強誘電体メモリ

強誘電体メモリとは

強誘電体メモリ (FeRAM: Ferroelectric RAM) とは、読み書き可能な半導体メモリ (RAM: Random Access Memory) の1種で、強誘電体キャパシタに電圧を加えて分極させ、残留分極の方向でデータを記憶するメモリです。

電源を切ると記憶内容が失われるメモリを揮発性メモリ、失われないメモリを不揮発性メモリといいます。RAMの主流であるSRAM (Statistic RAM) とDRAM (Dynamic RAM) は揮発性メモリですが、強誘電体メモリは不揮発性メモリです。

強誘電体メモリの使用用途

強誘電体メモリは、高速動作、低消費電力、高書き換え回数の不揮発性メモリであるということから、リアルタイムで頻繁にデータの書き換え動作が発生する用途に非常に適しています。そのため、メモリチップ単体として、ICカード、RFタグ、電気・ガスのスマートメーター、ドライブレコーダー、医療モニター、POS、複合機のカウンタ、産業用ロボットなど、幅広い分野で使用されています。

また、強誘電体メモリをマイコンに搭載することで、フラッシュメモリやEEPROMを搭載した従来製品よりも高速動作、低消費電力が実現できることから、汎用マイコンへの応用も期待されています。 

強誘電体メモリの原理

強誘電体メモリには、電源を切ってもデータが保持されるという長所の他、消費電力が低く、書き込み速度が速く、データの書き換え保証回数が多いという特長があります。 

1. データの書き込み

データの書き込み時は、ワード線をHighにしてトランジスタをON状態にし、ビット線とプレート線を駆動することで強誘電体キャパシタを分極させます。ビット線電位を電源電圧 (Vcc) 、プレート線電位を0Vとするとデータ「1」が、ビット線電位を0V、プレート線電位をVccとするとデータ「0」が書き込まれたことになります。

2. データの読み込み

データの読み込み時は、ビット線を0Vにした後、Vccにトランジスタのしきい電圧を加えた電圧をワード線に印加してトランジスタをON状態にし、プレート線電位を0VからVccまで上げます。キャパシタにデータ「1」が記憶されている場合、分極反転により大きな電荷移動が起こり、ビット線電位が大きく上昇します。

データ「0」が記憶されている場合は分極反転が起こらず、ビット線電位の変化も小さくなります。この電位差を、ビット線に接続されたセンスアンプが感知して、データを読み出します。

強誘電体メモリには、1T1C型の他に、2T2C型と呼ばれる種類もあります。2T2C型は、1T1C型のメモリセル2個を基本のメモリセルとする構成です。ペアになっている強誘電体キャパシタを互いに異なる方向に分極させ、読み出し時の電位差を大きくすることで、メモリの読み出し精度を上げています。

なお、強誘電体メモリでは、データ「1」を読み出した後はデータが破壊され、キャパシタ内のデータが「0」になります。したがって、データ読み出し後は、プレート線の電位をVccから0Vにして、データの再書き込みを行う必要があります

強誘電体メモリの構造

強誘電体メモリは、一般的に1つのトランジスタと1つのキャパシタの組み合わせを基本のメモリセルとします。このタイプの強誘電体メモリは1T1C型と呼ばれ、DRAMと似た構成をしています。

DRAMとの違いは、強誘電体メモリではPZT (チタン酸ジルコン酸鉛) やSBT (タンタル酸ビスマスストロンチウム) などの強誘電体キャパシタを使用していることと、DRAM構造におけるワード線とビット線に加えてプレート線が必要になることです。

強誘電体メモリのその他情報

1. プレート線の役割

強誘電体メモリは、トランジスタをONにしただけではビット線にデータを出力することはできません。データの保存は強誘電体膜中に保存されており、キャパシタに電圧が印加されなければ情報を読み出せないためです。

強誘電体の分極を外部に読み出す必要があるので、強誘電体メモリはプレート線と特定セルのプレート線を駆動させるためのデコーダー回路を持ちます。

2. キャパシタ型以外の強誘電体メモリ

キャパシタ型の強誘電体メモリ以外に、FETのゲート絶縁膜に強誘電体を使用するFET型の強誘電体メモリがあります。トランジスタのサイズに合わせてセル面積を小さくする設計が可能です。

FET型の強誘電体メモリは電源オフ後に電極がグランドレベルになった際に、短期間でデータが消失するデメリットがあります。記憶保持時間は最長で30日程度です。

3. 残留分極

誘電体に電界をかけた際に誘電体を構成する原子または分子内部で電荷の偏りが生じます。電界を0にすると通常の誘導体では電荷の偏りは無くなり、元の状態に戻ります。

一方で、強誘電体では電界が0の状態であっても分極状態は戻りません。このように、電界が0の状態で存在する電荷の偏りのことを残留分極と呼びます。上述した通り、強誘電体メモリは残留分極の方向でデータ記憶を行っています。

参考文献
https://www.fujitsu.com/jp/group/fsm/products/fram/overview/
https://www.jstage.jst.go.jp/article/oubutsu1932/70/1/70_1_74/_pdf
https://www.ieice-hbkb.org/files/10/10gun_04hen_03.pdf
https://www.global.toshiba/content/dam/toshiba/migration/corp/techReviewAssets/tech/review/2001/01/56_01pdf/b06.pdf

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です