過ヨウ素酸とは
過ヨウ素酸とは、ヨウ素のオキソ酸の一種です。
一般的には化学式がH5IO6と表されるオルト過ヨウ素酸 (英: Orthoperiodic acid) を指します。ただし広義には、化学式がHIO4で表されるメタ過ヨウ素酸 (英:Metaperiodic acid) とオルト過ヨウ素酸を合わせて過ヨウ素酸と呼びます。ヨウ素の酸化数は+7です。
オルト過ヨウ素酸とメタ過ヨウ素酸は、それぞれ様々な金属元素と過ヨウ素酸塩を形成します。水溶液中では過ヨウ素酸イオンと水素イオンに電離しています。
過ヨウ素酸の使用用途
過ヨウ素酸は、多糖類の検出方法であるPAS反応に用いられます。PASとは「過ヨウ素酸-SCHIFF」の略で、過ヨウ素酸とSCHIFF試薬を用いる反応です。SCHIFF試薬は主にアルデヒドとケトンを見分けるのに使われる試薬で、フクシンと亜硫酸から合成されます。
PAS反応では、まず対象物質に過ヨウ素酸を作用させ、多糖類を2つのアルデヒドに分解可能です。次にSCHIFF試薬を加えると、生成したアルデヒドを呈色させます。PAS反応を用いることで、臓器などに多糖類が含まれているかどうかを判定可能です。
また過ヨウ素酸は、ジオールを2個のカルボニル化合物に酸化開裂させる反応にも利用されます。
過ヨウ素酸の性質
メタ過ヨウ素酸は100°Cで昇華し、138°Cで分解します。分解によってH2OとO2を失い、ヨウ素酸 (HIO3) になり、さらに五酸化二ヨウ素 (I2O5) になります。
遊離酸としてオルト過ヨウ素酸の方が安定です。潮解性を有し、融点は122°Cで、130~140°Cで分解します。水に溶けやすく、25℃で100gの水に112g溶解します。弱酸であり、過塩素酸と比較して、酸性がはるかに弱いです。K1 = 5.1×10-4、K2 = 3.9×10-9、K3 = 2.5×10-12です。
過ヨウ素酸の構造
図1. 過ヨウ素酸の構造
メタ過ヨウ素酸の結晶は、正八面体型のIO6が稜を共有している一次元鎖状の構造を取っています。水溶液中では正四面体のIO4–が生じ、H5IO6などの溶存種との平衡が成り立っています。
オルト過ヨウ素酸は、無色の単斜晶系の結晶です。パラ過ヨウ素酸とも呼ばれています。I原子を中心とする[OI(OH)5]の八面体構造を取っています。I-Oは1.78Åで、I-OHは1.89Åであり、密度は3.39g/cm3です。水溶液中にはIO65-、[HnIO6](5-n)-、IO4–、[IO2(OH)4]–、[IO3(OH)3]2-、[(HO)IO3(μ-O)2IO3(OH)]4-などが存在し、温度やpHなどで平衡が移動します。
過ヨウ素酸のその他情報
1. 過ヨウ素酸の合成法
図2. 過ヨウ素酸の合成
オルト過ヨウ素酸水素バリウムと濃硝酸を反応させると、オルト過ヨウ素酸が生成します。オルト過ヨウ素酸を加熱するとメタ過ヨウ素酸が得られます。
2. 過ヨウ素酸の反応
図3. 過ヨウ素酸の反応
過ヨウ素酸は1,2-二官能性化合物の切断反応に使用可能です。 例えば、ビシナルジオール (英: vicinal diol) の切断によって、2つのアルデヒドやケトンが得られます。マラプラード反応 (英: Malaprade reaction) と呼ばれ、糖環を開いて炭水化物の構造を決定する際に役立ちます。
マラプラード反応は糖類を蛍光分子やビオチンなどで標識するために利用可能です。リボースにはビシナルジオールがありますが、デオキシリボースにはビシナルジオールがありません。したがって、RNAの3’末端を選択的に標識するため、よく使用されています。
過ヨウ素酸は適度な強度の酸化剤としても使用可能です。クロロクロム酸ピリジニウム (PCC) を触媒として用いて、第2級アリルアルコールのBabler酸化によってエノンが得られます。