イノシンとは
図1. イノシンの基本情報
イノシン (Inosine) とは、化学式C10H12N4O5で表される有機化合物の一つで、ヌクレオシド構造を持つ物質です。
別名にはヒポキサントシン、ヒポキサンチンリボシドなどがあり、「Ino」「I」などの略記があります。ヒポキサンチン (6-ヒドロキシプリン) とD-リボースからなる構造のN-リボシドです。CAS登録番号は58-63-9です。
分子量は268.23、融点226℃ (分解) であり、常温ではほぼ白色の結晶性粉末です。水に溶けるものの、エタノールにはほとんど溶けません。水への溶解度は1.6g/100mL (20℃) であり、水溶液のpHは4.8〜5.8です。
法規上の規制などは特に対象となっていない化合物です。
イノシンの使用用途
イノシンは、リン酸化誘導体であるイノシン酸が筋肉中に多量に存在することから医療関係への応用、さらにうま味成分の一つとされていることから飲食関連への利用も活発です。
イノシンは、放射線曝射ないし薬物による白血球減少症や、亜急性硬化性全脳炎患者における生存期間の延長、などに効能のある医薬品として承認され、使用されています。
また、他の用途の一つはサプリメントです。細胞中に取り込まれるとATPサイクルを活発化させることから持久力向上効果が期待され、製品化されています。
イノシンの性質
イノシンは生化学的に言うと、RNA中にまれに存在する微量塩基の一種です。しばしばtRNAに含まれ、特にアンチコドン部位に存在する場合にはmRNAに対してゆらぎ塩基としての作用が知られています。
これは、イノシンが持つヒポキサンチン部位が、複数の種類の核酸塩基 (シトシン、アデニン、ウラシル) と水素結合により会合して塩基対を形成できることに由来します。イノシンでは生体内では特に筋肉に多く含まれている物質です。
また、イノシンを希硫酸中で加熱すると、加水分解を受けてヒポキサンチンとD-リボースに変わることが知られています。基本的には安定な化合物ですが、保管条件においては直射日光や高温、強酸化剤との混触は避けるべき物質です。有害な分解生成物として、一酸化炭素、二酸化炭素、窒素酸化物などが挙げられます。
イノシンの種類
一般に販売されているイノシンの製品の種類には、前述の医薬品やサプリメントなどの他、研究開発用の試薬製品があります。
試薬製品としての容量の種類には、1g , 5g , 10g , 25g , 100g , 500gなどがあり、実験室で取り扱いやすい容量で提供されています。室温での取り扱いが可能です。研究分野では主に脂質・糖・核酸、ヌクレオシド関連研究に用いられます。
イノシンのその他情報
1. イノシンの合成
図3. アデノシンからのイノシンの合成
イノシンは、アデノシンに脱アミノ化酵素 (アデノシンデアミナーゼ) を作用させる発酵法により、得ることができます。また、アデノシンと亜硝酸を反応させることにより6位のアミノ基がジアゾ化され、その部位が酸素で置換されたイノシンを合成することが可能です。
また、イノシンはイノシン酸の分解合成によっても生成します。
2. イノシンの関連物質
図3. イノシンの関連物質
イノシンのリボース部位の5’位にリン酸が導入された構造の化合物は、イノシン酸 (Inosinic acid) と呼ばれています。イノシン酸は、肉類の中に存在する天然化合物であり、呈味性ヌクレオチドの1つです。イノシン酸のナトリウム塩は、鰹節に含まれるうま味成分のひとつとして挙げることができます。
ヒポキサンチン (Hypoxanthine) はイノシンを構成する要素であるプリン誘導体です。生体内ではキサンチンオキシダーゼによってキサンチンから合成され、サルベージ経路のヒポキサンチン-グアニンホスホリボシルトランスフェラーゼによってイノシン酸に変換されています。ヒポキサンチンは、イノシン酸からイノシンを経て分解合成されますが、この反応は特に魚類の鮮度低下において顕著です。
参考文献
https://labchem-wako.fujifilm.com/sds/W01W0109-0023JGHEJP.pdf