光学顕微鏡とは
光学顕微鏡 (英: Optical microscope) とは、接眼レンズ及び対物レンズで肉眼では見えない微小な物体を拡大して観察するための機器です。
光源として蛍光やレーザーを利用するものもありますが、一般的には可視光を利用しているものを指します。
拡大倍率は数倍から1500倍程度のものがあります。観察対象物の違いにより生物顕微鏡や金属顕微鏡の種類があり、対象試料の光の透過性により使い分けます。
光を透過する生物試料などは透過光を用い、光を透過しない金属試料などは反射光を用いて観察します。その為、生物顕微鏡と金属顕微鏡は光源とレンズ、試料の配置が異なります。
光学顕微鏡の使用用途
光源として可視光を利用するため、光を変換することなくヒトの眼で直接観察することができることから構造が単純であり、価格も比較的安価であることから、生物学、医学、食品分野、半導体分野、教育分野など様々な分野で広く使用されています。
具体的には、血液検査、微生物検査、粉塵検査、集積回路検査などの各種検査での使用や、それらの分野の研究開発用途などです。
光学顕微鏡の原理
図1. 光学顕微鏡の原理
光学顕微鏡の原理は、観察対象物に光をあて、対象物を透過した透過光あるいは反射光を対物レンズで拡大するというシンプルなものです。
観察者は、対象物の光(像)が対物レンズで拡大され、その光(像)がさらに接眼レンズで拡大された虚像を見ていることになり、光学顕微鏡の倍率は対物レンズ及び接眼レンズの拡大倍率を掛け算した積で表されます。倍率が高いほどより小さな対象物を大きく拡大して観察することが可能です。
顕微鏡は照明の当て方により大きく「透過型」と「反射型」2種類に分けられる。透過型の場合では細胞や細菌などの生物試料のような光を透過する物体に使用され、反射型では金属や半導体などの光を透過しない物体に使用されます。また試料をのぞき込む方向によっても分類され、試料に対して対物レンズを上に配置した正立型と下に配置した倒立型があります。特に、シャーレで培養したサンプルは下からのぞき込む必要があるため倒立型が使用されます。図では最もポピュラーな正立透過型の顕微鏡の概要図を記しております。
光学顕微鏡の光学倍率は対物レンズと接眼レンズの倍率によって決まります。また、光学顕微鏡での観察においては、拡大倍率だけではなく分解能やコントラストも重要な要素となります。
分解能は、ある異なる2点を2つの点として識別できる最小距離(δ)のことを指し、どれだけ細部まで識別できるかを示す指標です。顕微鏡の場合は対物レンズの開口数(NA)と光の波長(λ)で分解能が決まり、以下の式で表されます。
δ = kλ/NA (kは定数)
また開口数NAはn×sinθで計算され、nは対物レンズと媒質の間の屈折率、θは対物レンズに入射する光線の光軸に対する最大角度です。
次に、コントラストについて説明します。
生体試料などは透明な場合が多く、試料をそのまま観察しても透き通ってしまい、構造を認識できないことがあります。このような場合は、試料を色素で染色したり光を絞ったりして観察条件を調整必要があります。染色や光の調整で像にコントラストをつけて対象物を観察しやすくします。
近年では、染色や絞りの調整以外にも光の散乱や回折、蛍光を利用する観察方法が位相差や微分干渉などいう名称で確立されています。それらの観察方法に特化した光学顕微鏡も存在し、光学顕微鏡の中でも位相差顕微鏡や微分干渉顕微鏡と呼ばれています。細胞などを染色する場合は、細胞が死んでしまいますが、位相差顕微鏡や微分干渉顕微鏡を用いると生きたままの細胞を観察することが可能になります。
光学顕微鏡のその他情報
1. 光学顕微鏡の明視野観察と暗視野観察の違い
光学顕微鏡での観察を行う際には、対象に対してどのように光を当てるかによりその見え方が変わります。基本的な観察方法としては、「明視野観察法」「暗視野観察法」「偏斜照明での観察」の3種類があります。
明視野観察法は最も基本的な観察方法で、対象を光で照らして透過した光を観察するものです。主に、染色したサンプルの観察に用います。
一方で暗視野観察法では真下から光を当て、散乱光や反射光によって観察を行います。主に、着色されていない透明な対象や小さな対象の観察に利用される方法です。
明視野観察法を行うためには対象を染色することが基本となりますが、対象が生体である場合は染色による死滅や機能を損なう懸念があるため、この場合は染色せずに暗視野観察法を利用することになります。
これら2つの観察方法の中間であるのが偏斜照明での観察です。対象に対して斜めから光を当てることで、明視野観察法と暗視野観察法の中間的な見え方を実現することができます。
2. 光学顕微鏡における液浸対物レンズ
光学顕微鏡の分解能は開口数に反比例するため、開口数を大きくすることでより小さな分解能が得られます。開口数は対物レンズと媒質の間の屈折率に比例しますが、液浸対物レンズはこの特性を利用し、試料と対物レンズの間に屈折率の高い液体を満たすことでより優れた分解能を得る手法です。観察する対象によって使用する液体も異なります。
液体としてオイルを利用する対物レンズを「油浸対物レンズ」と呼びます。オイルは水よりも屈折率が高いためより分解能を高める効果があり、油浸対物レンズを用いることで明るくシャープな像を得ることができます。ただし、厚みや試料とカバーガラスに間がある対象を観察する場合には、対象とカバーガラスの屈折率差により対物レンズによる球面収差が発生し、顕微鏡が結ぶ像はぼけてしまいます。
一方で、液体として水を利用する対物レンズを、「水浸対物レンズ」と呼びます。水浸対物レンズは、対象の厚みにかかわらず同等の像が得られるように設計されています。薄い対象について観察する場合は油浸対物レンズのほうがより明るくはっきりと視認できますが、厚みがある対象を観察する場合は、水浸対物レンズを用いたほうが良い性能を得ることができます。