チオフェンとは
図1. チオフェンの基本情報
チオフェンとは、硫黄を環内に持つ五員環複素環式化合物の1つです。
チオフェンという名前は、硫黄を示す接頭語のチオ (英: thio) とベンゼンを示すフェン (英: phene) を合わせて命名されています。チオール (英: thiole) と呼ばれることもありますが、チオール (英: thiol) と紛らわしいため推奨されていません。
チオフェンは、タールや石炭ガス中に少量含まれています。また、工業的には、高温環境下でブタンと硫黄を脱水素閉環反応により合成されます。
チオフェンの使用用途
チオフェンは溶媒として用いられる他、染料・プラスチック・医農薬の原料としても利用されています。少数のチオフェンが重合したオリゴチオフェンとその機能性誘導体は、有機ELや有機電界効果トランジスタ、有機太陽電池などのハイテク用途として、幅広く使用可能です。
また、多数のチオフェンが連なった構造のポリチオフェンは、導電性高分子として使用されています。チオフェンを原料として合成される縮環チオフェンは、高性能な半導体材料として、高移動度トランジスタや有機薄膜太陽電池、有機ELなどの電子デバイスに欠かせない物資です。
チオフェンの性質
チオフェンは物理的な特性や化学的な反応性は、ベンゼンと良く似ています。そのため、ベンゼンに似た匂いを発します。チオフェンは無色の液体であり、融点は−38°C、沸点は84°Cです。
ベンゼン、エーテル、エタノールなどの溶媒とは、任意の割合で混合します。ただし、水には不溶です。チオフェンは850℃に加熱しても分解せず、熱的に安定しています。
チオフェンの構造
チオフェンは硫黄を含んだ複素環式化合物で、化学式はC4H4Sです。フラン (英: furan) の酸素原子が、硫黄原子に置き換わった5員環構造を持っています。チオフェンの分子量は84.14、比重は1.051g/mLです。
化合物の命名の際に、チオフェン環を置換基として扱う場合には、チエニル基 (英: thienyl group) と呼びます。
チオフェンのその他情報
1. チオフェンの合成法
触媒を用いて、二硫化炭素 (CS2) とフランやメチルフランを反応させて、チオフェンを得ることが可能です。実験室では、コハク酸ナトリウムと五硫化二リン (P2S5) または二酸化炭素と三硫化二リン (P2S3) との組み合わせで反応させると生成します。
2. チオフェンの定性反応
図2. インドフェニンの構造
わずかなチオフェンを確認するための定性反応は、インドフェニン反応 (英: indophenine reaction) と呼ばれています。インドフェニンとは、イサチン2分子がチオフェン2分子で繋がった構造を有する化学式がC24H14N2O2S2の青色の色素です。
濃硫酸存在下でチオフェンとイサチン (英: Isatin) が反応すると、インドフェニンを生成して青色になります。また、ガスクロマトグラフィーなどの方法を用いても、チオフェンの同定は可能です。
3. チオフェンの反応選択性
ニトロ化、ハロゲン化、フリーデル・クラフツ反応 (英: Friedel–Crafts reaction) のような親電子置換反応は、チオフェンの2位に選択的に起きます。アルキルリチウムのような強塩基をチオフェンに作用させると、酸塩基反応が起こり、プロトンが引き抜かれたチエニルアニオンが生じます。
その一方で、チオフェンは芳香族性を持っているため、二重結合への付加反応は起こりにくいです。
4. チオフェンの応用
図3. ポリチオフェンの構造
医薬品、農薬、染料などには、部分構造にチオフェンを有する化成品が多いです。チオフェンを含んだ重合体は、ポリチオフェンと呼びます。
ポリチオフェンの具体例は、ポリチオフェンビニレンやポリ (3-アルキルチオフェン) などです。ポリチオフェン類は伝導性を持っているため、有機金属や有機半導体の研究対象として注目されています。