イノシンとは
イノシン (英 : Inosine) とは、プリンヌクレオシドの一種であり、ヒポキサンチン (6-ヒドロキシプリン) とD-リボースが結合した化合物です。
常温でほぼ白色の結晶性粉末です。水に可溶ですが、エタノールにはほとんど溶けません。CAS登録番号は58-63-9です。
イノシンは、ヌクレオチドの代謝中間体として生体内で重要な役割を果たします。また、食品添加物、医薬品、研究試薬など幅広い用途を持つ化合物です。法規上の規制対象にはなっていません。
イノシンの使用用途
イノシンは、医薬品、サプリメント、食品添加物として利用されています。
1. 医薬品としての用途
イノシンは放射線曝射や薬物による白血球減少症の治療に使用されます。イノシンとジメチルアミノイソプロパノールの複合体であるイノシンプラノベクス (Isoprinosine) は、抗ウイルス作用と免疫賦活作用により、亜急性硬化性全脳炎患者の生存期間延長のための治療薬としても承認されています。
2. サプリメントとしての用途
イノシンはATP (アデノシン三リン酸) の前駆体となるため、持久力向上や筋肉疲労の回復促進を目的としたスポーツサプリメントに配合されることがあります。
3. 食品添加物としての用途
イノシンのリン酸化誘導体であるイノシン酸は、うま味成分として食品業界で活用され、特に鰹節や肉類の加工食品に含まれています。特にグルタミン酸ナトリウムと併用すると相乗効果を発揮し、食品の風味を向上させます。肉や魚の加工食品、スープ、ラーメンスープの素などに添加されることが一般的です。
4. 生化学・分子生物学研究への利用
イノシンはRNA合成の研究や酵素反応の基質として利用されることがあります。また、イノシンを含むオリゴヌクレオチドは、遺伝子研究や診断技術にも応用されています。
イノシンの性質
1. 化学的性質
- 分子式 : C10H12N4O5
- 分子量 : 268.23 g/mol
- 水への溶解性 : 水に可溶
- 融点 : 226℃ (分解点)
- 外観 : 白色の結晶性粉末
2. 生理的性質
- ヌクレオシドの一種として、生体内でプリン代謝に関与し、特に筋肉組織に多く存在します。
- イノシンのヒポキサンチン部位は、シトシン (C) 、アデニン (A) 、ウラシル (U) と水素結合を形成することで、RNAの翻訳過程でゆらぎ塩基として作用します。
- イノシンは生体内でイノシン酸 (IMP) に変換され、さらにアデニル酸 (AMP) やグアニル酸 (GMP) へと代謝されます。
- イノシンは、酸性環境下で加熱すると加水分解を受け、ヒポキサンチンとD-リボースに分解されます。保管時には直射日光、高温、酸化剤との接触を避ける必要があります。
- 有害な分解生成物として、一酸化炭素 (CO) 、二酸化炭素 (CO₂) 、窒素酸化物 (NOₓ) が発生する可能性があります。
イノシンの種類
一般に販売されているイノシンの製品の種類には、前述の医薬品やサプリメントなどの他、研究開発用の試薬製品があります。
研究用試薬としては1g、5g、10g、25g、100g、500gなどがあります。主に生化学・分子生物学研究に利用されるため、実験室で取り扱いやすい容量で提供されています。室温での取り扱いが可能です。
イノシンのその他情報
1. イノシンの合成
図3. アデノシンからのイノシンの合成
アデノシンからのイノシンの合成は、イノシンデアミナーゼ酵素によって触媒されるか、化学的に亜硝酸と反応させることで進行します。また、イノシン酸の加水分解によってもイノシンが生成されます。
2. イノシンの関連物質
図3. イノシンの関連物質
イノシン酸 (英 : Inosinic acid)
イノシンの5′-リン酸化誘導体で、イノシンのリボース部位の5’位にリン酸が導入された構造の化合物です。食品におけるうま味成分として利用されます。
ヒポキサンチン (英 : Hypoxanthine)
イノシンを構成するプリン塩基で、生体内でプリン代謝の中間体として機能します。ヒポキサンチンは、キサンチンオキシダーゼによりキサンチンを経て尿酸へと代謝されます。
D-リボース
イノシンを構成するアルドース型の単糖です。五炭糖 (ペントース) に分類され、化学式 C₅H₁₀O₅ で表される有機化合物です。立体異性体のD体とL体が存在しますが、生体内では主にD-リボースが利用されています。
参考文献
https://labchem-wako.fujifilm.com/sds/W01W0109-0023JGHEJP.pdf