アミノ安息香酸とは
アミノ安息香酸とは、芳香族アミノカルボン酸の一種です。
アミノ安息香酸には、o (オルト) 、m (メタ) 、p (パラ) の3種の異性体が存在します。3種類の異性体の中で特に重要視されているのは、o-アミノ安息香酸とp-アミノ安息香酸です。o-アミノ安息香酸は、哺乳類に催乳作用を示し、ビタミンL1としても知られています。p-アミノ安息香酸は、生体内で葉酸 (英: folate) の前駆体として合成されます。
アミノ安息香酸の使用用途
アミノ安息香酸のうち、o-アミノ安息香酸はカドミウム、水銀、亜鉛などの金属イオンの分析試薬として使用されます。また、染料の合成にも利用可能です。
それに対して、p-アミノ安息香酸は主に美容分野に用いられており、紫外線が体内や肌の奥に侵入するのを抑制するため、肌の美白を補助する成分としてサプリメントに使われています。医薬品としては、過敏性腸症候群の治療薬としても使用可能です。
さらに、アミノ安息香酸のエステルの誘導体やアミドの誘導体は、局所麻酔薬としても利用されています。
アミノ安息香酸の性質
o-アミノ安息香酸は、無色~黄色の薄片または白色~黄色の結晶性粉末です。密度は1.41で、融点は146〜148℃です。o-アミノ安息香酸は、水銀やカドミウムなど、さまざまな金属イオンとキレート錯体を形成します。弱酸性条件で錯体は、沈殿を生成します。
p-アミノ安息香酸は、融点が187〜189℃の白色結晶です。
アミノ安息香酸の構造
アミノ安息香酸の化学式は、C7H7NO2です。ベンゼン環に1個のアミノ基 (-NH2) と1個のカルボキシ基 (-COOH) が結合しています。モル質量は137.14です。
o-アミノ安息香酸の別名は、アントラニル酸です。その一方で、p-アミノ安息香酸は、4-アミノ安息香酸とも呼ばれています。
アミノ安息香酸のその他情報
1. o-アミノ安息香酸の合成
図1. o-アミノ安息香酸の基本情報
生体内でo-アミノ安息香酸は、トリプトファン (英: tryptophan) の合成に関与するシキミ酸経路 (英: shikimic acid pathway) で、アントラニル酸シンターゼ (英: anthranilate synthase) により、グルタミン (英: glutamine) とコリスミ酸 (英: chorismic acid) から合成されます。o-アミノ安息香酸は、多種多様なアルカロイドの前駆体です。
それ以外にも、トリプトファンの代謝経路のキヌレニン経路 (英: kynurenine pathway) でも、キヌレニンによってo-アミノ安息香酸が生合成されます。
2. p-アミノ安息香酸の合成
図2. p-アミノ安息香酸の基本情報
葉酸の前駆体として、生体内でp-アミノ安息香酸が合成されます。p-アミノ安息香酸は真正細菌にとっては必須の栄養素ですが、ヒトには必須ではありません。真菌の酵素によってp-アミノ安息香酸は葉酸に変換されますが、ヒトはジヒドロプテロイン酸シンターゼ (英: dihydropteroate synthase) を持っていないためです。
そしてサルファ薬 (英: sulfonamides) は、p-アミノ安息香酸に構造が似ているため、酵素を阻害し、真菌選択的に抗菌作用を示します。
3. アミノ安息香酸の関連化合物
図3. アミノ安息香酸の関連化合物
o-アミノ安息香酸とメタノールのエステルであるアントラニル酸メチルは、ジャスミンやブドウに含まれている香気成分です。そのため、主な用途は着香料です。アントラニル酸メチルは鳥忌避剤としての効力もあり、米、果物、トウモロコシ、ヒマワリ、ゴルフコースなどの保護にも使用されています。
p-アミノ安息香酸のエチルエステルである4-アミノ安息香酸エチルは、局所麻酔薬として利用可能です。4-アミノ安息香酸エチルは感覚神経を麻痺させて、痛みが伝わるのを遮断できます。吐き気や胃の痛みを抑える目的で、乗り物酔い防止薬や胃腸薬に、内服薬として配合されています。外用薬として軟膏にも配合されており、虫さされ、外傷、痔などの痒みや痛みを緩和可能です。