エチレンオキシド

エチレンオキシドとは

エチレンオキシドとは、環状エーテル構造を持つ炭素2個の有機化合物です。

酸化エチレン、エチレンオキサイド、エポキシエタン、オキシランといった別名があります。常温では気体で水や有機溶媒に溶けやすい性質を持っています。

エチレンオキシドの使用用途

エチレンオキシドは、そのままの状態で使用される場合と、他の化合物の合成用原料として使用される場合があります。そのままの状態で使用される場合は、強力な殺菌剤として使用されています。エチレンオキサイド滅菌と呼ばれる消毒に用いられ、高温での滅菌に耐えられない耐熱性の低いものの滅菌に効果的です。

また、合成用原料として使用される場合は、エチレングリコール、エチレンオキシドが重合したポリエチレンオキシドの原料として使用されることが多いです。そのほか、エタノールアミン、エチレンカーボネート、アルキルエーテルなどの原料としても使用されます。

ポリエチレンオキシドは高い親水性を持つため、疎水性であるアルキル基などと組み合わせることで、界面活性剤になり、非イオン系界面活性剤として洗剤などに活用することも可能です。

エチレンオキシドの特徴

エチレンオキシドの分子式はCH2CH2Oで、分子量44.05、常温常圧で気体の有機化合物です。20℃における比重は0.8711、引火点が-17.8℃、沸点10.7℃、凝固点-111.3℃で、水、アセトン、エーテルなどによく溶けます。

環状エーテル構造を持ち、開環重合することでポリエーテルであるポリエチレンオキシドを作ります。一般的に活性水素化合物と容易に反応します。

エチレンオキシドのその他情報

1. エチレンオキシドの製造方法

エチレンを酸素と接触酸化させることで、エチレンオキシドを合成する方法が用いられています。酸素は空気 (窒素との混合ガス) でも代用できますが、現在は酸素を原料とする酸素法が主流です。

原料であるエチレンガスと酸素の混合ガス (エチレン濃度20~35%) を銀系の触媒が詰められた多管式の反応塔に導入し、230~315℃、圧力851~2,127kPaの条件で反応させます。その後、数段階の洗浄、分離操作を行い、さらに精留を行うことで高純度のエチレンオキシドが得られます。この製造方法による収率は80%程度です。

主反応式:C2H4 + 1/2O2 → C2H4O (エチレンオキシド)
副反応式:C2H4 + 3O2 → 2CO2 + 2H2O

エチレンを酸素で酸化させる方法が主流ですが、エチレンクロロヒドリン (C2H4ClOH) を加水分解中和する方法も行われていました。この方法は高収率となりますが、エチレンを直接酸化させる方法と比較して、高コストで純度も低かったため現在は行われていません。

2. エチレンオキシドに関する注意事項

取扱面
エチレンオキシドは爆発範囲が3.0~100%とかなり広く、酸素が全くない状態においても分解爆発を起こす可能性があります。火気厳禁であるだけでなく、直射日光を避け、風通しの良い冷暗所に保管する必要があります。

蒸気密度は1.52と空気より重いため、漏洩すると足元に滞留し、臭いに気づかない可能性も高いです。わずかなエネルギーが加わることで爆発する危険性があるため、厳重な管理が不可欠です。

毒性
エチレンオキシドは疫学調査による流産の増加という報告が複数あるとともに、動物実験による生殖細胞変異原性等、明確な影響が認められることから、「人に対して生殖毒性を示すことが知られている物質」に相当すると判断されています。

その他、急性毒性としては、皮膚に付着すると水疱ができる、目に入ると角膜炎を起こすことがある、蒸気を多量に吸入した場合、麻酔作用を起こし、死に至ることがあります。取扱う際は、保護眼鏡、防護手袋、有機ガス用防毒マスクの着用が必要です。

参考文献
https://anzeninfo.mhlw.go.jp/anzen/gmsds/75-21-8.html
https://www.mhlw.go.jp/content/11121000/000533916.pdf

https://anzeninfo.mhlw.go.jp/anzen/gmsds/9002-86-2.html

エチレングリコール

エチレングリコールとは

エチレングリコールとは、水やエタノールなどに溶けやすいという特徴を有した水溶性の有機化合物です。

空気中で酸化されにくく、安定しています。エチレングリコールは、室温においてやや粘性のある無色透明の液体であり、比重が1.11、沸点が197℃です。引火点が111℃、発火点が398℃です。消防法上では、第4類危険物 (第3石油類) に指定されています。

仮に、エチレングリコールを誤飲して体内で代謝されると、毒性を有するしゅう酸が生じるため人体に悪影響をおよぼします。したがって、取り扱いに注意を要する化合物です。

エチレングリコールの使用用途

エチレングリコールは、水に溶けやすく融点も低いため、水と混合されて不凍液の用途で多用されます。エチレングリコールの融点は約-13℃です。水の融点0℃よりもさらに低い温度にならないと凍結しない、不凍液を得ることができます。

また、エチレングリコールは、さらなる合成反応のための原料として使用されます。エチレングリコールを出発原料にして合成される化合物はいくつかあります。

エチレングリコールは、工業用原料として多量に使用されており、例えば日常生活でも多量に使われているPET樹脂の主原料の一つがエチレングリコールです。エチレングリコールから作られたPET樹脂は、合成繊維の一種であるポリエステル繊維などへと加工されます。

エチレングリコールの構造

エチレングリコールの構造 (分子構造) は、比較的単純です。具体的には、2つの炭素にそれぞれ-OHが結合した構造をしています。言い換えると、2つの炭素からなるエチレン部分と、エチレン部分に結合した2つのヒドロキシ基とで構成されています。

エチレングリコールは分子内に2つの-OH基を有する二価アルコールの1種です。別名で「エタン-1,2-ジオール」または「1,2-エタンジオール」と呼ばれる場合もあります。工業的には、エチレンオキシドから合成されます。

なお、エチレングリコールを分子構造式で表した場合、HO-CH2-CH2-OHで表されます。

エチレングリコールの性質

エチレングリコールの作用を発揮する原理は、分子構造に起因します。すなわち、疎水基であるエチレン部分と、親水基である2つのヒドロキシ基が分子中に同時に存在することに起因します。分子中に疎水基および親水基の両方を有するため、有機化合物でありながら水に溶解しやすい性質を有しています。

エチレングリコールは、さらに他の原料と反応させることが可能です。別の化合物を合成するための出発原料としてエチレングリコールを使用できます。分子中の-OH基をさらに化学反応させることが可能であるため、エチレングリコールから別の化合物を合成できます。

エチレングリコールのその他情報

エチレングリコールの危険性

世の中で汎用されているポリエステル繊維の主な原料がエチレングリコールであることから、工業分野においてエチレングリコールは多量に使用されています。他にも、エチレングリコールは塗料の溶媒 (セロソルブなど) を合成するために使用されます。エチレングリコールから合成された溶媒は、さまざまな物質を溶解させやすいです。

エチレングリコールを誤って飲み込むと、体内でシュウ酸などへ変化します。シュウ酸は尿管結石症を引き起こし、腎臓障害の原因となり、最悪の場合は死に至る可能性もあるため、注意が必要です。エチレングリコールの致死量は、年齢や体重によって変わりますがヒトの場合で約100g程度といわれています。

なお、エチレングリコールは若干の甘さを有するため、不凍液等に含まれているエチレングリコールをペットが誤ってなめてしまう場合があります。致死量を超えるエチレングリコールを飲み込むと大変危険なので、家庭内においてはエチレングリコールを含む不凍液の徹底した管理が求められます。

参考文献
https://www.jaish.gr.jp/anzen/hor/hombun/hor1-1/hor1-1-14-1-0.htm
https://www.tcichemicals.com/JP/ja/p/E0105

エチレンイミン

エチレンイミンとは

エチレンイミンは、イミンの1つで別名アジリジン、アミノエチレンとも呼ばれています。外観は、無色透明の液体で、強いアンモニア臭を有します。水にまざり、エタノールなどの有機溶剤に溶けます。蒸気は空気より重く、空気と良く混合すため爆発性混合物を生成しやすいです。腐食性が高く、プラスチック、金属、ガラスなどを腐食します。

エチレンイミンは、クロロエチルアミン、またはアミノエチル硫酸を水酸化ナトリウムと反応させて生成します。

エチレンイミンの使用用途

エチレンイミンは、農薬の原料、タウリンなどの有機合成原料、ポリエチレンイミンの原料などに使われています。ポリエチレンイミンは、製紙、繊維の固着剤、液体浄化剤、分散材、抗菌殺菌ポリマー、電子電動材料、水性塗料など、広い分野で利用されています。

エチレンイミンは、毒性が強く、吸入すると吐き気や嘔吐、頭痛、息苦しさ、肺水腫を起こすことがあります。また、皮膚に付くと皮膚熱傷、水泡を生じ、眼に入ると痛みや重度の熱傷を生じます。

エチレン

エチレンとは

エチレンとは、2つの炭素が二重結合で結ばれた炭化水素で、もっとも単純な構造を有するアルケンです。

常温の状態では気体として安定している物質ですが、エタンやプロパン、ブタンなどの物質を熱分解したり、石油ナフサをクラッキングしたりすることで工業的に生成することもできます。

エチレンの使用用途

エチレンには、エチレン自体が用いられる用途と、エチレンが有機化合物の合成材料として用いられる用途があります。

1.エチレンをそのまま使う用途

エチレン (ガス) は、植物ホルモンとして様々な生理活性作用が知られています。具体的には、バナナやキウイフルーツの追熟や、ばれいしょの萌芽抑制を目的とした用途です。

果樹やトマトなどの植物生育調整剤として用いられるエテホン液剤の主成分は、2-クロロエチルホスホン酸の水溶液ですが、植物に散布後、分解してエチレンを発生させることで、植物生育調整剤としての効果を発現します。

2.エチレンを合成材料として使う用途

エチレンは単純な構造の炭化水素であること、反応性に富む二重結合を有することから、様々な低分子化合物、高分子化合物の材料として用いられています。

低分子化合物
エチレンの用途

図1. エチレンの用途 (低分子合物)

エチレンから合成される低分子化合物の代表例として、エタノール、エチレンオキシド、アセトアルデヒドが挙げられます。それぞれの具体的な使用用途は以下の通りです。

  • エタノール:化粧品や塗料の原料
  • エチレンオキシド:医療用器具の滅菌材やエチレングリコールなどの原料
  • アセトアルデヒド:魚の防腐剤や酢酸の原料

また、エチレンから合成されるモノマーの塩化ビニルやスチレンは、重合反応によってポリ塩化ビニルやポリスチレンになります。それぞれの具体的な使用用途は以下の通りです。

  • ポリ塩化ビニル:日用品や衣類、水道パイプ
  • ポリスチレン:家電の部品や建材ボード、食器

高分子化合物
エチレンの用途(高分子化合物)

図2. エチレンの用途 (高分子化合物)

エチレンをそのままモノマーとして重合する場合は、ポリエチレンが得られます。ポリエチレンの用途は幅広く、様々な包装材やレジ袋などに用いられています。エチレンと他のモノマーを共重合させて得られる材料も多いです。

例えば、酢酸ビニルとの共重合では、接着剤などに利用されるエチレンビニルアセテート (EVA) が得られ、EVAをけん化すると酸素バリア性の高い食品包装材として用いられるエチレンビニルアルコール (EVOH) となります。

エチレンの物性

エチレンの性質

図3. エチレンの構造

融点が-169℃、沸点が-104℃なので、常温では気体の状態で存在しています。エチレンの比重は0.975と空気 (比重1) に近く、色も無色であることから空気と区別がつきにくいです。

しかし、引火性や発火性を有し、火災によって刺激性、または毒性のガスを発生する可能性があるため、取り扱いには注意が必要です。

また、エチレンは、自然界にも存在しており、野菜や果物から発生していることが分かっています。これは植物ホルモンの1種であり、野菜や果物を成熟させ、その後腐敗させるというエイジングの役割を持っています。

エチレンの製造方法

エチレンは工業的に製造されています。最も主流の方法は、様々な炭化水素を含む石油ナフサと水蒸気を800℃以上の高温で反応させ、生成する水素やエチレン、プロピレン、芳香族化合物などからエチレンを分離するものです。その他、シェールガスに含まれるエタンを熱分解する手法もあります。

参考文献
https://www.env.go.jp/council/10dojo/y104-28/mat03_1-2.pdf
https://01.connect.nissha.com/blog-gassensor-ethylene/

エチルベンゼン

エチルベンゼンとは

エチルベンゼンは芳香族化合物の一種で、キシレンの構造異性体です。常温で無色透明、特異臭を有する液体で、水には混ざりにくいですがエタノールやエーテルなど種々の有機溶媒には混和します。

エチルベンゼンは石油化学業界においてベンゼンエチレンを原料とした触媒反応によって製造されています。また、構造異性体であるキシレンから分離して取り出す製造法もあります。

エチルベンゼンは消防法の危険物第四類 第二石油類に該当するほか、特定化学物質第二類にも該当しています。その他にも種々の法規制に該当する物質であるため、各法規制を遵守した取り扱いが求められます。

エチルベンゼンの使用用途

エチルベンゼンは低級アルキルベンゼンの一種です。一般的にはエチレンとベンゼンを原料とした触媒反応によって作られていますが、キシレンから分離することで製造することもあります。

エチルベンゼンは主にスチレンモノマーの原料として使われています。その他に、塗料や接着剤、インキなどの溶剤としても用いられています。また、上記の通りキシレンにもエチルベンゼンは一定量含まれており、灯油やガソリンにも1%程度含まれています。

エチルベンゼンのその他情報

エチルベンゼンの有害性と法規制

エチルベンゼンはトルエンやベンゼンなどの低分子芳香族化合物と同様に引火性の高い液体で、消防法の危険物第四類 第二石油類に該当します。毒物及び劇物取締法には該当していませんが、人体への有害性があることから、労安法の特定化学物質の第二類に該当するほか、表示・通知対象物質にも該当しています。したがってエチルベンゼンを使用する事業場はリスクアセスメントを行う必要があります。

その他、エチルベンゼンはPRTR法の第一種指定化学物質であるなど、種々の法律が適用される物質です。使用前には最新のSDSを確認の上、適切な取り扱いを行うことが求められます。

参考文献
https://www.env.go.jp/chemi/report/h14-05/chap01/03/06.pdf
https://www.nite.go.jp/chem/chrip/chrip_search/dt/pdf/CI_02_001/hazard/hyokasyo/No-72.pdf
https://www.env.go.jp/chemi/report/h27-01/pdf/chpt1/1-2-2-02.pdf

エタン

エタンとは

エタンは、分子式 C2H6、構造式 CH3-CH3 で表される有機化合物です。炭素数1のメタンに次いで、2番目に簡単な鎖式飽和炭化水素(アルカン)です。

分子構造を図1に示します。分子は長軸回りに回転することができ、異性体は存在しません。標準的な温度・圧力条件下で、無色で無臭の気体で、沸点は-88.5 ℃、融点は-182.8 ℃です。

天然ガスや石炭ガス、石油分解ガスの蒸留によって分離されます。無色無臭の気体で引火性、爆発性があります。消防法で規定された危険物と混同しないよう注意が必要です。高温の熱分解により、800度ではエチレン、1300度ではアセチレンを生成します。日本では高圧ガス保安法の可燃性気体に指定されています。

エタンのみでの利用はそれほどありませんが、エチレンの原料として多くの石油化学製品に使用されています。燃料として使用されることもあります。

エタンの歴史

エタンは、1834年にマイケル・ファラデーによって、酢酸カリウム水溶液を電気分解することで、初めて合成されました。天然には、1864年にエドモンド・ロナルドによって、ペンシルバニア軽油中にエタンが溶けていることが発見されました。

エタンの性質

水に溶けにくく、有機溶媒に溶けやすい性質を持ちます。炭素−水素結合、炭素−炭素結合ともに安定で、反応性は高くありません。酸化剤・還元剤や酸・塩基とはほとんど反応しませんが、光の照射や加熱によって置換反応を起こします。

また、完全燃焼させると、二酸化炭素と水が発生します。
C2H6 + 7/2 O2 → 2 CO2 + 3 H2O

エタン分子の構造

エタンの製法

エタンはメタンに次いで天然ガス中に多く含まれる物質で、工業的には他のアルカン同様、天然ガスを分留することで得られます。エタンの含有量は、ガス田によって1%未満から6%以上と様々です。

1960年代以前は、天然ガス中のエタンやそれ以上に大きい分子は分離されず、メタンとともに単に燃料として使用されるのが一般的でした。現在では、エタンは重要な石油化学原料として、天然ガス中の他の成分から分離される場合がほとんどです。

具体的には、極低温下で液化させることで、効率良くメタンからエタンを分離することができます。ガス状のメタンを取り除き、液体をさらに蒸留することでエタンとより重い炭化水素とを分離することができます。

また、石油精製の副産物として発生する石油ガス(ガス状の炭化水素混合物)からも、エタンを分離することが可能です。
実験室的には、エタンは酢酸塩水溶液の電気分解によって作製します。
2 CH3COONa + 2 H2O → C2H6 + 2 CO2 + H2 + 2 NaOH

エタンの使用用途

エタンは様々な化学物質、特にエチレン製造の原材料として利用されます。エチレンは石油化学産業で中間製品として用いられており、そのほとんどは化学繊維や有機化学製品の原料となっています。例えば、ポリエチレン袋、塩化ビニルから作られる日用品、衣類、断熱材、電線の被覆、水道パイプ、合成ゴムなど身の回りのさまざまな製品の原料として使われています。エチレンガスは、野菜や果物の追熟にも活用されています。

また、エタンは発電用燃料として、単独で、あるいは天然ガスと混合して使用される場合もあります。

インドール

インドールとは

インドールの基本情報

図1. インドールの基本情報

インドール (Indole) とは、分子式 C8H7Nで表される含窒素複素環式有機化合物です。

ベンゼン環とピロール環が縮合した構造をとります。CAS登録番号は、120-72-9です。分子量 117.15、融点52-54℃、沸点253-254℃であり、常温では白色からわずかにうすい褐色の結晶、もしくは結晶性粉末です。強い刺激臭を呈します。密度は1.22g/cm3、酸解離定数pKaは16.2、塩基解離定数 pKbは17.6となっています。

バクテリアがアミノ酸の1種であるトリプトファンを分解する際にできる分解産物として生成される物質です。その他にもジャスミン油・コールタール・腐敗たんぱく質・哺乳類の排泄物などにも含まれています。

インドールの使用用途

インドールの臭いは、便臭に似た臭いと形容されますが、非常に低濃度の場合は花のような香りを呈する物質です。そのため、香水や香料の成分、花精油調合原料としての用途があります。天然のジャスミン油は、およそ2.5%のインドールを含有しているとされますが、天然オイルはコストが高いため、インドールは合成ジャスミン油の製造にも用いられています。

また、インドールの構造 (インドール環) はいろいろな有機化合物、特に生体物質に含まれています。多くの重要なアルカロイドにインドール母核構造が存在しており、インドール誘導体から作られた医薬品は多いです。

インドール誘導体の一部は19世紀末まで重要な染料の成分として用いられていました。インドールという名前は、植物由来の染料物質である「インディゴ」に由来しています。化学的には、亜硝酸イオンの検出や、有機合成原料 (染料、アルカロイドなど) などの用途で用いられます。

インドールの性質

1. インドールの特性

インドールの化学的性質

図2. インドールの化学的性質

インドールはベンゼン環とピロール環が縮合した構造を取っている有機化合物です。ピロールと同様、窒素原子の孤立電子対が芳香環の形成に関与しているため、インドールは塩基ではありません。

ただし、塩酸などの強酸を用いるとインドールをプロトン化することができます。この際、エナミンと同様の反応性を示すため、N1位ではなく、C3位でのプロトン化が起こります。尚、インドールに対応する置換基はインドリル基と呼ばれます。インドールの化学反応では、C-3位での求電子置換反応、C-2位でのリチオ化反応、酸化、環化付加などの例を挙げることができます。

2. インドールの誘導体群

インドール環は様々な有機化合物に含まれています。代表的な例として、トリプトファンやインドールアルカロイドなどが挙げられます。合成化学・製薬化学的観点で非常に重要な構造です。

インドールは求電子置換反応を3位に受けやすいため、3位置換体誘導体が多く見られます。代表的なものは、神経伝達物質のセロトニンやメラトニンや、幻覚作用を示すアルカロイド (麦角アルカロイドなど) などです。また、インドリル-3-酢酸、IAAなどのオーキシン (植物ホルモンの一種) や、医薬品ではインドメタシン (非ステロイド性抗炎症剤) 、ピンドロール (βブロッカー) などにインドール構造を見ることができます。

3. インドールの合成

インドールの合成方法

図3. インドールの合成方法

インドールはコールタールの主要な成分であり、220℃から260℃の蒸留フラクションから得ることが可能です。インドールおよびその誘導体は様々な方法でも合成可能ですが、主な工業的合成経路ではアニリンエチレングリコールとを出発原料とします。この合成は、触媒存在下、200℃から500℃の間で行われ、気相反応によって反応が進行します。一般的に、収率はおよそ60%程度です。

インドール及びその誘導体の合成法については、その他にも様々なものが報告されていますが、有名な合成方法には、フィッシャーのインドール合成、福山インドール合成などがあります。

インドールの種類

現在、市場で販売されているインドールは主に開発研究用試薬製品です。製品容量は、1g , 10g , 25g , 100g , 500gなど、実験室で取り扱いやすい容量で販売されています。メーカーによって室温保管である場合と、冷蔵保管として取り扱われる場合があります。

参考文献
https://anzeninfo.mhlw.go.jp/anzen/gmsds/120-72-9.html

インデン

インデンとは

インデンの基本情報

図1. インデンの基本情報

インデンとは、コールタール (英: coal tar) 成分の一つです。

コールタール中性油の蒸留留出分に含まれており、タール酸を除去して精製されます。純粋なインデンは無色ですが、保管中に重合や酸化が起きると淡黄色に変わります。

インデンは、不安定で重合反応を起こしやすく、酸素を吸収して酸化物を生成可能です。加熱すると分解されて刺激性の煙とガスが発生します。日本では、危険物第4類第二石油類に定められています。

インデンの使用用途

インデンは、光機能材料、機能性樹脂、医薬中間体などの有機合成原料に使われています。主に、塗料、ゴムの配合材、粘着剤、印刷用インク、接着剤などです。

クマロンやスチレンなどを重合する際に、樹脂改質剤として有用です。とくにクマロン-インデン樹脂 (英: coumarone-indene resin) は、石油樹脂とは異なる特性を持っています。接着性、機械物性、電気特性を持ち、ゴムの物性改善、塗料の密着性や防食性の向上、エポキシ樹脂の吸水性や誘電率の低減など、各種樹脂性能の改善に優れています。

インデンの性質

インデンは、分子式がC9H8で表される二環性の炭化水素です。ベンゼンとシクロペンタジエン環が縮合した構造を有します。モル質量は116.16で、20℃での密度は0.9968です。外観は無色で油状の液体です。水にほとんど溶けず、エタノールアセトンなどの有機溶媒には溶けやすいです。可燃性で特異臭を持っています。融点は-1.8℃、沸点は181.6℃です。

目に強い刺激性があり、皮膚にも軽度の刺激性を有します。吸入によって、腎臓、肝臓、脾臓へ障害が起こる可能性があります。

インデンのその他情報

1. インデンの精製

インデンはコールタールの留分から得られます。留分を金属ナトリウムと加熱すると、沈殿を生成させます。弱い酸性であり、金属ナトリウムによって塩を生じます。そして、水蒸気蒸留 (英: steam distillation) によって、インデンを取り出すことが可能です。

2. インデンの反応

二クロム酸を使ってインデンを酸化すると、ホモフタル酸 (英: homophthalic acid) を生成可能です。ホモフタル酸はo-カルボキシルフェニル酢酸 (英: o-carboxyphenylacetic acid) とも呼ばれます。

また、ナトリウムエトキシドを使って、インデンとシュウ酸エチルを縮合すると、インデン-シュウ酸エステルを得ることが可能です。

さらに、インデンは塩基を用いてケトンやアルデヒドとの縮合によって、強い発色を示すベンゾフルベン (英: benzofulvene) が生成します。

3. 配位子としてのインデン

インデニル効果

図2. インデニル効果

インデンのプロトンの引き抜きによって、インデニルアニオンが生じます。有機金属化学でインデニルアニオンは、配位子として使うことが可能です。

インデニルアニオンはη5-配位子として以外にも、η3-配位子としての性質が強いです。したがって、シクロペンタジエンのプロトンの引き抜きで生じるシクロペンタジエニルアニオンとは違った反応性を示すこともあります。インデニル配位子の効果は、インデニル効果 (英: indenyl effect) と呼ばれています。

4. 樹脂の原料としてのインデン

クマロン-インデン樹脂

図3. クマロン-インデン樹脂

インデンはクマロンと重合すると、比較的低重合度の熱可塑性樹脂を得ることが可能です。インデンやクマロンは、いずれもコールタール中に含まれています。工業的にコールタールの160~180℃の留分をそのまま加熱するか、硫酸などを触媒として用いて重合しています。

重合によって生成したクマロン-インデン樹脂は、褐色または黒色です。芳香族炭化水素によく溶け、耐酸性や耐アルカリ性に優れています。

イミダゾール

イミダゾールとは

イミダゾールとは、窒素原子2つを含む複素環式化合物の1種です。

別名として、1H-イミダゾール、グリオキサン、1,3-ジアゾール、イミナゾールなどがあります。イミダゾールは、イミダゾール環を形成する窒素または炭素に置換基が付いた化合物群の総称としても呼ばれます。

イミダゾールの使用用途

イミダゾールは、工業的には化学品原料、農薬原料、医薬品などに幅広く利用されています。特に半導体封止剤や接着剤など電子基板周辺の中でも、耐熱性が必要とされる箇所で優れた特性は発揮するため、利用される場合が多いです。

その他にも、エポキシ樹脂の硬化剤や硬化促進剤ウレタンの発泡触媒、防錆剤、ゴムの加硫促進剤、塗料、接着剤、建築材料やスポーツ用品などさまざまな工業分野で広く使われています。塩基触媒タイプの硬化剤または促進剤として、比較的少量の添加で硬化するなど、優れた保存安定性をもっているのが特徴です。

医薬品用途では、イミダゾールは抗真菌剤に、イミダゾール環に置換基が付いたイミダゾール類も抗潰瘍剤、抗高血圧剤、抗喘息剤など多くの医薬に使用されています。また、イミダゾールの窒素にアルキル付加させて4級アミンとしたイミダゾリウムカチオンを含むイミダゾリウム塩が、イオン液体という常温付近に融点を持つ中和塩となり、環境に優しい溶剤であるグリーンゾルベントとして注目されています。

イミダゾールの性質

イミダゾールは、分子式C3H4N2、分子子量68.08の白色から淡黄色のフレーク状の固体です。融点は88~92℃、沸点は256℃、引火点は145℃で昇華性があります。極性が高い溶媒にはよく溶け、水、メタノール、エタノールなどには易溶、ピリジン、クロロホルムに可溶、極性が低いエーテル、ベンゼンには難溶で、ヘキサンにはほぼ溶けません。

多くの遷移金属イオンと錯体を作り、優れた配位子として機能します。熱分解しにくく、酸化剤や還元剤に対しても比較的安定です。強い芳香族性を示し、水素原子の置換反応を受けやすいという特徴があります。

イミダゾールは、1位のプロトンが抜かれても、3位の窒素がプロトン化されても、共鳴構造を取って対称的な構造を保持します。このため、芳香族性を損なうことなく、電荷を分散させることができます。

イミダゾールの種類

イミダゾール環に置換基が付いた、多種の誘導体があり、これらをイミダゾール類と呼びます。置換基が付く場所として、1位の窒素と2位、4位、5位の炭素があり、それぞれ異なる置換基を付けた誘導体の合成が可能です。また、3位の窒素も求核置換することで、カチオン化されますが、置換基をつけることが可能です。

イミダゾール類の代表的なものとして、2-メチルイミダゾール、2-エチル-4-メチルイミダゾール、2-フェニルイミダゾールなどがあり、接頭数字が環のどの部位に置換基が結合しているかを示しています。アシル化されたイミダゾールは求核反応に対して敏感であり、カルボン酸誘導体の合成に利用されます。

また、水酸基にシリルクロリドを作用させ、シリルエーテルとして保護する場合にも、イミダゾールを塩基兼触媒として使用することが一般的です。さらに、カルボニルジイミダゾール (CDI) はカルボニル化剤やアミドの縮合剤として有用です。

イミダゾールのその他情報

イミダゾール類の製造方法

イミダゾールの製造方法は、グリオキサールとアルデヒドとアンモニアを反応させる方法、エチレンジアミンとニトリルから合成する方法があります。

1. グリオキサールから合成
原料に使用するアルデヒド、アミンの種類により1位、2位の置換基が決まります。

OHC-CHO + R1-NH2 + R2CHO → R1R2C3H2N2 + 3H2O

2. エチレンジアミンから合成
ニトリルの置換基によって、1位、2位の置換基が決まります。

H2N-CH2CH2-NH2 + RCN → R2C3HN2 + NH3→R2C3H2N2 + H2

参考文献
https://anzeninfo.mhlw.go.jp/anzen/gmsds/288-32-4.html

イタコン酸

イタコン酸とは

イタコン酸とは、脂肪族ジカルボン酸の一つで、メサコン酸およびシトラコン酸の異性体です。

特異な匂いをもつ吸湿性の無色の結晶であり、別名メチレンコハク酸とも呼ばれます。水によく溶ける性質をもっています。また、エタノールには可溶ですが、ベンゼンクロロホルム、エーテル等には難溶です。

真菌類が生産する炭素数5からなるジカルボン酸で、ビニリデン基 (エキソメチレン基) を有する特殊な分子構造を有します。このためメチレンコハク酸とも呼ばれています。CAS番号はNo.97-65-4です。

イタコン酸の使用用途

イタコン酸は、下記のような様々な用途に使用されています。

1. 高分子原料

イタコン酸が持つ二重結合はラジカル重合を引き起こします。また、ジカルボン酸なのでジオール化合物とともに重合しポリエステルに変換されます。イタコン酸エステルと他のモノマーとの共重合は多くの会社により商品化されています。

高分子にイタコン酸エステルを添加することにより、光安定性、表面硬度、耐熱性、内部可塑性、接着性、耐溶剤性、防水性などの改善が見られます。イタコン酸エステルはアクリル酸エステルと同様、ぺイントベース、紙、皮革コーテング、繊維加工、接着剤ワックスベース、合成ゴム、接着剤などとして広く利用されています。またイオン交換樹脂、ABS樹脂、AS樹脂 (アクリロニトリルースチレン共重合) などにも用いられています。

2. 食品添加物、農薬など

イタコン酸は食品添加物であり、その使用は厚生労働省から認められています。酸味料およびpH調整剤として使用されます。

りんご用摘花剤、植物成長調整剤としての農薬としても使用されます。頂芽中心花の受粉完了後に散布することで、花粉管伸長阻害または有機酸による柱頭の焼けによる受精阻害を引き起こし、摘花効果を示すものと考えられています。

ほかにも印刷用のインキや歯科用セメント、工業用セメントの原料など安全性の高い物質として評価されています。

イタコン酸の性質

イタコン酸は、特異な匂いを有する吸湿性の無色結晶です。融点は164〜168℃ (分解) です。水によく溶け、エタノールに可溶、ベンゼンやクロロホルム、エーテル等にはわずかに溶けます。

イタコン酸のその他情報

1. 取扱上の注意

イタコン酸は極めて安全な化合物ですが、毒物および劇物取締法で劇物に指定されています。酸性物質であるため、取扱時には、必ず保護具 (手袋・眼鏡・マスクなど) を着用します。アルカリ性物質と一緒に保管せず、換気が良く涼しい場所で保管することが大切です。

3. 抗炎症作用について

最近、イタコン酸自身に抗炎症作用があることが発見されました。また、分子内にイタコン酸の分子骨格を持つプロトリケステリン酸、スポロスリオリド、エピエチソリドなどの化合物が抗菌活性、抗酸化活性、抗炎症活性、抗腫瘍活性、植物生長調節活性など多様な生理活性を示すことが判明しています。

これらの活性はα、β-不飽和カルボニル構造に由来するものと推定されていますが、詳しくはわかっていません。このようにイタコン酸の分子骨格を有する化合物やイタコン酸誘導体は医薬品原料として有望視されています。

3. イタコン酸によるSDGs

高分子の原料はほとんど石油であるため、資源の枯渇、CO2濃度増加、地球温暖化の深刻化が懸念されています。例えばポリスチレンはエチルベンゼンから合成されるスチレンを重合させたもので、エチルベンゼンは石油から生産されます。石油由来の高分子を生産することは、持続可能な経済活動 (SDGs) に反すると考えられています。

これに対しCO2を大気中から取り込みながら成長する植物資源を原料として高分子が合成できれば、CO2の循環による地球温暖化を抑制が期待できるため、高分子ポリマー (バイオマス利用ポリマー) が注目されています。

イタコン酸は植物資源を利用する発酵法により得られるバイオマスの1つであり、バイオマス利用ポリマーの代表格です。米国エネルギー省が提案した12種類のバイオベース由来の基幹化学物質の1つでもあります。現在はイタコン酸などのバイオマスを原料とする高分子の研究やイタコン酸を産生する微生物の研究が盛んです。