性ソーダを振らせて、生成したアミン塩酸塩及び塩化アンモニアを中和し、遊離する過剰のアンモニアは反応塔に戻され再利用されます。

蒸留塔の底部から回収されるエチレンジアミンおよび食塩水を分離槽へ送り、分離槽で食塩水をエチレンジアミンから分離します。エチレンジアミンは精留塔で常圧、150~180℃で精製されます。残留分は沸点200℃以上のエチレントリアミン、およびポリアミンです。エチレンジアミンとトリアミン以上のポリアミンとの生成比率は2 : 1となります。

2. エチレンジアミンの多量体

エチレンジアミンはエチレングリコールと同様に、2量体、3量体などの多量体 (ポリエチレンアミン) が存在します。これらはエチレンジアミンの製造工程でも生成し、精留工程で分離されます。これらは一般式 NH2-(CH2-CH2NH)n-Hで表され、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン、ペンタエチレンヘキサミンなどがあります。

ポリエチレンアミン類も、エチレンジアミンと同様に危険です。エチレンジアミンからテトラエチレンペンタミンまでが、「化学物質把握管理促進法では第1種指定化学物質」に、また毒物及び劇物取締法で「第2劇物」に指定されています。労働安全衛生法では、「エチレンジアミン、ジエチレントリアミンが引火性危険物、名称等を表示・通知すべき危険物及び有害物」に指定されています。

参考文献
https://anzeninfo.mhlw.go.jp/anzen/gmsds/107-15-3.html                                                                       

エチレングリコールモノエチルエーテル

エチレングリコールモノエチルエーテルとは

エチレングリコールモノエチルエーテルとは

図1. エチレングリコールモノエチルエーテルの基本情報

エチレングリコールモノエチルエーテル (ethylene glycol ethyl ether) とは、分子内にヒドロキシ基とエーテル結合を一つずつ持つ有機化合物です。

分子式 C4H10O2、分子量90.12、融点-70℃、沸点135℃ で、常温では無色の液体です。また、揮発性物質であるため、エーテル類に特徴的な臭気をもちます。

密度は0.9297g/cm3 (20℃)、水とは自由に混和して溶解します。 引火性液体及び蒸気であり、引火点は45 ℃です。

また、強酸化剤と反応すると、火災や爆発を引き起こす危険もあります。更に、アルミニウムなどの軽金属およびその合金を腐食する恐れもあるため、取り扱いの際は注意が必要です。

消防法では、「第4類 第2石油類水溶性液体」、有機則では「第2種有機溶剤等」、PRTR法では「第1種指定化学物質」に指定されています。

エチレングリコールモノエチルエーテルの使用用途

エチレングリコールモノエチルエーテルの主な用途は、樹脂・塗料・印刷インキの溶剤です。

他にも、革製品の染色、クリーニングのしみ抜き剤や汚れを溶かすための可溶化剤としても用いられます。これは、染料をよく溶かし、かつ浸透性が良いという、エチレングリコールモノエチルエーテルの性質を活かしたものです。

また、エチレングリコールモノエチルエーテルは、エポキシ樹脂をよく溶かす性質をもつため、金属や機械部品にエポキシ樹脂を塗装するときの溶剤としても使われています。

エチレングリコールモノエチルエーテルの原理

エチレングリコールモノエチルエーテルの原理を合成方法と化学反応の観点から解説します。

1. エチレングリコールモノエチルエーテルの合成

エチレングリコールモノエチルエーテルの合成

図2. エチレングリコールモノエチルエーテルの合成

エチレングリコールモノエチルエーテルは、塩基存在下でオキシラン (エチレンオキシド)  とエタノールを反応させることにより合成されます。これは、ごく一般的なエーテルの合成方法です。

2. エチレングリコールモノエチルエーテルの化学反応

エチレングリコールモノエチルエーテルの化学反応

図3. エチレングリコールモノエチルエーテルの化学反応

エチレングリコールモノエチルエーテルは、水以外にもアルコール、アセトン、エーテル、液体エステルと混和し、pKaは14.8です。ジケテンと反応し、アセト酢酸2-エトキシエチルを与えます。この化合物もまた、溶剤、可塑剤、樹脂安定剤に利用可能です。

このように、エチレングリコールモノエチルエーテルは、一般のアルコール同様にヒドロキシ基で反応します。誘導体には、エチレングリコールモノエチルエーテルアセテートなどがあります。

エチレングリコールモノエチルエーテルの種類

エチレングリコールモノメチルエーテルは、エーテル類溶剤として化学メーカーで広く取り扱われています。溶剤製品は「エチルセロソルブ」の製品名で販売されていることが多く、容量は4L , 16L , 15kg , 190kgなど様々な製品があります。

特に一斗缶で流通している場合が多く、190kgの場合はドラム缶などの荷姿です。常温で保管されます。また、化学合成用の試薬製品としては、500mLなどの低容量製品も存在します。

参考文献
https://anzeninfo.mhlw.go.jp/anzen/gmsds/110-80-5.html
https://www.env.go.jp/chemi/report/h17-21/pdf/chpt1/1-2-2-01.pdf

エタノール

エタノールとは

エタノールとは、アルコールの一種であり、殺菌・消毒用の他、多岐な用途に使用される有機溶剤です。

揮発性が高く、保管時は必ず容器に密閉し、冷暗所に保管する必要があります。

エタノールの使用用途

エタノールの使用用途は非常に多岐にわたります。具体的な使用例は、以下のとおりです。

1. 消毒

消毒用アルコールとして、手指や皮膚、医療器具、手術部位の消毒用、病院の壁や床などを消毒するために使用されます。特に新型コロナウイルス感染症が発生以降、消費量が劇的に増加しています。

消毒用エタノールには、エタノールの他に約30%の水が含まれているのが一般的です。この濃度は、細菌やウイルスを効果的に殺菌するための適切な濃度とされています。水を混合することで揮発しにくくなり、消毒部位に殺菌成分がとどまる時間が長くなることで、殺菌効果が高まります。

2. 工業用途における溶媒

合成樹脂の塗料や塗料の希釈剤として利用されています。その他にも、ドラッグストアで掃除用洗剤として、エタノール濃度が99.5%以上である「無水エタノール」が販売されており、一般消費者でも購入し使用することができます。

3. 食品添加物

天然原料から作られた発酵エタノールは、食品の防腐用やみりんなどの調味料などに使用されます。また、エタノールの使用用途ではありませんが、エタノールは、アルコール飲料の主要成分の1つです。ビール、ワイン、ウイスキー、日本酒、焼酎などに含まれますが、酒類を製造する工程で発酵によりエタノールが生成しています。

エタノールの性質

エタノールは、化学式がC2H5OHで分子量46.07の無色透明の引火性のある液体です。融点は-114.1℃、沸点は78.5℃と低く、揮発性が高いので、常温であっても気化しやすい性質があります。消毒剤やヘアスプレーなどに使用される際に有効な性質です。

また、エタノールは水と混和しやすく、容易に水溶液を作ることができます。この性質は、エタノールを消毒液やマウスウォッシュの基材として使用する際に重要です。

引火点は12.0℃と低く、常温で火花などの着火源が存在すると引火して燃え出します。一般家庭や公共の場所においても広く用いられている消毒用エタノール (エタノールが約70%の水溶液) でも引火点は21℃であり、取扱いには注意を要します。

エタノールの種類

エタノールは原料、製法の違いから分類すると、合成エタノールとバイオエタノールの2種類に分類できます。

1. 合成エタノール

合成エタノールとは、石油や天然ガスなどの化石燃料から、合成されたエタノールのことです。合成エタノールは、バイオエタノールとは異なり、再生可能な原料を使用せずに製造されるため、環境に対する影響が問題視されることがあります。

合成エタノールは、化石燃料を原料としており、バイオエタノールに比べて製造コストが安く、製造量の調整も容易であるというメリットがあります。しかし、CO2排出量の観点から、環境に負荷をかけることが懸念されています。また、化石燃料の埋蔵量にも限りがあるため、持続可能な燃料としては限界があるとされています。

2. バイオエタノール

植物由来の原料 (バイオマス) を発酵させて製造されるエタノールのことです。バイオマスを利用することによって、化石燃料に頼らない環境にやさしい燃料として注目されています。

バイオエタノールは、エタノール自体の性質は同じですが、製造に使用する原料が植物由来であるため、化石燃料に比べてCO2排出量が低く、環境にやさしいとされています。また、バイオマスは再生可能な資源であるため、化石燃料の枯渇問題に対する解決策の一つです。

ただし、バイオマスの収穫や加工にはエネルギーが必要であることや、バイオエタノールの製造に必要なエネルギーが化石燃料に依存していることなどの課題もあります。

エタノールのその他情報

エタノールの製造方法

合成エタノールは、天然ガスや石油から得られるエチレンと水を反応させることにより製造します。

C2H4 + H2O → C2H5OH

この反応式では、エチレン (C2H4 ) と水 (H2O) が反応してエタノール (C2H5OH) が生成されます。この反応は、シリカなどに固定化したリン酸硫酸などの酸触媒の存在下で進行します。生成したエタノールは、水や副生成物との混合物として得られるため、蒸留や分離などの精製工程を経て、純度の高いエタノールが製造可能です。

バイオエタノールは、植物由来の原料 (バイオマス) を発酵させて製造されます。バイオマスの代表的なものとして、サトウキビ、トウモロコシ、ジャガイモ、てんさい、木材などが挙げられます。

これらの原料を粉砕して、繊維や糖分を取り出し、酵母などの微生物を加えて発酵させます。この過程で糖分がエタノールに変換されます。そこから蒸留によりエタノールを濃縮し、さらに精製して純度を高めると、バイオエタノールを得ることが可能です。

参考文献
https://anzeninfo.mhlw.go.jp/anzen/gmsds/1310-73-2.html

イノシン

イノシンとは

イノシンの基本情報

図1. イノシンの基本情報

イノシン (Inosine) とは、化学式C10H12N4O5で表される有機化合物の一つで、ヌクレオシド構造を持つ物質です。

別名にはヒポキサントシン、ヒポキサンチンリボシドなどがあり、「Ino」「I」などの略記があります。ヒポキサンチン (6-ヒドロキシプリン) とD-リボースからなる構造のN-リボシドです。CAS登録番号は58-63-9です。

分子量は268.23、融点226℃ (分解) であり、常温ではほぼ白色の結晶性粉末です。水に溶けるものの、エタノールにはほとんど溶けません。水への溶解度は1.6g/100mL (20℃) であり、水溶液のpHは4.8〜5.8です。

法規上の規制などは特に対象となっていない化合物です。

イノシンの使用用途

イノシンは、リン酸化誘導体であるイノシン酸が筋肉中に多量に存在することから医療関係への応用、さらにうま味成分の一つとされていることから飲食関連への利用も活発です。

イノシンは、放射線曝射ないし薬物による白血球減少症や、亜急性硬化性全脳炎患者における生存期間の延長、などに効能のある医薬品として承認され、使用されています。

また、他の用途の一つはサプリメントです。細胞中に取り込まれるとATPサイクルを活発化させることから持久力向上効果が期待され、製品化されています。

イノシンの性質

イノシンは生化学的に言うと、RNA中にまれに存在する微量塩基の一種です。しばしばtRNAに含まれ、特にアンチコドン部位に存在する場合にはmRNAに対してゆらぎ塩基としての作用が知られています。

これは、イノシンが持つヒポキサンチン部位が、複数の種類の核酸塩基 (シトシンアデニンウラシル) と水素結合により会合して塩基対を形成できることに由来します。イノシンでは生体内では特に筋肉に多く含まれている物質です。

また、イノシンを希硫酸中で加熱すると、加水分解を受けてヒポキサンチンとD-リボースに変わることが知られています。基本的には安定な化合物ですが、保管条件においては直射日光や高温、強酸化剤との混触は避けるべき物質です。有害な分解生成物として、一酸化炭素二酸化炭素、窒素酸化物などが挙げられます。

イノシンの種類

一般に販売されているイノシンの製品の種類には、前述の医薬品やサプリメントなどの他、研究開発用の試薬製品があります。

試薬製品としての容量の種類には、1g , 5g , 10g , 25g , 100g , 500gなどがあり、実験室で取り扱いやすい容量で提供されています。室温での取り扱いが可能です。研究分野では主に脂質・糖・核酸、ヌクレオシド関連研究に用いられます。

イノシンのその他情報

1. イノシンの合成

アデノシンからのイノシンの合成

図3. アデノシンからのイノシンの合成

イノシンは、アデノシンに脱アミノ化酵素 (アデノシンデアミナーゼ) を作用させる発酵法により、得ることができます。また、アデノシンと亜硝酸を反応させることにより6位のアミノ基がジアゾ化され、その部位が酸素で置換されたイノシンを合成することが可能です。

また、イノシンはイノシン酸の分解合成によっても生成します。

2. イノシンの関連物質

イノシンの関連物質

図3. イノシンの関連物質

イノシンのリボース部位の5’位にリン酸が導入された構造の化合物は、イノシン酸 (Inosinic acid) と呼ばれています。イノシン酸は、肉類の中に存在する天然化合物であり、呈味性ヌクレオチドの1つです。イノシン酸のナトリウム塩は、鰹節に含まれるうま味成分のひとつとして挙げることができます。

ヒポキサンチン (Hypoxanthine) はイノシンを構成する要素であるプリン誘導体です。生体内ではキサンチンオキシダーゼによってキサンチンから合成され、サルベージ経路のヒポキサンチン-グアニンホスホリボシルトランスフェラーゼによってイノシン酸に変換されています。ヒポキサンチンは、イノシン酸からイノシンを経て分解合成されますが、この反応は特に魚類の鮮度低下において顕著です。

参考文献
https://labchem-wako.fujifilm.com/sds/W01W0109-0023JGHEJP.pdf 

イノシトール

イノシトールとは

イノシトール (化学式: C6H12O6) とは、グルコース (ブドウ糖) から生合成される糖アルコールです。

室温では結晶状態で存在します。細胞増殖や癌化などにも深く関わっている生理活性物質の1つであり、筋肉や神経細胞に多く存在している物質です。

イノシトールは、ビタミン様物質の1種として知られており、細胞膜の構成成分です。全部で9種類の立体異性体が存在し、通常はミオイノシトールをイノシトールと呼びます。

これは、ミオイノシトールのみが生物活性を有し、広く研究されているためです。

イノシトールの使用用途

イノシトールは、医薬品、化粧品、食品添加物などの製造に広く用いられています。

1. 医薬品

イノシトールは、肝機能改善薬や、抗うつ薬として利用されます。また、体内でのカルシウムや脂質代謝に関与しており、血糖値を下げる効果があるため、糖尿病の予防や治療にも利用されています。

その他、多嚢胞性卵巣症候群やパニック障害の改善効果が期待され、研究が行われています。

2. サプリメント

イノシトールは、体内においてリン酸と結合し血中のコレステロールや脳の神経系に働きかける作用があります。脂肪を排出しやすくする効果作用があり、生活習慣病の予防・改善に期待できます。

加えて、神経機能を正常に保つ、髪を健康に保つ、などの効果も期待できるため、サプリメントや食品の添加剤として使用される場合も多いです。

イノシトールの性質

イノシトールは、白色の結晶性粉末であり、分子量は180.16g/mol、分子式はC6H12O6で表されます。水によく溶けますが、水に対する溶解度は温度によって大きく変化します。

ショ糖の半分の甘さを持つ糖アルコールで、人間の体内ではブドウ糖から自然に作られます。人間の腎臓では1日に約2g作られ、人体でイノシトールの濃度がもっとも高い臓器は脳です。

神経伝達物質や一部のステロイドホルモンを受容体に結合させるという重要な役割を担っています。イノシトールは、かつてビタミンB群の一員と考えられており、ビタミンB8と呼ばれていました。しかし、人体でグルコースから生成されるため、必須栄養素には含まれません。

イノシトールの構造

イノシトールは、シクロヘキサン環に6つのヒドロキシ基が結合したシクロヘキサノール構造を持っています。この構造により、イノシトールは天然に存在する多くの生体分子の一部として機能します。

イノシトールは、メソ化合物であり、対称面を持つため光学的に不活性です。以前はメソ-イノシトールと呼ばれていましたが、他にもメソ異性体が存在するため、現在はミオイノシトールという呼称が一般的です。

ミオイノシトール以外に天然に存在する立体異性体は、スキロ-、ムコ-、D-チロ-、L-チロ-、ネオ-イノシトールなどがありますが、自然界には極微量にしか存在しません。このうち、L-チロイノシトールおよびD-チロイノシトールは、その名前が示すように、唯一のエナンチオマーのペアで、それ以外はすべてメゾ化合物です。

ミオイノシトール異性体は最も安定な構造として椅子型構造をとります。

イノシトールのその他情報

イノシトールの製造方法

イノシトールは、植物、動物、細菌などで広く生合成されます。イノシトールは植物や動物の細胞内で合成される物質です。天然のイノシトールは、植物から抽出することができますが、工業的には微生物による発酵法が主に用いられます。産業的には、コーンスターチや麦汁からの製造が主流です。

植物原料のグルコースやスクロースなどの炭水化物を基質として、酵母や細菌による発酵を行います。その後、生成物を抽出し、精製によってイノシトールを得ます。

抽出法としては、溶媒抽出や樹脂吸着、クロマトグラフィー、膜分離などが利用されます。

イソプロテレノール

イソプロテレノールとは

イソプロテレノールの基本情報

図1. イソプロテレノールの基本情報

イソプロテレノールとは、化学構造にイソプロピルアミンやカテコールの骨格を有する医薬品の一つです。

別名として、イソプレナリン (英: Isoprenaline) とも呼ばれます。主に房室ブロック、徐脈、気管支喘息などの治療に使用可能です。

臓器の細胞表面に存在する受容体に対して作用する神経伝達物質に似た構造を持っており、神経伝達物質の模倣剤として用いられます。α受容体に対して作用せず、β-アドレナリン受容体にほぼ独占的に作用します。

イソプロテレノールの使用用途

イソプロテレノールは、主に医薬品分野で使用されます。β-アドレナリン受容体に選択的に結合し、交感神経を刺激します。交感神経が活性化して、心臓の電気信号が強まり、心拍数の増加および末梢血管の拡張のような効果が得ることが可能です。この効果により不整脈などの心臓障害の治療にも用いられます。

また、交感神経の活性化により平滑筋に対する弛緩効果も得られるため、喘息や気管支痙攣の治療で気管支拡張薬としてイソプロテレノールを使用可能です。

イソプロテレノールの性質

室温でイソプロテレノールは、白色の粉末あるいは結晶として固体状態で存在します。イソプロテレノールの吸収後の半減期は、およそ2分です。また、イソプロピルアミノ基やカテコールの水酸基などを有しています。化学式はC11H17NO3で、分子量は211.258g/molです。

イソプロテレノールはカテコールとアミンを持っている化合物です。カテコールアミン (英: catecholamine) は、神経伝達物質や関連薬物の基本骨格になっています。

イソプロテレノールのその他情報

1. イソプロテレノールによる効果

イソプロテレノールのトレースアミン関連受容体1型 (英: trace amine-associated receptor 1) 作動効果は、内因性微量アミンと似た薬力学的効果を有しています。ただし、投与経路によりますが、吸収後の半減期は短いです。そのため、中枢神経系のトレースアミン関連受容体1型刺激による、持続的向精神薬作用を持っていません。

循環器への非選択的作用は、細動脈の中膜にあるβ1受容体やβ2受容体への作用によります。β2受容体の刺激で細動脈平滑筋を弛緩し、血管を拡張可能です。心臓への陽性変力作用や陽性変時作用があり、収縮期血圧を上げますが、血管拡張効果により拡張期血圧が低く保たれます。結果として全体では、平均動脈圧が低くなります。

2. イソプロテレノールの構造活性相関

イソプロテレノールでβ受容体の選択性を決めているのは、イソプロピルアミノ基です。そして、カテコールの水酸基が露出しているため、代謝酵素への感受性が維持されていると言われています。

3. 喘息治療薬としてのイソプロテレノール

イソプロテレノールの関連物質

図2. イソプロテレノールの関連物質

イソプロテレノールは、交感神経のβ1受容体やβ2受容体の作動薬です。β2選択的な作動薬のサルブタモール (英: Salbutamol) が開発されるまで、広く喘息治療薬として利用されていました。

4. イソプロテレノールの副作用

イソプロテレノールによる重大な副作用は、血清カリウム値の低下です。注射剤では心筋虚血も、副作用として挙げられます。

5. イソプロテレノールの関連物質

カテコールアミンの具体例

図3. カテコールアミンの具体例

イソプロテレノールの持つカテコールアミンは、数多くの生体物質の骨格に使用されています。具体例として、ドーパミン (英: dopamine) やレボドパ (英: L-3,4-dihydroxyphenylalanine) だけでなく、アドレナリン (英: adrenaline) やノルアドレナリン (英: noradrenaline) などが挙げられます。

アミノ安息香酸

アミノ安息香酸とは

アミノ安息香酸とは、芳香族アミノカルボン酸の一種です。

アミノ安息香酸には、o (オルト) 、m (メタ) 、p (パラ) の3種の異性体が存在します。3種類の異性体の中で特に重要視されているのは、o-アミノ安息香酸とp-アミノ安息香酸です。o-アミノ安息香酸は、哺乳類に催乳作用を示し、ビタミンL1としても知られています。p-アミノ安息香酸は、生体内で葉酸 (英: folate) の前駆体として合成されます。

アミノ安息香酸の使用用途

アミノ安息香酸のうち、o-アミノ安息香酸はカドミウム、水銀、亜鉛などの金属イオンの分析試薬として使用されます。また、染料の合成にも利用可能です。

それに対して、p-アミノ安息香酸は主に美容分野に用いられており、紫外線が体内や肌の奥に侵入するのを抑制するため、肌の美白を補助する成分としてサプリメントに使われています。医薬品としては、過敏性腸症候群の治療薬としても使用可能です。

さらに、アミノ安息香酸のエステルの誘導体やアミドの誘導体は、局所麻酔薬としても利用されています。

アミノ安息香酸の性質

o-アミノ安息香酸は、無色~黄色の薄片または白色~黄色の結晶性粉末です。密度は1.41で、融点は146〜148℃です。o-アミノ安息香酸は、水銀やカドミウムなど、さまざまな金属イオンとキレート錯体を形成します。弱酸性条件で錯体は、沈殿を生成します。

p-アミノ安息香酸は、融点が187〜189℃の白色結晶です。

アミノ安息香酸の構造

アミノ安息香酸の化学式は、C7H7NO2です。ベンゼン環に1個のアミノ基 (-NH2) と1個のカルボキシ基 (-COOH) が結合しています。モル質量は137.14です。

o-アミノ安息香酸の別名は、アントラニル酸です。その一方で、p-アミノ安息香酸は、4-アミノ安息香酸とも呼ばれています。

アミノ安息香酸のその他情報

1. o-アミノ安息香酸の合成

o-アミノ安息香酸の基本情報

図1. o-アミノ安息香酸の基本情報

生体内でo-アミノ安息香酸は、トリプトファン (英: tryptophan) の合成に関与するシキミ酸経路 (英: shikimic acid pathway) で、アントラニル酸シンターゼ (英: anthranilate synthase) により、グルタミン (英: glutamine) とコリスミ酸 (英: chorismic acid) から合成されます。o-アミノ安息香酸は、多種多様なアルカロイドの前駆体です。

それ以外にも、トリプトファンの代謝経路のキヌレニン経路 (英: kynurenine pathway) でも、キヌレニンによってo-アミノ安息香酸が生合成されます。

2. p-アミノ安息香酸の合成

p-アミノ安息香酸の基本情報

図2. p-アミノ安息香酸の基本情報

葉酸の前駆体として、生体内でp-アミノ安息香酸が合成されます。p-アミノ安息香酸は真正細菌にとっては必須の栄養素ですが、ヒトには必須ではありません。真菌の酵素によってp-アミノ安息香酸は葉酸に変換されますが、ヒトはジヒドロプテロイン酸シンターゼ (英: dihydropteroate synthase) を持っていないためです。

そしてサルファ薬 (英: sulfonamides) は、p-アミノ安息香酸に構造が似ているため、酵素を阻害し、真菌選択的に抗菌作用を示します。

3. アミノ安息香酸の関連化合物

アミノ安息香酸の関連化合物

図3. アミノ安息香酸の関連化合物

o-アミノ安息香酸とメタノールのエステルであるアントラニル酸メチルは、ジャスミンやブドウに含まれている香気成分です。そのため、主な用途は着香料です。アントラニル酸メチルは鳥忌避剤としての効力もあり、米、果物、トウモロコシ、ヒマワリ、ゴルフコースなどの保護にも使用されています。

p-アミノ安息香酸のエチルエステルである4-アミノ安息香酸エチルは、局所麻酔薬として利用可能です。4-アミノ安息香酸エチルは感覚神経を麻痺させて、痛みが伝わるのを遮断できます。吐き気や胃の痛みを抑える目的で、乗り物酔い防止薬や胃腸薬に、内服薬として配合されています。外用薬として軟膏にも配合されており、虫さされ、外傷、痔などの痒みや痛みを緩和可能です。

アミトリプチリン

アミトリプチリンとは

アミトリプチリンの基本情報

図1. アミトリプチリンの基本情報

アミトリプチリンとは、三環系抗うつ薬 (英: Tricyclic Antidepressants) の一種です。

トリプタノール (英: Tryptanol) とも呼ばれます。最初に開発された抗うつ薬で生命現象に微量で関与し影響を与える生理活性物質です。脳内で神経伝達物質に作用する効果を持ち、医薬品や薬理研究の用途で用いるため、塩酸塩として販売されています。

アミトリプチリンの使用用途

アミトリプチリンは、医薬品分野では主に人間の抗うつ剤として使用されます。不安や気分の落ち込み、無気力のような症状を和らげ、うつ症状に対して効果が得られます。

アミトリプチリンの効果の理由は、人の脳内でノルアドレナリン (英: noradrenaline) およびセロトニン (英: serotonin) の働きを改善し、脳内の神経伝達をスムーズにする作用があるためです。

抗うつ剤としての用途以外にも、アミトリプチリンの持つ鎮静効果を利用し、慢性の神経関連の痛み・片頭痛や緊張型頭痛・夜尿症などの治療薬として使用されます。

アミトリプチリンの性質

アミトリプチリンの融点は196℃前後で、水、エタノール、アセトン、酢酸に溶けます。ジエチルエーテルには溶けにくいです。苦くて麻痺性があります。3つの接続した環を含む三環式化合物であり、化学式はC20H23Nです。分子量は277.403g/molで、白色あるいは薄い褐色の結晶性粉末です。

また、三環系抗うつ薬の一つでもあります。三環系抗うつ薬とは、初期の抗うつ薬の一種です。三環系抗うつ薬の共通の特徴は、ベンゼン環を両端に有し、3つの環状構造を持つ三環式化合物です。

アミトリプチリンのその他情報

1. アミトリプチリンの作用

神経伝達物質の化学構造

図2. 神経伝達物質の化学構造

三環系抗うつ薬であるアミトリプチリンは、ノルアドレナリンやセロトニンのような神経伝達物質に関与している神経細胞受容体に作用します。そして、神経細胞によるノルアドレナリンやセロトニンの再取り込みを阻害して、遊離するノルアドレナリンやセロトニンを増加可能です。

三環系抗うつ薬を飲み始めて1~2週間後に、臨床効果が出ます。選択的作用は比較的低いです。

2. アミトリプチリンの有効性

アミトリプチリンの関連物質

図3. アミトリプチリンの関連物質

アミトリプチリンは神経痛への適応として、プレガバリン (英: Pregabalin) 、デュロキセチン (英: Duloxetine) 、ガバペンチン (英: Gabapentin) とともに、選択肢の一つと言われています。ただし、日本の慢性頭痛の診療ガイドラインでは、アミトリプチンの言及はありません。

ランダム化比較試験の結果でも、有痛性糖尿病性神経障害 (英: diabetic neuropathy) に対して、プレガバリンやデュロキセチンと同等の効果が、アミトリプチリンでも得られたと報告されています。

3. アミトリプチリンの副作用

アミトリプチリンを使用した薬物治療を終えても、徐々に減薬する必要があります。少なくとも4週間は必要です。アミトリプチリンを徐々に減量しない場合には、頭痛、吐き気、情動不安、倦怠感、睡眠障害など、離脱症状が見られる可能性があります。

アミトリプチリンは抗コリン作用 (英: anticholinergic effect) が強いため、他の三環系抗うつ薬と同様に、口渇、眠気、めまい、便秘、排尿障害のような副作用が現れやすいです。それ以外にも、アミトリプチリンには、心原性不整脈や自傷行為などのリスクも報告されています。自殺念慮や自殺企図だけでなく、攻撃性や衝動性の危険が増える可能性があり、アミトリプチリンの使用の際には注意する必要があります。

アビエチン酸

アビエチン酸とは

アビエチン酸 (化学式 C20H30O2 )とは、無色または黄色味掛かった結晶性粉末状の化学物資です。

松ヤニの主成分であるロジンと呼ばれる物質を加熱異性化して得られる物質であり、ロジン酸、シルビン酸とも呼ばれます。アビエチン酸は、アカマツなどのマツ科植物の松ヤニから抽出されます。松ヤニは精油成分とロジンから成り、松脂から精油成分を蒸留した後に残る残留物がロジンです。

アビエチン酸は入手が比較的容易なため、有機合成における出発材料として広く使用されています。また、抗菌殺菌剤としても利用されています。融点は175度、水に対しては溶けず、エタノールアセトンベンゼンなどの有機溶剤に溶ける性質を持っています。

アビエチン酸の使用用途

1. 工業原料

アビエチン酸は主に工業分野で使用されます。金属塩にしたものは、インキのにじみ止め剤として紙の製造時に用いられています。メタノールとの化合物であるメチルエステル、あるいはグリセリンとの化合物であるグリセリルエステルは、表面コーディング用の塗料として使用されます。石鹸、プラスチック製品、マスカラなどの化粧品のように様々な日用品にも使用されます。その他、乳酸酪酸発酵の促進剤としても使用されます。

2. 抗生物質

アビエチン酸は、抗生物質として医療分野で利用されることがあります。広葉樹や針葉樹などの植物に広く存在する天然物質であり、微生物の増殖を抑制する効果があります。ただし一般的な抗生物質とは異なり、化学的に合成されたものではなく天然物質から抽出されるため、副作用のリスクが低いとされています。

3. 殺菌剤

アビエチン酸は室内や野外での消毒に使用されます。特に、食品の保存に使用されることが多いです。また、トイレの抗菌シートなどに利用されます。虫歯の原因菌の増殖を抑える効果もあるため、歯のマニキュア剤にも使われています。

アビエチン酸の性質

アビエチン酸は水にはほとんど溶けず、エタノール、アセトン、ジクロロメタンなどの有機溶剤に可溶性です。化学的にはやや不安定で、空気中に放置すると徐々に酸化分解してしまいます。そのため、保存には注意が必要です。アビエチン酸を安定に保つ方法としては、ナトリウム塩にすることが挙げられます。ナトリウム塩にすることで、酸性度が中和され、化学的に安定な物質となります。

また、植物由来の化合物であり、多くの生物学的活性を持っています。抗菌作用がある反面、アレルギーの原因となることもあります。

アビエチン酸の構造

アビエチン酸は化学的にはテルペノイドの一種です。テルペノイドとは、自然界に存在する一群の化合物の総称で、その構成単位には五炭素化合物であるイソプレンが使われています。つまり、テルペノイドは、イソプレンを結合させることで形成される天然物質のことを指します。

構造的には4つのイソプレン単位が連なってできたジテルペン骨格に、カルボン酸のカルボキシ基が付いた構造を持っています。この構造はアビエン酸というジテルペン骨格を持つカルボン酸類の一種であることを示しています。

アビエチン酸のその他情報

1. アビエチン酸の生産方法

アビエチン酸はマツ科植物の樹幹を傷つけたときに分泌される樹液から抽出されます。この樹液はしだいに固化して樹脂となり、水蒸気蒸留によってテレビン油が抽出されます。
そして、残った樹脂酸混合物を過熱水蒸気で蒸留することで、アビエチン酸の結晶が得られます。この方法は古くから用いられている伝統的な抽出法であり、現代の工業的生産でも一般的に使用されています。

2. アビエチン酸の安全情報

動物実験においては一部の生体内物質の代謝に影響を及ぼすことが報告されていますが、人体においては健康に対する有害作用は報告されていません。ただし、過剰な使用により、皮膚刺激や呼吸器系への刺激が生じることがあるため、十分な換気を確保し、保護具を着用することが推奨されています。

また、摂取することができないため内部の摂取による健康被害は報告されていません。ただし、皮膚への接触による刺激やアレルギー反応がある場合があるため、適切な取り扱いが必要です。