イソロイシン

イソロイシンとは

イソロイシンの基本情報

図1. イソロイシンの基本情報

イソロイシン (Isoleucine) とは、アミノ酸の一種であり、化学式C6H13NO2で表される有機化合物です。

略号はIle (3文字表記) またはI (1文字表記) です。側鎖にsec-ブチル基を持つ構造をしており、分岐鎖アミノ酸の一つで疎水性アミノ酸に分類されており、多くの場合でL体が用いられています。L体のCAS登録番号は、73-32-5です。

分子量131.17、融点288℃ (分解) であり、常温では白色の結晶または結晶性粉末です。無臭またはわずかな特異臭を呈します。pHは5.5-7.0 (1%、20℃) であり、水への溶解度は、4.02g/100g (20℃) です。エタノールには難溶であり、ジエチルエーテルに不溶な物質です。

イソロイシンの使用用途

イソロイシンは、生理学的には、人体の体内で合成できない必須アミノ酸の一種に分類されます。そのため、通常は食品などから摂取する事が必要な物質です。主な使用用途には、 医薬品原料 (輸液等) 、培地などの他、食品や飲料の添加物があります。食品添加物としては、旨味成分を添加するために使用される物質です。

筋肉を増強する目的で摂取するサプリメントの中にバリン、ロイシンとまとめてBCAAという形で含まれることもあります。尚、合成化学的には、製剤研究やアミノ酸研究などの用途がある他、ペプチド合成にN-Fmoc保護体などが用いられます。

イソロイシンの性質

1. イソロイシンの異性体

イソロイシンの異性体

図2. イソロイシンの異性体

イソロイシンは、L-イソロイシン、D-イソロイシン、L-allo-イソロイシン、D-allo-イソロイシンの4つの異性体が存在します。このうち、生体内など自然界で用いられているものはL-イソロイシンです。合成化学的には、2-ブロモブタン及びマロン酸ジエチルを出発物質として、多段階反応により、合成されます。

2. イソロイシンの生合成

イソロイシンの生合成

図3. イソロイシンの生合成

イソロイシンはヒトの体内では合成されませんが、植物や微生物内では生合成されています。2-オキソブタン酸から各種酵素によって合成され、具体的な合成経路は下記の通りです。

  1. アセト乳酸シンターゼ およびケトール酸レダクトイソメラーゼによってジヒドロキシカルボン酸が生成する。
  2. ジヒドロキシ酸デヒドラターゼの作用により脱水を受けて α-ケトカルボン酸に変換される。
  3. 分枝鎖アミノ酸アミナーゼによってグルタミン酸からアミノ基が移動し、イソロイシンが生成する。

3. イソロイシンの生理学的役割

イソロイシンは、人体における必須アミノ酸の一つです。筋肉を強化したり、疲労を回復する働きがあります。そのため、必須アミノ酸のうちバリンロイシンとともにBCAA とも呼ばれています。その他に、血糖値の上昇を抑えたり、血管を拡張させたり、肝臓の機能を高める効果も明らかにされています。

イソロイシンの種類

現在市販されているイソロイシンには、主に産業用の製品と研究開発用の製品とがあります。産業用の製品は食品添加物に用いられることが多く、1kg , 25kg
, 50kgなど、大容量での提供が一般的です。主には、L体のイソロイシンが販売されています。

研究開発用では、L体の他に、「DL-イソロイシン」としてラセミ体も販売されています。5g , 10g , 25g , 50g , 100g , 500gなど、実験室で取り扱いやすい小型容量で販売されます。基本的には常温保管が可能な薬品です。また、アミノ酸研究やペプチド合成用に、N-Fmoc保護体をはじめとするアミノ酸末端を保護したものも販売されています。こちらは基本的に冷蔵ないし冷凍で保管される試薬です。

この他、サプリメントなど、イソロイシンを成分として使用した製品は一般にも広く販売されています。

参考文献
https://www.maff.go.jp/j/council/sizai/siryou/57/attach/pdf/index-10.pdf

アンモニア

アンモニアとは

アンモニアとは、窒素 (N) 原子1つと水素 (H) 原子3つの無機化合物です。

強い刺激臭が特徴の物質で、アンモニア臭は動物性食品に多くみられます。動物性食品にはタンパク質や遊離アミノ酸等、窒素化合物が大部分を占めるためです。これらが微生物によって腐敗し、分解されることでアンモニアが発生し、臭いとして現れます。

アンモニアは、常温常圧において無色の気体として安定しています。加圧・冷却により容易に液化し、液化したものは液安もしくは液化アンモニアと呼ばれます。

水によく溶ける物質であるため、アンモニア水の状態でも使用される場合が多いです。アンモニア水はアルカリ性を示し、 分析試薬として使用されます。他にも、衣類の染み抜き、虫刺されの際の中和剤として外用薬にも使用されています。

アンモニアの使用用途

1. 肥料

最も一般的なアンモニアの使用用途は化学肥料です。世界で生産されたアンモニアのうち、約8割は肥料として消費されます。残り2割は工業用として、化学製品の基礎材料に使用されています。

世界の人口増加を支えてきた食糧増産技術ですが、中でもアンモニアを原料とする窒素化合物を使った化学肥料は農業に大きく貢献しました。現在も世界の人口は増え続けています。食料確保の必要性から、農産物肥料としてのアンモニアの重要性は今後も変わらないと考えられます。

2. 燃料アンモニア

近年、地球温暖化対策への新たな取り組みの一つとして、アンモニアを燃料エネルギーとして利用する研究が注目されています。アンモニアは燃焼時に、二酸化炭素を排出しないカーボンフリー物質であるためです。現在、技術開発が進んでいるのが、石炭火力発電のボイラーにアンモニアを混ぜて燃焼させる「火力混焼」です。将来的には、エネルギー源をすべてアンモニアとする専焼発電を視野に入れた技術開発が進められています。

3. エネルギーキャリア

二酸化炭素の排出量を減らすために、水素をエネルギーとして使用するものも増えてきています。大量輸送が難しい水素を別の材料に変換したものを「水素キャリア」と呼びます。

輸送媒体として水素分子 (H) を含むアンモニア (NH3) が役立つ可能性が高いです。アンモニアは前述したように、肥料用途を中心に世界で輸出入が行われていることから、輸送の既存技術は確立しています。

輸送後、触媒の存在下で熱分解によって再び水素に戻し、燃料電池などに利用する使い方とアンモニアのまま燃料にしてしまう使い方が考えられています。

アンモニアの特徴

アンモニア

図1. アンモニア分子の構造

アンモニア分子は窒素原子を頂点とし、3つの水素原子が底辺を形成していているのが特徴です。窒素原子と水素原子はそれぞれ結合し、3次元の三角錐形の配置をとります。

三角錐形の理想的結合核は、四面体形の電子対幾何構造に基づきますが、単結合よりも孤立電子対の方が大きな空間の領域を占有するため、理想的な角度からずれます。このため、結合角は正四面体の109.5°ではなく結合核107°です。

アンモニアのその他情報

アンモニアの合成

ハーバーボッシュ法

図2. ハーバー・ボッシュ法

自然界では大気中に微量、天然水中にもアンモニアは少量存在しています。また、土壌中は肥料 (アンモニア含む) 、動植物の遺骸等に含まれた窒素有機物が分解生物によって、アンモニア態窒素に分解されて含まれています。

19世紀末期のヨーロッパでは、多くの研究者がアンモニアの合成に挑戦しました。不可能と思われていたアンモニア合成ですが、水素と窒素から直接アンモニアを合成するドイツ人ハーバーが実験室的に成功した研究をBASF 社のボッシュが1913年工業化しました。これが、ハーバー・ボッシュ法です。

現在、工業的なアンモニアの生産はハーバー・ボッシュ法によるものが一般的であり、触媒上で窒素と水素を加圧・高温環境下で反応させています。

アロプリノール

アロプリノールとは

アロプリノールの基本情報図1. アロプリノールの基本情報

アロプリノールとは、高尿酸血症 (痛風) の治療に使われる尿酸生成抑制薬です。

キサンチンオキシダーゼ (英: xanthine oxidase) の阻害活性を持っています。体内で尿酸が作られるのを抑制でき、高尿酸血症を改善し、痛風発作が発生するのを予防可能です。

アロプリノールは、痛風や高尿酸血症を伴った高血圧症を改善します。低尿酸血症の治療にも使用されます。尿酸排泄亢進によって、尿酸尿路結石症を引き起こす場合があるためです。

アロプリノールの使用用途

アロプリノールは、体内での尿酸の生成を抑えるため、高尿酸血症の治療に用いることが可能です。通常、成人は1日200mgから300mgを、2回から3回に分けて経口摂取します。ただし摂取初期は、尿酸の結晶が関節から排出されるため、痛風発作が起こることもあります。

主な副作用に、発疹、かゆみ、関節痛、貧血、肝機能異常、食欲不振、軟便、下痢、倦怠感、脱毛があるため注意が必要です。アロプリノールは腎臓から排出されるので腎臓機能が低下していると薬の排出が遅れがちになるため、摂取量を調整する必要があります。

アロプリノールの性質

アロプリノールの関連化合物

図2. アロプリノールの関連化合物

アロプリノールの化学式はC5H4N4Oで、分子量は136.112g/molです。天然に存在するプリン (英: purine) 誘導体の一つであるヒポキサンチンの構造異性体です。外観は白色の結晶性で粉末です。アンモニア試液には溶けますが、水やエタノールには溶けにくいです。

体内に入ったアロプリノールは、尿酸の合成を阻害します。体内では酵素であるキサンチンオキシダーゼの働きにより尿素へ代謝されています。キサンチンオキシダーゼをアロプリノールが阻害し、体内でプリン体からヒポキサンチン (英: hypoxanthine) やキサンチン (英: xanthine) を経て、尿酸 (英: uric acid) が生じるのを抑制可能です。

アロプリノールは体内ですぐにオキシプリノール (英: OxipurinolまたはOxypurinol) に代謝されます。生物学的半減期は1時間ほどと短いのに対して、オキシプリノールの半減期は17~30時間程度です。したがって、アロプリノールを投与した際の効能は、オキシプリノールによると考えられます。

アロプリノールのその他情報

1. アロプリノールの報告例

アロプリノールを投与すると、心血管イベントが減ったと報告されています。心筋梗塞、脳卒中、急性冠症候群のような心血管リスクが低下し、腎臓の糸球体濾過量が増えたと報告があります。それ以外にも、アロプリノールの投与によって、2型糖尿病患者の左室肥大を退縮させました。

日本でスティーブンス・ジョンソン症候群 (英: Stevens-Johnson syndrome) や中毒性表皮壊死症 (英: Toxic epidermal necrolysis) の原因薬剤としてのアロプリノールの報告例は、ラミクタール (英: Lamictal) の次点です。

2. アロプリノールの関連化合物

アロプリノールの構造異性体図3. アロプリノールの構造異性体

ヒポキサンチンは、アロプリノールの構造異性体です。ヒポキサンチンは核酸で見られるプリン誘導体であり、ヌクレオシドイノシンとしてtRNAのアンチコドンに存在します。

キサンチンオキシダーゼによりキサンチンからヒポキサンチンが生成し、サルベージ経路 (英: salvage pathway) のヒポキサンチン-グアニンホスホリボシルトランスフェラーゼ (英: Hypoxanthine-guanine phosphoribosyltransferase) によりイノシン一リン酸 (英: inosinic acid) に変わります。

アルミン酸ナトリウム

アルミン酸ナトリウムとは

アルミン酸ナトリウムの構造

図1. アルミン酸ナトリウムの主な構造

アルミン酸ナトリウム (sodium aluminate) とは、ナトリウムアルミニウムを組成に含む複数の無機化合物を指す名称です。

一般的にアルミン酸ナトリウムと呼ばれているものには、NaAlO2 , Na[Al(OH)4] , Na2O·Al2O3 , Na2Al2O4などが含まれます。アルミン酸ナトリウムは、無機化合物であることから水に溶けやすく、有機溶媒には溶けにくい物質です。

不燃性であり、爆発や引火性はありません。常温では白色固体であり、粉末状です。ただし、Na[Al(OH)4]は、溶液から固体として単離することが困難なため液体で取り扱われます。どちらも臭いはありません。

毒物及び劇物取締法では、医薬用外劇物の指定を受ける化合物です。腐食性物質であるため、航空法、港則法、船舶安全法、危険則では「腐食性物質」に、労働安全衛生法では、「名称等を表示すべき危険有害物」「名称等を通知すべき危険有害物」に指定されています。

アルミン酸ナトリウムの使用用途

アルミン酸ナトリウムは、土木、建築、浄水、製紙、医薬品製造原料など、工業化学用原材料として幅広く使用されています。土木建築分野の主な用途は、コンクリートが早く固まるようにセメントに添加する急結材です。また、土壌の硬化剤や耐火レンガの添加剤としても使用されています。

水分野では、水に浮遊している固形物の沈殿を促進する凝固助剤として使用され、排水処理過程において水浄化効果を改善します。硬度の高い水の硬度を下げる軟質化剤としても使用可能です。

製紙業界では、硫酸アルミニウムと共用することにより、紙の吸水性を制御するサイズ剤として用いられます。また、化粧版の製造工程において水のpH調整のために使用する用途もあります。

アルミン酸ナトリウムの原理

アルミン酸ナトリウムの原理を製造方法と性質の観点から解説します。

1. アルミン酸ナトリウムの製造方法

アルミン酸ナトリウムの合成方法

図2. アルミン酸ナトリウムの主な合成方法

酸化アルミニウムおよび水酸化アルミニウムは強塩基と反応してアルミン酸塩を生成します。そのため、アルミン酸ナトリウムは、アルミニウム化合物 (単体のアルミニウム、酸化アルミニウムあるいは水酸化アルミニウムなど) と、水酸化ナトリウムあるいは炭酸ナトリウムなどのナトリウムの強塩基から合成されます。

工業的製法の一つは、水酸化アルミニウム Al(OH)3を20〜25%の水酸化ナトリウム (NaOH) 水溶液に溶解させて加熱した後、脱水してNaAlO2を得る方法です。この方法では最終的に90%のNaAlO2が得られるとされています。

2. アルミン酸ナトリウムの性質

アルミン酸ナトリウムの性質

図3. 空気中の水分や二酸化炭素とアルミン酸ナトリウムの反応

アルミン酸ナトリウムの水溶液は強塩基です。酸と激しく反応し、アルミニウム、スズ、亜鉛に対して腐食性を示します。アンモニウム塩に反応し、火災の危険をもたらすとされています。

化学式 NaAlO2 で表される二酸化ナトリウムアルミニウムは、潮解性で、空気中の水分や二酸化炭素を吸収して変質しやすい性質です。水に溶解するとテトラヒドロキシドアルミン酸ナトリウム (Na[Al(OH)4]) 水溶液となり、強塩基性を示します。このため、炭酸などの弱酸の存在下でも容易に加水分解して水酸化アルミニウムを沈殿します。

アルミン酸ナトリウムの種類

アルミン酸ナトリウムには、「NaAlO2」「NaAl(OH)4」「Na2O·Al2O3」「Na2Al2O4」などが含まれますが、製品としてアルミン酸ナトリウムと呼ばれているものに含まれているものの大半は、「NaAlO2」「Na[Al(OH)4]」です。

化学試薬用途の製品は、通常NaAlO2の白色粉末の形態で販売されていることが多いです。500gなどの少量より販売されています。各種工業用途 (土壌硬化剤、水処理用凝集助剤、触媒原料、セメント急結剤) などの目的で販売されている製品には、液体のNa[Al(OH)4]及び粉末のNaAlO2の2種類があります。

通常、液体品は淡黄色透明でやや粘調な液体、粉末品は白色の粉末です。製品によって組成比や不純物が異なるため、確認してから使用することが必要です。工業用製品は、タンクローリ車・ドラム缶・石油缶 (液体品) 、紙袋 (粉末品) などの荷姿で販売されます。

参考文献
https://anzeninfo.mhlw.go.jp/anzen/gmsds/1302-42-7.html
https://www.nies.go.jp/kisplus/dtl/chem/SZY00286

アラニン

アラニンとは

アラニン (英: Alanine) とは、タンパク質を構成するアミノ酸の1種です。

IUPAC名は (2S) -2-アミノプロピオン酸 (英: (2S) -2-aminopropanoic acid) であり、略号はAlaもしくはAです。アラニンは、肝臓で作られる非必須アミノ酸で、体内ではピルビン酸から合成されます。

エネルギーの生成や糖新生、脂肪酸の合成に用いられ、アセトアルデヒドを分解するためアルコールの代謝にも寄与します。

アラニンの使用用途

1. 食品添加物

うま味と甘味を持つため、食品添加物として使用されます。添加される食品に対し、酸味や塩味を加えたり、苦味の低減が可能です。

また、他の調味料との相乗効果で、うま味向上も期待できます。水産練り製品や珍味、漬物、惣菜、清酒の味つけなどに用いられます。アラニンは二日酔いの原因となるアセトアルデヒドを分解するため、アルコール摂取後のサポート食品にも利用される添加剤です。

その他、下痢などによる水分不足を補ったり、皮膚のターンオーバーを促進する効果があるとされています。

2. 化粧品添加剤

薬効成分を持つ化合物の安定化などを目的に、経口薬や外用薬、注射剤の添加剤として使用されます。

アラニンの性質

ここでは、L-α-アラニンについて説明します。化学式はC3H7NO2で表され、分子量は89.09です。CAS番号は56-41-7 で登録されています。

アラニンは融点250°C (昇華) 、297°Cで分解し、常温で白色粉末、密度1.432g/ml (22℃) の固体です。水中で再結晶すると、斜方晶結晶が得られます。無臭で甘味を持ちます。エタノールには若干溶け、ジエチルエーテルアセトンなどの有機溶媒にはほとんど溶けません。水には、25 °Cで164g/Lとよく溶けます。

酸性・アルカリ性の程度を表すpHは2.7、酸解離定数 (pKa) は2.34と9.69 (25°C) です。酸解離定数とは、酸の強さを定量的に表すための指標の1つです。pKa が小さいほど強い酸であることを示します。

アラニンの種類

アラニンというと、通常L-α-アラニンを指しますが、その他D-α-アラニンやβ-アラニンも存在します。D-α-アラニンの性質は、L-α-アラニンと同様です。CAS番号は338-69-2で登録されています。

2種類の鏡像異性体 (エナンチオマー) が等量存在するラセミ体のD,L-アラニンは、CAS番号は302-72-7で登録されています。β-アラニンは、アミノ基が置換する位置がα-アラニンとは異なり、エナンチオマーを持ちません。略号はβ‐Alaです。融点は197〜202°Cで、常温で無色〜白色の針状結晶です。

水には25°Cで545g/Lとよく溶け、有機溶媒には溶けません。酸性・アルカリ性の程度を表すpHは2.7、酸解離定数 (pKa) は3.63です。CAS番号は107-95-9で登録されています。

アラニンのその他情報

1. アラニンの製造法

L-アラニンは、微生物が持つ酵素、アシラーゼによるタンパク質の非対称加水分解によって製造されます。また、Pseudomonas dacunhaeなどの固定化微生物を用いたL-アスパラギン酸の酵素的脱炭酸によっても調製可能です。

D,L-アラニンは、シアン化ナトリウム存在下でのアセトアルデヒドと塩化アンモニウムの縮合によるストレッカーアミノ酸合成 (英: Strecker Amino Acid Synthesis) 、または2-ブロモプロパン酸へのアンモニアの付加により調製できます。

ストレッカーアミノ酸合成とは、アルデヒドとアンモニア、シアン化水素からアミノ酸を合成する方法です。最初に、アルデヒドとアンモニアが反応しイミンを形成し、シアン化物イオンがイミンを求核攻撃することでアミノニトリルが生成します。最後に加水分解され、目的のアミノ酸を合成することが可能です。

β‐アラニンは、アクリル酸またはアクリロニトリルとアンモニアから合成されます。

2. 取り扱い及び保管上の注意

取り扱い時の対策
強酸化剤は、アラニンの混触危険物質です。取り扱う際および保管の際に、接触を避けてください。取り扱う際は、必ず保護手袋と側板付きの保護メガネ、長袖の保護衣を着用し、局所排気装置内で使用します。

火災の場合
燃焼により、一酸化炭素 (CO) 、二酸化炭素 (CO2) 、窒素酸化物 (NOx) へと分解し、有毒なガスや蒸気を生成します。水や二酸化炭素、粉末消火剤、泡、砂などを用いて消火してください。

皮膚に付着した場合
皮膚に付いた際は、石けんと水で十分に洗浄してください。皮膚に刺激がある、または何かしらの症状が続く場合は、医師に連絡します。

眼に入った場合
眼に入った際は、眼を傷つけないよう気を付けながら、水でしばらくの間洗浄します。直ちに、医師の診察を受けてください。

飲み込んだ場合
飲み込んだ場合は、すぐに口をすすぎます。すぐに、毒物管理センター、もしくは医師に連絡してください。

保管する場合
ポリエチレンやポリプロピレン、ガラス製の容器に密閉し、冷暗所に保管してください。

参考文献
https://labchem-wako.fujifilm.com/sds/W01W0101-0104JGHEJP.pdf
https://pubchem.ncbi.nlm.nih.gov/compound/Alanine
https://pubchem.ncbi.nlm.nih.gov/compound/D-alanine
https://pubchem.ncbi.nlm.nih.gov/compound/beta-Alanine
https://cosmetic-ingredients.org/skin-conditioning-miscellaneous/62/

アミノフェノール

アミノフェノールとは

アミノフェノールとは

図1. アミノフェノールの構造

アミノフェノールとは、フェノールのベンゼン環上の水素原子うちの一つをアミノ基で置換した有機化合物です。

アミノ基の位置によって、o-アミノフェノール (オルトアミノフェノール)、m-アミノフェノール (メタアミノフェノール)、p-アミノフェノール (パラアミノフェノール) の3種類の異性体が存在します。3つの異性体は全て常温では固体であり、それぞれ「白色ないし淡黄色の結晶、針状の形」 (オルト体) 、「白色」 (メタ体) 、「無色板状晶」 (パラ体) です。特に、パラ体は空気中で徐々に酸化し、色が褐色に変わるとされています。

アミノフェノールの分子量は109.13、密度はそれぞれ、オルト体: 1.328g/cm3、メタ体: 1.276g/cm3、パラ体: 1.13 g/cm3であり、3種類ともエタノールなどの極性溶媒に溶けやすい物質です。水への溶解度は、オルト体: 2.0×103mg/L (20℃) 、メタ体: 26g/L (20℃) 、パラ体: 16g/L (20℃) でそれぞれ異なります。

アミノフェノールの使用用途

アミノフェノールの化学反応

図2. アミノフェノールの化学反応

アミノフェノールは、3種類とも有機合成化学における重要なビルディングブロックとして用いられます。すなわち、医薬や染料などの原料です。

具体的な合成の例としては、p-アミノフェノールと無水酢酸を反応させるアセトアミノフェンの合成や、o-アミノフェノールからの複素環の合成が挙げられます。また、m-アミノフェノールから合成される3- (ジエチルアミノ) フェノールは、蛍光色素を合成するにあたり重要な中間体です。

また、o-アミノフェノールは、還元剤として働くため、写真現像薬の一種です (製品名、Atomal・Ortolなど) 。m-アミノフェノールには、染料、感熱色素、農薬、アラミド繊維用原料などの用途もあります。p-アミノフェノールは、ゴム用老化防止剤、毛皮用酸化染料に利用されるほか、o-アミノフェノールと同様、写真現像薬にも使用されています。

アミノフェノールの原理

アミノフェノールの合成方法と化学反応

図3. アミノフェノールの合成方法と重要な化学反応の例

アミノフェノールの原理を製造方法や性質の観点から解説します。

1. アミノフェノールの製造方法

フェノールをニトロ化するとo-ニトロフェノールとp-ニトロフェノールの混合物が生成し、還元によりo-アミノフェノール、及び、p-アミノフェノールを得ることが可能です。これは、フェノールのヒドロキシ基のオルトパラ配向性に由来します。ニトロフェノールの還元には、適切な還元剤 (NaBH4など) 、または水素と触媒 (Raney Niなど) を用いた水素化反応などを用います。

このオルトパラ配向性のため、メタ体の合成では全く異なる合成経路を用いることが必要です。m-アミノフェノールの合成方法は、3-アミノベンゼンスルホン酸と水酸化ナトリウムを245°Cで6時間熔融することによる合成、若しくは、レゾルシノールと水酸化アンモニウムの置換反応などが用いられます。

2. アミノフェノールの性質・化学反応

o-アミノフェノールは隣接するアミノ基とヒドロキシル基が分子内および分子間水素結合を形成する性質があります。

また、アミノ基はジアゾ化することが可能で、他の芳香族または共鳴染料種にカップリングして、染料化合物の合成に用いられます。特にo-アミノフェノールのジアゾ化化合物は金属錯体を形成する三座配位子として有用です。

アミノフェノールの種類

アミノフェノールは、研究・開発用試薬製品のほか、産業用途では酸化染料として販売されています。オルト・メタ・パラの異性体は、混合物ではなく通常それぞれ別の製品です。

試薬製品としては25g , 500gなどの小単位販売ですが、酸化染料としての製品は15kg , 20kgなど大容量で販売されています。

参考文献

https://anzeninfo.mhlw.go.jp/anzen/gmsds/123-30-8.html
https://anzeninfo.mhlw.go.jp/anzen/gmsds/95-55-6.html
https://anzeninfo.mhlw.go.jp/anzen/gmsds/591-27-5.html
https://www.env.go.jp/content/900411196.pdf
https://www.env.go.jp/chemi/report/h15-01/pdf/chap01/02-3/05.pdf
https://www.env.go.jp/chemi/report/h16-01/pdf/chap01/02_3_6.pdf

アデノシン

アデノシンとは

アデノシンとは、筋肉細胞や脳細胞における主要なエネルギー源であるATP (アデノシン三リン酸) が分解されることによってできる物質です。

睡眠物質の1つといわれています。日中に筋肉細胞や脳細胞が働くことによってATPが燃えて分解され、アデノシンが産生されます。さらに、体内にアデノシンが蓄積することで眠気を引き起こすという仕組みです。

また、アデノシンの作用を抑制するためにカフェインが使用されます。一般的に、眠気覚ましを目的としたものにカフェインが配合されているのは、その理由である場合が多いです。

アデノシンの使用用途

アデノシンの主な使用用途は、以下の通りです。

1. 心疾疾患の診断

アデノシンは、体内で分解されることによって作られる物質であるため、能動的に摂取するものには含まれていません。しかし、最近の研究によって、アデノシンの受容体に対するアゴニストやアンタゴニストが発見され、薬理作用などが明らかになりました。

その中で実用化に至っているものは、心臓疾患の診断を行うために負荷誘導をかける医薬品です。これによって、運動負荷をかけられない人にも心筋血流シンチグラフィによる心臓疾患の診断を行えるようになります。

しかし、心臓疾患の診断を行うために使用する場合には、副作用に対する注意も欠かせません。負荷誘導にアデノシンを使用する場合、胸部への違和感や過度な血圧低下を引き起こす可能性があります。そのため、使用時には血圧の測定や心電図の確認など副作用が生じた際に対処できる準備を行うことが重要です。

2. 育毛剤

また、アデノシンは近年、育毛剤にも使用されています。育毛剤には育毛作用はもちろんのこと、ヘアサイクルを整える効果も欠かせません。

アデノシンには人の毛根にある毛乳頭細胞へ作用し、発毛促進及びヘアサイクルを整える効果があると言われています。そのため、心臓疾患の診断を行うためだけでなく育毛剤にもアデノシンが配合されています。

3. 化粧品

アデノシンは化粧品にも使用されています。アデノシンを配合した化粧品は肌のシミやシワを薄くさせることが可能です。肌のシミやシワの原因として代表的なものはメラミンと言われており、肌のターンオーバーが乱れると発生しやすくなります。

シミやシワを押さえるためにも、肌のターンオーバーを整え、肌の代謝を高めることが欠かせません。アデノシンにはターンオーバーを促すために必要な肌の代謝を高める効果が認められています。そのため、アデノシンを含んだ化粧品を使用することで、シミやシワを薄くさせることが可能です。

アデノシンの特徴

アデノシンは、アデニンとリボースが結合したヌクレオチドの一つです。アデノシンの化学式は、C10H13N5O4で表されます。なお、アデノシンの外観は白色です。

水には溶けますが、エーテルにはほとんど溶けません。また、融点は約235℃、沸点は676.3℃で常温 (20℃) においては個体です。

アデノシンのその他情報

1. アデノシンの製造方法

アデノシンは生物の体内で生成されることが一般的ですが、工業的に製造する場合は核酸を加水分解することでアデノシンを生成することが可能です。

例えば、ATPを加水分解した場合にはアデノシン-5-リン酸 (AMP) とピロリン酸が生成されます。また、アデニン誘導体をペンタアセチル-D‐リボフラノースと溶融縮合及びアセトハロゲノ-D-リボフラノースと縮合させる方法でも生成されています。

2. アデノシン取り扱い及び保管上の注意点

取り扱い及び保管上の注意は、下記の通りです。

  • 遮光容器を使用し、暗所かつ換気の良いところで保管する。
  • 強酸化剤との接触及び混同しないよう注意する。
  • 取り扱い時には下水や河川などに排出しないよう注意する。
  • 取り扱い時には目や口に付着しないよう、保護具を着用する。
  • 火気などの熱源の傍では使用しない。

参考文献
https://www.tcichemicals.com/JP/ja/p/A0152
https://anzeninfo.mhlw.go.jp/anzen_pg/KAG_DET.aspx?joho_no=38912

アゾビスイソブチロニトリル

アゾビスイソブチロニトリルとは

アゾビスイソブチロニトリル (AIBN)の構造

アゾビスイソブチロニトリル 「azobis (isobutyronitrile) 」とは、反応試薬として広く用いられる有機化合物の一種です。

アゾ化合物であり、シアノ基を持ちます。分子式C8H12N4、分子量164.21、常温においては無色固体です。

一般的な略称はAIBNです。別名α,α’‐アゾビスイソブチロニトリルと呼ばれる場合もあります。尚、IUPAC命名法では「2,2′- (diazene-1,2-diyl) bis (2-methylpropanenitrile) 」と表記され、CAS登録番号は78-67-1です。

エーテルやアルコールなどの有機溶媒にはには溶けますが、水にはほぼ溶けません。アゾビスイソブチロニトリルは、消防法では第5類第2種自己反応性物質、毒劇法 (毒物及び劇物取締法) では劇物に指定されています。PRTR法でも第一種指定化学物質とされており、取扱いには十分注意が必要です。

アゾビスイソブチロニトリルの使用用途

アゾビスイソブチロニトリルは、容易に分解して、窒素ガスの放出とともに2-シアノ-2-プロピルラジカルを与えます。この性質を利用して、各種ラジカル反応のラジカル開始剤として広く利用されています。

代表的な反応は、ビニル化合物やポリスチレンなどの汎用ポリマーを合成する重合反応や、臭化水素 (HBr) を用いたアルケンのヒドロ臭素化反応などです。トルエンを溶媒とするスチレン無水マレイン酸の混合溶液にアゾビスイソブチロニトリルを加えて穏やかに加熱すると、ポリスチレンを得ることができます。また、有機合成における中間体、ゴムやプラスチックなどの発泡剤などの利用用途もあります。

アゾビスイソブチロニトリルの原理

アゾビスイソブチロニトリルの原理を性質と化学反応の観点から解説します。

1. アゾビスイソブチロニトリルの性質

アゾビスイソブチロニトリルの分解反応

アゾビスイソブチロニトリルは、分子量164.21、分子式C8H12N4の常温において無色透明の有機化合物です (融点107°C) 。分子内に1つのアゾ基と2つのシアノ基を持ちます。

熱または光により容易に分解して、窒素ガスと2分子の2-シアノ-2-プロピルラジカルを生成します。他に反応物が無い場合は、ラジカル同士で再結合します。生成物は2,2,3,3-テトラメチルスクシノジニトリルです。

この分解反応が起こる理由は、主に以下の通りです、

  • 隣接するシアノ基の電子求引性の寄与により、分解で切断される炭素–窒素間の結合エネルギーが低下しているため
  • 窒素ガスの生成がエネルギー的に有利であるため

また、生成したラジカルは分解しにくく、ラジカルが留まるので各種ラジカル反応の開始剤として非常に適しています。熱分解の場合は、95–104℃に加熱することが一般的です。

アゾビスイソブチロニトリルはメタノールエタノールに溶けますが、アセトン溶液で爆発した事例が知られています。前述の分解性のため、冷暗所で遮光保存が必要です。

2. アゾビスイソブチロニトリルの化学反応

アゾビスイソブチロニトリルの反応の例

アゾビスイソブチロニトリルは、各種ラジカル反応のラジカル開始剤として用いられます。下記に代表的な反応の例を2つ挙げます。

トリブチルスズラジカルの生成
アゾビスイソブチロニトリル由来のラジカルが、トリブチルスズから水素を引き抜き、スズラジカルが生成します。この生成したスズラジカルを用いて、有機ハロゲン化合物のハロゲンを水素置換する還元反応を行うことが可能です。

ウォール・チーグラー反応
ウォール・チーグラー反応 (Wohl-Ziegler reaction) は、N-ブロモスクシンイミド (NBS) とラジカル開始剤を用いてアルケンのアリル位や芳香族化合物のベンジル位を臭素化する反応です。N-ブロモスクシンイミド (NBS) から臭素ラジカルを発生させるラジカル開始剤として、AIBNが用いられます。

アゾビスイソブチロニトリルの種類

アゾビスイソブチロニトリル製品には、大きく分けて樹脂合成などの産業用途製品と、実験室用の試薬製品の2種類が存在します。産業用途製品は、工場などを対象とした大容量製品がメインです。

実験室用の試薬製品では、25g、500gなどの容量の他、12wt.%アセトン溶液製品などもあります。前述の分解性のため、冷暗所で遮光保存が必要です。発生した窒素ガスで内圧がかかることがあるため、開栓時には気をつける必要があります。

参考文献
https://anzeninfo.mhlw.go.jp/anzen/gmsds/78-67-1.html

アセトアルデヒド

アセトアルデヒドとは

アセトアルデヒドの基本情報

図1. アセトアルデヒドの基本情報

アセトアルデヒド (Acetaldehyde) とは、有機化合物の一種で、化学式 C2H4Oで表されるアルデヒドです。

IUPAC命名法による名称は エタナール (Ethanal) であり、他の名称には酢酸アルデヒド、エチルアルデヒドなどがあります。CAS登録番号は、75-07-0 です。

分子量44.05、融点-123℃、沸点20.1℃であり、常温では無色透明の液体です。果実臭がありますが、高濃度ではむせる様な腐敗臭とされます。密度は0.790g/cm3 (10℃) であり、水、及び、エタノールジエチルエーテルなどの溶媒に極めて溶けやすい物質です。25℃における水への溶解度は1kg/L です。

アセトアルデヒドの使用用途

アセトアルデヒドの主な用途には、酢酸やアルデヒド類をはじめとする種々の有機化合物製造原料、防かび剤、防腐剤、溶剤、写真現像用薬品、燃料配合剤、還元剤、医療用薬品などがあります。

合成原料としては、ペンタエリスリトール・クロトンアルデヒド・グリオキザール・ピリジン・ラクトニトリル・酢酸などの合成に用いられています。

アセトアルデヒドの原理

アセアルデビド の原理を製造と化学反応などの観点から解説します。

1. アセトアルデヒドの製造

アセトアルデヒドの工業的合成

図2. アセトアルデヒドの工業的合成

アセトアルデヒドは、工業的にエチレンのワッカー酸化によって得られています。また、エタノールの酸化によっても製造されています。

2. アセトアルデヒドの化学反応

アセトアルデヒドの化学反応

図3. アセトアルデヒドの化学反応

産業で用いられるアセトアルデヒドの大部分は、ティシチェンコ反応による酢酸エチルの工業的合成に用いられています。この反応では、アルコキシドを触媒として、アセトアルデヒド2分子がカルボン酸とアルコールとに不均化し、脱水縮合によって酢酸エチルが合成されます。

以前は酢酸の合成原料としても利用されてましたが、現在ではメタノールアセチレンからの直接合成の方が効率的であるため、あまり利用されなくなりました。

3. アセトアルデヒドの化学的性質

アセトアルデヒドは沸点が20.1℃と低い、揮発性の物質です。アセトアルデヒドには、ケト-エノール互変異性があります。すなわち、ビニルアルコールと平衡状態にありますが、常温における平衡定数は 6 × 10−5であることから、ほとんどはケト型の構造です。

引火点が-38 ℃と低いため引火性が高く、燃焼範囲は極めて広いとされます。また、空気と接触すると爆発性過酸化物を生成する可能性がある物質です。酸素、塩化コバルト、五酸化二窒素、塩素酸水銀、過塩素酸水銀、硝酸銀過酸化水素との接触によっても爆発の恐れがあります。

微量の金属 (鉄) の存在下においては、酸、アルカリ性水酸化物の作用により重合する可能性がある物質です。更に、アセトアルデヒドは還元剤としての作用があるため、酸化剤、強酸、ハロゲン、アミンと激しく反応した場合に、火災や爆発の危険をもたらします。

以上の危険性から、消防法では、 第4類引火性液体、特殊引火物に定められています。その他にも、PRTR法、労働安全衛生法をはじめとする種々の法令で規制を受けている化合物です。

4. アセトアルデヒドと人体

独特の臭気と刺激性を持ち、自動車の排気やたばこの煙、合板接着剤などに由来する大気汚染物質でもあります。アセトアルデヒドを大量に曝露することにより、発がんリスクが上昇するという有害性も報告されています。シックハウス症候群などの原因物質の一つです。

人体においては、エタノールを摂取した際に肝臓でアルコール脱水素酵素によって生成され、体内で生成したアセトアルデヒドは、アセトアルデヒド脱水素酵素によって、酢酸へと代謝されます。

アセトアルデヒドは、二日酔いの症状を引き起こすことで有名な物質です。アセトアルデヒドの代謝は、人種・体質によって生まれつき差異があり、飲酒に関係する体質はこれに由来しているとされます。

アセトアルデヒドの種類

現在製品として市場に流通しているアセトアルデヒドは、研究開発用の試薬製品や、工業用有機合成の原料として販売されています。

試薬製品については、100mL , 500mL , 1L , 500gなど、実験室で取り扱いやすい容量の種類があります。沸点が低いことから冷蔵保管が必要な試薬です。

工業用薬品としては、14kgのキャニスター缶などの容量があります。大型容量で提供されていることが一般的です。

参考文献
https://anzeninfo.mhlw.go.jp/anzen/gmsds/75-07-0.html

アセチレン

アセチレンとは

アセチレンの構造

アセチレン (acetylene) とは、炭素数2の炭化水素です。

アルキン (炭素-炭素三重結合を持つ炭化水素) の中で最も単純な構造を持ち、分子式はC2H2、IUPAC系統名では「エチン」 (ethyne) と呼ばれます。常温では無色・無臭の気体であり、ガス密度は空気 (ガス密度1) よりわずかに軽く、0.908です。

天然に存在する物質ではなく、天然ガスやナフサなどの炭化水素を熱分解することで得られます。火炎温度が高く、酸素消費量も少ないことから、工業的に広く活用されている可燃性ガスです。

アセチレンの使用用途

アセチレンは、金属の溶接や溶断加工における可燃性ガスとして用いられます。火炎温度が高いことによって作業を効率的に行うことが可能で、酸素消費量が少ない故に酸素容器の使用本数を減らすことができるためです。具体的には、鉄筋の圧接、溶射やロウ付け、鉄板の切断、鋼材の焼入れなどに用いられます。

アセチレンを完全燃焼した場合の火炎温度は3,300℃にも達します。これは他の可燃性ガスと比べても非常に高い温度です。 (参考: メタンガス/2,780℃、プロパンガス/2,800℃、プロピレンガス/2,900℃、エチレンガス/3,000℃)

また、着火温度は305℃と低いため扱いやすく、更に酸素の消費量はプロパンガスの1/4ほどと、溶断ガスの中で最小です。また、反応性が高いことから、エチレンアセトアルデヒドベンゼンなど、多くの有機化合物をアセチレンから合成することができます。

尚、より純度の高いアセチレンに関しては、下記のような用途があります。

  • 半導体の炭素原料
  • 硬質炭素膜の生成原料
  • カーボンナノチューブ、カーボンナノコイルなどの新素材の合成原料
  • 原子吸光分析

アセチレンの原理

アセチレンの原理を性質や合成方法、化学反応の観点から解説します。

1. アセチレンの性質

アセチレンは、化学式C2H2で表され、分子内に三重結合を一つ持ち、分子は直線形をしています。常温では水に体積比1:1の割合で溶けますが、テトラヒドロフランなどの有機溶媒により溶けやすい性質を示します。

アセチレンは、可燃性ガスとして有用である一方、極めて着火しやすく、酸素がなくても爆発的に燃焼するという性質のため、取り扱いの際は注意が必要です。滞留したアセチレンガスに着火した場合は爆発を起こすとされています。

2. アセチレンの製造方法

アセチレンの製造方法

アセチレンガスの主な製造方法として、以下の2つが挙げられます。

  • カーバイド法 : カーバイド(炭化カルシウム)に水を作用させる方法
  • 熱分解法: 炭化水素の熱分解による方法

小規模用途ではカーバイド法によって合成され、熱分解法は大規模な工業的製造方法に限られます。ただし、工業的製造でもカーバイド法を用いることもあります。

3. アセチレンの化学反応

アセチレンの反応の例

付加反応
アセチレンの三重結合は付加反応を受けやすい分子です。水素の付加によってエチレン、エタンが順に生成します。また、ハロゲン化水素などの H−X 型の分子も容易に付加反応が可能です。

付加重合
アセチレンは付加重合をすることが可能です。アセチレン2分子の重合によって、モノビニルアセチレンが生成します。モノビニルアセチレンはブタジエンやクロロプレンの原料として、合成ゴムをつくるときに用いられる物質です。また、アセチレン3分子からはベンゼンが合成されます。重合が進んでポリマー化したポリアセチレンは、導電性物質として利用されています。

アセチレンの種類

アセチレンは酸素がなくても爆発的に燃焼する危険性がある可燃性ガスです。そのため、通常は圧縮冷却により溶剤 (アセトンやDMF) などに加圧溶解させた溶解アセチレンとしてガスボンベに充填されます。

一般的な溶解アセチレンには、不純物に由来する若干の臭いがあります。これは、原材料のカルシウムカーバイドに含まれる不純物 (リン化カルシウムや硫黄など) に由来するホスフィン硫化水素のためです。この純度のグレードの製品は、主に金属溶接・溶断加工などに使用されています。

その他には、半導体の炭素原料、硬質炭素膜の生成原料などに用いられる高純度製品などがあります。高純度アセチレンガスには、溶解アセチレンガスと、圧縮アセチレンガスがありますが、前述の通り圧縮アセチレンガスは危険性があるため取り扱いの際は注意が必要です。

尚、高圧ガス保安法により、常用の温度で圧力が0.2MPa以上になるもの、または、15℃で0.2MPa以上となるものの場合は、ボンベの色を褐色とするよう定められています。