イソブチルアルデヒド

イソブチルアルデヒドとは

イソブチルアルデヒドの基本情報

図1. イソブチルアルデヒドの基本情報

イソブチルアルデヒド (Isobutyraldehyde) とは、分子式C4H8O、示性式(CH3)2CHCHOで表される有機化合物です。

アルデヒドに分類されます。IUPAC命名法による名称は2-メチルプロパナール  (2-methylpropanal) であり、CAS登録番号は78-84-2です。分子量72.11、融点-66℃、沸点65℃で、常温では不快臭のある無色の澄明な液体です。

水、エタノール及びアセトンに極めて溶けやすい性質を示します。密度は0.794g/mL、水への溶解度は11 g/100mLです。

イソブチルアルデヒドの使用用途

イソブチルアルデヒドから合成される物質

図2. イソブチルアルデヒドから合成される物質

イソブチルアルデヒドは、主に有機合成原料として用いられます。具体定には、ネオペンチルグリコール (NPG) やイソブタノールの原料です。

ネオペンチルグリコールは、熱や化学的な安定性から、アルキッド樹脂塗料・ポリエステル樹脂・粉体塗料など、広範囲に使われている物質です。イソブタノールは、塗料樹脂・アクリル酸イソブチル・酢酸イソブチル・メタクリル酸イソブチル・シンナー等の原料のほか、各種有機物によく溶解することから溶媒としても広く利用されています。

その他、イソブチリデンジウレア・DL-パントラクトン・テキサノール・ジイソプロピルケトンなどの合成原料でもあります。

イソブチルアルデヒドの性質

イソブチルアルデヒドは、イソブタンの誘導体で、ブチルアルデヒドの構造異性体にあたります。引火点は −17.5℃と低く、発火点は 196℃ です。引火性の高い液体や蒸気であると言えます。

また、加熱や燃焼により分解し、刺激性の煙やヒュームを生じる物質です。酸化剤、強還元剤、強塩基と反応するため、保管の際はこれらの物質との混触を避けて保管する必要があります。

また、イソブチルアルデヒドを還元するとイソブタノールを得ることが可能です。ネオペンチルグリコールは、イソブチルアルデヒドとホルムアルデヒドのアルドール反応によって合成されています。イソブチルアルデヒドの酸化反応では、メタクロレインやメタクリル酸が生成します。

イソブチルアルデヒドの種類

現在市販されているイソブチルアルデヒドは、主に研究開発用試薬製品や工業用化成品として提供されています。研究開発用製品には25 mL , 100mL , 500mL , 1Lなどの容量があります。冷蔵で保管が必要な試薬製品です。

工業用製品としては、溶剤原料や樹脂原料、合成原料などの用途で販売されています。工業用製品は、タンクローリーやドラム缶など、工場等での需要に合わせた大型容量での提供です。

イソブチルアルデヒドのその他情報

1. イソブチルアルデヒドの合成

イソブチルアルデヒドの合成法

図3. イソブチルアルデヒドの合成法

イソブチルアルデヒドは、プロピレンのヒドロホルミル化によって合成することが可能です。

2. イソブチルアルデヒドの法規制情報

イソブチルアルデヒドは、前述の通り引火性の高い液体や蒸気であることから、消防法で「危険物第四類・第一石油類・危険等級Ⅱ・水溶性」に指定されています。それ以外には、労働安全衛生法では「危険物・引火性の物」、化学物質の審査及び製造等の規制に関する法律 (化審法) では「優先評価化学物質」、危険物の規制に関する規則 (危規則) では「引火性液体類」に指定されている物質です。

航空法や化学物質排出把握管理促進法 (PRTR法) 、大気汚染防止法でも各種規制を受けます。法令を遵守して正しく取り扱うことが必要な物質です。

参考文献
https://labchem-wako.fujifilm.com/sds/W01W0102-0394JGHEJP.pdf
https://www.m-chemical.co.jp/products/departments/mcc/c3/product/1200279_7118.html

アリルアミン

アリルアミンとは

アリルアミンの基本情報

図1. アリルアミンの基本情報

アリルアミン (Allylamine) とは、化学式C3H7N、示性式CH2=CHCH2NH2で表される有機化合物です。

IUPAC命名法による名称は、プロパ-2-エン-1-アミン、及び3-アミノ-1-プロペンであり、その他の名称には、3-アミノプロペン、3-アミノプロピレン、モノアリルアミン、2-プロペンアミン、2-プロペン-1-アミンなどがあります。CAS登録番号は107-11-9です。

分子量57.09、融点-88℃、沸点55℃であり、常温では無色からうすい黄色の澄明な液体です。密度は0.76g/mLであり、強い刺激臭を呈します。水・エタノールアセトンに極めて溶けやすいです。

引火点が-28℃と非常に低いため、引火性の高い液体や蒸気であることも特徴です。消防法では「危険物第四類・第一石油類・危険等級Ⅱ・水溶性」に指定されています。

アリルアミンの使用用途

アリルアミンは、農薬の原料、高分子化合物の改質剤や、医薬中間体として使用されています。また、その誘導体の中にはアリルアミン系抗真菌剤として使用されているものもあります。

例えば、テルビナフィン (商品名ラミシール) は、抗真菌薬として、皮膚糸状菌、カンジダ属、スポロトリックス属、ホンセカエア属による皮膚真菌症などに適応がある薬剤です。また、誘導体の一種であるジアリルアミンは工業的合成の上で重要な中間体として利用されています。

アリルアミンの性質

アリルアミンに含まれる2-プロペニル基 (-CH2CH=CH2) をアリル基 (allyl group) と呼び、二重結合に隣接する炭素の位置をアリル位と呼びます。芳香族基を示す「aryl group」はアリール基と字訳されますが、異なる構造であるため注意が必要です。

アリル基はアルコールやアミンの保護基として用いられ、パラジウム触媒などで脱保護されます。アリルアミンにおいても、パラジウムを用いることによりアリル基を除去することが可能です。

アリル位におけるカルボカチオン、カルボアニオンやラジカルは、共鳴により安定化される性質があります。そのため、アリルアミンはポリマー化しやすく、ホモポリマー (ポリアリルアミン) またはコポリマーを形成します。このポリマーは、逆浸透膜などに使用されている物質です。

アリルアミンの種類

市販されているアリルアミン関連物質の例

図2. 市販されているアリルアミン関連物質の例

製品として販売されているアリルアミンには、主に研究開発用試薬製品や、工業用薬品などの種類があります。試薬製品の容量には25ml , 50mL , 500mL , 5g , 25gなどの種類があります。常温で取り扱い可能な試薬製品です。

また、関連する化合物では、アリルアミン塩酸塩やポリ(アリルアミン)溶液なども試薬製品として販売されています。ジアリルアミンやN-アリルメチルアミンなど、各種誘導体もまた有機合成用試薬製品として多くの化合物が販売されています。

アリルアミンのその他情報

1. アリルアミンの合成

アリルアミンの合成

図3. アリルアミンの合成

アリルアミン (モノアリルアミン) 、ジアリルアミン、トリアリルアミンの混合物は、塩化アリルをアンモニア水もしくはヘキサアミンで処理することで得られます。また、純粋なアリルアミンはアリルイソチオシアネートの加水分解によって合成可能です。

2. アリルアミンの化学反応

アリルアミンは、亜硝酸と反応してアリルアルコールを生じます。また、ヨウ化メチルによって窒素原子のメチル化が可能です (N-アリルメチルアミンの生成) 。酸性溶液中で臭素と反応するとアルケンへの付加反応が起こり、2,3-ジブロモプロピルアミンを生じます。

3. アリルアミンの法規制情報

アリルアミンは、毒物及び劇物取締法において毒物に指定されている物質です。労働安全衛生法では、「危険物・引火性の物」、危険物の規制に関する規則では「毒物類・毒物」に指定されます。

その他、航空法では「輸送禁止」とされており、化学物質排出把握管理促進法 (PRTR法) では「第1種指定化学物質・第1種-No. 26」と位置づけられている化合物です。法令を遵守した取り扱いが必要とされています。

参考文献
https://labchem-wako.fujifilm.com/sds/W01W0101-1176JGHEJP.pdf
https://www.nite.go.jp/chem/chrip/chrip_search/dt/html/GI_10_001/GI_10_001_107-11-9.html

アニソール

アニソールとは

図1. アニソールの基本情報

アニソール (Anisole) とは、化学式C7H8O、示性式CH3OC6H5で表される有機化合物です。

ベンゼン環の一つの水素がメトキシ基 (CH3O-) で置換された構造をしており、エーテル類に分類されます。IUPAC命名法による名称は、メトキシベンゼン (ただし「アニソール」も慣用名として許容されています) であり、別名にはメチルフェニルエーテルなどの名称があります。CAS登録番号は100-66-3です。

分子量108.14、融点-37.3℃、沸点155℃で、常温では無色の澄明な液体です。密度は0.995g/mLであり、エタノール及びジエチルエーテルに極めて溶けやすく、水にほとんど溶けない性質を持ちます。

アニソールの使用用途

アニソールは、芳香族エーテルの一つでありエーテル類溶剤として、ラッカー系をはじめ各種塗料の溶剤や希釈剤として多く使われています。

また、アニソールは、香料としても使用されている物質です。アニスの実のようなスイーツに合う甘い香りがするとされています。

昆虫のフェロモンの一種でもあるため、体内で発見された寄生虫を殺したり、体外に出したりする駆虫剤 (駆虫薬) という医薬の原料としても使われています。

アニソールの性質

アニソールの構造においては、メトキシ基が共鳴効果によって電子供与性を示すので、ベンゼン環の電子密度が高くなっています。そのため、求電子的反応ではオルト・パラ配向性を示します。例えば、無水酢酸とアニソールの反応では、p-メトキシアセトフェノンが得られます。

アニソールの種類

アニソールは、研究開発用試薬や工業用薬品として販売されています。研究開発用試薬製品としては、有機合成原料や溶剤などに用いられる物質です。

また、熱分解実験においてリグニンの主要タールの代用として用いられることもあります。容量の種類には1mL , 25 mL , 500mL , 1L , 2Lなどがあります。常温で取り扱い可能な試薬製品です。

工業用としては、香料・溶剤などの利用が一般的です。工場など需要に合わせた容量で提供されています。

アニソールのその他情報

1. アニソールの合成

アニソールの合成法

図2. アニソールの合成法

アニソールは、硫酸ジメチルまたは塩化メチルなどを用いたナトリウムフェノキシドのメチル化反応により合成されます。

2. アニソールの化学反応

ローソン試薬の合成

図3. ローソン試薬の合成

アニソールの化学反応は多くのものが知られています。例えば、アニソールと五硫化二リン (P4S10) が反応するとローソン試薬を生じます。ローソン試薬は、有機化合物上の酸素を硫黄に交換する硫化剤として有力な試薬です。

ローソン試薬の反応においては、例えばカルボニル基はチオカルボニル基へ変換され、アミドはチオアミドに変換されます。アニソールのメチル基は比較的安定ですが、ヨウ化水素酸に対しては反応して除去され、フェノールが生成します。

3. アニソールの取り扱いと法規制情報

アニソールは、高温、直射日光、熱、炎、火花、静電気を避け、換気のよいなるべく涼しい場所に密閉して保管することとされています。強酸化剤との混触を避けるべきとされます。

また、引火点が52℃と低いことから、アニソールは各種法規制を受ける物質です。消防法では、「危険物第四類・第二石油類・危険等級Ⅲ」に指定されており、労働安全衛生法では「危険物・引火性の物」に指定されています。危険物船舶運送及び貯蔵規則では「引火性液体類」に指定され、航空法では「引火性液体」との指定を受けます。法令を遵守して正しく取り扱うことが必要です。

参考文献
https://labchem-wako.fujifilm.com/sds/W01W0101-1589JGHEJP.pdf
https://www.nite.go.jp/chem/chrip/chrip_search/dt/html/GI_10_001/GI_10_001_100-66-3.html

アセトアミド

アセトアミドとは

アセトアミド (英: acetamide) とは、無臭の白色または薄い黄色の固体 (粉末または結晶) で、化学式CH3CONH2の有機化合物です。

アセトアミドは81℃で固体から液体へと溶融し、有機・無機化合物に対する良好な溶剤となります。主に有機合成試薬溶媒、過酸化物安定剤として使用されています。発がん性の疑いのある化合物であるため、使用には適切な保護具と換気環境が必要です。

アセトアミドの主な反応例として、加水分解によるアンモニア酢酸の生成が知られています。水・エタノールに溶けやすく、ジエチルエーテルにはほとんど溶けない性質があります。

アセトアミドの主な国内法規上の適用は、安衛法で「名称等を表示すべき危険物および有害物」「名称等を通知すべき危険物および有害物」、PRTR法では「第2種指定化学物質・第2種-No. 1」の指定があります。

アセトアミドの使用用途

アセトアミドは、別名を「酢酸アミド」といい、主に有機合成試薬の溶媒として使われています。有機合成試薬とは、酸化剤・還元剤をはじめ、縮合剤やハロゲン化試薬、保護剤、光学活性体・光学分割剤、有機金属試薬などを指します。

室温では固体ですが、81℃以上で融解し液体となり、この溶融アセトアミドが様々な化合物を溶かす溶媒となります。例えばアセトアミドは、酸化剤・還元剤をはじめ、縮合剤やハロゲン化試薬、保護剤、光学活性体・光学分割剤、有機金属試薬など、有機合成に使用される有機・無機化合物をよく溶かします。

また、アセトアミドは、不安定かつ反応性が高いとされる過酸化物の安定剤としても使われています。

アセトアミドの性質

アセトアミドの別名は、酢酸アミド、エタンアミド、メタンカルボキサミドなどがあります。厚生労働省による職場の安全データシートや日本国内の大手試薬メーカーのウェブサイトでは、主に「アセトアミド」の名称が使用されています。

アセトアミドは水に非常によく溶けます。また、メタノールやエタノールといったアルコール類にも溶けるほか、クロロホルムにも可溶です。一方で、エーテルには不溶です。

化学式 CH3CONH2
日本語名 アセトアミド
英語名 acetoamide
CAS番号 60-35-5
分子量 59.07
融点/凝固点 81℃
沸点または初留点および沸騰範囲 222℃

アセトアミドのその他情報

1. アセトアミドの有害性

アセトアミドは、労働安全衛生法で「名称等を表示すべき危険物および有害物」「名称等を通知すべき危険物および有害物」、PRTR法では「第2種指定化学物質・第2種-No. 1」に指定されています。

アセトアミドの危険有害性に関する情報として、発がんのおそれの疑い、眼への刺激、生殖能または胎児への悪影響の疑い、が報告されています。皮膚や眼に付着した場合、発赤や痛みが生じる可能性があります。

2. アセトアミドの使用上の注意

アセトアミドを使用する場合、使用前に安全注意情報をよく確認し、適切な保護具を着用した上でよく換気を行いながら作業する必要があります。

厚生労働省が公開している職場の安全データシートでは、アセトアミド使用時は保護手袋・保護衣・保護メガネ・保護面などの使用が推奨されています。もしも皮膚や眼に付着した場合は、水と石鹸でよく洗い流した後、痛みや刺激がある場合は医師の診断を受けてください。

またアセトアミドは、激しく加熱すると燃焼し、刺激性・腐食性のガスを発生させる可能性があります。適切な温度管理下で使用してください。

3. 潮解性

アセトアミドの使用および保管時は潮解性に注意します。潮解性とは、固体の物質が空気中に含まれる水分 (湿気) によって溶解する性質のことです。アセトアミドは水に良く溶ける性質を持つため、空気中の水分によって溶解する可能性があります。水分が多く混入したアセトアミドを有機合成反応溶媒として使用すると、有機合成反応に悪影響を及ぼす場合があります。

アセトアミドは、試薬として発送される際は容器内に不活性化ガスが充填されてるため、未開封のアセトアミドは安定した状態で保管できます。アセトアミドの容器を一度開封した後は、容器内に不活性ガスを注入し、湿度管理できる場所に保管する等、適切な環境で保管することが大切です。

4. 廃棄処分方法

アセトアミドは毒性のある有機化合物であるため、下水として流すなど環境中に放出することはできません。アセトアミドを廃棄処分する場合は、都道府県知事の依頼を受けた専門の廃棄物処理業者に依頼して適切に処理します。

参考文献
https://labchem-wako.fujifilm.com/sds/W01W0101-0011JGHEJP.pdf
https://www.nite.go.jp/chem/chrip/chrip_search/dt/html/GI_10_001/GI_10_001_60-35-5.html
https://www.tcichemicals.com/JP/ja/p/A0007
https://anzeninfo.mhlw.go.jp/anzen/gmsds/60-35-5.html

しゅう酸二水和物

しゅう酸二水和物とは

しゅう酸二水和物の基本情報

図1. しゅう酸二水和物の基本情報

しゅう酸二水和物 (Oxalic Acid Dihydrate)とは、C2H2O4·2H2Oで表される有機化合物です。

ジカルボン酸であるしゅう酸 (Oxalic Acid, C2H2O4) の水和物を指します。CAS番号は6153-56-6です。分子量126.07、融点104〜106℃であり、常温では白色の結晶または結晶性粉末です。水及びエタノールに溶けやすく、ジエチルエーテルに溶けにくい化合物です。

しゅう酸は吸湿性があるため、湿気を含んだ空気中に放置することで二水和物の状態になります。また、水溶液からも二水和物が析出します。

しゅう酸二水和物の使用用途

しゅう酸二水和物の使用用途として、化学分野では主に試薬、金属表面処理剤、還元剤、医薬品の中間体原料が挙げられます。具体的な使用例は、持続性サルファ剤や、シュウ酸セリウム、アミノ酸製剤、α-ケト酸などの製造です。還元性があるため、還元滴定にも用いることができます。

また、食品添加物としても認められている化合物です。ただし、食品添加物として用いる場合は最終製品からしゅう酸を取り除くことが条件となっています。具体例は、水飴ぶどう糖の製造や、植物油の精製などです。

それ以外の用途には、染料原料や漂白剤などの用途があり、幅広く利用されています。

しゅう酸二水和物の特徴

還元剤としてのしゅう酸二水和物

図2. 還元剤としてのしゅう酸二水和物

しゅう酸二水和物は、五酸化二リンを入れたデシケータ中に入れる、もしくは100℃ に加熱することにより無水物となります。カルボキシル基を2つ持つ2価のカルボン酸であり、水溶液中では電離して酸として作用する物質です。

酸解離定数pKaは 1.27、 4.27です。また、還元剤としての性質があるため、分析化学においては酸化還元滴定における一次標準物質として用いられます。

しゅう酸二水和物の種類

しゅう酸二水和物は、主に研究開発用試薬や工業用薬品などの製品があります。研究開発用試薬では、25g , 100g , 500g , 2.5kgなどの種類があり、実験室で取り扱いやすい容量で提供されています。室温保管可能な試薬製品です。

工業用薬品としては、20kgなどの工場で取り扱いやすい大型容量で販売されています。金属表面処理剤、医薬中間体原料などの用途が主流とされる製品です。

しゅう酸のその他情報

1. しゅう酸二水和物の製造と合成

しゅう酸二水和物の合成

図3. しゅう酸二水和物の合成

しゅう酸は植物に多く含まれており、命名の由来にもなっています。工業的には、木片をアルカリ処理したのち、抽出することで製造されています。

しゅう酸は吸湿性を持ち、湿気を含んだ空気中に放置すると二水和物となる物質です。水溶液からも二水和物の状態で析出します。

代表的な合成方法は、以下の通りです。

2. しゅう酸と健康

しゅう酸には、カルシウムイオンと強く結合する性質 (劇性) があります。生体の血液中に入ると、カルシウムとシュウ酸塩を形成して生体が利用可能なカルシウムの量を減らしてしまい、血液の凝集凝固作用を阻害するとされます。また、過剰摂取は一部の結石の原因になると考えられている物質です。

ホウレン草や生姜など、一部の野菜にはしゅう酸が含まれていますが、水溶性であるため、調理で茹でると減少させることが可能です。また、カルシウムを同時に摂取するとシュウ酸がカルシウムと腸内で結合してシュウ酸塩となるため、体内に吸収されにくくなるとされています。

これらの作用のため、毒物及び劇物取締法では「劇物」に指定されており、労働安全衛生法では「名称等を表示すべき危険物及び有害物」に指定されている物質です。

参考文献
https://labchem-wako.fujifilm.com/sds/W01W0115-0042JGHEJP.pdf

しゅう酸カルシウム

しゅう酸カルシウムとは

しゅう酸カルシウムとは、カルシウムのしゅう酸塩です。

植物に含まれているほか、しゅう酸を製造する際の中間体としても発生します。常温では無色の針状結晶であり、水にはほとんど溶けません。

無水物だけでなく、一水和物、二水和物 (ウェッデライト)なども存在します。植物ではルバーブの葉、ヤマイモ、サトイモ、テンナンショウ、未処理のコンニャク、未成熟のパイナップルなどに含まれています。

含量が高い場合は、皮膚刺激性や強いえぐ味を示し、人体に有害です。

しゅう酸カルシウムの使用用途

しゅう酸カルシウム単体の使用用途は、カルシウムイオンやしゅう酸イオンの定性・定量分析の標準溶液、陶器の釉薬 (うわぐすり) などです。しゅう酸カルシウムは、しゅう酸を製造する際の中間体として発生します。

しゅう酸カルシウムに硫酸を加えると、硫酸カルシウムが析出して、しゅう酸イオンが遊離します。硫酸カルシウムを濾過で除去し、濾液を蒸発させるとしゅう酸の結晶が析出します。

しゅう酸カルシウムの特徴

しゅう酸カルシウムはカルシウムのしゅう酸塩であり、化学式はCaC2O4です。水が配位結合して、一水和物や二水和物を形成することがあります。

実験用試薬などでは、一水和物の状態で販売されている場合もあるため、実験に用いる際はラベル表示の確認が必要です。なお、しゅう酸カルシウムの水和物を200℃に加熱すると、結晶種を失って無水物となります。

しゅう酸カルシウムの基本的な特性 (分子量、比重、溶解性) は以下の通りです。

  • 分子量:146.11
  • 密度:2.2g/cm3
  • 溶解性:水、エタノールにほとんど溶けない。希塩酸、希硫酸に溶ける。

しゅう酸カルシウムのその他情報

1. 人間への毒性

しゅう酸カルシウムは、皮膚や粘膜に対し強い刺激性・腐食性を持ちます。手や目に付着しないよう、ニトリル手袋や保護めがね等の保護具を着用します。

しゅう酸カルシウムが皮膚に付着した場合は、流水ですすぎながら石鹸でよく洗います。石鹸を用いるのは、 pH を上げることでしゅう酸カルシウムの溶解度が上がり、洗い流しやすくなるためです。

眼に入った場合は、しゅう酸カルシウムの結晶が目から流れ出やすいように、顔を横にした状態で流水で洗浄します。このとき、まぶたを指で広げて、眼球をゆっくり動かしながら、まぶたの裏までよく洗うようにします。目に刺激感が残る場合は医師の診察が必要です。

2. 劇物としての規制

しゅう酸カルシウムは皮膚刺激性を持つことから、毒物及び劇物取締法における「劇物」 (法第2条別表第2) に指定されています。しゅう酸カルシウムを入れた容器には「医薬用外劇物」と明記されたラベルを貼付し、盗難や漏洩を予防するために鍵のかかる場所での保管が必要です。

3. 食品中のしゅう酸カルシウム

しゅう酸カルシウムは植物の二次代謝産物として蓄積されるため、食品中にも含まれている成分です。特にホウレンソウ、長芋、紅茶などには、しゅう酸カルシウムが多く含まれています。

長芋のとろろを食べると唇が痒くなることがありますが、これは長芋に含まれるしゅう酸カルシウムが唇の粘膜を刺激するためです。未処理のコンニャク芋は、さらにしゅう酸カルシウム含量が高いため、強アルカリで処理してから粉砕・混合・凝固を経て食品の「こんにゃく」に加工します。

コンニャクの生芋を素手で触れると、しゅう酸カルシウムの刺激によって炎症を起こし、病院で治療が必要になる場合があります。山野に生えている野草でも、テンナンショウの仲間のように、しゅう酸カルシウムを多量に含む植物が自生しています。

キャンプや登山などの際に不用意に素手で触れないよう、図鑑で形態を知っておくことがリスク管理上大切です。

4. 尿路結石

食品から摂取したしゅう酸カルシウムは、水にほとんど溶けないため尿中に排泄されにくく、徐々に体内に蓄積されます。体内のしゅう酸カルシウムが、腎臓や尿路で結晶として析出したものが結石です。

5. 加熱による分解

しゅう酸カルシウム自体は不燃性ですが、加熱したり強酸化剤と触れたりすると分解が起こります。分解生成物として有毒な一酸化炭素が発生するため、しゅう酸カルシウムが発熱体や酸化剤に不用意に触れないよう注意が必要です。

参考文献
http://www.st.rim.or.jp/~shw/MSDS/03077256.pdf
https://www.jstage.jst.go.jp

酸化鉛

酸化鉛とは

酸化鉛 (英: Lead oxide)とは、黄色~赤みがかった黄色をした無臭の粉末の無機化合物です。

鉛と酸素から構成され、化学式はPbO、分子量は223.20、CAS登録番号は1317-36-8です。別名には、一酸化鉛や酸化鉛 (II) があります。融点/凝固点が888℃で、沸点または初留点および沸騰範囲が1,470℃です。水・エタノールにほとんど溶けず、硝酸酢酸、水酸化ナトリウム水溶液には溶ける性質があります。

酸化鉛の構造

酸化鉛の構造には、赤色・正方晶系で室温で安定なα型と、黄色・斜方晶系で300℃以上で安定なβ型があります。酸素分圧にも依存しますが、β型への転移温度は587℃です。それぞれ別称が存在し、α型は密陀僧 (みつだそう)、リサージ (英: litharge) 、β型は金密陀 (きんみつだ)、マシコート (英: massicot、マシコット) などと呼ばれます。

酸化鉛の使用用途

1. 放射線遮断剤

酸化鉛は、放射線を遮蔽する性質があるため、放射線防護衣や放射線遮断剤に使われています。鉛を用いたシートは重くなってしまうのが難点ですが、安価であることからX線を用いる医療現場などで古くから広く活用されています。

2. 顔料

酸化鉛は、古代ローマ時代から顔料として用いられており、中世からマシコットという名で呼ばれるようになりました。「鉛白」や「鉛丹」といった顔料でも知られる鉛の酸化物として、無機顔料や絵具の原料、ガラス・陶磁器用ワニスの原料としても使われています。

3. その他の使用用途

酸化鉛は、塩ビ安定剤の原料、固体潤滑剤、合成ゴム加硫促進剤といったものに利用されています。電子材料の分野ではバッテリーの代名詞ともなっている、鉛蓄電池の電極板にも使われます。

酸化鉛のその他情報

1. 金属鉛の加熱による酸化鉛の製造

金属鉛を加熱して酸化鉛を得るには、金属鉛を600℃前後で繰り返し酸化させるか、1000℃前後で融解した酸化鉛にするか、900℃以上で融解させた鉛を噴霧する方法があります。いずれの場合も、ゆっくり冷ますと四酸化三鉛 (Pb3O4) が生成するため、300℃以下まで急冷する必要があります。

2. アルカリ処理による酸化鉛の製造

アルカリ処理によって酸化鉛を得るには、まず硝酸鉛炭酸アンモニウムまたは塩化アンモニウムを水溶液中で混合して、アンモニウム水を加えます。pHが7.1以上になると炭酸鉛が沈殿するので、ろ過および洗浄後に加熱します。この時、400℃ でα型、590℃ でβ型の酸化鉛が得られます。

3. 鉱石の精製による酸化鉛の製造

酸化鉛は、鉛鉱石を金属鉛に精製する際の中間生成物として大量に生産されています。方鉛鉱 (PbS) の粉末を約1,000℃で加熱すると、硫化物が酸化物に変換されます。

4. 法規情報

酸化鉛は、消防法で「消防活動阻害物質・政令第1条の10・届出を要する物質」とされ、毒劇法では「劇物・包装等級3」に指定されています。安衛法では「名称等を表示すべき危険物および有害物」「名称等を通知すべき危険物および有害物」「鉛化合物」に指定され、「作業環境評価基準」適用の対象ともなっています。そのほか、酸化鉛は、PRTR法や水濁法、輸出令にも指定の適用が規定されています。

5. 取扱いおよび保管上の注意

取扱い及び保管上の注意は、下記の通りです。

  • 容器を密栓し、冷暗所に保管する。
  • 強酸化剤、過酸化水素、アルミニウム粉末などの混触危険物質から離して保管する。
  • 屋外や換気の良い区域のみで使用する。
  • 粉塵が飛散しないように注意する。
  • 使用時は保護手袋、保護眼鏡を着用する。
  • 使用後は適切に手袋を脱ぎ、本製品の皮膚への付着を避ける。
  • 取扱い後はよく手を洗浄する。
  • 皮膚に付着した場合は、石鹸と多量の水で洗い流す。
  • 眼に入った場合は、水で数分間注意深く洗う。

参考文献
https://anzeninfo.mhlw.go.jp/anzen/gmsds/0048.html

酸化窒素

酸化窒素とは

酸化窒素は、窒素の酸化物の総称です。

酸化窒素には、酸化数がI~Vのものまで種類は様々です。具体的な例として、一酸化窒素 (NO) 、二酸化窒素 (NO2) 、三酸化窒素 (NO3) 、一酸化二窒素 (N2O)、三酸化二窒素 (N2O3) 、四酸化二窒素 (N2O4) 、五酸化二窒素 (N2O5) 等が挙げられます。

酸化窒素の使用用途

酸化窒素は窒素酸化物の総称ですが、その中でも一酸化窒素 (NO) 、二酸化窒素 (NO2) 、一酸化二窒素 (N2O) が、よく使用されています。

1. 一酸化窒素

一酸化窒素は、レーヨンの漂白剤、半導体の製造原料として使用されています。また硝酸を製造する際の中間体としても使われます。

2. 二酸化窒素

二酸化窒素は、分析試料の溶解剤、分解剤や、漂白剤、触媒、有機機化合物のニトロ化剤にも用いられます。また、酸化剤として爆薬の原料やロケット燃料、重合禁止材にも使用されています。

その他の使用用途として、硝酸などの他の化合物の合成原料や中間体などが挙げられます。

3. 一酸化二窒素

一酸化二窒素は、歯科及び外科、産婦人科の麻酔に多く用いられます。半導体用材料や原子吸光分析用キャリアガスなど工業用にも使用されるほか、漏えい検知、冷媒、風船やタイヤへのガス充填にも使われます。

酸化窒素の特徴

酸化窒素は種類によって特徴が異なります。代表的な種類の特徴は、以下の通りです。

1. 一酸化窒素

室温で無色の気体で、融点は-164℃、沸点は-152℃で液体と固体は青色です。空気と接触してすぐに二酸化窒素に酸化されます。

一酸化窒素は体内でも作られ、動脈の平滑筋という筋肉へと運ばれます。一酸化窒素は平滑筋の柔軟性を高め、動脈硬化を予防します。

血管の柔軟性が保たれることによって、血管に脂肪分が付着し、血流が悪化するのを防いでいます。

2. 二酸化窒素

重金属硝酸塩を加熱すると発生する赤褐色の気体で、融点は-9.3℃、沸点は21.3℃で、液体は黄色、固体は無色です。水に溶けて腐食性のある硝酸になるので、保管や使用の際は水分の管理を厳密に行う必要があります。

アンモニアの触媒酸化で生じる一酸化窒素に、空気 (酸素) を混ぜて反応させることにより製造されます。 

3. 三酸化窒素

三酸化窒素は不安定な濃青色の気体です。酸化窒素とオゾンが反応することによって生じますが、非常に不安定です。

4. 一酸化二窒素

亜酸化窒素とも呼ばれる無色気体で、融点は-91℃、沸点は-89℃です。不燃性の安定した気体です。特徴として麻酔作用、鎮痛作用があり、吸入すると顔面の筋肉が痙攣してしまい笑っているようにみえるところから、笑気ガスと呼ばれています。

約250℃に保持した反応槽に原料の80%硝酸アンモニウム水溶液を、一定流量で滴下しながら分解させる方法や、アンモニアを触媒により直接酸化する方法で工業的に製造されています。

5. 三酸化二窒素

室温で褐色の気体で、融点は-102℃、沸点は3.5℃、液体と固体の色は青色です。水に溶解すると亜硝酸になり、さらに硝酸と一酸化窒素と水に分解します。

6. 四酸化二窒素

融点は-9.3℃、沸点は21.2℃の淡黄色の気体です。二酸化窒素を冷却することで四酸化二窒素の固体が得られます。

7. 五酸化二窒素

無色の潮解性のある固体で、融点は30℃、47℃で分解して二酸化窒素と酸素になりますが、0℃以下で暗所保管すると安定です。水とは激しく反応して硝酸になります。

酸化窒素のその他情報

酸化窒素の環境や生体への影響

酸化窒素の中でも、一酸化窒素、二酸化窒素は、光化学スモッグや酸性雨の原因となるなど大気汚染の観点から、排出する量を抑えていく動きとなっています。酸化窒素の発生源としては、工場、火力発電所、自動車、家庭などです。

石油、石炭、化学原料に含まれる窒素が酸素と結びつき発生する場合と、大気中の窒素が高温にさらされることで酸素と反応して発生する場合があります。一酸化窒素は徐々に空気中の酸素により二酸化窒素に酸化されるため、発生直後は一酸化窒素であっても、環境大気中においてはほとんどが二酸化窒素になっていると考えられています。

酸化窒素は高濃度になると、咳や痰が出たり、呼吸器疾患を生じるリスクが高まります。また、酸化窒素は大気中の水分と反応して硝酸になり、これが雨や雪などに混ざることで酸性雨になります。

さらに、酸化窒素は紫外線を受けて光化学反応を起こして光化学オキシダント (Ox) を生じます。この光化学オキシダントの大気中の濃度が濃くなると、光化学スモッグと呼ばれる、白くモヤがかかったような状態になります。光化学オキシダントは目の痛み、頭痛、吐き気を引き起こす恐れがあります。

参考文献
https://anzeninfo.mhlw.go.jp/anzen/gmsds/0655.html

酸化ランタン

酸化ランタンとは

酸化ランタンとは、白色~ほとんど白色をした粉末で、化学式La2O3、分子量325.81、CAS登録番号1312-81-8の無機化合物です。

酸化ランタンの主な物理的および化学的性質は、融点/凝固点が2315℃で、沸点または初留点および沸騰範囲が4200℃です。そして、塩酸および硝酸に溶け、水にはほとんど溶けないといった性質を有しています。

また、酸化ランタンは、吸湿性があるうえ、空気中の炭酸ガスを吸収しやすいという性質もあります。酸化ランタンは、主な国内法規上の適用法令はありません。

酸化ランタンの使用用途

酸化ランタンは、光学分野で光学レンズの原料として使用されています。そのほか、PLC (光平面回路) への利用で、脚光を浴びているPLZT (ジルコン酸チタン酸鉛ランタン) の原料としても知られています。電子部品の分野では、セラミックスコンデンサーや電池材の原料としても利用可能です。

自動車排ガス触媒の担体として知られているジルコニウム (Zr) 酸化物に、担持 (たんじ:付着) させる材料としても使われています。

酸化ランタンの性質

酸化ランタンは無臭の白色固体です。化合物のpHによって、異なる結晶構造が得られます。

酸化ランタンは吸湿性があるため、大気中では時間の経過とともに水分を吸収して、水酸化ランタンに変化します。酸化ランタンにはp型の半導体特性があり、バンドギャップはおよそ5.8eVです。

平均室温抵抗率は10kΩ·cmで、温度の上昇とともに低下します。酸化ランタンはε = 27という非常に高い比誘電率を有し、希土類酸化物の中で最も低い格子エネルギーを持っています。

酸化ランタンの構造

低温でのLa2O3は、A-M2O3の六方晶構造を持っています。La3+金属原子は7つのO2−原子の配位基に囲まれていて、金属原子の周りの酸素イオンは八面体形です。八面体の1つの面上に、酸素イオンが1つあります。

それに対して、高温ではLa2O3はC-M2O3の立方晶構造に変化します。La3+イオンはO2−イオン6つに囲まれていて、六角形の形状です。

酸化ランタンのその他情報

1. 酸化ランタンの合成法

酸化ランタンは、多形に結晶化することが可能です。六角形のLa2O3を生成するためには、通常金属カルコゲナイドで作成された基板を予熱したものに、0.1MのLaCl3溶液を噴きかけます。この過程では、加水分解と脱水の2段階が発生しています。

界面活性剤のラウリル硫酸ナトリウムと2.5%のNH3を組み合わせて、六角形のLa2O3を得ることも可能です。この水溶液からわずかにLa(OH)3を沈殿させ、その後80°Cで24時間加熱して攪拌することで、La2O3が生成します。

2. 酸化ランタンの反応

LaをドープしたBi4Ti3O12 (BLT) を代表として、特定の強誘電材料を開発するために、添加剤として酸化ランタンが使われています。光学材料に使用される光学ガラスには、La2O3がしばしばドープされているため、ガラスの屈折率、力学的強度、化学的耐久性などの向上が可能です。

B2O3とLa2O3の3:1の反応をガラス複合材料に混合することで、ランタンの高い分子量によって、均一な溶融物の混合物が増えるため、融点が低くなります。溶融したガラスにLa2O3を添加すると、ガラス転移温度が658°Cから679°Cまで上昇します。La2O3の添加によって、ガラスの密度、屈折率、微小硬さなどを高くすることも可能です。

3. 酸化ランタンとともに得られた元素

長期にわたるガドリン石という鉱石の分析や分解の結果によって、いくつかの元素が発見されました。ガドリン石の分析が進むと、残留物にまずセリア、次に酸化ランタン、その次にイットリア、エルビアの順にラベルが付けられました。

これらのいくつかの新しい元素は、カール・グスタフ・モサンデル (英: Carl Gustaf Mosander) によって発見・分離されています。

参考文献
https://labchem-wako.fujifilm.com/sds/W01W0112-0638JGHEJP.pdf
https://www.nite.go.jp/chem/chrip/chrip_search/dt/html/GI_10_001/GI_10_001_1312-81-8.html

酸化ビスマス

酸化ビスマスとは

酸化ビスマス (英: Bismuth oxide) とは、うすい黄色もしくは黄褐色をした粉末の無機化合物です。

ビスマスと酸素から構成され、化学式はBi2O3、分子量は465.96、CAS登録番号は1304-76-3です。別名には、酸化ビスマス (III) があります。

酸化ビスマスの構造

1. 酸化ビスマスの結晶多形

酸化ビスマスには、5つの結晶学的多形があります。室温相で単斜晶構造のα-Bi2O3、高温相で正方晶のβ-Bi2O3、体心立方晶のγ-Bi2O3、立方晶のδ-Bi2O3とε-Bi2O3です。酸化ビスマスがとる構造は、類縁の酸化ヒ素 (As2O3) や酸化アンチモン (Sb2O3) がとる構造とは大きく異なります。

2. α、β相

α-Bi2O3は、酸素原子の層とその間にビスマス原子の層があるという複雑な構造をしています。ビスマス原子はそれぞれ歪んだ6配位と5配位で記述できる、2つの異なる環境にあります。β-Bi2O3は、蛍石(英: Fluorite) に近い構造をとっています。

3. γ、δ、ε相

γ-Bi2O3はBi12SiO20 (英: Bismuth silicon oxide) に類似した構造を持ち、ビスマス原子の一部がケイ素原子の占める位置を占め、Bi12Bi0.8O19.2と書くことができます。δ-Bi2O3は単位格子内の8つの酸素サイトのうち、2つが空になった欠陥蛍石型結晶構造を持っています。ε-Bi2O3はα相とβ相に近い構造を持ちますが、完全に整列したイオン性絶縁体です。

酸化ビスマスの性質

酸化ビスマスは、融点/凝固点が820℃で、沸点が1,890℃です。希塩酸および希硝酸に溶けやすく、水にはほとんど溶けません。α-Bi2O3は、室温でp型の電子伝導性を示し、酸素分圧により550~650℃の間でn型の電子伝導性に変化することが知られています。

酸化ビスマスの使用用途

1. 合成原料

酸化ビスマスは、触媒やビスマス塩類 (次硝酸ビスマスや次没食子酸ビスマス等) の原料、あるいはゴムの配合剤として使われています。釉薬 (ゆうやく) や顔料の原料としても利用されています。

2. 電子部品

酸化ビスマスは、サーミスタバリスタ・コンデンサーといった電子部品をはじめ永久磁石、電子材料の原料として利用されています。規制が厳しくなってきている鉛の代替品として、利用範囲を一層広げています。

3. 歯科治療材料

酸化ビスマスは、レントゲンの際に、歯科材料を周囲の歯より不透明にするためにしばしば用いられます。主に、ケイ酸二カルシウムとケイ酸三カルシウムの粉末の混合物とともに、水硬性ケイ酸セメントに10~20質量%添加されます。この材料は、歯根端切除術や吸収穿孔の修復などの歯科治療に使用されています。

酸化ビスマスのその他情報

1. 酸化ビスマスの製法

酸化ビスマスは、商業的にはビスマスを熱硝酸に溶解することで得られる、次硝酸ビスマスから作られます。水酸化ナトリウムを過剰に添加した後の混合物を加熱することで、濃い黄色の粉末として酸化ビスマスが沈殿します。次炭酸ビスマスを約400℃で加熱したり、水酸化ビスマスを燃焼させることによっても得ることができます。

2. 酸化ビスマスの反応

酸化ビスマスは、鉱酸と反応して対応するビスマス塩を生成します。水に溶解した二酸化炭素とは容易に反応して、次炭酸ビスマスを生成します。無水酢酸およびオレイン酸との反応では、ビスマストリオレートが得られます。

3. 法規情報

酸化ビスマスは、消防法はじめ毒物および劇物取締法、労働安全衛生法、PRTR法といった主な国内法規での指定の適用はされていません。

4. 取扱いおよび保管上の注意

取扱い及び保管上の注意は、下記の通りです。

  • 容器を密栓し、冷暗所に保管する。
  • 屋外や換気の良い区域のみで使用する。
  • 粉塵が飛散しないように注意する。
  • 使用時は保護手袋、保護眼鏡を着用する。
  • 取扱い後はよく手を洗浄する。
  • 皮膚に付着した場合は、石鹸と水で洗い流す。
  • 眼に入った場合は、水で数分間注意深く洗う。

参考文献
https://anzeninfo.mhlw.go.jp/anzen/gmsds/1304-76-3.html