ノルボルネン

ノルボルネンとは

ノルボルネン (英: norbornene) とは、分子式C7H10で表される、環状炭化水素の一種です。

シクロヘキセンのパラ位をメチレン基によって、架橋した2つの環構造を持ちます。IUPAC名はビシクロ[2.2.1]ヘプタ-2-エンであり、その他の慣用名として、ノルボルニレン (英: norbornylene) 、ノルカンフェン (英: norcamphene) と呼ばれることもあります。

なお、化学物質を特定するためのCAS番号は498-66-8です。

ノルボルネンの使用用途

ノルボルネンは、そのままの構造で用いられることは少ないです。他の有用化合物の原料として、医薬品中間体、殺虫剤成分、芳香剤成分、有機合成研究などに使用されています。

特徴的な用途は、その環内にビニル結合を有することから重合用のモノマーとして使用する場合です。ノルボルネンのみを単独で重合したホモポリマーは、その主鎖に剛直な環構造を持つことから耐熱性が高いです。また、高透明で低複屈折率であることから、光通信用の光導波路などとして用いられます。

さらに、エチレンプロピレンブタジエンといった他のビニル系モノマーと共重合したポリマーも使用されます。特にエチレンプロピレンゴムなどに加えることで、ゴムの物性をコントロールする使用法が有用です。

この時、ノルボルネンをモノマーとするだけでなく、ノルボルネンに置換基を加えた様々なノルボルネン誘導体モノマーが提案されています。

ノルボルネンの性質

ノルボルネンは常温常圧では白色の固体であり、酸っぱい刺激臭を持ちます。融点は44-46℃、沸点は96℃なので、少しの加熱で容易に融解、気化します。単純な炭化水素であるため、水へはほとんど溶解しない一方、有機溶媒への溶解性は高いです。

ノルボルネンの骨格は2つの環構造に拘束されるため強く歪んでいます。特に剛直な二重結合部分の歪みは大きく不安定であることから、この部分の反応性は非常に高くなっています。そのため、開環メタセシス反応や付加重合反応を起こしやすいです。

安全性の観点では、強い目刺激性があるので、作業時には保護メガネを着用し、万一目に入った場合には、注意深く水で流し続けます。また、胎児への影響や長期的な水生生物への毒性の懸念もあるので、環境への放出は慎しむべきです。さらに引火性も高く、消防法上の危険物第二類可燃性固体に指定されていることから、指定数量以上の取扱い、貯蔵には規制を受けます。

ノルボルネンのその他情報

1. ノルボルネンの製造法

ノルボルネンの工業的な製造法は、シクロペンタジエンとエチレンのディールス・アルダー反応です。ディールス・アルダー反応では、共役ジエンにアルケンが付加して6員環構造を生じます。[4+2]環状付加とも呼ばれ、この反応を用いることでノルボルネンなどの環状化合物を製造することができます。

この反応は発熱反応であり、適切に冷却しながら反応させないと暴走反応を起こしかねません。過去にはノルボルネン誘導体の製造プラントで反応進行中にも関わらず、撹拌機を停止したことで冷却が不十分となり、反応が暴走、内容物が噴出し発火する事故が起きており、2名が亡くなっています。そのため、工業的にも慎重に製造する必要がある化合物です。

2. ノルボルネンの誘導体

ノルボルネン構造を持つ誘導体でよく使われるものとして、5-エチリデン-2-ノルボルネンがあります。これはノルボルネンの5位にエチリデンが付加した化合物で、合成ゴム原料として、主にエチレンプロピレンゴムに用いられるほか、都市ガス用の臭い付加材としても有用です。

また、その剛直な骨格を活かしてエポキシ化した誘導体は、エポキシ樹脂原料とすることで、エポキシ樹脂の耐熱性と剛性を向上させることができます。

ただし、これらの誘導体はノルボルネンを得て合成される場合もありますが、その前駆体であるシクロペンタジエンなどを誘導化したうえでディールズ・アルダー反応によって、ノルボルネン骨格を後から形成することも1つの製造法です。

参考文献
https://anzeninfo.mhlw.go.jp/anzen/gmsds/16219-75-3.html

ネオペンタン

ネオペンタンとは

ネオペンタンとは、2本の側鎖を持つ炭素数5の分岐鎖を有したアルカンです。

ネオペンタンは無色の気体ですが、寒い日などには液体になります。ネオペンタンの構造異性体には、n-ペンタンやイソペンタンがあります。

しかし、n-ペンタンやイソペンタンなどの構造異性体に対して、ネオペンタンは融点が高くて沸点が低いため、状態が安定しない化合物です。ネオペンタンは労働安全衛生法では、施行令別表第1第4号 (危険物・引火性の物) に該当します。

ネオペンタンの使用用途

ネオペンタンの主な使用用途は発泡剤です。その他、エレクトロニクス洗浄剤や化学溶剤として用いられています。発泡剤とは、ゴムやプラスチックのような高分子 (ポリマー) に他の配合剤を加え、加熱分解によって発生したガスなどを包含させることで、細胞構造を形成するための薬剤のことです。

発泡スチロールだけでなく、ウレタンなどの製造にも役立っているため、日々の生活用品に取り入れられています。なお、ネオペンタンは、原油や石油系炭化水素の分解油中から、分留することで得られます。

ネオペンタンの性質

ネオペンタンはエタノールやエーテルには可溶ですが、水には不溶です。常圧におけるネオペンタンの沸点は、9.5°Cです。ネオペンタンは常温常圧では、引火性が高い気体として存在しています。それに対して、寒い日や高圧下では、ネオペンタンは揮発性の液体です。

ネオペンタンの構造

ネオペンタンの構造は、メタンの4つの水素原子がすべてメチル基に置換した形を取っています。ネオペンタンの化学式はC5H12、モル質量は72.15で、示性式は (CH3)4Cです。

ネオペンタンのIUPAC系統名は、2,2-ジメチルプロパン (英: 2,2-dimethylpropane) ですが、IUPAC許容慣用名としてネオペンタンが用いられています。

ネオペンタンのその他情報

1. ネオペンタンの沸点が低い理由

他の構造異性体と比較すると、ネオペンタンの沸点は非常に低いです。常圧で、イソペンタンの沸点は27.7°C、n-ペンタンの沸点は36.0°Cであり、ネオペンタンの沸点は9.5°Cなので、とても低いと言えます。ネオペンタンは室温の大気圧下では気体ですが、構造異性体のイソペンタンやn-ペンタンは液体です。

ネオペンタンの沸点が低い理由は、ネオペンタンの分子間力の作用が弱いためです。すなわち、分岐鎖が増えると分子の形状が球形に近く、直鎖の場合より分子の表面積が減少したことが理由として挙げられます。

2. ネオペンタンの融点が高い理由

ネオペンタンの融点は、常圧で−16.6°Cです。構造異性体のイソペンタンの融点は−159.9°Cで、n-ペンタンの融点は−129.8°Cです。したがってネオペンタンの融点は、イソペンタンの融点より約140°Cも高く、n-ペンタンの融点より約110°Cも高いことになります。

イソペンタンの融点が異常に高い原因は、固体の状態の場合に、強力な分子間力が作用しているためだと説明されてきました。つまり、ネオペンタン分子は正四面体型なので、固相では密接しているために、分子間力が強力に作用すると考えられます。しかし、他の2つの構造異性体よりも、ネオペンタンの密度が低いため、理由として疑わしいと言われてきました。

さらに、ネオペンタンの高い分子の対称性によって生じるエントロピー効果によって、ネオペンタンの融点が高くなっていることが示唆されています。構造異性体であるn-ペンタンやイソペンタンの融解エントロピーよりも、ネオペンタンの固体の融解エントロピーが低いことからです。実際にネオペンタンの融解エントロピーは、構造異性体であるn-ペンタンやイソペンタンより、約4倍も低いです。

3. ネオペンチル基

ネオペンタンから1つ水素が脱離した構造は、ネオペンチル基 (英: Neopentyl substituent) と呼ばれています。ネオペンチル基は、しばしばNpと表記され、Me3C-CH2と略記される場合もあります。

具体例としてネオペンチルアルコールは 、Me3CCH2OHもしくはNpOHと表すことも可能です。

参考文献
https://www.takachiho.biz/pdf/C2H6O.pdf

ニトロソアミン

ニトロソアミンとは

ニトロソアミンの一般構造と代表的な化合物

図1. ニトロソアミンの一般構造と代表的な化合物

ニトロソアミン (Nitrosamine) とは、アミンの誘導体のうち、アミン窒素上の水素がニトロソ基 (-N=O) に置き換わった構造をもつ化合物の総称です。

ニトロソアミンは、大気、水、食品、化粧品、タバコなどに微量含まれていることが確認されていますが、中には発がん性をもつ物質もあることが知られています。代表的な発がん物質は、N-ニトロソジメチルアミン (NDMA) や、N-ニトロソジエチルアミン (NDEA) です。

近年では、サルタン系・ラニチジン系医薬品の原薬において不純物としてNDMAやNDEAが検出され、製品回収へ至ったことがあります。そのため、ニトロソアミンの混入リスクの評価・自主点検を行うよう、厚生労働省から医薬品メーカーに通達されました。

ニトロソアミンの使用用途

ニトロソアミン類は、工業的には可塑剤・添加剤などに広く用いられています。例えば、N,N’-ジニトロソペンタメチレンテトラミン (N,N’-Dinitrosopentamethylenetetramine) は、ゴムなどの有機発泡剤として使用されています。

ニトロソアミン類は、その多くについて発がん性があることが知られている化合物群です。例えば、N-ニトロソノルニコチン (NNN) や、4-(メチルニトロソアミノ)-1-(3-ピリジル)-1-ブタノン (NNK) は、タバコに含まれる有害物質であることが知られています。

有害性がある一方で医薬品の製造過程においては不純物として生成する可能性があるため、近年では混入リスクの評価や混入リスク軽減策を講じるようになっています。これらの試験・分析を目的に、対照実験としてニトロソアミン類の標準品・混合標準液が使用されており、外部試験委託も活発に行われています。

また、加工品を中心に食品にも微量の混入事案があることから、医薬品以外でも混入リスクを評価されるようになってきました。

ニトロソアミンの性質

肉に含まれるヘム鉄が発がん性のあるニトロソアミン類の生成を促したり、肉を燻製にすることによってもニトロソアミンが生成したりするケースがあります。さらに、加工肉に添加される亜硝酸ナトリウムや硝酸ナトリウムはニトロソアミン生成の原因です。

食品については調理により、ニトロソアミンの量が変化することがわかっています。100℃以下での調理ではほぼ増えることはないとされますが、高温調理では増加傾向です。

ニトロソアミンの種類

ニトロソアミンの化合物群

 図2. ニトロソアミンの合成

近年医薬品などへの混入が指摘されているニトロソアミン類のうち、最も構造が単純なものが、N-ニトロソジメチルアミン (NDMA) とN-ニトロソジエチルアミン (NDEA) です。それ以外にもN-ニトロソ-N-メチル-4-アミノ酪酸 (NMBA) 、N-ニトロソメチルフェニルアミン (NMPA) 、N-ニトロソイソプロピルエチルアミン (NIPEA) は実際に原薬や製剤から検出されており、その他にN-ニトロソジイソプロピルアミン (NDIPA) とN-ニトロソジブチルアミン (NDBA) は、理論上混入の危険性が指摘されています。

これらの化合物については許容摂取量 (ng/day) が厚生労働省によって定められました。現在では、原薬中のニトロソアミン類が管理基準以下であることを確認するよう、各メーカーに自主点検が要請されています。

ニトロソアミンのその他情報

ニトロソアミンと医薬品製造

ニトロソアミンの合成

図3. ニトロソアミンの合成

ニトロソアミン類は、2級アミンと亜硝酸の反応によって生成することが知られています。近年、ニトロソアミン類は医薬品から不純物として検出されました。サルタン系医薬品においては、溶媒であるジメチルホルムアミド (DMF) と、亜硝酸とが、反応することが原因であると考えられています。

この際に使用される亜硝酸はテトラゾール環形成で使用するアジドをクエンチする目的で添加されます。また、ラニチジン塩酸塩の製剤及び原薬からもNDMAが検出されたことがあります。ラニチジンは、NDMAの元となるN-ジメチル構造と、ニトロ基を有している化合物です。

そのため、ラニチジンの場合のNDMAの生成原因は、温度とラニチジン自身の構造にあると考えられています。実際に、ラニチジンは高温にさらされるとNDMAが大幅に増加するという報告があります。

参考文献
https://anzeninfo.mhlw.go.jp/anzen/gmsds/62-75-9.html

ニトリト

ニトリトとは

ニトリト (英: Nitrite) とは、亜硝酸塩を英語で表記したもので、亜硝酸イオンであるNO2を有する塩のことです。

亜硝酸塩は低炭素下では一酸化窒素に還元されますが、一酸化窒素は生命維持に必要であると言われています。その一方で、亜硝酸塩とタンパク質に含まれるアミン類が反応すると、ニトロソアミンを生じますが、ニトロソアミンは発がん性が高いと言われている物質です。

亜硝酸塩とアミン類を同時に摂取しないよう注意喚起されています。国際がん研究機関 (IRAC) でも、人間の発がん性の可能性があるとする (Group 2A) に分類されています。

なお、ニトリトの代表例は、亜硝酸ナトリウム (英: sodium nitrite) や亜硝酸カリウム (英: potassium nitrite) などです。

ニトリトの使用用途

亜硝酸塩の有無を調べる項目が、尿検査にあります。普段、主に野菜から摂取する硝酸塩は、何もなければそのまま体外に排出されます。

しかし、膀胱炎など、尿路の感染症で細菌が繁殖していると、硝酸塩は細菌によって亜硝酸塩に変わるため、尿検査で亜硝酸塩が検出されると尿路感染症かどうか判定可能です。

また、亜硝酸塩は、ハムやソーセージなどの発色剤や防腐剤として使用されていますが、体内に摂取する量が多いと中毒症状を引き起こすため、使用量に制限があります。

ニトリトの性質

ニトリトは低酸素条件下で、血管拡張作用を有する一酸化窒素を遊離します。ニトリトの一酸化窒素への変換は、ミトコンドリア (英: mitochondrion) 、キサンチンオキシドレダクターゼ (英: Xanthine Oxidoreductase) 、一酸化窒素シンターゼ (英: Nitric Oxide Synthase) による酵素的還元です。多くのバクテリアは、ニトリトを一酸化窒素やアンモニアに還元します。

ニトリトは亜硝酸イオンであるNO2を有する塩のことです。つまり、亜硝酸イオン、亜硝酸塩、亜硝酸エステルのいずれかを指します。

亜硝酸イオンの錯体は、アンビデント (英: Ambident) な配位子として働くことが可能です。例えば、酸素原子で配位する際にはニトリト、窒素原子で配位する際にはニトロと呼ばれています。

ニトリトのその他情報

1. ニトリトの合成法

アルカリ金属やアルカリ土類金属のニトリトは、一酸化窒素や二酸化窒素の混合物に、対応する金属の水酸化物を反応させることで合成可能です。それに対して、対応する硝酸塩の熱分解によっても合成できます。それ以外にもニトリトは、対応する硝酸塩の還元により合成可能です。

2. ニトリトの規制値

ニトリトは水質基準などに亜硝酸態窒素の項目が設けられることがあり、地域によって亜硝酸塩換算値や亜硝酸態窒素換算値など、違いが見られます。換算式は「亜硝酸態窒素濃度 (mgN/L) = 亜硝酸塩濃度 (mg/L) × 14/46」で表すことが可能です。

具体的には日本のほか、アメリカ合衆国やシンガポールなどでは、亜硝酸態窒素換算値を採用しています。日本では水道水基準や環境基準の項目で、硝酸および亜硝酸イオンの和が10mg/L、亜硝酸イオン単独では0.05mg/Lと定められました。その後、亜硝酸態窒素に係る水質基準値が加えられています。

3. 亜硝酸ナトリウムの特徴

亜硝酸ナトリウムはナトリウムの亜硝酸塩で、亜硝酸ソーダや亜硝酸Naとよく略記されます。化学式はNaNO2で、白色または黄色の斜方晶系の結晶です。亜硝酸ナトリウムは吸湿性や潮解性を示し、水に溶けて水溶液はアルカリ性になります。

4. 亜硝酸カリウムの特徴

亜硝酸カリウムはカリウムの亜硝酸塩で、化学式はKNO2です。亜硝酸ナトリウムと同様に、海外では食品用防腐剤として使われています。排水処理や燃料電池用金属酸化物膜の製造を代表として、幅広い用途に利用されています。

ナトリウムメトキシド

ナトリウムメトキシドとは

ナトリウムメトキシドとは、白色~ほとんど白色の粉末又は塊で「化学式:CH3ONa」「分子量:54.02」「CAS登録番号:124-41-4」の化合物です。

ナトリウムメトキシドは、融点/凝固点が127℃で、可燃性があり、メタノールに溶け、水で分解されるという性質があります。

ナトリウムメトキシドの国内法規上の主な適用としては、危規則で「可燃性物質類・自然発火性物質」、航空法では「可燃性物質類・自然発火性物質」、海洋汚染防止法で「環境省告示第148号第1号有害液体物質」に指定されていますが、そのほかの主だった国内法令での適用はありません。

ナトリウムメトキシドの使用用途

ナトリウムメトキシドは、医薬品はじめ香料や染料といった分野での有機合成原料として使用されるほか、還元触媒としても使われています。

また、ナトリウムメトキシドは、食品関連で油脂の物理的性質を変えることが、可能なことからマーガリン・ショートニングといった油性製造にもかかわっています。

さらに、ナトリウムメトキシドは、バイオディーゼル燃料(植物油を原料とするディーゼル燃料)の製造方法に関与することができるとする特許の登録も行われています。

参考文献
https://labchem-wako.fujifilm.com/sds/W01W0119-1051JGHEJP.pdf
https://www.nite.go.jp/chem/chrip/chrip_search/dt/html/GI_10_001/GI_10_001_124-41-4.html
https://nittobussan-corp.co.jp/products/products-1015/
特表2009-523880

ナトリウムエトキシド

ナトリウムエトキシドとは

ナトリウムエトキシドとは、日本語名をソジウムエチラートといい、白色~うすい褐色の粉末又は塊で「化学式:C2H5ONa」「分子量:68.05」「CAS登録番号:141-52-6」の化合物です。

ナトリウムエトキシドは、融点/凝固点が300℃で、密度/相対密度が0.868です。そして、エタノールに溶け、水で分解するといった性質を有しています。

また、ナトリウムエトキシドは、危規則では「可燃性物質類・自然発火性物質」に、航空法で「可燃性物質類・自然発火性物質」に指定されていますが、そのほかの主だった国内法規での指定適用はありません。

ナトリウムエトキシドの使用用途

ナトリウムエトキシドは、有機合成反応に関わる縮合剤や還元剤に使用されたり、触媒としても使われています。

ナトリウムエトキシドは、アルキル基(CnH2n+1)を持つことで、有機溶媒に溶けやすい有機塩基の「アルコキシド」に分類されます。

このアルコキシドは、アルコキシド陰イオンを発生させるもので、この陰イオンが直接求核反応に関与するとアルコキシ化が起こります。

縮合剤は、このアルコキシ化で反応にあずかる物質からプロトン(水素イオン)を奪って、反応を誘起するという役割を担っています。

参考文献
https://labchem-wako.fujifilm.com/sds/W01W0119-0528JGHEJP.pdf
https://www.nite.go.jp/chem/chrip/chrip_search/dt/html/GI_10_001/GI_10_001_141-52-6.html

トロパン

トロパンとは

トロパン (Tropane)とは、化学式C8H15Nで表される二環式有機化合物です。

ベラドンナやヒメジョオンなど、多くの植物に含まれる天然由来のアルカロイドを指します。トロパン構造をもった天然由来の炭素化合物をトロパンアルカロイドと呼び、抗コリン作用を有することから、様々な医薬品として使用されています。

植物から得られるトロパンアルカロイドには、コカインやアトロピン、ヒヨスチアミンなど、さまざまな種類が存在します。麻痺や麻酔、幻覚といった症状が出るため、取り扱いには注意が必要です。

トロパンの使用用途

トロパンおよびその誘導体は、抗コリン剤として、乗り物酔い、過敏性腸症候群、パーキンソン病など様々な治療薬のとして用いられています。また、トロパンアルカロイドは、鎮痛剤、局所麻酔薬、薬物中毒の治療薬としても使用されてきました。

トロパンアルカロイドは、天然の殺虫剤、除草剤として農業に使用される場合が多いです。農作物の害虫や雑草を駆除するために使用されてきましたが、毒性が強いため、その使用は制限されています。

コカインやクラックコカインなどの違法薬物も、トロパンアルカロイドを原料としています。トロパンアルカロイドを含む植物は毒性があり、皮膚から血液に取り込まれることもあります。体温の上昇や口乾、瞳孔散大、視界不良などを引き起こすため、注意が必要です。

トロパンの性質

トロパンはアルカロイド類に属する二環式有機化合物で、化学式はC8H15N、分子量は125.21g/molです。トロパンは無色の結晶性の固体で、水にはわずかに溶けるのみですが、エタノールやクロロホルムなどの有機溶媒にはよく溶けます。

トロパンはキラル化合物であり、互いに鏡像である2つのエナンチオマーが存在します。これらのエナンチオマーは、物理的性質は同じですが、生物学的活性が異なります。トロパンおよびその誘導体は、鎮痛作用、鎮痙作用、散瞳作用など、薬理作用はさまざまです。

トロパンの構造

トロパンは、7員環と5員環が縮合した二環式構造をしています。7員環には窒素原子が含まれており、これがトロパンの基本的な性質に影響を与えています。

トロパンの結晶構造については広く研究されており、結晶構造解析の結果、トロパンは空間群P21/nの単斜晶系を形成していることが判明しました。この結晶構造から、トロパンは7員環がイス型、5員環が船型の、わずかに凹んだコンフォメーションをとっていることが明らかになっています。

トロパン分子は、窒素原子にキラル中心が存在するため、2つの光学異性体を有している。トロパンの2つのエナンチオマー、 (-) -トロパンと (+) -トロパンは互いに鏡像であり、異なる生物活性を示します。

トロパンのその他情報

トロパンの製造方法

トロパンおよびその誘導体は、通常植物などの天然物から単離されますが、有機化学的な手法で合成することも可能です。工業的には、ピリジンを出発原料とした多段階合成により生産されています。

1.ピリジンのニトロ化
ピリジンを濃硝酸と硫酸の混合液で硝酸化し、3-ニトロピリジンを合成します。

2. 3-ニトロピリジンの還元
得られた3-ニトロピリジンを、水素ガスとニッケル触媒などを用いて、3-アミノピリジンに還元します。

3. トロピノンの合成
3-アミノピリジンを水酸化カリウムなどの強塩基の存在下、2-クロロエタノールまたはエチレンオキシドで環化し、トロピノンを調製します。

4. トロピノンの還元
トロピノンを水素化ホウ素ナトリウムまたは水素化アルミニウムリチウムを用いて還元し、トロピンに変換します。

5. トロピンのエステル化
硫酸などの強酸触媒の存在下、塩化ベンゾイルやトロピン酸などのカルボン酸でトロピンをエステル化し、目的とするトロパンおよびトロパン誘導体を製造することができます。

この工程は複雑で複数のステップを必要としますが、さまざまなトロパン誘導体を製造するための工業的プロセスとして確立されています。

トリゴネリン

トリゴネリンとは

トリゴネリン (英: trigonelline) とは、無色の固体です。

IUPAC名は、1-メチルピリジン-1-イウム-3-カルボキシラート (英: 1-methylpyridin-1-ium-3-carboxylate) 、また別名としてカフェアリン (英: Caffearine) やN-メチルニコチン酸 (英: N-Methylnicotinate) とも呼ばれます。

化学式C7H7NO2で表され、分子量137.14の窒素原子を含んだ有機化合物であるアルカロイドの1種です。なお、CAS登録番号は535-83-1です。

トリゴネリンの使用用途

トリゴネリンは、抗糖尿病効果や抗酸化効果、抗炎症効果および神経保護効果など、さまざまな効果を持ちます。トリゴネリンを主成分の1つに持つ植物のフェヌグリークは、中国の伝統的なハーブやインドの香辛料として知られ、古くから糖尿病や咳、母乳分泌の増加、抗炎症作用などに使われていました。

現在では、認知症やアルツハイマーの改善効果が高い物質として注目されています。また、血管内で一酸化窒素を発生させることで、血管を収縮や拡張を促進してしなやかな血管を維持することが可能です。動脈硬化による心筋梗塞や脳梗塞を予防する物質としても、注目されています。

トリゴネンの性質

トリゴネリンは熱に弱く、200℃を超えると分解してしまいます。トリゴネリンの機能を維持するためには、200℃以下で加熱するか、加熱前にトリゴネリンを抽出して、加熱後に戻す作業が必要です。

加熱によりトリゴネリンは、ニコチン酸に変化します。この物質はタバコに含まれるニコチンとは種類が異なり、脳のエネルギー代謝を促進し、コレステロールを低減する効果があります。

ニコチン酸はビタミンB3の1種で、糖質や脂質がエネルギーに代わるのをサポートします。なお、トリゴネンは一分子内にプラスとマイナスの両荷電を持つ、ベタイン構造を有します。

一水和物の融点は218°Cで融解と共に分解します。常温で固体です。水に非常によく溶け、アルコールにも可溶、エーテル、ベンゼン、クロロホルムなどの有機溶剤にはほとんど溶けません。

トリゴネリンのその他情報

1. トリゴネリンの製造法

トリゴネリンは、オシロイバナの種子やコーヒー豆に多く含まれています。マメ科植物のフェヌグリークから最初に単離されました。

植物体内では、ニコチン酸-N-メチルトランスフェラーゼ (EC番号 2.1.1.7) により、ニコチン酸 (英: nicotinic acid) から生合成されます。工業的には、ニコチン酸を酸化銀存在下、ヨウ化メチルと共に加熱することで合成できます。

また、トリゴネリンは、水やアルコール類の溶媒から再結晶によって精製することが可能です。

2. 取り扱い及び保管上の注意

トリゴネリンは、加熱して分解すると有害な窒素酸化物 (NOx) の蒸気を発生させます。蒸気を直接吸い込まないよう、局所排気装置であるドラフトチャンバー内で使用することが大切です。火災が生じた場合は、水噴霧、ドライケミカル、フォーム、二酸化炭素の消火器を使用します。

皮膚刺激性があるため、皮膚に付着しないよう注意が必要です。使用時は必ず白衣や作業着などの保護衣や保護手袋を着用します。保護衣の袖は決して捲らず、皮膚が暴露しないようにします。万が一皮膚に付着した場合は、石けんと大量の水で洗い流すことが重要です。痛みなどの症状が続く場合は、医師の診療を受けることをおすすめします。

また、眼に対して強い刺激性を持ちます。重篤な損傷を起こす可能性があるので、使用時は必ず保護メガネまたはゴーグルの着用が重要です。万が一眼に入った場合は、水で数分間注意深く洗います。コンタクトを着用している場合で簡単に外せるときは外し、しっかり洗浄します。

なお、保管する際は容器を密閉し、直射日光を避け、涼しく換気の良い場所で保管します。4℃程度での保管が望ましいです。

参考文献
https://www.jstage.jst.go.jp/article/vso/62/10/62_KJ00001708480/_pdf/-char/ja
https://www.jstage.jst.go.jp/article/nogeikagaku1924/61/2/61_2_183/_pdf/-char/ja
https://pubchem.ncbi.nlm.nih.gov/compound/Trigonelline#section=Collision-Cross-Section
https://www.glpbio.com/quotepdf/sds.php?sku=GN10289

トリエチルアミン塩酸塩

トリエチルアミン塩酸塩とは

トリエチルアミン塩酸塩とは、強塩基性の有機アミン (3級アミン) であるトリエチルアミン塩酸を加えて反応させたときにできる塩 (アンモニウム塩) です。

元のトリエチルアミンは液体で有機溶媒と混ざりますが、塩酸塩は固体で水溶性が高いという性質になっています。別名、トリエチルアンモニウムクロリドとも呼ばれ、化学式は(C2H5)3N · HCl 、CAS番号は554-68-7です。

通常は、白色の固体として存在しており、わずかにアミン臭がすることが特徴です。

トリエチルアミン塩酸塩の使用用途

トリエチルアミン塩酸塩は、主に医薬品や染料等の有機合成原料として用いられます。例えば、強塩基を用いてトリエチルアミンを遊離させ、これを他の分子と反応させます。また、疎水性のエチル基を3つ持つ性質と強塩基である性質を併せ持っているため、酸性物質と会合体を形成させて有機溶媒中に抽出する (イオンペアー抽出) 際のイオンペアー試薬として使用されることもあります。

抽出と同様に、イオンペアー高速液体クロマトグラフィー (HPLC) にも使用可能です。抽出と同様に、酸性物質と会合させてイオンペアーを形成することで、水溶性の酸性物質を逆相HPLCで分析できるようにします。ただし、HPLCではより効果の大きい4級アンモニウム塩であるテトラエチルアンモニウム塩酸塩が用いられるようになってきています。

液体クロマトグラフィー質量分析 (LC-MS) では揮発性が重要であるため、より揮発性が高いトリエチルアミン酢酸塩等が用いられることもあります。これらのイオンペアー試薬に対して、トリエチルアミン塩酸塩は比較的廉価であることが特徴です。また、弱酸性から中性の液性を示す性質を持つため、生化学実験でナトリウムイオンの影響を調べるときに塩化ナトリウムの比較対象として用いることがあります。

トリエチルアミン塩酸塩の性質

トリエチルアミン塩酸塩の外観は白色の固体 (結晶または結晶性粉末) です。水、エタノールに溶けやすく、エーテルに不要です。特に水には良く溶けます。

水溶液は中性付近から弱酸性の範囲であり、濃度50g/LでpH3.0~6.0です。融点は明確でないとされており、加熱していくと約260℃で分解します。

粉末は潮解性を有するため、保管・取り扱いの際には湿度に注意が必要です。また、光によって変質するおそれがあるため、保管する際は遮光が必須となります。

トリエチルアミン塩酸塩のその他情報

1. トリエチルアミン塩酸塩の製造法

トリエチルアミン塩酸塩は化学合成によって製造されます。一般には、アンモニアをエタノールでアルキル化してトリエチルアミンを獲得し、それを塩酸塩にすることで合成されます。

2. トリエチルアミン塩酸塩の適用法令

皮膚腐食性や刺激性、眼に対する重篤な損傷性、眼刺激性が知られており、危険有害性区分は皮膚刺激性がカテゴリー2、眼に対する重篤な損傷性と眼刺激性はカテゴリー2Aです。消防法や労働安全衛生法といった国内法規には該当していません。

ただし、化学物質の一般的な留意点として、防塵マスク、保護手袋を着用し、局所排気装置がある環境で取り扱う必要があります。また、強酸化剤とは激しく反応するため、混在を避けることも重要です (法令上は強酸化剤の方が第一類または第六類危険物として規制されています) 。

火災になった場合、完全燃焼により二酸化炭素、窒素酸化物が発生、同時に塩化水素ガスが発生します。熱分解によりアミンやアンモニアが発生する可能性もあり、いずれも人体に有害です。

トリエチルアミン塩酸塩からは、トリエチルアミンが生じる可能性があります。トリエチルアミンは水生環境に有害であるため、トリエチルアミン塩酸塩の処分も環境放出が無いように実施しなければなりません。

参考文献
http://www.st.rim.or.jp/~shw/MSDS/20421130.pdf

トリメチルベンゼン

トリメチルベンゼンとは

トリメチルベンゼン (英: Trimethylbenzene) とは、化学式C9H12で表される芳香族炭化水素です。

分子量は120.19です。特異臭のある無色の液体です。ベンゼン環の3個の水素がメチル基で置き換わった構造で、3種類の異性体があります。1つ目は、ベンゼン環にメチル基が1位、2位、3位に付いた1,2,3-トリメチルベンゼンで、慣用的にヘミメリテン (英: Hemimellitene) と呼ばれます。2つ目は、ベンゼン環にメチル基が1位、2位、4位に付いた1,2,4-トリメチルベンゼンで、プソイドクメン (英: Pseudocumene) とも言われます。3つ目は、ベンゼン環にメチル基が1位、3位、5位に付いた1,3,5-トリメチルベンゼンで、メシチレン (英: Mesitylene) とも呼ばれます。いずれもタール軽油の高沸点留分から得られます。

トリメチルベンゼンの使用用途

トリメチルベンゼンは、顔料、染料、医薬品、そして工業薬品の合成原料として主に使用されています。

1,2,4-トリメチルベンゼンは、ガソリン添加剤としても利用されています。また、SD溶剤 (イソドデカンとの混合物で、発泡スチロール減容化溶剤) としても知られています。

1,3,5-トリメチルベンゼンは、高沸点溶媒としても使用されます。また、エレクトロニクスの分野では、半導体ウェハー (半導体集積回路: ICチップの材料となる、半導体物質の結晶でできた円形の薄い板) の写像形成の際のエッチング液 (精密な電路を作るといった用途で用いられる加工法) として用いられています。

トリメチルベンゼンのその他情報

1. トリメチルベンゼンの性質

融点は-2~-45 ℃、沸点は165~176℃、引火点は44~53℃、比重は0.86~0.89 g/mL、常温で液体です。水には不溶ですが、アルコールやエーテル等の有機溶剤には可溶です。

1,2,3-トリメチルベンゼンは、融点は-25℃、沸点は176℃、比重は0.86 g/mL、無色ないし微かに淡黄色の液体です。特異臭があり、屈折率はn20/D 1.52です。

1,2,4-トリメチルベンゼンは、融点は-44℃、沸点は169℃、比重は0.88 g/mL、無色の可燃性液体です。刺激臭があり、屈折率はn25/D 1.50、引火点は50℃です。

1,3,5-トリメチルベンゼンは、融点は-45℃、沸点は165℃、比重は0.86g/mL、無色の可燃性液体です。刺激性が強く、屈折率はn20/D 1.50、引火点は46℃です。

2. トリメチルベンゼンの製造法

トリメチルベンゼンは、原油の蒸留・精製によって分離した灯油、軽油、ガソリン等の中に含まれます。メシチレンは、タンタル系またはニオブ系の触媒上で、アセトンの脱水および縮合により得ることができます。あるいは、硫酸中でのプロピンの三量化によっても合成されます。

3. トリメチルベンゼンの取り扱い

消防法に定める第4類引火性液体、第二石油類非水溶性液体に該当します。また、化学物質排出把握管理促進法 (PRTR法) に定める第1種指定化学物質に該当します。

取り扱いは容器を密閉し、涼しく換気の良い場所で施錠して保管して下さい。極めて燃えやすく、熱、火花、裸火等で容易に発火するため、着火源から離して保管しましょう。加熱により蒸気が空気と爆発性混合気体を生成する恐れがあります。また、容器が爆発する恐れもあります。防爆型の電気機器、換気装置、照明機器を使用したり、静電気放電や火花による引火を防止しましょう。燃焼により、大量の黒煙が発生します。

酸化性物質と反応するため、離して保管して下さい。容器は直射日光や火気を避けるよう注意して下さい。皮膚や眼に対して刺激があるため、保護手袋、保護眼鏡、保護面を着用して下さい。そして、屋外または換気の良い区域でのみ使用しましょう。ミスト、蒸気、スプレーを吸入しないよう注意して下さい。取り扱い後はよく手を洗いましょう。

参考文献
https://anzeninfo.mhlw.go.jp/anzen/gmsds/0868.html