チアミンジスルフィドとは
チアミンジスルフィドとは、ビタミンB1ジスルフィドとも呼ばれているビタミンB1誘導体です。
一般的には、ビタミンB1欠乏症などの治療薬として用いられています。分子式はC24H34N8O4S2、分子量は562.71、分解点は179℃で、常温において白色または淡黄色の固体です。
チアミンジスルフィドの使用用途
チアミンジスルフィドは、チアミンと比較して腸管から吸収されやすく、かつ効率よく作用することから、チアミン欠乏症の治療や予防に用いられています。
江戸時代から昭和初期の栄養状態の悪い時代においては、チアミンの欠乏から倦怠感、動悸、手足のしびれ、むくみなどの脚気症状が頻繁に発生し、死者が多数出ていました。今日では医学の進歩に伴い、ビタミンについての研究が進んだことで、脚気にかかる人はほとんど見られないものの、偏食などにより予備軍は多いと言われています。
そのほか、チアミンジスルフィドはウェルニッケ脳炎や脚気衝心などの治療薬として利用されています。
チアミンジスルフィドの性質
チアミンとは、水溶性ビタミンの1つであり「サイアミン」「ビタミンB1」「アノイリン」とも呼ばれています。チアミンジスルフィドは、体内で分解されることによりチアミンを生じます。
エタノールに溶けにくく、水やジエチルエーテルにもほとんど溶けませんが、希塩酸又は希硝酸に溶ける性質です。チアミンジスルフィドの、飽和水溶液はほぼ中性です。
1936年にウィリアムズらが化学合成により構造式を決定し、硫黄を含むアミン化合物という意味でチアミンと命名されました。薬剤として製造する際には、黄色の糖衣錠でコーティングして製造されています。
チアミンジスルフィドの構造
チアミンは2-メチル-4-アミノ-5-ヒドロキシメチルピリミジン (ピリミジン環部分) と4-アミノ-5-ヒドロキシエチルチアゾール (チアゾール環部分) がメチレン基を介して結合した構造です。チアミンジスルフィドは、チアゾール環部分を開裂させた構造をしたチアミン誘導体が、硫黄原子同士のジスルフィド結合を介して結合したような構造となっています。
そのため、チアミンジスルフィドはチアミンをアルカリ性でヨウ素酸化することで得られます。
チアミンジスルフィドのその他情報
1. チアミンジスルフィドの効果
ビタミンB1は、体内で糖分のエネルギー変換や神経の働きにかかわっています。また、アルコールの分解にも必要です。そのため、ビタミンB1が欠乏すると体内の様々な部位に異常をきたすこととなり、ビタミンB1を適量摂取することは非常に重要です。
チアミンジスルフィドは不足しているビタミンB1を補うことで、神経痛や筋肉痛、関節痛、さらに腰痛や肩こりの治療に用いることがあります。
2. チアミンジスルフィドの作用機序
チアミンジスルフィドが還元されたチアミンは、ATP存在下でチアミンジホスフェートに変換されます。この分子は、糖質、タンパク質、脂質代謝において、また、TCAサイクル (クエン酸回路) の関門として重要な位置を占めるピルビン酸の脱炭酸反応やTCAサイクル内のα-ケトグルタル酸の脱炭酸反応に関与します。
チアミンジスルフィドを摂取することで、不足しているチアミンジホスフェートを補充することが可能です。
3. チアミンジスルフィドの代謝
ビタミンB1は水溶性のビタミンなので、尿中から排泄することができます。そのため、一般的には多量に摂取してもすぐに尿から排出されるためあまり問題ありませんが、胃の不快感や吐き気、軽い下痢などが起きる場合もあります。
通常は、成人1回1〜10mg、1日1〜3回経口投与する場合が多いです。
4. その他のビタミンB1誘導体
チアミンジスルフィド以外にも、現在医薬品として用いられているビタミンB1誘導体は多くあります。具体的には、以下の通りです。
- オクトチアミン
- ジセチアミン
- チアミンジスルフィド
- ビスベンチアミン
- フルスルチアミン
- プロスルチアミン
- ベンフォチアミンなど
また、食品添加物としてもさまざまなビタミンB1誘導体が利用されています。