トロパン

トロパンとは

トロパン (Tropane)とは、化学式C8H15Nで表される二環式有機化合物です。

ベラドンナやヒメジョオンなど、多くの植物に含まれる天然由来のアルカロイドを指します。トロパン構造をもった天然由来の炭素化合物をトロパンアルカロイドと呼び、抗コリン作用を有することから、様々な医薬品として使用されています。

植物から得られるトロパンアルカロイドには、コカインやアトロピン、ヒヨスチアミンなど、さまざまな種類が存在します。麻痺や麻酔、幻覚といった症状が出るため、取り扱いには注意が必要です。

トロパンの使用用途

トロパンおよびその誘導体は、抗コリン剤として、乗り物酔い、過敏性腸症候群、パーキンソン病など様々な治療薬のとして用いられています。また、トロパンアルカロイドは、鎮痛剤、局所麻酔薬、薬物中毒の治療薬としても使用されてきました。

トロパンアルカロイドは、天然の殺虫剤、除草剤として農業に使用される場合が多いです。農作物の害虫や雑草を駆除するために使用されてきましたが、毒性が強いため、その使用は制限されています。

コカインやクラックコカインなどの違法薬物も、トロパンアルカロイドを原料としています。トロパンアルカロイドを含む植物は毒性があり、皮膚から血液に取り込まれることもあります。体温の上昇や口乾、瞳孔散大、視界不良などを引き起こすため、注意が必要です。

トロパンの性質

トロパンはアルカロイド類に属する二環式有機化合物で、化学式はC8H15N、分子量は125.21g/molです。トロパンは無色の結晶性の固体で、水にはわずかに溶けるのみですが、エタノールやクロロホルムなどの有機溶媒にはよく溶けます。

トロパンはキラル化合物であり、互いに鏡像である2つのエナンチオマーが存在します。これらのエナンチオマーは、物理的性質は同じですが、生物学的活性が異なります。トロパンおよびその誘導体は、鎮痛作用、鎮痙作用、散瞳作用など、薬理作用はさまざまです。

トロパンの構造

トロパンは、7員環と5員環が縮合した二環式構造をしています。7員環には窒素原子が含まれており、これがトロパンの基本的な性質に影響を与えています。

トロパンの結晶構造については広く研究されており、結晶構造解析の結果、トロパンは空間群P21/nの単斜晶系を形成していることが判明しました。この結晶構造から、トロパンは7員環がイス型、5員環が船型の、わずかに凹んだコンフォメーションをとっていることが明らかになっています。

トロパン分子は、窒素原子にキラル中心が存在するため、2つの光学異性体を有している。トロパンの2つのエナンチオマー、 (-) -トロパンと (+) -トロパンは互いに鏡像であり、異なる生物活性を示します。

トロパンのその他情報

トロパンの製造方法

トロパンおよびその誘導体は、通常植物などの天然物から単離されますが、有機化学的な手法で合成することも可能です。工業的には、ピリジンを出発原料とした多段階合成により生産されています。

1.ピリジンのニトロ化
ピリジンを濃硝酸と硫酸の混合液で硝酸化し、3-ニトロピリジンを合成します。

2. 3-ニトロピリジンの還元
得られた3-ニトロピリジンを、水素ガスとニッケル触媒などを用いて、3-アミノピリジンに還元します。

3. トロピノンの合成
3-アミノピリジンを水酸化カリウムなどの強塩基の存在下、2-クロロエタノールまたはエチレンオキシドで環化し、トロピノンを調製します。

4. トロピノンの還元
トロピノンを水素化ホウ素ナトリウムまたは水素化アルミニウムリチウムを用いて還元し、トロピンに変換します。

5. トロピンのエステル化
硫酸などの強酸触媒の存在下、塩化ベンゾイルやトロピン酸などのカルボン酸でトロピンをエステル化し、目的とするトロパンおよびトロパン誘導体を製造することができます。

この工程は複雑で複数のステップを必要としますが、さまざまなトロパン誘導体を製造するための工業的プロセスとして確立されています。

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