アゾビスイソブチロニトリル

アゾビスイソブチロニトリルとは

アゾビスイソブチロニトリル (AIBN)の構造

アゾビスイソブチロニトリル 「azobis (isobutyronitrile) 」とは、反応試薬として広く用いられる有機化合物の一種です。

アゾ化合物であり、シアノ基を持ちます。分子式C8H12N4、分子量164.21、常温においては無色固体です。

一般的な略称はAIBNです。別名α,α’‐アゾビスイソブチロニトリルと呼ばれる場合もあります。尚、IUPAC命名法では「2,2′- (diazene-1,2-diyl) bis (2-methylpropanenitrile) 」と表記され、CAS登録番号は78-67-1です。

エーテルやアルコールなどの有機溶媒にはには溶けますが、水にはほぼ溶けません。アゾビスイソブチロニトリルは、消防法では第5類第2種自己反応性物質、毒劇法 (毒物及び劇物取締法) では劇物に指定されています。PRTR法でも第一種指定化学物質とされており、取扱いには十分注意が必要です。

アゾビスイソブチロニトリルの使用用途

アゾビスイソブチロニトリルは、容易に分解して、窒素ガスの放出とともに2-シアノ-2-プロピルラジカルを与えます。この性質を利用して、各種ラジカル反応のラジカル開始剤として広く利用されています。

代表的な反応は、ビニル化合物やポリスチレンなどの汎用ポリマーを合成する重合反応や、臭化水素 (HBr) を用いたアルケンのヒドロ臭素化反応などです。トルエンを溶媒とするスチレン無水マレイン酸の混合溶液にアゾビスイソブチロニトリルを加えて穏やかに加熱すると、ポリスチレンを得ることができます。また、有機合成における中間体、ゴムやプラスチックなどの発泡剤などの利用用途もあります。

アゾビスイソブチロニトリルの原理

アゾビスイソブチロニトリルの原理を性質と化学反応の観点から解説します。

1. アゾビスイソブチロニトリルの性質

アゾビスイソブチロニトリルの分解反応

アゾビスイソブチロニトリルは、分子量164.21、分子式C8H12N4の常温において無色透明の有機化合物です (融点107°C) 。分子内に1つのアゾ基と2つのシアノ基を持ちます。

熱または光により容易に分解して、窒素ガスと2分子の2-シアノ-2-プロピルラジカルを生成します。他に反応物が無い場合は、ラジカル同士で再結合します。生成物は2,2,3,3-テトラメチルスクシノジニトリルです。

この分解反応が起こる理由は、主に以下の通りです、

  • 隣接するシアノ基の電子求引性の寄与により、分解で切断される炭素–窒素間の結合エネルギーが低下しているため
  • 窒素ガスの生成がエネルギー的に有利であるため

また、生成したラジカルは分解しにくく、ラジカルが留まるので各種ラジカル反応の開始剤として非常に適しています。熱分解の場合は、95–104℃に加熱することが一般的です。

アゾビスイソブチロニトリルはメタノールエタノールに溶けますが、アセトン溶液で爆発した事例が知られています。前述の分解性のため、冷暗所で遮光保存が必要です。

2. アゾビスイソブチロニトリルの化学反応

アゾビスイソブチロニトリルの反応の例

アゾビスイソブチロニトリルは、各種ラジカル反応のラジカル開始剤として用いられます。下記に代表的な反応の例を2つ挙げます。

トリブチルスズラジカルの生成
アゾビスイソブチロニトリル由来のラジカルが、トリブチルスズから水素を引き抜き、スズラジカルが生成します。この生成したスズラジカルを用いて、有機ハロゲン化合物のハロゲンを水素置換する還元反応を行うことが可能です。

ウォール・チーグラー反応
ウォール・チーグラー反応 (Wohl-Ziegler reaction) は、N-ブロモスクシンイミド (NBS) とラジカル開始剤を用いてアルケンのアリル位や芳香族化合物のベンジル位を臭素化する反応です。N-ブロモスクシンイミド (NBS) から臭素ラジカルを発生させるラジカル開始剤として、AIBNが用いられます。

アゾビスイソブチロニトリルの種類

アゾビスイソブチロニトリル製品には、大きく分けて樹脂合成などの産業用途製品と、実験室用の試薬製品の2種類が存在します。産業用途製品は、工場などを対象とした大容量製品がメインです。

実験室用の試薬製品では、25g、500gなどの容量の他、12wt.%アセトン溶液製品などもあります。前述の分解性のため、冷暗所で遮光保存が必要です。発生した窒素ガスで内圧がかかることがあるため、開栓時には気をつける必要があります。

参考文献
https://anzeninfo.mhlw.go.jp/anzen/gmsds/78-67-1.html

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