窒化鉄

窒化鉄とは

窒化鉄とは、鉄と窒素の化合物で「Fe2N」「Fe4N」「Fe16N2」などの複数の結晶形を持つ侵入型化合物です。

窒素の含有量によって、結晶系が変化し、磁気的特性も大きく異なります。金属と酸化物の中間的な性質を持ち、耐食性・耐候性・硬質性に優れています。また、金属と酸化物の中間的な性質をもっています。そのため金属のFeに比べて耐食性・耐候性・硬質性に優れているといった性質があります。

Fe4Nは室温環境下において、強磁性を示すことが特徴です。強磁性から常磁性に遷移する際の温度であるキュリー温度は、約490 ℃ です。窒化鉄の中でも特にFe4NとFe16N2は、高い飽和磁化性があるため、耐食性・耐候性・機械的特性が優れた磁性材料として様々な用途への適用が期待されています。

窒化鉄の使用用途

窒化鉄は、高硬度で優れた耐摩耗性や耐食性を有しているため、フェライト鋼等の表面硬化に使用されています。窒化処理法という表面硬化法を使用することで、表面が硬化し、鋼の耐摩耗性を向上させる働きがあります。この加工方法は航空機の部品などに使用されることが一般的ですが、フライパンなどの調理器具にも利用される場合があります。

表面処理としての窒化方法には、ガス窒化、塩浴窒化、イオン窒化があります。ガス窒化は、1923年に開発された方法で、アンモニアガスの中で加熱されます。塩浴窒化は迅速窒化を目的として開発された方法で、シアン塩を主体とした塩浴中で加熱されます。イオン窒化は窒素と水素の混合気体に数百ボルトの電圧をかけてイオンを生成し、処理物に高速でぶつけることで窒化します。

また、強磁性を持つ窒化鉄は、永久磁石の材料として期待されています。これまでに製品化された永久磁石の中で最も優れた性能を示すのがネオジム磁石です。ネオジム磁石はレアアースを含むため生産コストがかかりますが、現在では廉価に手に入れることができます。窒化鉄はネオジウム磁石の代替素材として研究が進められており、レアアースレス磁石とも呼ばれるようになっています。

窒化鉄の性質

1. 高硬度

結晶の転移

図1. 結晶の転移

窒化鉄は通常の鉄鋼よりもはるかに硬く、その硬さは通常の鉄鋼の5倍以上に達することがあります。この高い硬度は、窒素による固溶強化によるものです。固溶強化とは、金属に異なる元素を添加することにより原子配列に変形を引き起こし、転位の動きを制限することで強度を向上させる方法です。

原子は通常、規則的に配置されていますが、微小な欠陥である「転位」と呼ばれるものが存在する場合があります。力が加わると構造的に不安定な転位がその方向に動き、最終的に変形します。

鉄原子の構造の中に窒素を侵入させることで原子配列をひずみを生じさせ、転移を抑制する効果があります。舗装されている道よりも凹凸のある道の方が走りにくいのと同じように、転移もひずみのある原子配列の中では動きにくいのです。

2. さびに強い

耐食性

図2. 耐食性

窒化鉄は通常の鉄鋼よりも耐食性が高いという性質があります。耐食性は、さびにくい性質を指します。窒化鉄がさびにくい原因についていは諸説ありますが、はっきりとはわかっていません。ただし、耐食性は実験的には実証されています。また、窒野外で雨にぬれてもさびにくいので耐候性があると言えます。耐候性とは天気の変化に強い性質のことです。

3. 強磁性

Fe16N2の構造

図3. Fe16N2の構造

Fe4Nは、室温環境下において、強磁性を示すことが特徴です。窒化鉄の中でも、特に、Fe4NとFe16N2は、高い飽和磁化値を有しており、耐食性・耐候性・機械的特性が優れた磁性材料として、様々な用途への適用が期待されています。窒化鉄は、レアアースを含まないことも特徴の一つで、レアアースレス磁石とも呼ばれています。

通常の鉄の結晶は全ての辺の長さが等しい立方体の結晶構造になっています。それに対してFe16N2は特定の軸の方向に伸びた直方体の結晶構造をしています。そのため、鉄原子の磁気モーメントは結晶軸の特定の方向を向くことになり、強い磁力を示します。

Fe16N2において永久磁石の性能を表すエネルギー積は全ての磁石の種類の中で最大の値が得られています。また、強磁性から常磁性に遷移する際の温度であるキュリー温度は、約490 ℃で、温度による減磁が小さいことが知られています。

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