ノルボルネン

ノルボルネンとは

ノルボルネン (英: norbornene) とは、分子式C7H10で表される、環状炭化水素の一種です。

シクロヘキセンのパラ位をメチレン基によって、架橋した2つの環構造を持ちます。IUPAC名はビシクロ[2.2.1]ヘプタ-2-エンであり、その他の慣用名として、ノルボルニレン (英: norbornylene) 、ノルカンフェン (英: norcamphene) と呼ばれることもあります。

なお、化学物質を特定するためのCAS番号は498-66-8です。

ノルボルネンの使用用途

ノルボルネンは、そのままの構造で用いられることは少ないです。他の有用化合物の原料として、医薬品中間体、殺虫剤成分、芳香剤成分、有機合成研究などに使用されています。

特徴的な用途は、その環内にビニル結合を有することから重合用のモノマーとして使用する場合です。ノルボルネンのみを単独で重合したホモポリマーは、その主鎖に剛直な環構造を持つことから耐熱性が高いです。また、高透明で低複屈折率であることから、光通信用の光導波路などとして用いられます。

さらに、エチレンプロピレンブタジエンといった他のビニル系モノマーと共重合したポリマーも使用されます。特にエチレンプロピレンゴムなどに加えることで、ゴムの物性をコントロールする使用法が有用です。

この時、ノルボルネンをモノマーとするだけでなく、ノルボルネンに置換基を加えた様々なノルボルネン誘導体モノマーが提案されています。

ノルボルネンの性質

ノルボルネンは常温常圧では白色の固体であり、酸っぱい刺激臭を持ちます。融点は44-46℃、沸点は96℃なので、少しの加熱で容易に融解、気化します。単純な炭化水素であるため、水へはほとんど溶解しない一方、有機溶媒への溶解性は高いです。

ノルボルネンの骨格は2つの環構造に拘束されるため強く歪んでいます。特に剛直な二重結合部分の歪みは大きく不安定であることから、この部分の反応性は非常に高くなっています。そのため、開環メタセシス反応や付加重合反応を起こしやすいです。

安全性の観点では、強い目刺激性があるので、作業時には保護メガネを着用し、万一目に入った場合には、注意深く水で流し続けます。また、胎児への影響や長期的な水生生物への毒性の懸念もあるので、環境への放出は慎しむべきです。さらに引火性も高く、消防法上の危険物第二類可燃性固体に指定されていることから、指定数量以上の取扱い、貯蔵には規制を受けます。

ノルボルネンのその他情報

1. ノルボルネンの製造法

ノルボルネンの工業的な製造法は、シクロペンタジエンとエチレンのディールス・アルダー反応です。ディールス・アルダー反応では、共役ジエンにアルケンが付加して6員環構造を生じます。[4+2]環状付加とも呼ばれ、この反応を用いることでノルボルネンなどの環状化合物を製造することができます。

この反応は発熱反応であり、適切に冷却しながら反応させないと暴走反応を起こしかねません。過去にはノルボルネン誘導体の製造プラントで反応進行中にも関わらず、撹拌機を停止したことで冷却が不十分となり、反応が暴走、内容物が噴出し発火する事故が起きており、2名が亡くなっています。そのため、工業的にも慎重に製造する必要がある化合物です。

2. ノルボルネンの誘導体

ノルボルネン構造を持つ誘導体でよく使われるものとして、5-エチリデン-2-ノルボルネンがあります。これはノルボルネンの5位にエチリデンが付加した化合物で、合成ゴム原料として、主にエチレンプロピレンゴムに用いられるほか、都市ガス用の臭い付加材としても有用です。

また、その剛直な骨格を活かしてエポキシ化した誘導体は、エポキシ樹脂原料とすることで、エポキシ樹脂の耐熱性と剛性を向上させることができます。

ただし、これらの誘導体はノルボルネンを得て合成される場合もありますが、その前駆体であるシクロペンタジエンなどを誘導化したうえでディールズ・アルダー反応によって、ノルボルネン骨格を後から形成することも1つの製造法です。

参考文献
https://anzeninfo.mhlw.go.jp/anzen/gmsds/16219-75-3.html

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