チオアセトアミド

チオアセトアミドとは

チオアセトアミド (英: Thioacetamide) とは、分子式C2H5NSで表される、チオアミドの一種の有機化合物です。

別名には、「アセトチオアミド」「エタンチオアミド」「アセトイミドチオ酸」などがあります。CAS登録番号は、62-55-5です。チオアセトアミド水溶液と多くの金属カチオンはそれぞれ対応する硫化物を作り、古典的定性分析で使われます。人体に対して有害な物質です。

チオアセトアミドの使用用途

チオアセトアミドの主な用途は、染料、医薬品および医薬品中間体、合成中間体、写真・印刷薬品です。例えば、カドミウムイオンの溶液にチオアセトアミド水溶液を加えた後に加温することで、硫化カドミウムが得られます。この硫化カドミウムは、黄色顔料であるカドミウムイエローの主成分です。

このほか、チオアセトアミドは、古典的定性分析における硫化水素の供給源であり、金属硫化物の沈殿試薬 (均質沈殿法) 、金属イオンの系統分析の分属試薬に使用されています。

チオアセトアミドの性質

チオアセトアミドの基本情報

図1. チオアセトアミドの基本情報

チオアセトアミドは、分子量75.16、融点113〜116℃であり、常温においては無色から黄色の結晶もしくは結晶性粉末です。メルカプタン様臭気を呈します。水及びエタノールに溶けやすく、アセトンに溶けにくい物質です。水への溶解度は16.3g/100ml水です。

分子のC2NH2Sの部分は平面構造であり、C-SとC-N間の距離は1.713 と 1.324 Åです。これは両方が多重結合、すなわちπ共役系であることを示しています。

チオアセトアミドの種類

チオアセトアミドは、通常研究開発用試薬製品として一般に販売されている物質です。容量の種類には、25g、100g、500gなどがあり、常温で取り扱われる場合も、冷蔵で取り扱われる場合もある試薬製品です。

有機合成原料などの他、疾患モデル動物作製用の試薬としても用いられることがあり、炎症・免疫疾患モデル作製に有用です。人体に有害な物質であるため、正しく取り扱うことが必要です。また、試薬製品は研究開発用途以外での使用を行うことはできません。

チオアセトアミドのその他情報

1. チオアセトアミドの合成

チオアセトアミドの合成

図2. チオアセトアミドの合成

チオアセトアミドは、アセトアミドと五硫化二リンの合成により得られます。

2. チオアセトアミドの化学反応

チオアセトアミドと金属イオンの反応

図3. チオアセトアミドと金属イオンの反応

光によって変質する可能性があり、燃焼すると分解して、有毒な蒸気 (窒素酸化物NOx、硫黄酸化物SOxなど) を生じます。チオアセトアミド水溶液と多くの金属カチオンはそれぞれ対応する硫化物を作ることから、チオアセトアミドは定性分析においてしばしば用いられる物質です。

具体的には、ニッケル、鉛、カドミウム、水銀や、ヒ素、アンチモン、ビスマス、銀、銅 (I) などの反応で硫化物が沈殿します。また、水溶液にして基質と反応させた後、加水分解により硫化物を生じることから、有機、無機合成において使用されています。

3.  チオアセトアミドの有害性

チオアセトアミドについて、指摘されている有害性は下記の通りです。

  • 飲み込むと有害
  • 遺伝性疾患の可能性
  • 発がんの可能性
  • 肝臓の障害のおそれ
  • 長期にわたる又は反復ばく露による肝臓の障害

取り扱いの際は適切な保護具を身に着け、粉じん、蒸気、スプレーを吸入しないように気をつけることが必要です。皮膚や眼も接触しないようにします。作業場は局所排気装置を備えていることが望ましいです。

4. チオアセトアミドの保管情報

チオアセトアミドは、法規制を受ける化学物質ではありません。ただし、前述の通り人体に対する有害性が報告されているため、適切な管理が必要です。

常温で保管されることもありますが、容器は遮光し、冷蔵庫 (2~10°C) に密閉して保管するのがより安全です。また、強酸化剤とは反応するため、混触を避ける必要があります。

参考文献
https://anzeninfo.mhlw.go.jp/anzen/gmsds/cas-62-55-5.html

チアミンジスルフィド

チアミンジスルフィドとは

チアミンジスルフィドとは、ビタミンB1ジスルフィドとも呼ばれているビタミンB1誘導体です。

一般的には、ビタミンB1欠乏症などの治療薬として用いられています。分子式はC24H34N8O4S2、分子量は562.71、分解点は179℃で、常温において白色または淡黄色の固体です。

チアミンジスルフィドの使用用途

チアミンジスルフィドは、チアミンと比較して腸管から吸収されやすく、かつ効率よく作用することから、チアミン欠乏症の治療や予防に用いられています。

江戸時代から昭和初期の栄養状態の悪い時代においては、チアミンの欠乏から倦怠感、動悸、手足のしびれ、むくみなどの脚気症状が頻繁に発生し、死者が多数出ていました。今日では医学の進歩に伴い、ビタミンについての研究が進んだことで、脚気にかかる人はほとんど見られないものの、偏食などにより予備軍は多いと言われています。

そのほか、チアミンジスルフィドはウェルニッケ脳炎や脚気衝心などの治療薬として利用されています。

チアミンジスルフィドの性質

チアミンとは、水溶性ビタミンの1つであり「サイアミン」「ビタミンB1」「アノイリン」とも呼ばれています。チアミンジスルフィドは、体内で分解されることによりチアミンを生じます。

エタノールに溶けにくく、水やジエチルエーテルにもほとんど溶けませんが、希塩酸又は希硝酸に溶ける性質です。チアミンジスルフィドの、飽和水溶液はほぼ中性です。

1936年にウィリアムズらが化学合成により構造式を決定し、硫黄を含むアミン化合物という意味でチアミンと命名されました。薬剤として製造する際には、黄色の糖衣錠でコーティングして製造されています。

チアミンジスルフィドの構造

チアミンは2-メチル-4-アミノ-5-ヒドロキシメチルピリミジン (ピリミジン環部分) と4-アミノ-5-ヒドロキシエチルチアゾール (チアゾール環部分) がメチレン基を介して結合した構造です。チアミンジスルフィドは、チアゾール環部分を開裂させた構造をしたチアミン誘導体が、硫黄原子同士のジスルフィド結合を介して結合したような構造となっています。

そのため、チアミンジスルフィドはチアミンをアルカリ性でヨウ素酸化することで得られます。

チアミンジスルフィドのその他情報

1. チアミンジスルフィドの効果

ビタミンB1は、体内で糖分のエネルギー変換や神経の働きにかかわっています。また、アルコールの分解にも必要です。そのため、ビタミンB1が欠乏すると体内の様々な部位に異常をきたすこととなり、ビタミンB1を適量摂取することは非常に重要です。

チアミンジスルフィドは不足しているビタミンB1を補うことで、神経痛や筋肉痛、関節痛、さらに腰痛や肩こりの治療に用いることがあります。

2. チアミンジスルフィドの作用機序

チアミンジスルフィドが還元されたチアミンは、ATP存在下でチアミンジホスフェートに変換されます。この分子は、糖質、タンパク質、脂質代謝において、また、TCAサイクル (クエン酸回路) の関門として重要な位置を占めるピルビン酸の脱炭酸反応やTCAサイクル内のα-ケトグルタル酸の脱炭酸反応に関与します。

チアミンジスルフィドを摂取することで、不足しているチアミンジホスフェートを補充することが可能です。

3. チアミンジスルフィドの代謝

ビタミンB1は水溶性のビタミンなので、尿中から排泄することができます。そのため、一般的には多量に摂取してもすぐに尿から排出されるためあまり問題ありませんが、胃の不快感や吐き気、軽い下痢などが起きる場合もあります。

通常は、成人1回1〜10mg、1日1〜3回経口投与する場合が多いです。

4. その他のビタミンB1誘導体

チアミンジスルフィド以外にも、現在医薬品として用いられているビタミンB1誘導体は多くあります。具体的には、以下の通りです。

  • オクトチアミン
  • ジセチアミン
  • チアミンジスルフィド
  • ビスベンチアミン
  • フルスルチアミン
  • プロスルチアミン
  • ベンフォチアミンなど

また、食品添加物としてもさまざまなビタミンB1誘導体が利用されています。

ダイマー酸

ダイマー酸とは

ダイマー酸 (英: Dimer acid) とは、淡黄色の液体です。

炭素数36(C36)のアルキル基をもつジカルボン酸です。

「二量体酸」あるいは「ダイマ酸」とも呼ばれています。リノール酸やオレイン酸などの植物油脂を原料とし、C18不飽和脂肪酸の二量化により生成されます。また、廃食用油リサイクルで得られる植物油脂も原料になります。

なお、ダイマー酸は、原料の脂肪酸の種類、重合方式などにより生成物の構造が大きく異なります。工業製品として販売されている「ダイマー酸」は、製品ごとに二量体以外の三量体などの含有量が異なることから品質に差異があります。

ダイマー酸の使用用途

ダイマー酸は、熱硬化性樹脂や熱可塑性樹脂の改質剤として、エポキシ樹脂硬化剤のポリアミドアミンや熱可塑性ポリアミド樹脂などの原料として用いられています。最終的には、塗料、インキ、接着剤などに使用されます。

また、ダイマー酸が有する柔軟性を利用して、潤滑剤切削油としても用いられています。このほか、腐食防止剤や防錆剤の添加物として、あるいは肌からの水分の蒸発を防ぎ、うるおいを保つ化粧品の閉塞剤としても使用されています。

ダイマー酸の性質

 

ダイマー酸のその他情報

1. ダイマー酸の製法

ダイマー酸は、ポリ不飽和脂肪酸を高温に加熱すると重合反応が起こり生成します。触媒やアルカリを加えることで、収率が改善する場合もあります。具体的には、リノール酸を含む大豆油やトール油の脂肪酸を少量の水とともに、加圧下300℃に加熱する方法、オレイン酸などのモノ不飽和脂肪酸を原料に少量の結晶粘土鉱物を添加して180℃から260℃に加熱する方法などがあります。

2. ダイマー酸の反応

ダイマー酸の化学反応は、カルボキシル基とそのアルファ位置の炭素と不飽和結合の三ヶ所で起こります。カルボキシル基では、二官能基のため他の多官能性化合物と反応してポリマーを形成します。アルコールやポリオールに対してはジエステルやポリエステルを形成し、ポリアミンに対してはポリアミド樹脂を生成します。他にも、ケン化反応、還元反応、酸クロリド反応などが起こります。

アルファ位置の炭素ではハロゲン化が、不飽和結合ではハロゲン化や水素添加、スルホン化、エポキシ化反応が起こります。

3. 法規情報

 

4. 取扱いおよび保管上の注意

取扱い及び保管上の注意は、下記の通りです。

  • 容器を密栓し、直射日光を避け冷暗所に保管する。
  • 引火の可能性があるため、炎や高温のものから遠ざける。
  • 高温で空気と反応して爆発性混合物を生じるため、高温条件を避ける。
  • 揮発性の性質があるため、ヒュームや蒸気を吸わないように注意する。
  • 屋外や換気の良い区域のみで使用する。
  • 使用時は保護手袋、保護眼鏡、保護衣、保護面を着用する。
  • 取扱い後はよく手を洗浄する。
  • 皮膚に付着した場合は、石鹸と水で洗い流す。
  • 眼に入った場合は、水で数分間注意深く洗う。

参考文献
「ダイマー酸について」
日本油脂(株)鈴木慶一
https://www.jstage.jst.go.jp/article/yukigoseikyokaishi1943/25/2/25_2_180/_pdf 

タンタル酸リチウム

タンタル酸リチウムとは

タンタル酸リチウムとは、「酸化タンタルリチウム」とも呼ばれている、三方晶系イルメナイト類似構造を持つ強誘電体です。

タンタル酸リチウム単結晶は、比較的安価に得られることや、光学的な特性が優れていることから、非線形光学効果および電気光学効果などを利用した各種光学素子として用いられています。

特に、タンタル酸リチウムを用いた波長変換デバイスは、レーザープロジェクタやレーザーディスプレイなどの光学機器における、高出力の緑色レーザーを得る重要な部品として利用されています。

タンタル酸リチウムの使用用途

タンタル酸リチウム単結晶は、圧電性、焦電性、非線形光学効果を有しています。この特徴を利用して、電子光学、核融合などの様々な分野で利用されています。代表的な例は以下の通りです。

1. 表面弾性波フィルター

表面弾性波 (SAW) フィルターとは、携帯電話やTVなどの周波数選択フィルターにおいて圧電素子に使用される基板です。圧電体の薄膜、もしくは基板上に形成された規則性のあるくし型電極により、特定の周波数帯域の電気信号を取り出すことが可能です。

くし型電極 (IDT) の構造周期と圧電体や電極の物性により、中心周波数や帯域を決めることができます。

2. 圧電素子

圧電 (ピエゾ) 素子とは、圧力を加えることで電圧が発生する圧電効果を有する素子のことです。また、圧電素子は電圧をかけると変形する性質があります。

通常の状態では、空気中のイオンを吸着し、結晶表面の電荷は中和されているため、電圧は発生しません。外から圧力が加わり、結晶が変形すると、分極の状態が変化し電圧が発生します。

圧電素子の用途は、ガスコンロ、ライター、振動センサー、インクジェットプリンタ、圧電スピーカー、ピエゾドライバ、アクチュエーターなどです。また、床発電システムとしての開発も進んでいます。

3. 波長変換素子

波長変換素子とは、レーザー光の波長を変換する素子のことです。波長変換素子を利用することで、使用するレーザーを目的とする出射波長に合わせて、光の波長を変換可能です。

波長変換素子にタンタル酸リチウムを使用すると、高出力の緑色レーザーを得ることが出来ます。

4. 焦電材料

焦電とは、温度変化によって誘導体の分極が変化する現象のことです。ポーリング処理 (減圧下で分極を一方向に揃える処理) を行ったタンタル酸リチウムは焦電性を持ち、温度を変化させることでX線を発生させる性質を持ちます。

また、B.Naranjoらによって核融合可能であることが報告されており、中性子の発生に関する研究が盛んに行われています。

タンタル酸リチウムの性質

タンタル酸リチウムは、化学式LiTaO3、分子量235.9、CAS番号12031-66-2で表わされる白色の粉末です。

融点は1,650℃、不燃性であり、熱的に非常に安定した物質です。水に不溶で、混触危険物質に関する情報は現在のところありません。

危険有害な分解生成物は、酸化リチウムおよびタンタル酸化物です。分解性、水生生物への有害性、海洋汚染に関するデータはありません。

タンタル酸リチウムのその他情報

1. 安全性

非危険物であり、GHS分類についても該当する項目はありません。また、不燃物であることから、火災時の消火においてタンタル酸リチウムについて特に考慮すべきことはありません。

製品の容器は密閉し、乾燥した冷暗所に保管することで、安全に保管することができます。

2. 取り扱い方法

作業場所は、粉塵が発生する可能性がある場合は、発散源密閉装置、もしくは局所排気設備等の排気設備の設置が必要です。作業者は、呼吸用保護具、防塵マスク、保護眼鏡、保護面 (防災面) 保護手袋、その他必要に応じて保護服、長靴、前掛け、アームカバーを着用し作業を行います。

人体への影響は現在のところ確認されていませんが、以前情報が少なく不明な点が多いです。人体への接触、摂取は避けて取り扱う必要があります。

タングステン酸ナトリウム

タングステン酸ナトリウムとは

タングステン酸ナトリウム (英: Sodium tungstate) とは、組成式 Na2WO4で表されるナトリウムのタングステン酸塩です。

水和物として用いられることも多い物質ですが、無水物のCAS登録番号は 13472-45-2です。タングステン酸二ナトリウムと呼ばれることもあります。

タングステン酸ナトリウムの使用用途

タングステン酸ナトリウムは、タングステン鉱石からタングステンを抽出する場合の重要な中間生成物という位置づけです。主な用途は、塩基性染料媒染剤、金属表面処理剤、窯業用副原料、触媒などです。

また、組織細胞化学において、染色剤/電子染色剤として用いられます。電子密度の高い重金属は、検体組織を構成する元素に比して電子顕微鏡で観察する際のコントラストに優れます。この原理により電子顕微鏡用染色剤として用いられる物質です。

それ以外では、微生物実験で培地の作成する場合に微生物の飼育に必要なタングステン分を補うサプリメントとして使用されます。タングステン酸ナトリウムは、血糖値降下作用も有しているとされています。

タングステン酸ナトリウムの性質

タングステン酸ナトリウムの基本情報

図1. タングステン酸ナトリウムの基本情報

タングステン酸ナトリウムは、分子量293.836、融点698℃で、常温においては白色の固体です。水に溶けやすい物質であり、水への溶解度は、57.5g/100 mL (0℃) です。

水溶液はアルカリ性を示します。また、クロム酸塩よりもはるかに弱い、弱い酸化剤として作用します。

タングステン酸ナトリウムの種類

タングステン酸ナトリウムは、研究開発用試薬製品や工業用触媒原料などとして一般に販売されています。無水物が販売されていることはほとんど無く、水和物や水溶液がメインです。

1. 研究開発用試薬製品

研究開発用試薬製品は、タングステン酸ナトリウム・二水和物の形で主に販売されています。容量の種類は25g、100g、500gなどであり、通常、室温で取り扱い可能な試薬製品です。

それ以外では、二水和物にして9.3%程度の濃度の水溶液の状態で販売されていることもあります。

2. 工業用製品

工業用としては、主に触媒原料などの用途で販売されています。二水和物が販売されることが多く、主な用途は塩基性染料媒染剤、金属表面処理剤、窯業用副原料などです。

タングステン酸ナトリウムのその他情報

1. タングステン酸ナトリウムの製造

タングステン酸ナトリウムの合成

図2. タングステン酸ナトリウムの合成

タングステン酸ナトリウムは、工業的には鉄マンガン重石などの鉱石を水酸化ナトリウムあるいは炭酸ナトリウムと共に融解させ、水酸化ナトリウム水溶液で抽出することで粗製品が製造されています。

それ以外の製造・合成方法としては、酸化タングステン水酸化ナトリウム、または炭酸ナトリウムとの混合物を加熱融解する反応があります。あるいは、炭酸ナトリウム水溶液に酸化タングステンを加えて溶かした後、溶液の濃縮により得ることも可能です。

2. タングステン酸ナトリウムの水和物

タングステン酸ナトリウム二水和物の基本情報

図3. タングステン酸ナトリウム二水和物の基本情報

また、タングステン酸ナトリウムは水に溶けやすく、水溶液はアルカリ性を示します。水溶液から6℃以下では十水和物が、6℃以上では二水和物が析出します。

タングステン酸ナトリウム二水和物は、化学式Na2WO4·2H2Oで表され、分子量329.85の物質です。100℃で結晶水が除去され、698℃で融解します。常温での外観は白色結晶です。CAS登録番号は10213-10-2 です。

3. タングステン酸ナトリウムの化学反応

タングステン酸ナトリウムは、塩酸と反応すると三酸化タングステンやその水和物を生成することが知られています。三酸化タングステンは酸化タングステン(VI) とも呼ばれ、分子式WO3で表される物質です。三酸化タングステンも、工業的に広く使用されています。

参考文献
https://anzeninfo.mhlw.go.jp/anzen/gmsds/13472-45-2.html

ジメチルスルホン

ジメチルスルホンとは

ジメチルスルホンとは、スルホンにメチル基が2つ結合した有機硫黄化合物です。

メチルスルホニルメタン (MSM) とも呼ばれています。融点108〜111℃、沸点238℃で常温において白色の固体です。水、アセトンエタノールに溶けやすい性質があります。

ジメチルスルホンは天然の硫黄化合物であり、牛乳や野菜、果物など様々な食品に含まれています。また、人間の関節部の軟骨や筋肉、皮膚、髪、爪などにも存在しています。鎮痛作用や抗炎症作用などがあると知られています。

ジメチルスルホンの使用用途

ジメチルスルホンは、たんぱく質、コラーゲン、ケラチンなどの生成に関与していると考えられており、コラーゲンを健康に保つ効果、関節痛や腰痛などの痛みや炎症を鎮める効果があると注目を集めています。しかしながら、その有効性や安全については十分に検討されていません。また、関節炎に対する効果についても、動物レベルでは検討されているもののヒトにおける有効性については報告がありません。

ジメチルスルホンは、化粧品、ローション、美容液、保湿クリーム、サプリメントなどに添加されています。

ジメチルスルホンの性質

ジメチルスルホンは常温では無色の液体で、吸湿性があります。ジメチルスルホンは極性が大きいため水に溶けやすく150g/L(20℃) 、メチル基を持つため、メタノール、アセトンなどの有機溶媒にも溶けます。化学的には安定で、高温でも分解されにくいという性質があります。

ジメチルスルホンは構成元素として硫黄を含みますが、硫化水素のような特有の臭いはなく無臭です。また、味は苦みがあります。

ジメチルスルホンの構造

ジメチルスルホンは、硫黄と酸素の間に2つの二重結合があるスルホニル基に2つのメチル基が結合した構造をしています。スルホニル基の酸素は硫黄よりも電気陰性度が高いため、ジメチルスルホンは全体として極性を持ちます。この極性は、分子間相互作用や溶媒中での溶解性に影響を与えます。

メチルスルホンの構造式

図1. ジメチルスルホンの構造式

ジメチルスルホンのその他情報

1. ジメチルスルホンの効果

関節炎
ジメチルスルホンは関節の組織の破壊を抑制する効果があるといわれています。また、関節炎はリウマチの痛みを緩和する作用があるとされています。40歳から76歳までの50人の膝の変形性関節症患者を対象にした試験で、12週間にわたって1日あたり3グラムを2回摂取させたところ、痛みの指標が改善されたと報告されています。

季節性アレルギー鼻炎
ジメチルスルホンは、花粉症に伴うアレルギー性鼻炎の症状を緩和する効果があるという研究結果があります。ある試験では、50人の患者を対象にジメチルスルホンを1日2,600mg、30日間投与したところ、呼吸器系の症状の改善が報告されています。また、この試験によると、ジメチルスルホンはアレルギーを引き起こすヒスタミンやIgEの濃度には影響を与えなかったとされています。

間質性膀胱炎
間質性膀胱炎は、膀胱の粘膜に慢性的な炎症を引き起こす疾患で、頻尿や尿意の圧迫感などが主な症状です。この病気は、日本ではあまり知られていませんが、アメリカでは多くの患者が存在しており、そのほとんどが女性です。ジメチルスルホンの投与により、間質性膀胱炎の症状が改善されることが報告されています。

2. ジメチルスルホンの製造

ジメチルスルホンは、工業的にはジメチルスルホキシド (DMSO) と過酸化水素水を反応させ酸化させることで生産します。反応後の生成物には水や不純物が残っていますが、蒸留法を用い沸点の違いを利用して、ジメチルスルホンのみを分離します。次に、気化したジメチルスルホンを冷却して、噴霧乾燥することによって、粉末状の結晶にします。

ジメチルスルホンの製造

図2. ジメチルスルホンの製造

3. ジメチルスルホンの安全性情報

ジメチルスルホンは一般的に安全であるとされており、適切な摂取量を守ることで副作用のリスクを最小限に抑えることができます。しかし、妊婦や授乳婦、局所使用に関しては情報が不十分であるため、使用には注意が必要です。また、米国輸入品については、摂取量が高く表示されている場合があるため、留意が必要です。

ジメチルジスルフィド

ジメチルジスルフィドとは

ジメチルジスルフィド (英: Dimethyl disulfide) とは、分子式C2H6S2で表される有機化合物です。

分子内に硫黄を含むことから、有機硫黄化合物に分類され、「二硫化メチル」「1,2-ジメチルジスルファン」「二硫化ジメチル」「ジメチルペルジスルフィド」「2,3-ジチアブタン」などの別名を持ちます。分子内にS-S結合 (ジスルフィド結合) を有します。CAS登録番号は、624-92-0です。

ジメチルジスルフィドの使用用途

ジメチルジスルフィドの主な使用用途は、燃料油などの精製における水添脱硫触媒用初期硫化剤、農薬中間体、合成樹脂の製造過程における溶剤、チオメチル化剤などです。開発研究レベルでは、機器分析等の標準、調製液原料などにも用いられています。

また、ジメチルジスルフィドは、刺激性が強く、ニンニクに似た特有の硫黄臭を持ち、特定悪臭物質に指定されている物質です。一方で、タマネギやキャベツなどの食品用香料として使用されています。加熱調理においてはジメチルジスルフィドおよびジメチルスルフィドの増加により、煮沸臭あるいはキャベツ臭が増して不快に感じます。

ジメチルジスルフィドの性質

ジメチルジスルフィドの基本情報

図1. ジメチルジスルフィドの基本情報

ジメチルジスルフィドは、分子量94.19、融点-85℃、沸点110℃であり、常温における外観は黄色透明の液体です。ニンニクに似た強い硫黄臭があります。密度は1.06g/mLで、エタノール、エーテル、などの有機溶媒に容易に溶解します。水にはわずかに溶ける物質です。

ジメチルジスルフィドの種類

ジメチルジスルフィドは、主に研究開発用試薬製品として販売されています。容量の種類には、5mL、25mL、250mL、1Lなどがあります。

通常、室温で取り扱い可能な試薬製品です。主な用途は、機器分析等の標準調製液原料や有機合成原料などであり、研究開発用以外の用途で使用することはできません。

ジメチルジスルフィドのその他情報

1. ジメチルジスルフィドの合成

ジメチルジスルフィドの合成

図2. ジメチルジスルフィドの合成

ジメチルジスルフィドは、ヨウ化メチルと二硫化カリウムの反応や、ヨウ素を用いたメタンチオールの酸化反応によって合成が可能です。自然界ではコチなどの一部の魚や、アブラナ科の植物、ニンニクなどに含まれています。

特に腐敗すると誘導体の分解により発生するため、ごみ、し尿、下水などから産出されることも多くあります。天然精油などにも微量含まれる物質です。

2. ジメチルジスルフィドの反応性

ジメチルジスルフィドの反応によって生じる化合物

図3. ジメチルジスルフィドの反応によって生じる化合物

ジメチルジスルフィドは、引火点が15℃と低く、引火性のある物質です。高温の表面、火花または裸火によって発火します。強酸化剤、強塩基、強還元剤と激しく反応する性質もあります。燃焼により、一酸化炭素、ニ酸化炭素、硫黄酸化物が発生する物質です。

ジメチルジスルフィドの塩素化反応によって、メタンスルフェニルクロリド (CH3SCl) や、メタンスルフィニルクロリド (CH3S(O)Cl) 、メタンスルホニルクロリド (CH3SO2Cl) が生成します。また、過酸化水素や過酢酸を用いた酸化反応による生成物は、硫黄原子が酸化された物質 (S-メチルメタンスルフィノチオエート: CH3S(O)SCH3) です。

3. ジメチルジスルフィドの安全性と法規制情報

ジメチルジスルフィドは前述の通り引火点15℃の引火性のある物質です。そのため、消防法において第4類引火性液体、第一石油類 (非水溶性液体) に指定されています。

人体に対する有害性も報告されており、 急性毒性の可能性、皮膚刺激、眼刺激、発がんの可能性、中枢神経系・呼吸器系の障害のおそれ、長期又は反復ばく露による鼻粘膜・血液の障害のおそれなどが指摘されています。

労働安全衛生法では、 名称等を表示すべき危険有害物、リスクアセスメントを実施すべき危険有害物、危険物・引火性の物に指定されています。法令を遵守して正しく取り扱うことが必要な物質です。

参考文献
https://www.jstage.jst.go.jp/article/bunsekikagaku/54/11/54_11_1075/_pdf

ジブチルアミン

ジブチルアミンとは

ジブチルアミン (英: Dibutylamine) とは、無色透明液体の2級アミンです。

IUPAC名はN-ブチルブタン-1-アミン (英: N-Butylbutan-1-amine) 、別名としてN‐ブチル‐ブタンアミン (英: N-Butyl-butanamine) やジ‐ノルマル‐ブチルアミン (英: Di-n-Butylamine) とも呼ばれます。

ジブチルアミンの使用用途

ジブチルアミンは、ゴム薬品や腐食抑制剤、界面活性剤として、あるいは医薬品や農薬、染料、鉱物浮選剤、乳化剤の原料などに幅広く利用されています。

1. ゴム薬品

ゴムの成形加工において、加硫促進剤として添加されています。原料ゴムに高い弾性を与えるために、硫黄を添加して分子同士を結合させることを加硫と言います。加硫時に加硫促進剤を添加することにより、良質なゴム製品を短時間で安く生産することが可能です。

2. 腐食抑制剤

腐食抑制剤とは、少量の添加により、金属の腐食を著しく防止できる無機または有機薬品です。アミン系の腐食抑制剤は、容易に発生するアンモニウムイオンが金属表面のマイナスに電化した部分を覆い皮膜を形成することで、酸性溶液からの金属の腐食を防止します。

ジブチルアミンの性質

化学式はC8H19Nで表され、分子量は129.24です。CAS番号は111-92-2で登録されています。

融点は-62°C、沸点は160°C、引火点は52°Cで、常温で液体です。密度は20°Cにおいて0.756〜0.761g/mlです。アンモニア様の臭気を持ち、アルコールやエーテル、水、アセトンに溶けます。腐食性が高く、可燃性を有します。

酸性・アルカリ性の程度を表すpHは11.5、共役酸の酸解離定数 (pKa) は11.31です。酸解離定数とは、酸の強さを定量的に表すための指標の1つです。pKa が小さいほど、強い酸であることを示します。

ジブチルアミンのその他情報

1. ジブチルアミンの製造法

ジブチルアミンの製造方法は、大きく分けて2つあります。1つ目は、アンモニアとブタノールまたは塩化ブチルをアルミナまたはシリカを触媒とし、300〜500℃の温度で加圧して生成する方法です。

2つ目は、アンモニア、ブタノール、水素を脱水素触媒下反応させる方法です。

2. 法規情報

ジブチルアミンは、以下の国内法令に該当します。

  • 消防法
    危険物第四類 第二石油類 危険等級Ⅲ
  • 労働安全衛生法
    危険物・引火性の物 (施行令別表第1第4号)
  • 危険物船舶運送及び貯蔵規則
    腐食性物質 (危規則第3条危険物告示別表第1)
  • 航空法
    腐食性物質 (施行規則第194条危険物告示別表第1)
  • 海洋汚染防止法
    施行令別表第1有害液体物質Y類物質

3. 取り扱い及び保管上の注意

取り扱う場合の対策
強酸化剤との接触は避けてください。局所排気装置内で、白衣や作業着、保護手袋などの個人用保護具を着用して使用します。

加熱により容易に発火するとともに、ニトロセルロースと混合により発火する危険性があります。

火災の場合
ジブチルアミンは、引火性の液体です。熱や炎、火花、静電気、スパークなどには近づけないようにします。また、熱分解により、一酸化炭素や二酸化炭素、窒素酸化物を放出する危険があります。

ジブチルアミンの蒸気は、空気と爆発的混合物を形成することがあるので注意してください。消火には水スプレーや泡、二酸化炭素、粉末消火剤、砂などを使用します。

吸入した場合
呼吸器系の障害を引き起こす可能性があります。局所排気装置内で使用してください。吸引してしまった場合は、新鮮な空気のある場所に移し、呼吸しやすい姿勢で休ませます。

咽頭痛や咳、灼熱感、息切れ、息苦しさを感じる場合、医師に連絡してください。

皮膚に付着した場合
皮膚に接触すると有毒で、重篤な薬傷の危険性があります。長袖の保護衣を着用し、皮膚が露出しないようにしてください。

万が一皮膚に付着した場合は、汚染された衣類はすべて取り除き、暴露した部位は大量の水で洗い流します。痛みや発赤、水疱、皮膚熱傷などの皮膚刺激が続く場合は、医師に連絡してください。

眼に入った場合
強い眼刺激性があり、重篤な眼の損傷を引き起こす可能性が高いです。使用時は必ず保護メガネやゴーグルを着用してください。

眼に入ってしまった場合は、数分間水で注意深く洗浄します。コンタクトを着用している場合は、可能ならば外してください。痛みや発赤、重度の熱傷、視力喪失などの症状が予想されます。すぐに、医師に連絡してください。

保管する場合
ジブチルアミンは、光によって変質するおそれがあります。遮光性のガラス製容器に入れて密閉します。直射日光を避け、換気が良好な涼しい場所に施錠して保管してください。

参考文献
https://anzeninfo.mhlw.go.jp/anzen/gmsds/111-92-2.html
https://labchem-wako.fujifilm.com/sds/W01W0104-0111JGHEJP.pdf
https://pubchem.ncbi.nlm.nih.gov/compound/Dibutylamine

ジフェニルメタン

ジフェニルメタンとは

ジフェニルメタンとは、化学式 C13H12で表される有機化合物です。

メタンの水素原子が2つフェニル基に置換された構造をしており、芳香族炭化水素に分類されます。別名には、メチレンジベンゼン、ベンジルフェニルなどの名称もあります。

CAS登録番号は、101-81-5です。水素が1個除去された1価の置換基、ジフェニルメチル基のことは特にベンズヒドリル基 (英: benzhydryl group) と呼ばれています。

ジフェニルメタンの使用用途

全ての誘導体が必ずしもジフェニルメタンから合成されるわけではありませんが、ジフェニルメタンの分子骨格はさまざまな物質の部分構造に含まれています。ジフェニルメタン誘導体は、主にはさまざまな色素として活用される物質です。

これらの誘導体はインクや染料の原料として用いられており、ジフェニルメタン誘導体を原料とする染料には、カラーインデックスにおいて41,000番台の番号が割り当てられています。

このほか、ジフェニルメタン誘導体化合物の中には、糖尿病の治療に用いられているものもあります。ヒトSGLT2活性に対する優れた阻害効果を示し、動物における尿中糖排泄を有意に減少させることが報告されているためです。

ジフェニルメタンの性質

ジフェニルメタジフェニルメタンの基本情報ンの基本情報

図1. ジフェニルメタンの基本情報

ジフェニルメタンは、分子量168.23、融点22〜25.9℃、沸点264℃であり、常温においてはオレンジの香気を有する白色針状結晶です。密度は1.006g/mL、メチレン基水素の酸解離定数pKaは33です。水にほとんど溶けないものの、エタノールに溶けます。非極性有機溶媒に特に容易に溶解します。

ジフェニルメタンの種類

ジフェニルメタンは、研究開発用試薬製品として主に販売されています。容量の種類には、25g、100g、500gなどがあり、各種試薬メーカーから販売されている物質です。通常、25℃以下の冷所で保管されています。

ジフェニルメタンのその他情報

1. ジフェニルメタンの合成

ジフェニルメタンの合成

図2. ジフェニルメタンの合成

ジフェニルメタンは、塩化アルミニウムなどのルイス酸存在下において、塩化ベンジルベンゼンのフリーデル・クラフツ反応により得られます。

2. ジフェニルメタンの反応性

ジフェニルメタンのアルキル化反応の例

図3. ジフェニルメタンのアルキル化反応の例

ジフェニルメタンのメチレン基は、前述の通り酸解離定数pKa33です。ナトリウムアミドなどを用いて脱プロトン化することが可能であり、このとき生じるカルバニオンをアルキルハライドなどと反応させることでアルキル化を行うことができます。

このアルキル化反応は、ハライドの一級二級を問わず、比較的高収率で進行する反応です。一級ハライドとしては、1−ブロモブタンや塩化ベンジルなど、二級ハライドとしては2−クロロプロパンやα-クロロジフェニルメタンなどの例が報告されています。

ジフェニルメタンは、光によって変質する可能性がある物質です。また、強酸化剤との接触により分解して一酸化炭素や二酸化炭素などのガスを発生します。保管においては、強酸化剤との接触や、高温と直射日光を避けるべきです。遮光容器で、換気のよい25℃以下の冷所に密閉して保管するのが適切な保管方法です。

3. ジフェニルメタンの安全性と法規制情報

ジフェニルメタンは、消防法や労働安全衛生法で指定を受ける物質ではありません。ただし、安全管理のため、正しい方法で取り扱うことが必要です。まず、皮膚、眼、衣服の接触を避けるため、適切に個人用保護具を着用しなければなりません。

具体的な保護具としては、保護手袋、側板付き保護眼鏡、長袖作業衣が挙げられます。また、作業場所には局所排気装置の設置が必要です。

危険物船舶運送及び貯蔵規則では有害性物質に指定されており、航空法ではその他の有害物質に指定されています。

参考文献
https://www.chemicoco.env.go.jp/detail.php?=&chem_id=2193

ジフェニルエーテル

ジフェニルエーテルとは

ジフェニルエーテル (Diphenylether) とは、示性式(C6H5)2Oで表される有機化合物です。

別名には ジフェニルオキシド、フェニルエーテル、ジフェニルオキサイド、 1,1′-オキシビスベンゼンなどの名称があります。CAS登録番号は、101-84-8です。

ジフェニルエーテルの使用用途

ジフェニルエーテルの主な使用用途は、農医薬原料、熱媒原料、香料原料、反応溶媒、特殊樹脂原料などです。特に中心となるものとして、石鹸用の香料、熱媒体、殺虫剤の原料などが挙げられます。例えば、ビフェニルとジフェニルエーテルの3:7混合物は、熱交換媒体、高沸点溶媒として広く用いられています。これは、この混合物が15℃から257℃までの広い範囲で液体として存在するためです。

また、ジフェニルエーテルにアルコキシ基が結合した物質は、ジフェニルエーテル殺虫剤として用いられます。ジフェニルエーテル殺虫剤であるメソプレンは、カやハエを対象とした防疫用殺虫剤、ペットのノミやシラミ駆除剤として利用される物質です。

ジフェニルエーテルの性質

ジフェニルエーテルの基本情報1

図1. ジフェニルエーテルの基本情報

ジフェニルエーテルは、分子量170.210、融点28℃、沸点252〜259℃であり、常温においては無色の液体または結晶です。ゼラニウム様の香気を有します。密度は1.08g/mL、水には不溶です。エタノール及びアセトンに極めて溶けやすい性質があります。

ジフェニルエーテルの種類

ジフェニルエーテルは、研究開発用試薬製品やファインケミカルとして主に販売されています。研究開発用試薬製品としては、5g、25g、100g、500g、1kg、2kgなどの容量の種類があり、各種試薬メーカーから販売されている物質です。通常、25℃以下の冷所で保管されています。

ファインケミカルとして販売されている製品は、工業用途が多いです。主な使用用途として、農医薬原料、熱媒原料、香料原料、反応溶媒、特殊樹脂原料などが想定されており、購入を希望する場合には個別にメーカーへの問い合わせが必要です。

ジフェニルエーテルのその他情報

1. ジフェニルエーテルの合成

ジフェニルエーテルの合成

図2. ジフェニルエーテルの合成

ジフェニルエーテルは、塩基と触媒のの存在下において、ナトリウムフェノキシドとブロモベンゼンとの反応によって合成されます。

また、クロロベンゼンを高圧下で加水分解するフェノールの合成反応において、副生成物としてジフェニルエーテルが生成します。

2. ジフェニルエーテルの化学反応

Ferrario反応

図3. Ferrario反応

ジフェニルエーテルは、加熱により発火する性質があり、その際、一酸化炭素や二酸化炭素などのガスを発生します。また、強酸化剤との接触でも分解してガスを発生します。これらの性質により、保管の際は高温や強酸化剤との接触を避けることが必要です。

また、芳香族化合物であることから、ジフェニルエーテルはヒドロキシル化、ニトロ化、ハロゲン化、スルホン化、フリーデル・クラフツアルキル化またはアシル化など、フェニル基に特有な反応を受けやすい物質です。

ジフェニルエーテル特有の反応の1つにFerrario反応があります。この反応では、塩化アルミニウム触媒存在下において、ジフェニルエーテルと硫黄が反応して環化反応が起こり、フェノキサチインが生成します。

3. ポリ臭化ジフェニルエーテル

ポリ臭化ジフェニルエーテルとは、ジフェニルエーテルの臭素化によって得られる誘導体です。置換臭素の数や位置によって、計算上209種の異性体が存在します。分子式は C12H(10−n)BrnO (1≦n≦10) と表されます。

ポリ臭化ジフェニルエーテルは、電気製品や建材、繊維などに難燃剤として添加される物質です。同じ臭素系難燃剤 (BFR) であるポリ臭化ビフェニル (PBB) よりも毒性が低いため、プラスチック製品などに広く利用されています。

参考文献
https://anzeninfo.mhlw.go.jp/anzen/gmsds/0792.html