テトラフルオロエチレン

テトラフルオロエチレンとは

図1. テトラフルオロエチレンの基本情報

テトラフルオロエチレン (Tetrafluoroethylene、TFE) とは、炭素-フッ素結合を持つ有機化合物 (フルオロカーボン) です。

分子式C2F2で表され、エチレンの水素原子を全てフッ素原子に置換した構造を持ちます。IUPAC命名則による名称は「テトラフルオロエテン (Tetrafluoroethene) 」であり、CAS登録番号は、116-14-3です。他の名称には、「ペルフルオロエチレン」「1,1,2,2-テトラフルオロエテン」「四フッ化エチレン」「TEF」「TFE」などがあります。

分子量100.02、融点-131.15℃、沸点-75.9℃ の、常温では無色無臭の気体です。密度は1.519g/cm3 (-76 ℃)  です。極めて可燃性や引火性の高いガスであるため、取り扱いには注意が必要です。

テトラフルオロエチレンの使用用途

テトラフルオロエチレンの主な用途は、フッ素樹脂や含フッ素化合物の原料です。

最も有名なフッ素樹脂の一つに、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、即ちテフロンが挙げられます。テフロンは耐熱性、耐化学薬品性、潤滑性、非粘着性などの性質があり、広く使用されています。

例えば、産業用途では、化学工業用の装置部品、機械部品、電気部品などのコーティングなどです。家庭用品ではフライパンのコーティングなどがあります。

その他のフッ素樹脂として、PFA (四フッ化エチレン・パーフルオロアルコキシエチレン共重合樹脂) やPFEP (四フッ化エチレン・六フッ化プロピレン共重合樹脂) などが挙げられます。なお、テフロンはライニング材や薬液用ボトル等として化学関連分野、すべり軸受け等として機械関連分野、半導体や電線被覆等として電気関連分野などで使用されています。

テトラフルオロエチレンの原理

テトラフルオロエチレンの原理を製造方法と性質の観点から解説します。

1. テトラフルオロエチレンの製造方法

テトラフルオロエチレンの合成

図2. テトラフルオロエチレンの合成

テトラフルオロエチレンは、主にクロロホルムフッ化水素によって合成することができます。この場合は、クロロホルムがフッ化水素と反応してクロロジフルオロメタンとなり、更にクロロジフルオロメタンが熱分解してTFEが生成するという反応機構です。

実験室的合成方法では、PTFEを減圧下で熱分解して製造します。ペンタフルオロプロピオン酸の熱分解によっても得ることができます。

2. テトラフルオロエチレンの化学的性質

テトラフルオロエチレンの化学的性質

図3. テトラフルオロエチレンの化学的性質

テトラフルオロエチレンは、非飽和のフッ化炭素化合物であるため、求核性を持ち、反応性の高い有機化合物です。また、Diels-Alder反応においてジエノフィルとして反応します。前述の通り、重合によってポリテトラフルオロエチレン (PTFE) を容易に生成する化合物です。

加水分解によって有毒のフッ化水素 (HF) を発生します。またナトリウム、カリウムなどの金属や、有機金属化合物とは爆発的に反応します。臭素との反応では無色油状の液体 (ジブロモテトラフルオロエタン) を生じる化合物です。

テトラフルオロエチレンの種類

単体のテトラフルオロエチレンは気体であり、前述の通り工業的にはポリマーの製造に用いられています。しかしながら、一般には単体のガスの形では販売されておらず、重合体のPTFE (ポリテトラフルオロエチレン) の形式で販売されていることが主流です。

重合体であるPTFEは前述の通り樹脂であり、形状・用途には様々なものがあります。試薬・若しくは原料素材として販売されているPTFEは、通常は白色粉末の形状であり、室温保存可能です。

参考文献
https://anzeninfo.mhlw.go.jp/anzen/gmsds/116-14-3.html
https://www.env.go.jp/content/900411125.pdf
https://www.nite.go.jp/
https://www.nies.go.jp/kisplus/dtl/chem/TKV00063

テトラクロロエタン

テトラクロロエタンとは

テトラクロロエタンの基本情報

図1. テトラクロロエタンの基本情報

テトラクロロエタンとは、分子式C2H2Cl4で表される有機化合物です。

正式名称は、1,1,2,2-テトラクロロエタン (1,1,2,2-tetrachloroethane) であり、慣用的には1,1,2,2-四塩化エタン、四塩化アセチレン、アセチレンテトラクロリドとも呼ばれます。CAS登録番号は、79-34-5です。

分子量167.85、融点-44℃、沸点146.5℃ の、常温では無色からわずかにうすい黄色の液体です。臭いは、特異臭、フェノール臭を放つとされています。密度は1.59g/mLです。

水には微溶ですが (溶解度0.29g/100mL (20℃) )  、アセトンベンゼン、アルコール、エーテルなど各種有機溶剤と混和します。特に、エタノール及びジエチルエーテルに極めて溶けやすい化合物です。

テトラクロロエタンの使用用途

テトラクロロエタンの主な用途は、他の塩素化炭化水素製造の際の中間物です。塩化ビニル、塩化アリル、エピクロルヒドリンの副生成物に含まれています。

洗浄用および金属の脱脂用溶媒、ペンキ剥離剤、ニス及びラッカー、写真用フィルム、油脂の抽出溶媒として使用されていたこともあります。その他の用途は、殺虫剤、防虫剤、除草剤などです。

発がん性が示唆されていることから、現在では目的産物として製造される機会は少なくなっています。

テトラクロロエタンの原理

テトラクロロエタンの原理を合成方法と化学的性質の観点から解説します。

1. テトラクロロエタンの合成方法

テトラクロロエタンの合成方法

図2. テトラクロロエタンの合成方法
a) アセチレンを原料とする合成 b) エチレンを原料とする合成

テトラクロロエタンは、触媒存在下において、アセチレン塩素の反応で得ることができます。

その他の合成方法には、エチレンの塩素化及びオキシ塩素化や、触媒存在下でのエタンの塩素化、1,2-ジクロロエタンの塩素化などの反応があります。主な副生成物は、1,2-ジクロロエタン、及び、トリクロロエチレン (加熱時) です。

2. テトラクロロエタンの化学的性質

テトラクロロエタンの分解生成物

図3. テトラクロロエタンの分解生成物

テトラクロロエタンは、加熱や空気、紫外線、湿気の影響で分解します。空気中ではゆっくりと分解してトリクロロエチレンと微量のホスゲンが生じ、水分存在下においては、分解とともに塩酸 (HCl) を発生します。

紫外線による分解の際に生じる生成物は、2,2-ジクロロアセチルクロリドです。アルカリ金属、強塩基および金属粉末と激しく反応し、有毒で腐食性のガスを生じます。

蒸気は空気より重く、不燃性化合物であるものの、火災により塩化水素およびホスゲンなどの、有毒で腐食性のガスを生じます。

3. テトラクロロエタンの安全性

テトラクロロエタンは、ヒトに対する毒性が報告されています。具体的な毒性は以下の通りです。

  • 皮膚刺激
  • 強い眼刺激
  • 中枢神経系、肝臓、腎臓の障害
  • 呼吸器への刺激のおそれ
  • 眠気またはめまいのおそれ
  • 長期にわたる、又は反復ばく露による中枢神経系、肝臓の障害

発がん性については結論が出ていないものの、発がん性を示唆する報告があることから、産業用途で使用されることは少なくなっています。上記の性質により、各種法令での規制を受けている物質です。労働安全衛生法では、「特定化学物質第2類物質、特別有機溶剤等」「名称等を表示すべき危険物及び有害物」などに指定されています。

また、特化則では特定化学物質第2類です。PRTR法では、令和5年度以降、第一種指定化学物質に区分が変更となります。尚、消防法の規制は特に適用を受けるものはありません。

テトラクロロエタンの種類

前述の通り、テトラクロロエタンは今日では工業製品として活用される機会が少なくなっている物質です。ただし、試薬製品としては、販売されており、研究・開発用に用いられています。形態は容量500mLのガラス瓶製品が一般的です。室温保存可能な試薬として取り扱われています。

参考文献
https://anzeninfo.mhlw.go.jp/anzen/gmsds/79-34-5.html
https://www.chemicoco.env.go.jp/detail.php?chem_id=1047&lw=1
https://www.env.go.jp/chemi/report/h22-01/pdf/chpt1/1-2-2-09.pdf
https://www.nies.go.jp/kisplus/dtl/chem/YOT00258

テオブロミン

テオブロミンとは

テオブロミンとは、化学式C7H8N4O2、分子量180.17のアルカロイドの1種です。

無色または白色の結晶で、水には溶けにくい性質を持ちますが、酸やアルカリにはよく溶けます。カカオの種子に1.5-3%程度含まれており、工業的なテオブロミン製造においても、脂肪分を取り除いたカカオ種子を用いて分離する方法が用いられています。

テオブロミンを化学的に合成する場合、キサンチンをメチル化することでテオブロミンを得る方法が報告されています。テオブロミンはカフェインと同様に刺激作用を持ちますが、その作用はカフェインよりも弱いです。

一部の飲料や食品に使用されており、また医薬品やサプリメントとしても利用されています。

テオブロミンの使用用途

テオブロミンは、キサンチン誘導体のアルカロイドで、チョコレートやカカオ豆に含まれる主要な成分の1つです。主に以下のような用途で使用されています。

1. 飲料・食品

テオブロミンは、チョコレートやココアをはじめとする飲料や食品に含まれています。テオブロミンは、これらの食品に独特の苦味や風味を与えています。

また、テオブロミンは、カフェインよりも弱い中枢神経系に刺激作用を持っています。したがって、エナジードリンクやコーヒーのよりもマイルドな刺激を求る場合に、テオブロミンを含む飲料や食品が選択されることがあります。

2. 医薬品・サプリメント

テオブロミンは、血管を広げる作用があるため、高血圧の治療に利用されることも多いです。また、気管支拡張作用があるため、喘息の症状緩和に有用です。

そのほか、健康増進を目的としたカカオ豆由来のサプリメントとして販売される例もあります。基礎研究において、テオブロミンは認知学習行動を促進する効果や脳内の脳由来神経栄養因子を増加させる効果が報告されているためです。

テオブロミンの性質

テオブロミンは無色の結晶性固体で、特徴的な苦味を持っています。水にはほとんど溶けませんが、エタノールやエーテルには溶ける性質があります。加熱すると分解し、アンモニアなどのガスを放出することがあるため注意が必要です。

テオブロミンはカフェインと同様に、アデノシン受容体に結合し、中枢神経系へ弱い刺激作用を示すことが報告されています。また、血管拡張作用や気管支拡張作用も持っており、これらの作用により高血圧治療や喘息症状の緩和に役立つことがあります。

その特異な構造と生理活性から、カフェインや他のキサンチン誘導体とは異なる効果や作用が期待されています。

テオブロミンの構造

テオブロミンはキサンチン誘導体のアルカロイドであり、キサンチンとピリミジン環が融合した複素環式化合物です。分子式はC7H8N4O2で表されます。

キサンチンの3位と7位にメチル基が付加した構造を持っていることにより、カフェインやキサンチンといった他のキサンチン誘導体と異なる生理活性を示します。また、テオブロミンの分子内には、4つの窒素原子と2つの酸素原子が存在します。これらの原子は、アデノシン受容体との相互作用や生理活性に関与しています。

テオブロミンのその他情報

テオブロミン の製造方法

テオブロミンは、天然のカカオ豆から抽出されるほか、化学的な合成法も存在します。

1. 抽出法
カカオ豆を粉砕し、脂肪分であるカカオバターを除去します。これにより得られるカカオ固形分を、アルカリ性溶液で溶解させることで、テオブロミンを含む溶液が得られます。 この溶液から、有機溶媒や超臨界二酸化炭素抽出法を用いてテオブロミンを抽出・精製します。

2. 合成法
テオブロミンの合成には、ウリジンやアデノシンといったヌクレオシドを出発物質とする方法や、キサンチンやグアニンといったピリミジン環を持つ化合物を用いる方法があります。

これらの方法はいずれも複数の工程を経るため、製造コストの点から、抽出法が一般的に利用されています。

チオフェン

チオフェンとは

チオフェンの基本情報

図1. チオフェンの基本情報

チオフェンとは、硫黄を環内に持つ五員環複素環式化合物の1つです。

チオフェンという名前は、硫黄を示す接頭語のチオ (英: thio) とベンゼンを示すフェン (英: phene) を合わせて命名されています。チオール (英: thiole) と呼ばれることもありますが、チオール (英: thiol) と紛らわしいため推奨されていません。

チオフェンは、タールや石炭ガス中に少量含まれています。また、工業的には、高温環境下でブタンと硫黄を脱水素閉環反応により合成されます。

チオフェンの使用用途

チオフェンは溶媒として用いられる他、染料・プラスチック・医農薬の原料としても利用されています。少数のチオフェンが重合したオリゴチオフェンとその機能性誘導体は、有機ELや有機電界効果トランジスタ、有機太陽電池などのハイテク用途として、幅広く使用可能です。

また、多数のチオフェンが連なった構造のポリチオフェンは、導電性高分子として使用されています。チオフェンを原料として合成される縮環チオフェンは、高性能な半導体材料として、高移動度トランジスタや有機薄膜太陽電池、有機ELなどの電子デバイスに欠かせない物資です。

チオフェンの性質

チオフェンは物理的な特性や化学的な反応性は、ベンゼンと良く似ています。そのため、ベンゼンに似た匂いを発します。チオフェンは無色の液体であり、融点は−38°C、沸点は84°Cです。

ベンゼン、エーテル、エタノールなどの溶媒とは、任意の割合で混合します。ただし、水には不溶です。チオフェンは850℃に加熱しても分解せず、熱的に安定しています。

チオフェンの構造

チオフェンは硫黄を含んだ複素環式化合物で、化学式はC4H4Sです。フラン (英: furan) の酸素原子が、硫黄原子に置き換わった5員環構造を持っています。チオフェンの分子量は84.14、比重は1.051g/mLです。

化合物の命名の際に、チオフェン環を置換基として扱う場合には、チエニル基 (英: thienyl group) と呼びます。

チオフェンのその他情報

1. チオフェンの合成法

触媒を用いて、二硫化炭素 (CS2) とフランやメチルフランを反応させて、チオフェンを得ることが可能です。実験室では、コハク酸ナトリウムと五硫化二リン (P2S5) または二酸化炭素と三硫化二リン (P2S3) との組み合わせで反応させると生成します。

2. チオフェンの定性反応

インドフェニンの構造

図2. インドフェニンの構造

わずかなチオフェンを確認するための定性反応は、インドフェニン反応 (英: indophenine reaction) と呼ばれています。インドフェニンとは、イサチン2分子がチオフェン2分子で繋がった構造を有する化学式がC24H14N2O2S2の青色の色素です。

濃硫酸存在下でチオフェンとイサチン (英: Isatin) が反応すると、インドフェニンを生成して青色になります。また、ガスクロマトグラフィーなどの方法を用いても、チオフェンの同定は可能です。

3. チオフェンの反応選択性

ニトロ化、ハロゲン化、フリーデル・クラフツ反応 (英: Friedel–Crafts reaction) のような親電子置換反応は、チオフェンの2位に選択的に起きます。アルキルリチウムのような強塩基をチオフェンに作用させると、酸塩基反応が起こり、プロトンが引き抜かれたチエニルアニオンが生じます。

その一方で、チオフェンは芳香族性を持っているため、二重結合への付加反応は起こりにくいです。

4. チオフェンの応用

ポリチオフェンの構造

図3. ポリチオフェンの構造

医薬品、農薬、染料などには、部分構造にチオフェンを有する化成品が多いです。チオフェンを含んだ重合体は、ポリチオフェンと呼びます。

ポリチオフェンの具体例は、ポリチオフェンビニレンやポリ (3-アルキルチオフェン) などです。ポリチオフェン類は伝導性を持っているため、有機金属や有機半導体の研究対象として注目されています。

参考文献
https://anzeninfo.mhlw.go.jp/anzen/gmsds/110-02-1.html

チオフェノール

チオフェノールとは

チオフェノールとは、ベンゼン環上の1つの水素をチオール基 (-SH) で置換した構造の液体です。

芳香族化合物の1種で「ベンゼンチオール」や「フェニルメルカプタン」「メルカプトベンゼン」とも呼ばれています。常温で無色透明または淡黄色の液体で腐った卵のような特徴的な臭気をもちます。水には不溶ですが、エタノールおよびアセトンによく溶けます。

毒物及び劇物取締法では毒物に指定されており、短期間の暴露でも強い眼刺激や皮膚刺激などを引き起こす恐れがあるため、取り扱う際は十分な注意が必要です。

消防法では第4類第2石油類非水溶性液体、PRTR法では第1種指定化学物質に該当します。有機則は非該当です。

チオフェノールの使用用途

チオフェノールの主な用途は、医薬品、農薬用原料、有機合成中間体、重合防止剤、酸化防止剤です。ほかの化学物質の原料になることが多く、人工光合成の研究における電子源やプロトン源として使用されることもあります。

チオフェノールの具体的な用途としては、以下の様な例が挙げられます。

1. 求核剤

チオフェノールのチオール基は酸解離定数が比較的小さいことから、求核剤として機能します。この性質を利用することで、保護基の脱保護などが可能になります。例えば、アミンの代表的な保護基であるノシル (Ns) 基は、チオフェノールを求核付加させることで、錯体を形成した後に脱保護できることが知られています。

2. 脱離基

チオフェノールは脱離基としても機能します。主に、糖同士または糖と糖以外の有機化合物を連結させる反応 (グリコシル化) が例として挙げられます。

糖の1位部分にチオフェノールを求核付加させた化合物に対して、N-ヨードスクシンイミド (NIS) およびトリフルオロメタンスルホン酸 (TfOH) を作用させると、チオフェノールの脱離能が大幅に向上します。その結果、水酸基をもつ化合物が求核反応にすることでチオフェノールが速やかに脱離し、異なる2つの化合物を連結させることができます。

3. 光合成の研究における電子源およびプロトン源

酸性度が高いチオフェノールは、電子やプロトンの供給源としても機能します。光合成では、キノンという物質が電子やプロトンを受け取ることでヒドロキシキノンという物質に変換されることが重要であることが確認されています。

光合成の研究では、チオフェノールが電子やプロトンを放出するとジフェニルジスルフィドを形成することを利用することで、反応の進行度合いや反応機構を調べることが出来ます。

チオフェノールのその他情報

1. チオフェノールの性質

チオフェノールは腐った卵のような特徴的な臭気をもつので、使用する際はドラフト内で使用することが望ましいです。また、次亜塩素酸で処理することで臭いを消すことも可能なので、チオフェノールが付着したガラス器具や実験装置等は、次亜塩素酸で洗浄することをおすすめします。

チオフェノールの酸解離定数は、チオフェノールの硫黄原子を酸素原子に置換した化合物であるフェノールの酸解離定数よりも低く、比較的脱プロトン化しやすい傾向があります。

光や酸、熱などに晒されると容易に分解が進行し、一酸化炭素二酸化炭素、硫黄酸化物(SOx)が生成してしまい危険です。場合によってはジフェニルジスルフィドを形成してしまうおそれもあるため、保管する際は遮光した上で容器内を不活性化ガスで置換することが望ましいです。

2. チオフェノールの製造方法

チオフェノールには主に「Freunderberg-Schonberg (フロインターベルク・シェーンベルク) 反応」によって合成されます。これは原料であるフェノールをチオカルバメート化またはチオカーボネート化した後に、熱転位によってフェノール由来の酸素原子を硫黄原子に置換し、最後にアルカリ加水分解することでチオフェノールを合成するという手法です。本反応はフェノールの芳香環上の水素原子が他の置換基になっている場合でも用いることが出来ます。

また工業製品の場合は、引火点を下げるために二硫化炭素が混ざっていることもあります。

参考文献

https://anzeninfo.mhlw.go.jp/anzen/gmsds/0038.html
https://www.nite.go.jp/chem/chrip/chrip_search/cmpInfDsp

ジョサマイシン

ジョサマイシンとは

ジョサマイシンとは、化学式C42H69NO15で、分子量827.99の化学物質です。

白色または帯黄白色の粉末で、水には極めて溶けにくい性質を持ちますが、メタノールエタノールには極めてよく溶けます。ジョサマイシンは、マクロライド系の抗生物質であり、細菌感染症の治療に使用されます。

細菌のリボソームの50Sサブユニットに結合し、細菌のタンパク質合成を阻害します。このメカニズムにより、ジョサマイシンは主にブドウ球菌属、レンサ球菌属、肺炎球菌、赤痢菌、マイコプラズマ属に有効です。

特にグラム陽性菌に対して強い抗菌活性を示し、グラム陰性菌に対してもある程度の活性があります。また、マイコプラズマやクラミジアなどの非定型細菌に対しても効果的です。

ジョサマイシンの使用用途

ジョサマイシンは、広範囲の細菌に対して抗菌活性を示すマクロライド系抗生物質であり、さまざまな感染症の治療に使用されます。

1. 呼吸器感染症の治療

主にストレプトコッカス属、モラクセラ・カタラーリス、ヘモフィルス・インフルエンザなどの細菌によって引き起こされる肺炎や急性気管支炎、扁桃炎などの治療に用いられます。

2. 皮膚感染症の治療

 薬剤の脂溶性が高く、皮膚組織に適切に浸透するため、膿瘍、蜂窩織炎、インペティゴなどの皮膚感染症にも効果的です。これらの感染症は、主に黄色ブドウ球菌や連鎖球菌によって引き起こされます。

そのほか、ジョサマイシンの適応症の範囲は多岐に渡ります。上記以外では、歯周組織炎、歯冠周囲炎、乳腺炎、一部の性感染症などが挙げられます。

3. ペニシリンアレルギー患者への適用

ジョサマイシンは、ペニシリンにアレルギーがある患者に対し用いられることがあります。マクロライド系抗生物質はβ-ラクタム系抗生物質とは異なる化学構造を持っているため、アレルギー反応のリスクが低いとされているからです。

ジョサマイシンの性質

ジョサマイシンは、マクロライド系の抗生物質であり、自然界に存在する放線菌の1種である「Streptomyces narbonensis」から得られる天然化合物です。

経口投与後、消化管から吸収され、体内に分布します。最も高い濃度は、肺や扁桃腺などの感染症に関連する組織に達し、治療効果を発揮します。腎臓や肝臓を経由して、代謝・排泄されます。

ジョサマイシンは細菌のリボソームの50Sサブユニットに結合し、タンパク質合成を阻害することで細菌の増殖を抑制可能です。主にグラム陽性菌に対して強い抗菌活性を示しますが、グラム陰性菌、マイコプラズマ、クラミジアなどの非定型細菌に対しても一定の効果があります。

副作用は比較的軽度であることが多いですが、まれに消化器系の症状 (例: 腹痛、下痢、悪心) やアレルギー反応が発生することがあります。

ジョサマイシンの構造

ジョサマイシンは、マクロライド系抗生物質の1つであるため、複雑な環状ラクトン構造を持っています。マクロライド骨格は、16員環の環状ラクトン構造で、ジョサマイシンの核となる特徴的な構造です。

ジョサマイシンには、2糖からなる糖鎖が結合しています。一般に、抗生物質中の糖構造は、抗菌活性や薬物動態に影響を与えることが可能です。

ジョサマイシンの構造は、他のマクロライド抗生物質といくつかの共通点がありながらも、独自の糖残基や脂肪酸鎖の配置によって、その特性や作用機序に違いが生じています。この構造的特徴が、ジョサマイシンの抗菌活性や薬物動態に大きな影響を与えています。

ジョサマイシンのその他情報

ジョサマイシンの製造方法

ジョサマイシンは、天然のマクロライド系抗生物質であり、放線菌「Streptomyces narbonensis var. josamyceticus」によって生産されます。製造は、株選択・培養・抗生物質産生・抽出・精製の5ステップからなります。

株選択では、基本的にストレプトマイセス属の放線菌の中から、ジョサマイシンを生産する能力がある「Streptomyces narbonensis var. josamyceticus株」を選択します。

ジョサマイシンの抽出には、酢酸エチル、クロロホルムなどの有機溶媒が使用されるのが一般的です。精製プロセスでは、クロマトグラフィーや結晶化などが用いられます。

ジフェニドール

ジフェニドールとは

ジフェニドールとは、化学式C21H27NOで表せられる分子量309.44518の有機化合物です。

ジフェニドール塩酸塩 (化学式: C21H27NO・HCl、分子量: 345.91) が、抗めまい剤 (抗眩暈薬) として使用されています。ジフェニドール塩酸塩は、主に内耳障害によるめまいや、メニエール病、前庭神経炎、および前庭機能障害に関連する症状の治療に使用されます。

そのほか、特に乗り物酔いや手術後の悪心・嘔吐の症状を緩和にも効果的です。

ジフェニドールの使用用途

ジフェニドールは、ジフェニドール塩酸塩の構造で、抗めまい剤 (抗眩暈薬) として用いられる薬物です。主に内耳障害によるめまいやメニエール病、前庭神経炎、および前庭機能障害に関連する症状の治療に使用されます。

ジフェニドールは通常、錠剤やカプセルとして経口投与され、一般的に1日3~4回に分けて服用されます。副作用には、眠気、頭痛、乾燥口、消化器症状 (悪心、嘔吐、便秘) などが含まれますが、多くの患者では軽度で一過性です。

ただし、重篤な副作用やアレルギー反応が起こる可能性があるため、使用中に異常な症状が現れた場合は速やかに医師に相談することが大切です。また、ジフェニドールは抗コリン作用を有しているため、以下の患者に対しては投与に注意が必要です。

  • 緑内障
    眼圧が上がることがあります。
  • 前立腺肥大等尿路に閉塞性疾患がある
    抗コリン作用により、排尿困難を悪化させることがあります。
  • 胃腸管に閉塞がある
    症状が悪化することがあります。

なお、妊婦に対しては、治療上の利益が危険性を上回ると判断される場合にのみ投与可能です。

ジフェニドールの性質

ジフェニドール (ジフェニドール塩酸塩) は分子式C21H27NO・HCl、分子量345.91で表される化合物です。融点は約217℃で、この温度で分解します。

ジフェニドール塩酸塩は、白色結晶または、結晶性の粉末で、においはありません。ジエチルエーテルにはほとんど溶けず、水にもやや溶けにくい性質を持ちます。しかし、エタノールにはやや溶けやすく、メタノールには溶けます。

ジフェニドールの構造

ジフェニドール塩酸塩の化学名は、「1, 1-Diphenyl-4-piperidin-1-ylbutan-1-ol monohydrochloride」であり、分子中に2つのフェニル基を含んでいます。そのベンジル位に水酸基を持ち、第3級アルコールに分類されます。

炭素原子に結合した2つのフェニル基によって、全体の分子構造がが平面状に配置されるのが特徴です。また、直鎖状の炭化水素に結合したピペリジン環と水酸基によって、独特な立体構造と化学的性質が生じています。

ジフェニドールのその他情報

1. ジフェニドールの製造方法

ジフェニドール塩酸塩は1946年、Miescherらにより初めて合成されました。科学的な全合成によって製造されるのが一般的です。日本では「セファドール錠」という名称で、日本新薬株式会社から販売されています。

2. ジフェニドールの作用機序

ジフェニドールの作用機序は完全には明らかになっていませんが、前庭系機能障害側の椎骨動脈の血管攣縮を緩和し、血流を増加させることで、左右前庭系の興奮性の不均衡を改善し、めまいを軽減するとされています。

また、末梢前庭からの異常なインパルスを前庭神経核および視床下部で遮断し、平衡系のアンバランスを修正するという報告もあります。ジフェニドール塩酸塩は、アンジオテンシンIIによって攣縮した椎骨動脈を緩和し、血流量を増加させることが示されています。

また、患者の椎骨動脈血流障害に対して、血流量を増加させ、血流のバランスを是正することが認められています。健康な成人にジフェニドールを投与した場合、血中濃度は約1.6時間で最高値に達し、その後約6.5時間で半減します。

ジスチグミン

ジスチグミンとは

ジスチグミン(臭化ジスチグミン)は、C22H32Br2N4O4で表せられる化学物質です。ジスチグミンの分子量は、576.32です。

ジスチグミンは、コリンエステラーゼを阻害する働きを持ちます。コリンエステラーゼは、アセチルコリンなどのコリンエステルを加水分解により分解します。アセチルコリンは、神経伝達物質で、副交感神経や運動神経で刺激を伝達する役割を担います。しかし、上記したように、コリンエステラーゼの働きで、アセチルコリンは分解されてしまいます。ジスチグミンは、このコリンエステラーゼの働きを阻害し、アセチルコリンの分解を抑制します。

ジスチグミンの使用用途

ジスチグミンは、治療薬として使用されます。

上記したようにジスチグミンは、コリンエステラーゼを阻害し、アセチルコリンの分解を抑制します。アセチルコリンは、筋収縮に重要な役割を果たします。そのため、ジスチグミンを用いて、コリンエステラーゼを阻害し、アセチルコリン濃度を上昇させることで、排尿筋の緊張を高めることが出来ます。そのため、低緊張性膀胱による排尿困難を改善出来ます。

また、ジスチグミンは、重症筋無力症の薬としても用いられます。重症筋無力症は、骨格筋中のアセチルコリン受容体に対する抗体が出来て、神経から筋肉への指令が伝わりにくくなり、筋力が弱くなる自己免疫疾患です。ジスチグミンは、そのコリンエステラーゼ阻害作用を利用して、アセチルコリン濃度を上昇させ、神経から筋肉への指令伝達を改善します。

ジエチルケトン

ジエチルケトンとは

ジエチルケトンの基本情報

図1. ジエチルケトンの基本情報

ジエチルケトン (diethyl ketone) とは、示性式CH3CH2COCH2CH3または(CH3CH2)2COで表される、有機化合物の一種です。

分子内にカルボニル基を一つ含み、ケトン類に分類されます。IUPAC命名法に倣った表記では3-ペンタノンとなります。CAS登録番号は96-22-0です。

常温では無色からわずかにうすい黄色の液体で、アセトンのような臭いがあります。分子量86.13、融点-42℃、沸点101℃ 、密度は0.816g/cm3 (19 ℃) です。

非プロトン性極性溶媒で、エタノールベンゼンジエチルエーテルなどの有機溶媒によく溶けます。また、水にも少しばかり溶解します。水への溶解度は、1.7g/100mL (20℃) です。慣用名には他に、メタセトン、プロピオン、メトアセトン、ジメチルアセトンなどの名称があります。

ジエチルケトンの使用用途

ジエチルケトンの主な用途は、医薬の原料や有機合成材料などです。

有機低分子化合物の合成などの分野で、溶剤として使用されることがあります。アセトンやメチルエチルケトン (MEK) のほうが安価で危険性も低いため、ジエチルケトンが使用されることは比較的少ないとされてきました。

しかし、ジエチルケトンは、労働安全衛生法の有機溶剤中毒予防規則に非該当であることから、作業主任者の専任等の義務が免除されています。そのため、近年溶剤としての使用が拡大しています。

ジエチルケトンの原理

ジエチルケトンの原理を合成方法と安全性の観点から解説します。

1. ジエチルケトンの合成

ジエチルケトンの合成

図2. ジエチルケトンの合成方法

ジエチルケトンは、工業的には主にプロピオン酸を金属触媒で酸化する方法で製造されています。また、オクタカルボニル二コバルトCo2(CO)8 触媒存在下において、エチレン一酸化炭素からジエチルケトンを生成することが可能です。

2. ジエチルケトンの安全性

ジエチルケトンの化学反応について

図3. ジエチルケトンの化学反応について

ジエチルケトンは引火点が13℃と低く、非常に引火性の高い液体です。また、比較的小さなエネルギーの静電気火花でも発火する可能性があります。空気とジエチルケトンの蒸気は爆発性混合気を生じるため、留意が必要です。

一般的なケトン類と同様の反応性を示し、アミン、酸化物、強還元剤、アミド、強い金属水酸化物などとは化学反応を起こす可能性があります。中には危険な反応もあるため、取り扱いの際は注意が必要です。特に、過酸化水素などによって生成するジエチルケトンの過酸化物は、爆発の危険を有します。

これらの危険性から、労働安全衛生法では、「名称等を表示すべき危険有害物」「名称等を通知すべき危険物及び有害物」に指定されています。消防法では、 第4類引火性液体、第一石油類非水溶性液体です。尚、PRTR法の規制には該当しません。

ジエチルケトンの種類

製品としてのジエチルケトンには、試薬用製品のほか、工業原料・溶剤用途での産業用製品があります。試薬用製品は、25mL , 100mL , 500mLなどの容量の製品があります。通常、室温保存可能な液体試薬です。

産業用途の製品ではドラム缶・石油缶・タンクコンテナなど大型容量 (150kg , 15MTなど) で流通しており、工業用溶剤としての大規模な使用に適しています。

参考文献
https://anzeninfo.mhlw.go.jp/anzen/gmsds/96-22-0.html
https://www.nite.go.jp/

シクロペンタノール

シクロペンタノールとは

シクロペンタノールとは

図1. シクロペンタノールの基本情報

シクロペンタノール (Cyclopentanol) とは、シクロペンタンの水素が一つヒドロキシ基で置換された構造をしている有機化合物です。

環状アルコールの1種にあたります。CAS登録番号は96-41-3です。分子式C5H10O、分子量86.13、融点-19℃、沸点139-140℃です。常温では無色からわずかにうすい黄色の液体となっており、 不快臭を放つとされています。密度は0.949g/mLです。

他の名称には、「シクロペンチルアルコール (Cyclopentyl alcohol) 」「ヒドロキシシクロペンタン (Hydroxycyclopentane) 」などがあります。水には難溶ですが、アルコール、エーテルおよびアセトンには極めて容易に溶けます。

シクロペンタノールの使用用途

シクロペンタノールの使用用途

図2. シクロペンタノールの酸化によるシクロペンタノンの合成の例

シクロペンタノールの主な用途は、一般的な溶剤、香料調剤用の溶剤、医薬・農薬原料などです。また、シクロペンタノールは、シクロペンタノン前駆体であり、TEMPOなどの安価な触媒で極めて高選択的にシクロペンタノンを製造することができます。

シクロペンタノンは各種産業用途で利用価値が高い化合物であるため、この変換反応は非常に重要です。例えば、特定フロンや1,1,1-トリクロロエタンは、金属材料に付着する油の洗浄液として有益ですが、環境に影響があるため、新しい代替洗浄液が必要となっています。

そこで、生分解性が良好であるシクロペンタノンが、近年代替洗浄液として注目を集めています。また、シクロペンタノン (及びその前駆体のシクロペンタノール) は、各種医薬品の合成中間体であるため、合成化学的にも重要な化合物と言えます。

シクロペンタノールの原理

シクロペンタノールの原理を性質と化学反応の観点から解説します。

1. シクロペンタノールの性質

シクロペンタノールは、引火性の液体であり、引火点は51℃です。そのため、熱、火花、裸火、高温のものから離して使用しなければなりません。

また、急性毒性もあるため、取り扱いの際は適切な保護具を必要とします。火災時にも、刺激性、腐食性及び毒性のガスを発生するおそれがあります。

労働安全衛生法では、危険物・引火性の物として指定を受け、消防法では第4類 第2石油類非水溶性液体に指定される化合物です。ただし、有機則とPRTR法では特に指定を受けていません。

2. シクロペンタノールの化学反応

シクロペンタノールの化学反応

図3. シクロペンタノールの反応の例

シクロペンタノールは、通常のアルコールと同様、酸触媒存在下でシクロペンテンに水を付加させることで得られます。

また、反対に、シクロペンタノールは脱水させるとシクロペンテンと水を生じます。

シクロペンタノールの種類

シクロペンタノールは、一般的には化学試薬として販売されています。そのため、容量は25g , 5mL , 25mL , 100 mL , 500mLなど、実験室用の少量のものが主に流通しています。常温保存可能な化学薬品です。

参考文献
https://anzeninfo.mhlw.go.jp/anzen/gmsds/96-41-3.html