アビエチン酸

アビエチン酸とは

アビエチン酸 (化学式 C20H30O2 )とは、無色または黄色味掛かった結晶性粉末状の化学物資です。

松ヤニの主成分であるロジンと呼ばれる物質を加熱異性化して得られる物質であり、ロジン酸、シルビン酸とも呼ばれます。アビエチン酸は、アカマツなどのマツ科植物の松ヤニから抽出されます。松ヤニは精油成分とロジンから成り、松脂から精油成分を蒸留した後に残る残留物がロジンです。

アビエチン酸は入手が比較的容易なため、有機合成における出発材料として広く使用されています。また、抗菌殺菌剤としても利用されています。融点は175度、水に対しては溶けず、エタノールアセトンベンゼンなどの有機溶剤に溶ける性質を持っています。

アビエチン酸の使用用途

1. 工業原料

アビエチン酸は主に工業分野で使用されます。金属塩にしたものは、インキのにじみ止め剤として紙の製造時に用いられています。メタノールとの化合物であるメチルエステル、あるいはグリセリンとの化合物であるグリセリルエステルは、表面コーディング用の塗料として使用されます。石鹸、プラスチック製品、マスカラなどの化粧品のように様々な日用品にも使用されます。その他、乳酸酪酸発酵の促進剤としても使用されます。

2. 抗生物質

アビエチン酸は、抗生物質として医療分野で利用されることがあります。広葉樹や針葉樹などの植物に広く存在する天然物質であり、微生物の増殖を抑制する効果があります。ただし一般的な抗生物質とは異なり、化学的に合成されたものではなく天然物質から抽出されるため、副作用のリスクが低いとされています。

3. 殺菌剤

アビエチン酸は室内や野外での消毒に使用されます。特に、食品の保存に使用されることが多いです。また、トイレの抗菌シートなどに利用されます。虫歯の原因菌の増殖を抑える効果もあるため、歯のマニキュア剤にも使われています。

アビエチン酸の性質

アビエチン酸は水にはほとんど溶けず、エタノール、アセトン、ジクロロメタンなどの有機溶剤に可溶性です。化学的にはやや不安定で、空気中に放置すると徐々に酸化分解してしまいます。そのため、保存には注意が必要です。アビエチン酸を安定に保つ方法としては、ナトリウム塩にすることが挙げられます。ナトリウム塩にすることで、酸性度が中和され、化学的に安定な物質となります。

また、植物由来の化合物であり、多くの生物学的活性を持っています。抗菌作用がある反面、アレルギーの原因となることもあります。

アビエチン酸の構造

アビエチン酸は化学的にはテルペノイドの一種です。テルペノイドとは、自然界に存在する一群の化合物の総称で、その構成単位には五炭素化合物であるイソプレンが使われています。つまり、テルペノイドは、イソプレンを結合させることで形成される天然物質のことを指します。

構造的には4つのイソプレン単位が連なってできたジテルペン骨格に、カルボン酸のカルボキシ基が付いた構造を持っています。この構造はアビエン酸というジテルペン骨格を持つカルボン酸類の一種であることを示しています。

アビエチン酸のその他情報

1. アビエチン酸の生産方法

アビエチン酸はマツ科植物の樹幹を傷つけたときに分泌される樹液から抽出されます。この樹液はしだいに固化して樹脂となり、水蒸気蒸留によってテレビン油が抽出されます。
そして、残った樹脂酸混合物を過熱水蒸気で蒸留することで、アビエチン酸の結晶が得られます。この方法は古くから用いられている伝統的な抽出法であり、現代の工業的生産でも一般的に使用されています。

2. アビエチン酸の安全情報

動物実験においては一部の生体内物質の代謝に影響を及ぼすことが報告されていますが、人体においては健康に対する有害作用は報告されていません。ただし、過剰な使用により、皮膚刺激や呼吸器系への刺激が生じることがあるため、十分な換気を確保し、保護具を着用することが推奨されています。

また、摂取することができないため内部の摂取による健康被害は報告されていません。ただし、皮膚への接触による刺激やアレルギー反応がある場合があるため、適切な取り扱いが必要です。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です