イノシトールとは
イノシトール (化学式: C6H12O6) とは、グルコース (ブドウ糖) から生合成される糖アルコールです。
室温では結晶状態で存在します。細胞増殖や癌化などにも深く関わっている生理活性物質の1つであり、筋肉や神経細胞に多く存在している物質です。
イノシトールは、ビタミン様物質の1種として知られており、細胞膜の構成成分です。全部で9種類の立体異性体が存在し、通常はミオイノシトールをイノシトールと呼びます。
これは、ミオイノシトールのみが生物活性を有し、広く研究されているためです。
イノシトールの使用用途
イノシトールは、医薬品、化粧品、食品添加物などの製造に広く用いられています。
1. 医薬品
イノシトールは、肝機能改善薬や、抗うつ薬として利用されます。また、体内でのカルシウムや脂質代謝に関与しており、血糖値を下げる効果があるため、糖尿病の予防や治療にも利用されています。
その他、多嚢胞性卵巣症候群やパニック障害の改善効果が期待され、研究が行われています。
2. サプリメント
イノシトールは、体内においてリン酸と結合し血中のコレステロールや脳の神経系に働きかける作用があります。脂肪を排出しやすくする効果作用があり、生活習慣病の予防・改善に期待できます。
加えて、神経機能を正常に保つ、髪を健康に保つ、などの効果も期待できるため、サプリメントや食品の添加剤として使用される場合も多いです。
イノシトールの性質
イノシトールは、白色の結晶性粉末であり、分子量は180.16g/mol、分子式はC6H12O6で表されます。水によく溶けますが、水に対する溶解度は温度によって大きく変化します。
ショ糖の半分の甘さを持つ糖アルコールで、人間の体内ではブドウ糖から自然に作られます。人間の腎臓では1日に約2g作られ、人体でイノシトールの濃度がもっとも高い臓器は脳です。
神経伝達物質や一部のステロイドホルモンを受容体に結合させるという重要な役割を担っています。イノシトールは、かつてビタミンB群の一員と考えられており、ビタミンB8と呼ばれていました。しかし、人体でグルコースから生成されるため、必須栄養素には含まれません。
イノシトールの構造
イノシトールは、シクロヘキサン環に6つのヒドロキシ基が結合したシクロヘキサノール構造を持っています。この構造により、イノシトールは天然に存在する多くの生体分子の一部として機能します。
イノシトールは、メソ化合物であり、対称面を持つため光学的に不活性です。以前はメソ-イノシトールと呼ばれていましたが、他にもメソ異性体が存在するため、現在はミオイノシトールという呼称が一般的です。
ミオイノシトール以外に天然に存在する立体異性体は、スキロ-、ムコ-、D-チロ-、L-チロ-、ネオ-イノシトールなどがありますが、自然界には極微量にしか存在しません。このうち、L-チロイノシトールおよびD-チロイノシトールは、その名前が示すように、唯一のエナンチオマーのペアで、それ以外はすべてメゾ化合物です。
ミオイノシトール異性体は最も安定な構造として椅子型構造をとります。
イノシトールのその他情報
イノシトールの製造方法
イノシトールは、植物、動物、細菌などで広く生合成されます。イノシトールは植物や動物の細胞内で合成される物質です。天然のイノシトールは、植物から抽出することができますが、工業的には微生物による発酵法が主に用いられます。産業的には、コーンスターチや麦汁からの製造が主流です。
植物原料のグルコースやスクロースなどの炭水化物を基質として、酵母や細菌による発酵を行います。その後、生成物を抽出し、精製によってイノシトールを得ます。
抽出法としては、溶媒抽出や樹脂吸着、クロマトグラフィー、膜分離などが利用されます。