エチレンジアミン四酢酸とは
エチレンジアミン四酢酸 (化学式C10H16N2O8) は、室温では無色の結晶個体として存在する金属キレーション剤の一種です。
別名EDTA 、エチレンジアミンテトラ酢酸、エデト酸とも呼ばれます。CAS登録番号は120-72-9です。金属イオン (キレート) を封鎖するため、金属イオンと他の成分との固有の反応を防ぐ作用があり安定的な水溶性キレート化合物を作ります。
エチレンジアミン四酢酸の使用用途
エチレンジアミン四酢酸は、主にキレート剤として様々な分野で利用されています。
1. キレート滴定
エチレンジアミン四酢酸が金属イオンと1:1で結合する性質を利用し、金属イオンの濃度を測定する用途です。まず、濃度未知の金属イオン溶液に対して、金属イオンと錯体を形成することで発色する指示薬を添加します。次に、濃度がわかっているエチレンジアミン四酢酸水溶液を徐々に滴下していきます。溶液中の金属イオンが全てキレート錯体を形成すると、発色が消えます。この時のエチレンジアミン四酢酸水溶液の滴下量から、金属イオンの濃度を求めます。
2. 水処理
エチレンジアミン四酢酸は水道水の処理において、配管中に蓄積されたカルシウムやマグネシウムの塩を取り除くために用いられています。また、食品工業や化粧品工業において、金属イオンが引き起こす不良品質を防ぐために使用されます。
3. 医療
医薬品分野においては、血液凝固を防ぐ薬剤、抗生物質、抗ヒスタミン薬、局所麻酔薬などの性質を維持するために用いられています。
また、エチレンジアミン四酢酸は重金属中毒の治療で使用されることがあり、キレーション治療と呼ばれています。金属中毒は過剰な金属イオンが体内に蓄積されることで引き起こされる症状です。エチレンジアミン四酢酸を投与して体内の過剰な金属イオンを取り除くことにより、中毒症状を緩和することができます。例えば、鉛中毒患者の治療に用いられています。
4. 生物学実験
細胞やタンパク質、DNAなどは金属イオンを介して結合しており、これらの結合を乖離させる目的でエチレンジアミン四酢酸が用いられています。
例えば、人工的に培養された細胞は互いに金属イオンを介して結合しており、細胞同士をばらばらにするためにエチレンジアミン四酢酸を添加した酵素溶液が一般に使用されます。また、DNAやタンパク質は、しばしば金属イオンと結合しているため、EDTAを添加することによって金属イオンを除去可能です。
5. 酸化防止剤
ゴムや植物油、食品などは、微量の金属イオンの触媒作用によって酸化が発生することが知られています。酸化によって品質が劣化するため、対策としてエチレンジアミン四酢酸を酸化防止剤として添加することがあります。
エチレンジアミン四酢酸の性質
1. 物性
エチレンジアミン四酢酸は、分子量 292.24、融点237-245℃で、常温では白色の固体です。水に対する溶解度は0.2g/100g、オクタノール/水分配係数は-3.86です。
2. キレート作用
製品に影響を及ぼす金属イオンに結合して錯体を形成する性質があります。金属イオンを捕捉するため、金属イオンと他の成分との固有の反応を防ぐ作用が働きます。
複数の配位座を持つ配位子が金属イオンに結合することをキレートと呼びますが、エチレンジアミン四酢酸は多くの金属イオンと安定な水溶性キレート化合物を形成することで知られています。エチレンジアミン四酢酸は4つの配位座を持つため、銀、カルシウム、銅、鉄などの1~4価のほとんど全ての金属イオンと結合することが可能です。
エチレンジアミン四酢酸のその他情報
1. 製造方法
エチレンジアミン、シアン化ナトリウム及びホルマリンをアルカリ存在下で60〜150℃で反応させて製造します。得られたナトリウム塩状態のエチレンジアミン四酢酸を精製することで、高純度のエチレンジアミン四酢酸を得ることができます。エチレンジアミン四酢酸は通常、2価のナトリウム塩として販売されています。
2. 環境への影響
エチレンジアミン四酢酸は環境に悪影響を与える場合があります。水溶性が高く、廃水中に放出されると河川や海洋などの水域に流入する可能性があります。エチレンジアミン四酢酸を含む廃水を適切に処理しないと、水中に溶解した金属イオンを結合させることによって、水生生物や水質に悪影響を与える可能性があります。
3. 人体への影響
エチレンジアミン四酢酸は金属イオンと強く結合するため、多量に摂取した場合は骨髄抑制や腎不全などの副作用を引き起こすことが報告されています。ただし、一般的に使用される濃度範囲では安全であり、食品や医薬品に添加されていることがあります。