リン酸二水素ナトリウム

リン酸二水素ナトリウムとは

リン酸二水素ナトリウム (英: Sodium dihydrogen phosphate) とは、ナトリウムのリン酸塩の1つで、化学式NaH2PO4であらわされる無機化合物です。

別名には、リン酸一ナトリウム、第一リン酸ナトリウム、第一リン酸ソーダなどの名称があります。CAS登録番号は、7558-80-7です。固体状態の化合物は、無水物の他に一水和物、二水和物が知られています。

リン酸二水素ナトリウムの使用用途

リン酸二水素ナトリウムの主な使用用途は、食品加工、ベーキングパウダー、乳化剤、食肉結着剤、緩衝剤、pH調整剤、洗剤、緩衝剤、清缶剤、細胞培養、染色助剤などです。食品添加物として指定添加物に定められていることから、特に食品産業の分野で幅広く用いられています。

また、リン酸二水素ナトリウムは、水によく溶解し、緩衝作用を有することから実験室レベルで、pHバッファー用試薬として頻繁に利用される物質です。その他には、医療分野において、血中のリン濃度を高めるための薬剤として処方されたり、リン酸二水素ナトリウム無水物と炭酸水素ナトリウムの等量混合物が下剤 (坐剤) として用いられたりします。

リン酸二水素ナトリウムの性質

リン酸二水素ナトリウムの基本情報

図1. リン酸二水素ナトリウムの基本情報

リン酸二水素ナトリウムは、分子量119.98であり、常温での外観は、白色の結晶、または粉末です。吸湿性を示します。

また、無水物の密度は2.36g/mLです。水に溶けやすく (水への溶解度: 59.90 g/100 mL (0°C)) 、エタノールに極めて溶けにくい物質です。0.2mol/L, 25℃の条件において、水溶液のpHは4.2~4.7を示します。

リン酸二水素ナトリウムの種類

リン酸二水素ナトリウムは、研究開発用試薬製品や、工業用化学薬品などとして販売されています。

1. 研究開発用試薬製品

研究開発用試薬製品としては、無水物の他に一水和物や二水和物が販売されています。容量の種類は、25g、100g、500gなど、メーカーによって様々なものがあります。通常、どれも室温で保管可能な物質です。

2. 工業用化学薬品

工業用化学薬品としても、無水物の他に二水和物などが販売されています。食品添加物や、その他の一般的な工業用途を想定して、幅広いメーカーから提供されている物質です。通常、25kgなどの比較的大きな容量で販売されています。

リン酸二水素ナトリウムのその他情報

1. リン酸二水素ナトリウムの合成

リン酸二水素ナトリウムの生成

図2. リン酸二水素ナトリウムの生成

リン酸二水素ナトリウムの製造方法としては、リン酸の部分的な中和が一般的です。具体的には、水酸化ナトリウム、またはリン酸水素二ナトリウムを用います。

2. リン酸二水素ナトリウムの化学反応

リン酸二水素ナトリウムの分解反応

図3. リン酸二水素ナトリウムの分解反応

リン酸二水素ナトリウムを169 ℃まで加熱すると、分解して二リン酸二水素二ナトリウムと水が生成します。また、550℃まで加熱するとトリメタリン酸ナトリウムと水に分解します。

通常の保管環境においては安定ですが、吸湿性があるため、高温と直射日光、湿気を避ける必要がある物質です。危険有害な分解生成物としては、リン酸化物が想定されます。

3. リン酸二水素ナトリウムの危険性と法規制情報

リン酸二水素ナトリウムは、眼刺激性の危険があります。GHS分類では、眼に対する重篤な損傷性/眼刺激性で、区分2Bに分類されています。取り扱いの際は、個人用保護具を着用し、皮膚、 眼、 衣服と の接触を避けることが必要です。

また、取扱い後には顔や手など、ばく露した皮膚を洗う必要があります。眼に入っ た場合の対処法は、水で数分間注意深く洗うことです。なお、法規制の観点では、リン酸二水素ナトリウムは、労働安全衛生法、労働基準法、PRTR法、毒物および劇物取締法のいずれにおいても該当しません。

参考文献
https://labchem-wako.fujifilm.com/sds/W01W0119-0970JGHEJP.pdf

過酸化ナトリウム

過酸化ナトリウムとは

過酸化ナトリウムとは、ナトリウムの過酸化物で、組成式Na2O2で表される無機化合物です。

CAS登録番号は1313-60-6であり、別名では過酸化ソーダとも呼ばれます。過酸化ナトリウムは、無水物の他、八水和物Na2O2・8H2Oをはじめとして、二水和物Na2O2·2H2Oや、Na2O2·2H2O、Na2O2·2H2O2·4H2Oなど、水和物や過酸化物水和物の状態で存在しています。

過酸化ナトリウムの使用用途

過酸化ナトリウムは抗菌性・漂白作用・脱臭作用などを持つ物質です。そのため、衣服や配管など様々な製品に対して漂白剤や洗剤として用いられています。動植物繊維、羽毛、骨、象牙、ワックスなどの漂白にも使用可能です。

産業用途としては、分析用試薬、過酸化物、過ホウ酸塩などの有機過酸化物製造にも用いられています。二酸化炭素吸収剤として潜水艦などの空気浄化にも用いられる物質です。

また、過酸化ナトリウムは酸素系漂白剤として知られており、衣料用洗剤としてだけではなく洗濯槽の掃除にも用いられることが多いです。安全性が高く、漂白剤特有の臭いがしないなどの特徴を持つため、一般家庭でも広く用いられています。

過酸化ナトリウムを主成分とした漂白剤は、粉末状で販売されていることが多いです。衣料用漂白剤として用いる場合は、洗濯機に少量の過酸化ナトリウムを入れて洗濯することで簡単に漂白効果・脱臭効果を得ることができます。

過酸化ナトリウムの性質

過酸化ナトリウムの基本情報

図1. 過酸化ナトリウムの基本情報

過酸化ナトリウムの無水物は、式量77.98、融点460℃、沸点675℃であり、常温常圧では淡黄色の粉末状結晶です。なお、八水和物は無色の結晶状固体です。

水に溶けやすく、その時酸素を発生して発熱します。また、エタノールやその他の可燃性物質に触れると発火します。密度は2.80g/mLです。

過酸化ナトリウムの種類

過酸化ナトリウムは、主に研究開発用試薬製品や、産業用無機薬品として販売されています。研究開発用試薬製品としては、10g、25g、100g、500gなどの容量の種類があります。

吸湿性があり、酸化性が強いため、取り扱いや保管には注意が必要です。通常室温で保管可能な試薬製品として取り扱われています。なお、産業用としてはドラムなどの荷姿で販売されています。

過酸化ナトリウムのその他情報

1. 過酸化ナトリウムの合成

過酸化ナトリウムの合成

図2. 過酸化ナトリウムの合成

金属ナトリウムを乾燥空気中で130℃から200℃の高温で加熱することにより、酸化ナトリウムを経由して過酸化ナトリウムの無水物を得ることができます。また、過酸化ナトリウムの八水和物は、過酸化水素と水酸化ナトリウム水溶液を混合することによって合成が可能です。

2. 過酸化ナトリウムの化学反応

過酸化ナトリウムの化学反応

図3. 過酸化ナトリウムの化学反応

過酸化ナトリウムは、水と激しく反応して水酸化ナトリウムと過酸化水素に分解します。また、沸点である657℃を超えて加熱すると酸素を放出して、酸化ナトリウムへ変化します。過酸化ナトリウムは強い酸化剤です。二酸化炭素を吸収して炭酸ナトリウムと酸素を生成し、一酸化炭素と反応して炭酸ナトリウムを生じます。

保管においては、湿気により発熱、発火することがあります。水と激しく反応し、有毒ガスを発生するため、水、湿気のある空気、火気を避けて保管することが必要です。また、 可燃物、有機物、金属粉との混触により発火又は爆発する恐れがあるため、こうしたものとの混触も避けるべきとされます。

3. 過酸化ナトリウムの法規制情報

過酸化ナトリウムは毒物及び劇物取締法で「劇物」に指定されている物質です。その他には、労働安全衛生法において「危険物・酸化性のもの」に指定されている他、消防法で「第1類酸化性固体、無機過酸化物」に指定されています。法令を遵守して正しく取り扱うことが重要です。

参考文献
https://anzeninfo.mhlw.go.jp/anzen/gmsds/1148.html

過ヨウ素酸ナトリウム

過ヨウ素酸ナトリウムとは

過ヨウ素酸ナトリウム (英: Sodium periodate) とは、過ヨウ素酸のナトリウム塩で、組成式NaIO4で表される無機化合物です。

別名はメタ過ヨウ素酸ナトリウムであり、CAS登録番号は7790-28-5です。過ヨウ素酸イオンの塩には、メタ過ヨウ素酸塩の他に正塩や水素塩などに分類されるオルト過ヨウ素酸塩があります。

過ヨウ素酸ナトリウムの使用用途

過ヨウ素酸ナトリウムの主な使用用途は、過ヨウ素酸源、分析試薬、酸化剤などです。特に、過ヨウ素酸ナトリウムは、様々な化学反応で酸化剤として用いられます。

代表的な酸化反応に、グリコールの酸化開裂があります。開裂反応とは、化学物質に含まれる共有結合を酸化することにより2つの物質へ分解する反応です。

グリコールは脂肪族炭化水素の2つの炭素にヒドロキシ基が結合した化合物ですが、グリコールに過ヨウ素酸ナトリウムを加えると、ヒドロキシ基を持つ2つの炭素間の共有結合が切断されます。これによって、アルデヒドやケトンが生成します。

過ヨウ素酸ナトリウムの性質

過ヨウ素酸ナトリウムの基本情報

図1. 過ヨウ素酸ナトリウムの基本情報

過ホウ酸ナトリウムは、分子量213.89であり、300℃で分解します。常温常圧での外観は、白色の固体です。水には易溶であるものの、エタノールなどの有機溶媒にほとんど溶けません。水への溶解度は3.8g/100mL (6°C) 、密度は3.865g/mLです。

過ヨウ素酸ナトリウムの種類

過ヨウ素酸ナトリウムは、主に研究開発用試薬製品として販売されています。容量の種類は、5g、25g、100g、500gなどであり、実験室で取り扱いやすい容量で提供されています。

通常の保管環境においては安定で、室温で保管可能な試薬製品としての提供が一般的です。

過ヨウ素酸ナトリウムのその他情報

1. 過ヨウ素酸ナトリウムの合成

過ヨウ素酸ナトリウムの合成

図2. 過ヨウ素酸ナトリウムの合成

過ヨウ素酸ナトリウムは、硝酸を用いたオルト過ヨウ素酸二水素三ナトリウムNa3H2IO6の脱水反応によって合成可能です。オルト過ヨウ素酸二水素三ナトリウムは、ヨウ素酸ナトリウムを水酸化ナトリウム溶液中で、塩素と反応させることによって合成することができます。

また、オルト過ヨウ素酸二水素三ナトリウムNa3H2IO6は水酸化ナトリウム溶液中で、ヨウ化ナトリウムと臭素を反応させる反応によっても合成可能です。

2. 過ヨウ素酸ナトリウムの化学反応

過ヨウ素酸ナトリウムを用いた有機合成反応 (1,2-ジオールの開裂)

図3. 過ヨウ素酸ナトリウムを用いた有機合成反応 (1,2-ジオールの開裂)

過ヨウ素酸ナトリウムは、酸化剤として有機合成化学分野で用いられます。水にのみ溶解するため、水溶性の低い有機化合物を基質として用いる場合には、補助溶媒としてはメタノール・エタノール・アセトニトリルが用いられます。

過ヨウ素酸ナトリウムの酸化反応のうち最も汎用されている反応は、1,2-ジオールの開裂反応です。本反応においては、ヒドロキシ基の結合した炭素間の炭素-炭素結合が切断され、対応するアルデヒドまたはケトンを得ることができます。

3. 過ヨウ素酸ナトリウムの危険性と法規制情報

過ヨウ素酸ナトリウムは、火災を助長する恐れのある酸化性物質であり、GHS分類では酸化性固体: 区分2に指定されています。法規制に従った保管及び取扱においては安定と考えられますが、還元剤、金属微粉末との混合物は爆発性があるため還元剤との接触を避けるべきとされます。混触危険物質は、有機物、可燃性物質、還元剤、金属微粉末です。

上記の危険性から過ヨウ素酸ナトリウムは法令で取り扱いが制限されている物質です。消防法では第1類酸化性固体、過ヨウ素酸塩類に指定されています。法令を遵守して正しく取り扱うことが重要です。熱、火花、裸火、高温のもののような着火源から遠ざけ、適切な保護手袋などの保護具を用いることが必要です。

参考文献
https://labchem-wako.fujifilm.com/sds/W01W0119-0240JGHEJP.pdf

過ヨウ素酸

過ヨウ素酸とは

過ヨウ素酸とは、ヨウ素のオキソ酸の一種です。

一般的には化学式がH5IO6と表されるオルト過ヨウ素酸 (英: Orthoperiodic acid) を指します。ただし広義には、化学式がHIO4で表されるメタ過ヨウ素酸 (英:Metaperiodic acid) とオルト過ヨウ素酸を合わせて過ヨウ素酸と呼びます。ヨウ素の酸化数は+7です。

オルト過ヨウ素酸とメタ過ヨウ素酸は、それぞれ様々な金属元素と過ヨウ素酸塩を形成します。水溶液中では過ヨウ素酸イオンと水素イオンに電離しています。

過ヨウ素酸の使用用途

過ヨウ素酸は、多糖類の検出方法であるPAS反応に用いられます。PASとは「過ヨウ素酸-SCHIFF」の略で、過ヨウ素酸とSCHIFF試薬を用いる反応です。SCHIFF試薬は主にアルデヒドとケトンを見分けるのに使われる試薬で、フクシンと亜硫酸から合成されます。

PAS反応では、まず対象物質に過ヨウ素酸を作用させ、多糖類を2つのアルデヒドに分解可能です。次にSCHIFF試薬を加えると、生成したアルデヒドを呈色させます。PAS反応を用いることで、臓器などに多糖類が含まれているかどうかを判定可能です。

また過ヨウ素酸は、ジオールを2個のカルボニル化合物に酸化開裂させる反応にも利用されます。

過ヨウ素酸の性質

メタ過ヨウ素酸は100°Cで昇華し、138°Cで分解します。分解によってH2OとO2を失い、ヨウ素酸 (HIO3) になり、さらに五酸化二ヨウ素 (I2O5) になります。

遊離酸としてオルト過ヨウ素酸の方が安定です。潮解性を有し、融点は122°Cで、130~140°Cで分解します。水に溶けやすく、25℃で100gの水に112g溶解します。弱酸であり、過塩素酸と比較して、酸性がはるかに弱いです。K1 = 5.1×10-4、K2 = 3.9×10-9、K3 = 2.5×10-12です。

過ヨウ素酸の構造

過ヨウ素酸の構造

図1. 過ヨウ素酸の構造

メタ過ヨウ素酸の結晶は、正八面体型のIO6が稜を共有している一次元鎖状の構造を取っています。水溶液中では正四面体のIO4が生じ、H5IO6などの溶存種との平衡が成り立っています。

オルト過ヨウ素酸は、無色の単斜晶系の結晶です。パラ過ヨウ素酸とも呼ばれています。I原子を中心とする[OI(OH)5]の八面体構造を取っています。I-Oは1.78Åで、I-OHは1.89Åであり、密度は3.39g/cm3です。水溶液中にはIO65-、[HnIO6](5-n)-、IO4、[IO2(OH)4]、[IO3(OH)3]2-、[(HO)IO3(μ-O)2IO3(OH)]4-などが存在し、温度やpHなどで平衡が移動します。

過ヨウ素酸のその他情報

1. 過ヨウ素酸の合成法

過ヨウ素酸の合成

図2. 過ヨウ素酸の合成

オルト過ヨウ素酸水素バリウムと濃硝酸を反応させると、オルト過ヨウ素酸が生成します。オルト過ヨウ素酸を加熱するとメタ過ヨウ素酸が得られます。

2. 過ヨウ素酸の反応

過ヨウ素酸の反応

図3. 過ヨウ素酸の反応

過ヨウ素酸は1,2-二官能性化合物の切断反応に使用可能です。 例えば、ビシナルジオール (英: vicinal diol) の切断によって、2つのアルデヒドやケトンが得られます。マラプラード反応 (英: Malaprade reaction) と呼ばれ、糖環を開いて炭水化物の構造を決定する際に役立ちます。

マラプラード反応は糖類を蛍光分子やビオチンなどで標識するために利用可能です。リボースにはビシナルジオールがありますが、デオキシリボースにはビシナルジオールがありません。したがって、RNAの3’末端を選択的に標識するため、よく使用されています。

過ヨウ素酸は適度な強度の酸化剤としても使用可能です。クロロクロム酸ピリジニウム (PCC) を触媒として用いて、第2級アリルアルコールのBabler酸化によってエノンが得られます。

過ホウ酸ナトリウム

過ホウ酸ナトリウムとは

過ホウ酸ナトリウムの実際の構造 (一水和物)

図1. 過ホウ酸ナトリウムの実際の構造 (一水和物)

過ホウ酸ナトリウム (英: Sodium perborate) とは、組成式NaBO3で表される無機化合物です。

過ホウ酸ナトリウムは、形式上過ホウ酸HBO3のナトリウム塩として表されますが、実際には遊離酸としての過ホウ酸は存在していません。一般的に、一水和物や四水和物の状態で存在していますが、実際には図1のようなホウ素原子に水酸化物イオンが結合した分子構造をしています。

四水和物を加熱すると、過ホウ酸ナトリウム一水和物を得ることができます。CAS登録番号は、無水物が7632-04-4、一水和物が10332-33-9、四水和物が10486-00-7です。なお、過ホウ酸塩は他に、アンモニウム塩などが存在します。

過ホウ酸ナトリウムの使用用途

過ホウ酸ナトリウム一水和物の主な使用用途は、 織物用漂白剤、洗剤、口内洗浄液の成分、実験用試薬、コールドパーマの中和剤、電気めっき剤、殺菌剤、消臭剤、バット染色の顕色剤などがです。また、歯を白くするホワイトニングでは、過ホウ酸ナトリウム一水和物や過酸化水素、過酸化尿素が用いられています。

過ホウ酸ナトリウム四水和物は、一水和物と同様に洗剤や医療薬品として幅広く利用されています。四水和物の主な用途は衣料品用漂白剤です。羊毛や綿など様々な繊維を漂白することができるだけでなく、染料を定着させることもできます。

過ホウ酸ナトリウムの性質

1. 過ホウ酸ナトリウム一水和物の性質

過ホウ酸ナトリウム一水和物の基本情報

図2. 過ホウ酸ナトリウム一水和物の基本情報

過ホウ酸ナトリウム一水和物NaBO3・H2Oは、分子量99.8であり、60℃以上で分解します。常温常圧での外観は、白色の結晶または粉末です。密度は2.12g/mL、水への溶解度は15g/L (20℃) です。

2. 過ホウ酸ナトリウム四水和物の基本情報

過ホウ酸ナトリウム四水和物の基本情報

図3. 過ホウ酸ナトリウム四水和物の基本情報

過ホウ酸ナトリウム四水和物NaBO3・4H2Oは、分子量153.88、融点は60℃以上で分解、沸点258℃であり、常温常圧で無色無臭の固体です。水への溶解度は 2.3g/100mL (20℃) です。過ホウ酸ナトリウムの水溶液は、過酸化水素を遊離するため、酸化作用があります。

過ホウ酸ナトリウムの種類

過ホウ酸ナトリウムは、一般には主に研究開発用試薬製品として販売されています。ほとんどの市販品は、四水和物ですが、稀に一水和物も販売されています。容量の種類には、100g、500g、2500gなどがあり、実験室で取り扱いやすい容量で販売されています。室温で保管可能な試薬製品です。

過ホウ酸ナトリウムのその他情報

1. 過ホウ酸ナトリウムの合成

過ホウ酸ナトリウムは、2段階の合成反応によって得ることができます。

  1. ホウ酸ナトリウムと水酸化ナトリウムの反応によるメタホウ酸ナトリウムの合成
  2. メタホウ酸ナトリウムと過酸化水素の反応による過ホウ酸ナトリウム四水和物の合成

四水和物を加熱することにより、過ホウ酸ナトリウム一水和物を得ることが可能です。

2. 過ホウ酸ナトリウムの有害性

過ホウ酸ナトリウム一水和物は、下記のような有害性が指摘されています。

  • 火災助長のおそれ (GHS分類・酸化性固体: 区分3)
  • 飲み込むと有害 (GHS分類・急性毒性 (経口) : 区分4)
  • 吸入すると有毒 (GHS分類・急性毒性 (吸入:粉じん) : 区分3)
  • 重篤な眼の損傷 (GHS分類・眼に対する重篤な損傷眼刺激性:  区分1)
  •  生殖能または胎児への悪影響のおそれの疑い (GHS分類・生殖毒性: 区分2)

また、過ホウ酸ナトリウム四水和物についても下記のような有害性が指摘されています。

  • 重篤な眼の損傷 (GHS分類・眼に対する重篤な損傷眼刺激性:  区分1)
  • 生殖能または胎児への悪影響のおそれの疑い (GHS分類・生殖毒性: 区分2)
  • 水生生物に毒性 (GHS分類・水生環境急性有害性: 区分2)
  • 長期的影響により水生生物に毒性 (GHS分類・水生環境慢性有害性: 区分2)

3. 過ホウ酸ナトリウムの法規制情報

過ホウ酸ナトリウムは、上記の有害性から、各種法令による規制を受ける化合物です。四水和物は、消防法において「第1類酸化性固体、ペルオキソほう酸塩類」に指定されている他、PRTR法においては、一水和物四水和物共に「新規指定化学物質 (第1種) 」に指定されています。法令を遵守して正しく取り扱うことが必要です。

参考文献
https://anzeninfo.mhlw.go.jp/anzen/gmsds/7632-04-4.html

臭化メチル

臭化メチルとは

臭化メチル (英: Methyl Bromide、化学式CH3Br) とは、ブロモメタン、ブロムメチル、メチルブロマイドとも呼ばれるハロゲン化アルキルの1種です。

労働安全衛生法では、特定化学物質第2類物質、特定第2類物質、変異原性が認められた既存化学物質、作業環境評価基準、名称等を表示すべき危険物及び有害物、危険物・可燃性のガス、名称等を通知すべき危険物及び有害物に該当します。

労働基準法では疾病化学物質、化学物質管理促進法 (PRTR 法) では第1種指定化学物質に該当します。毒物及び劇物取締法では、劇物に該当するため取扱いには注意が必要です。

臭化メチルの使用用途

臭化メチルは、液化ガスとして販売されており、1980年代では土壌病害防除や雑草防除、検疫処理を行う際に、有用なくん蒸剤として利用されていました。

しかし、1992年に開催された、オゾン層を破壊する物質に関するモントリオール議定書第 4回締約国会合において、臭化メチルがオゾン層破壊物質として指定されたことから、先進国では 2005年に、開発途上国では2015年に全廃されています。

検疫処理用、および必要不可欠な用途での臭化メチルの使用については、現在のところ規制対象外です。

臭化メチルの性質

1. 物理的性質

臭化メチルは無色無臭の気体で、分子量は94.94、CAS番号は 74-83-9で登録されています。融点−93.66℃、沸点、初留点及び沸騰範囲4℃、自然発火温度537℃、爆発範囲 10~16vol%の極めて可燃性、引火性が高いガスです。

蒸気密度は3.3 (空気 = 1) と空気より重く、比重は1.730 (液体) です。

2. 化学的性質

水への溶解度は1.75g/100g (20℃) (748mmHg) 、また アルコール、クロロホルム、エーテル、二硫化炭素、四塩化炭素、ベンゼンと混和します。加熱、燃焼により分解し、臭化水素、臭素、オキシ臭化炭素を含む有毒で腐食性のヒュームを生じます。

また、水の存在下で多くの金属を侵す性質を持ち、アルミニウム、亜鉛、マグネシウムを侵して発火化合物を生成し、火災および爆発の危険があるため、注意が必要です。強酸化剤と反応する性質があり、強酸化剤、加熱、燃焼、水との接触を避けて使用、保管を行います。

臭化メチルのその他情報

1. 臭化メチルの製造方法

メタノールと臭化水素酸との相互作用により製造されるのが一般的です。一部の工程では、テトラブロモビスフェニールAとの、同時製造物として製造されます。

2. 臭化メチルの安全性

吸引、飲み込むと有害であり、皮膚および眼への刺激のおそれがあります。また、遺伝子疾患や生殖能または胎児への悪影響の危険性に加え、神経系、呼吸器、肝臓、腎臓、消化器系の障害を引き起こす可能性があり、人体に有害です。

長期や反復ばく露により神経系、心臓、血液障害を引き起こす可能性があることから、取扱い時は適切な保護具、設備が必要です。また、水生生物に対し非常に強い毒性を持つことから、環境への流出を避けるとともに、廃棄時は都道府県知事の許可を受けた専門の廃棄物処理業者に業務委託することが定められています。

3. 臭化メチルの取扱い方法

適切な呼吸器系保護具、保護手袋、眼の保護具、保護衣を着用し、取扱時は飲食、喫煙を避け、取扱後はよく手を洗い、人体への接触を避けます。作業場は、洗眼器と安全シャワーを設置し、ばく露を防止するため、装置の密閉化、または防爆タイプの局所排気装置を設置が必要です。

火災発生時、ガス漏洩が停止出来ない場合は、非常に危険なため消火活動を行いません。安全に対処できる場合に限り、着火源を除去し、火災区域から容器を移動させます。

4. 応急処置

万が一吸引した場合は、空気が新鮮な場所へ移動し、呼吸しやすい姿勢で休息させ、直ちに医師に連絡します。皮膚、または眼に付着した場合は、大量の水で数分間洗い流し、刺激が継続する場合は医師の診断、手当が必要が必要です。

臭化メチルは、人体の許容濃度を超えても臭気を十分に感じません。高濃度の場合、死に至る可能性があることから、使用時は、換気が行われているか必ず確認を行います。

5. 臭化メチルの保管

保管容器は密閉し、冷乾所にて、日光を遮断し、換気のよい場所で施錠して保管します。熱、火花、裸火、高温などの着火源から離し、強酸化剤との接触を避けることで、安全に保管が可能です。

参考文献
http://jppa.or.jp/archive/pdf/70_03_59.pdf
https://anzeninfo.mhlw.go.jp/anzen/gmsds/74-83-9.html

窒化鉄

窒化鉄とは

窒化鉄とは、鉄と窒素の化合物で「Fe2N」「Fe4N」「Fe16N2」などの複数の結晶形を持つ侵入型化合物です。

窒素の含有量によって、結晶系が変化し、磁気的特性も大きく異なります。金属と酸化物の中間的な性質を持ち、耐食性・耐候性・硬質性に優れています。また、金属と酸化物の中間的な性質をもっています。そのため金属のFeに比べて耐食性・耐候性・硬質性に優れているといった性質があります。

Fe4Nは室温環境下において、強磁性を示すことが特徴です。強磁性から常磁性に遷移する際の温度であるキュリー温度は、約490 ℃ です。窒化鉄の中でも特にFe4NとFe16N2は、高い飽和磁化性があるため、耐食性・耐候性・機械的特性が優れた磁性材料として様々な用途への適用が期待されています。

窒化鉄の使用用途

窒化鉄は、高硬度で優れた耐摩耗性や耐食性を有しているため、フェライト鋼等の表面硬化に使用されています。窒化処理法という表面硬化法を使用することで、表面が硬化し、鋼の耐摩耗性を向上させる働きがあります。この加工方法は航空機の部品などに使用されることが一般的ですが、フライパンなどの調理器具にも利用される場合があります。

表面処理としての窒化方法には、ガス窒化、塩浴窒化、イオン窒化があります。ガス窒化は、1923年に開発された方法で、アンモニアガスの中で加熱されます。塩浴窒化は迅速窒化を目的として開発された方法で、シアン塩を主体とした塩浴中で加熱されます。イオン窒化は窒素と水素の混合気体に数百ボルトの電圧をかけてイオンを生成し、処理物に高速でぶつけることで窒化します。

また、強磁性を持つ窒化鉄は、永久磁石の材料として期待されています。これまでに製品化された永久磁石の中で最も優れた性能を示すのがネオジム磁石です。ネオジム磁石はレアアースを含むため生産コストがかかりますが、現在では廉価に手に入れることができます。窒化鉄はネオジウム磁石の代替素材として研究が進められており、レアアースレス磁石とも呼ばれるようになっています。

窒化鉄の性質

1. 高硬度

結晶の転移

図1. 結晶の転移

窒化鉄は通常の鉄鋼よりもはるかに硬く、その硬さは通常の鉄鋼の5倍以上に達することがあります。この高い硬度は、窒素による固溶強化によるものです。固溶強化とは、金属に異なる元素を添加することにより原子配列に変形を引き起こし、転位の動きを制限することで強度を向上させる方法です。

原子は通常、規則的に配置されていますが、微小な欠陥である「転位」と呼ばれるものが存在する場合があります。力が加わると構造的に不安定な転位がその方向に動き、最終的に変形します。

鉄原子の構造の中に窒素を侵入させることで原子配列をひずみを生じさせ、転移を抑制する効果があります。舗装されている道よりも凹凸のある道の方が走りにくいのと同じように、転移もひずみのある原子配列の中では動きにくいのです。

2. さびに強い

耐食性

図2. 耐食性

窒化鉄は通常の鉄鋼よりも耐食性が高いという性質があります。耐食性は、さびにくい性質を指します。窒化鉄がさびにくい原因についていは諸説ありますが、はっきりとはわかっていません。ただし、耐食性は実験的には実証されています。また、窒野外で雨にぬれてもさびにくいので耐候性があると言えます。耐候性とは天気の変化に強い性質のことです。

3. 強磁性

Fe16N2の構造

図3. Fe16N2の構造

Fe4Nは、室温環境下において、強磁性を示すことが特徴です。窒化鉄の中でも、特に、Fe4NとFe16N2は、高い飽和磁化値を有しており、耐食性・耐候性・機械的特性が優れた磁性材料として、様々な用途への適用が期待されています。窒化鉄は、レアアースを含まないことも特徴の一つで、レアアースレス磁石とも呼ばれています。

通常の鉄の結晶は全ての辺の長さが等しい立方体の結晶構造になっています。それに対してFe16N2は特定の軸の方向に伸びた直方体の結晶構造をしています。そのため、鉄原子の磁気モーメントは結晶軸の特定の方向を向くことになり、強い磁力を示します。

Fe16N2において永久磁石の性能を表すエネルギー積は全ての磁石の種類の中で最大の値が得られています。また、強磁性から常磁性に遷移する際の温度であるキュリー温度は、約490 ℃で、温度による減磁が小さいことが知られています。

硫酸クロム

硫酸クロムとは

硫酸クロム (英:chromium sulfate) とは、クロムと硫酸の化合物です。

主に、皮なめしや染色などの産業用途で使用される化学物質です。硫酸クロムはさまざまな形態で存在し、硫酸クロム無水物Cr2(SO4)3や硫酸クロム水和物Cr2(SO4)3·H2Oなどがあります。

硫酸クロムは、特定の産業用途において重要な化学物質ですが、その有毒性や腐食性に注意して取り扱う必要があります。また、使用や処分に際しては安全な方法を確保することが重要です。

硫酸クロムの使用用途

1. 硫酸クロム(Ⅱ)

硫酸クロム(Ⅱ)は、空気中で極めて酸化されやすい性質を有しており、分析試薬や還元剤として利用されています。 

2. 硫酸クロム(Ⅲ)

硫酸クロム(Ⅲ)は、染料の原料をはじめ、電解研磨剤、メッキ剤、皮なめし剤として利用されています。

3. クロムめっき

クロムめっきは、耐摩擦性、耐衝撃性、耐食性を有しており、かつ美しい光沢が特徴です。この特徴を活かし、工業製品から装飾まで幅広く活用されています。

また、うわぐすりの原料、防腐剤、金属アレルギー検査におけるパッチテスト試薬なども用途の1つです。

硫酸クロムの性質

硫酸クロムは紫色または赤色の固体です。水に対する溶解度は64g/100g水で、水溶液は酸性を示します。アルコールには溶けません。また、硫酸クロムは高温で安定であり、一般的な条件下では分解しにくいです。

なお、硫酸クロムはクロム(Ⅲ)イオンCr3+と硫酸イオンSO42-のイオン結晶です。水に溶けると、電離し、Cr3+とSO42-に分かれます。

1. 酸化剤

硫酸クロムは酸化剤としてはたらきます。酸化剤とは、他の物質を酸化する性質をもつ物質のことです。

2. 触媒

硫酸クロムは触媒としても使用されます。例えば、有機合成反応や酸化反応の触媒として利用されることがあります。化学反応の速度を促進する役割を果たします。

3. 反応

水分子と結合して水和物が生成されることがあります。また、硫酸クロムの一般的な反応としては、酸化還元反応が含まれます。例えば、アルコールを酸化してアルデヒドやケトンを生成する反応に利用されます。

4. 安全性

硫酸クロムは有毒であり、皮膚や目、呼吸器に対して害を及ぼす可能性が高いです。取り扱う際には、適切な安全措置を講じる必要があります。

また、硫酸クロムの取り扱いや処分には法律や規制が存在する場合もあるため、これに従うことが重要です。

硫酸クロムの種類

硫酸クロムは重金属無機化合物で、組成式がCrSO4の硫酸クロム(Ⅱ)およびCr2(SO4)3の硫酸クロム(Ⅲ)があります。硫酸クロムは、硫酸クロム(Ⅲ)のことを指すのが一般的です。

1. 硫酸クロム(Ⅱ)

硫酸クロム(Ⅱ)は、七水和物、五水和物、一水和物が知られているものの、無水物はありません。金属クロムを希硫酸で溶解することで得られます。「硫酸第一クロム」とも呼ばれています。

2. 硫酸クロム(Ⅲ)

硫酸クロム(Ⅲ)は、十八水和物、十七水和物、九水和物、六水和物、三水和物、無水物が知られています。クロムミョウバンに濃硫酸を加えて冷却することで、おもに十八水和物が得られます。

十八水和物の加熱により、十七水和物、九水和物、六水和物、三水和物、無水物が得られ、「硫酸第二クロム」とも呼ばれることが多いです。また、硫酸クロム(Ⅲ)は、融点700℃で、常温において紫色または赤色の固体です。

PRTR法において「第1種指定化学物質」に指定されています。また、労働基準法における、「がん原性化学物質」「疾病化学物質」です。労働安全衛生法において「名称等を表示すべき危険有害物」「名称等を通知すべき危険有害物」に指定されています。

参考文献
https://anzeninfo.mhlw.go.jp/anzen/gmsds/10101-53-8.html

硫化銀

硫化銀とは

硫化銀とは、硫化銀(Ⅰ)とも呼ばれている銀の硫化物です。

天然の輝銀鉱として産出しています。融点845℃で、常温において灰色から黒色の固体です。また、加熱や酸との接触により、非常に有毒な可燃性ガス (硫化水素) を生じます。毒物および劇物取締法における「劇物 包装等級3」に指定されています。

硫化銀は、硫黄の蒸気に銀を接触させることで得られます。また、空気中の硫化水素と銀が反応することでも生じており、一般的に銀の錆といわれています。 

硫化銀の使用用途

硫化銀は、銀の製造原料や陶磁器の金属細工 (硫化銀粘土) に用いられています。

銀の主な使用用途は工業製品です。かつては写真フィルムが代表的な工業製品でしたが、デジタルカメラの普及により減少の一途をたどっています。今日では、プラズマディスプレイパネルや太陽光発電における送電線に利用されています。

このほか、硫化銀は、写真のセピア色の調色にも用いられています。写真フィルムの銀粒子を硫化イオンと反応させることにより硫化銀が生じます。この硫化銀により、セピア色の写真に仕上がります。

硫化銀の性質

硫化銀は灰色がかった黒色の粉末です。水、希塩酸、アンモニア水には溶けにくく、濃硫酸や濃硝酸、シアン化カリウム水溶液に溶けます。密度 7.23 g/cm3 、モース硬度2.3です。

硫化銀の薄膜は、可視光に対して光電効果を示すことが確認されています。光電効果とは物質に光を当てた時に電子を放出したり電流が流れたりする現象です。硫化銀は光によって分解しやすい性質 (感光性) があるので、必ず褐色ビンで保存しなくてはなりません。銀の化合物が感光性を示す理由としては、銀イオンが1価であり結合が切れやすいこと、銀は電気伝導性が高いので、光で生成した電子と正孔が分離しやすいことなどが挙げられます。

硫化銀の融点は845℃ですが、加熱すると二酸化硫黄を発生させながら熔けます。

硫化銀の構造

硫化銀の結晶形態としてはα型、β型、γ型の3種類が知られています。

α型は体心立方構造の結晶で、アーゲンタイト (輝銀鉱) と呼ばれています。この形態は180℃以上で安定で、179℃以下ではβ型に遷移します。ただし、外形はアーゲンタイトの結晶系に保たれることが多いです。

β型はアカンサイト (針銀鉱) と呼ばれています。結晶構造は単斜晶系で、通常は針状結晶もしくは四角形状、立方体状結晶の鉱物として産出されます。γ型の結晶構造は面心立方で、586 °C 以上で安定な形状です。自然には産出しません。

硫化銀のその他情報

1. 硫化銀の製造

硫化銀は天然には、アーゲンタイト (輝銀鉱) として産出します。銀の単体を硫化水素と反応させると硫化銀が生じます。また、銀イオンを含む水溶液に硫化水素を加えると硫化銀の黒色沈殿が生じます。

2. 銀製品の腐食

銀は酸化しにくい物質ですが、銀製品は時間の経過とともに表面が黒く変色することがあります。これは表面の銀が空気中の硫化水素と反応して硫化銀が生成するためです。

銀食器など銀製品の黒ずみをきれいに落とす方法として、アルミニウムと食塩を使う方法があります。鍋に水を入れて沸騰させ、なべの底にアルミホイルを敷いて、食塩を溶かします。その後、黒ずみが付着した銀製品を鍋の中に入れ五分間程度煮ます。

この方法はアルミニウムが銀よりイオン化傾向が高いことを利用したものです。そのため、硫化銀は銀に還元され、アルミニウムと硫黄が反応して硫化アルミニウムが生成されます。

3. 硫化銀の安全性情報

硫化銀は強い酸と接触すると、非常に有毒な可燃性ガスである硫化水素が発生するため、取り扱いには注意が必要です。さらに、金属ハロゲン化物と混合すると、衝撃、熱、摩擦に敏感な爆発性混合物となりますので、厳重に取り扱う必要があります。

また、硫化銀を空気中で加熱すると、二酸化硫黄と酸化銀が生成します。二酸化硫黄は、体内に入ると呼吸器系に影響を与え、せきや気管支炎、気管支喘息などの症状を引き起こすことがあります。そのため、硫化銀を加熱する場合には、適切な換気を行い、呼吸器の保護具を着用するなど、安全に取り扱うように注意が必要です。

硫化鉛

硫化鉛とは

硫化鉛とは、化学式がPbSの無機化合物です。

「硫化鉛(II) (英: Lead(II) sulfide) 」や「ガレナ (英: Galena) 」とも呼ばれています。方鉛鉱と呼ばれる鉱物として産出され、鉛の重要な化合物です。

硫化鉛の加熱によって、有毒なPbやSOxガスが発生します。PRTR法で「第1種指定化学物質」に指定されています。また、労働基準法では「疾病化学物質」です。労働安全衛生法で「名称等を表示すべき危険有害物」「名称等を通知すべき危険有害物」「リスクアセスメントを実施すべき危険有害物」に、毒物および劇物取締法で「劇物」に指定されています。

硫化鉛の使用用途

硫化鉛は、顔料、塗料、陶器の釉薬、潤滑油に配合される摩擦添加剤、合金原料など、幅広く利用されています。

塗料の黄鉛やモリブデートオレンジは、クロム酸鉛硫酸鉛およびモリブデン酸鉛を組み合わせて製造可能です。しかし、鉛の人体への悪影響を考慮して、第2回国際化学物質管理会議で、鉛塗料の廃絶が目標に定められました。日本でも鉛不使用の塗料が開発されていますが、コストの大幅な上昇が課題です。

さらに、硫化鉛は鉛の主要鉱物であり、化学変換にも大きく役立ちます。主に酸化物を還元すると、金属鉛が得られます。

硫化鉛の性質

硫化鉛の融点は1,114°C、沸点は1,281°Cです。硫化鉛は溶解性が低く、ほとんど害がありません。ただし精錬での熱分解で、危険な粉塵が生成します。炭酸鉛は溶解性が高いため、炭酸鉛から硫化鉛を得るときには、鉛中毒を引き起こします。

硫化鉛の構造

硫化鉛は黒色の立方晶系結晶を形成します。テルル化鉛(II)やセレン化鉛(II)と同じく、半導体の性質を示し、最も古くから用いられている半導体です。ただしIV-VI族の半導体とは違い、塩化ナトリウム型の結晶構造を有します。配位構造は正八面体型で、格子定数はa=5.936Åです。

硫化鉛のナノ粒子や量子ドットも研究されてきました。伝統的に、鉛の塩とあらゆる硫化物イオンを組み合わせると作れます。近年では、硫化鉛のナノ粒子が、太陽電池へ応用できると期待されています。

硫化鉛のその他情報

1. 硫化鉛(II)の合成法

鉛イオンの水溶液に硫化水素や硫化物を加えると、硫化鉛の黒色沈殿が生成します。この反応の平衡定数は3×106mol/Lです。無色や白色から黒色へ劇的に色が変わるため、定性無機分析に使用されていました。現在でも、硫化水素や硫化物を検出するための方法として、酢酸鉛試験紙があります。

2. 硫化鉛(II)の応用

古くから硫化鉛は、赤外線センサーの素子に利用されてきました。放射された素子の温度上昇に反応している熱センサーとは違い、直接光子に反応します。

光子が素子に当たった際に生じる微弱電流と素子の電気抵抗の変化が観測されます。室温で硫化鉛は波長1〜2.5μmの放射に反応し、波長領域は高温の物体だけが放射する赤外領域の短波長側です。硫化鉛素子をペルティエ素子や液体窒素により冷やすと、検出される波長領域が約2〜4μmに変わります。

長波長の赤外線を検出するためには、テルル化カドミウム水銀 (HgCdTe) やアンチモン化インジウム (InSb) が優れています。誘電率が高く、ゲルマニウム、ケイ素、HgCdTe、InSbより検出器の動作が遅いです。

3. 硫化鉛(IV)の特徴

硫化鉛(IV) (英: Lead(IV) sulfide) は化学式がPbS2で表される化合物で、モル質量は271.332 g/molです。高圧で硫黄と硫化鉛(II)を600°C以上で反応させると得られます。

硫化鉛(IV)は硫化スズ(IV) (SnS2) と同じく、ヨウ化カドミウム型構造で結晶化し、Pbが+4の形式酸化数を取ることを示しています。硫化鉛(IV)はp型半導体で、熱電材料として利用可能です。