水酸化亜鉛

水酸化亜鉛とは

水酸化亜鉛は、亜鉛の水酸化物で、化学式は Zn(OH)2 です。両性の水酸化物で、酸にもアルカリにも溶解するが、水にはほとんど溶けない白色で粉末状の化学物質です。酸に溶けて亜鉛塩となり、アルカリに溶けると亜鉛酸塩になります。また、125℃まで加熱すると分解して酸化亜鉛になります。

水酸化亜鉛は、水酸化アルカリを亜鉛酸水溶液に加えると白色の沈殿物となって得られます。水酸化亜鉛は、α,β,γ,δ,ε形の5つの変態があり、このうちε形が斜方晶系の結晶です。

水酸化亜鉛の使用用途

水酸化亜鉛は、ゴムの製造の際に配合剤として使われます。また、外科用包帯の吸収剤や酸化亜鉛などの製造にも使用されます。この他、亜鉛とアルミニュウム膜の二層水酸化物を電気化学法で合成する際に、水酸化亜鉛が使用されます。また、水酸化亜鉛と水酸化ナトリウムを混合することにより、亜鉛塩を作ります。

水酸化亜鉛の派生品の用途としては、酸化亜鉛はゴムの加硫促進助剤や染料、乾燥剤、医薬品、化粧品などに広く使われています。塩化亜鉛は、溶融亜鉛メッキのフラックス剤やマンガン乾電池の電解液として使用されます。さらに、硫酸亜鉛は、農薬や 肥料に多く使用されています。

水酸化亜鉛の性質

1. 両性水酸化物

水酸化亜鉛は両性水酸化物で、酸性の水溶液にも強塩基の水溶液にも溶けます。例えば、塩酸を加えると塩化亜鉛となり水に溶けます。水酸化ナトリウム水溶液を過剰に加えると、テトラヒドロキシド亜鉛 (Ⅱ) 酸イオン [Zn(H2O)4]2+ を生じて溶けます。

  • 塩酸との反応
      Zn(OH)2 + 2HCl → ZnCl2 + 2H2O

  • 多量の水酸化ナトリウムとの反応
      Zn(OH)2 + 2NaOH → 2Na+ + [Zn(H2O)4]2-

この特性は、亜鉛イオンを検出するためのテストとして使用することができます。ただし、アルミニウムや鉛の化合物も同様の反応を示すため、排他的ではありません。

アンモニアとの反応

また、水酸化亜鉛にアンモニア水を過剰に加えると、 Zn2+ にアンモニア分子4個が配位結合して、無色のテトラアンミン亜鉛 (Ⅱ) イオン [Zn(NH3)4]2+ を生じて溶けます。これは両性水酸化物としての性質ではなく、 Zn2+ が NH3 分子と錯イオンを作りやすいという性質に基づくものです。

  • アンモニアとの反応
      Zn(OH)2 + 4NH3 → [Zn(NH3)4]2+ + 2OH

Zn(OH)2に過剰にアンモニア水を加えると、Zn2+ に対するH2OとNHの交換反応が起こり、水溶液中に [Zn(NH3)4]2+ が生成し始めます。そのため、 [Zn(H2O)4]2+ が減少するので、これを補うようにZn(OH)2が溶解します。両性金属 (Al、Zn、Sn、Pb) のイオンの中で、アンモニアと錯イオンをつくるのはZn2+ だけです。

水酸化亜鉛の構造

水酸化亜鉛のε-相は斜方晶系の結晶であり、亜鉛の周りには4つのOH基が正四面体状に配位しています。また、OH基の周りは2つの亜鉛原子と2つのOH基が存在しており、巨大な分子構造を形成しています。α−相は六方晶系の水酸化カドミウム型構造になっています。

また、テトラヒドロキシド亜鉛 (Ⅱ) 酸イオン [Zn(H2O)4]2+ は Zn2+ を中心とした錯イオンで、正四面体構造をとっています。

水酸化亜鉛のその他情報

1. 水酸化亜鉛の製造

硫酸亜鉛の水溶液に、水酸化ナトリウム水溶液を加えると、無定形コロイド状の白色沈殿である水酸化亜鉛が得られます。また、熱濃水酸化ナトリウム水溶液に酸化亜鉛を溶解させた後、希釈し、2〜3週間寝かせると、ε−相の水酸化亜鉛の結晶が沈殿します。

  • 硫酸亜鉛から
      ZnSO4 + 2NaOH → Zn(OH)2 + Na2ZnSO4

  • 酸化亜鉛から
      ZnO + 2OH + H2O → [Zn(H2O)4]2-
      [Zn(OH)4]2- → Zn(OH)2 + 2OH

2. 水酸化亜鉛の安全性情報

水酸化亜鉛が目や皮膚に接触した場合、重度の刺激によって損傷を与える可能性があります。目に入った場合は数分間注意深く洗い流し、皮膚についた場合は石鹸でよく洗うことが大切です。

水酸化亜鉛はGHS分類では、水生環境有害性が「区分1」(非常に強い毒性) とされており、環境にたいする有毒性が強い物質のため取り扱いには注意が必要です。

参考文献
https://anzeninfo.mhlw.go.jp/anzen_pg/KAG_DET.aspx?joho_no=27947
https://www.nite.go.jp/chem/chrip/chrip_search/
https://www.yone-yama.co.jp/shiyaku/msds/pdfdata/CC0006.pdf

水酸化マンガン

水酸化マンガンとは

水酸化マンガンとは、マンガンの水酸化物です。

水酸化マンガンには、水酸化マンガン (II) 、水酸化マンガン (III) 、水酸化マンガン (IV) などが知られています。水酸化マンガン (II) のCAS登録番号は18933-05-6です。天然で水酸化マンガン (II) は、キミマン鉱 (英: pyrochroite) として得られます。

塩化マンガンの希薄水溶液に水酸化カリウム水溶液を加えて、水素を通じながら加熱した後に冷却することで、結晶が析出して、水酸化マンガン (II) を合成することが可能です。

水酸化マンガンの使用用途

2価の水酸化マンガンは白色で水には不溶で、水中溶存酸素の定量法であるウィンクラー法 (英: Winkler’s method) に用いられます。

2価の白色粉末に対して、3価の水酸化マンガンは、灰色、褐色、黒色などの粉末で、色素や顔料に用いることが可能です。また、4価の水酸化マンガンは、褐黒色や黒色の粉末で、顔料やワニスなどの乾燥剤、染色などに用いられます。

水酸化マンガンの性質

水酸化マンガン (II) は水には不溶です。空気中で容易に酸化されます。酸化によって3価や4価の水酸化物を生成し、褐色に変化しやすいです。

水酸化マンガン (II) はわずかに水に溶解します。室温における水への溶解度は、0.0005g/100cm3です。その一方で水酸化マンガン (II) は、希酸やアンモニウム塩水溶液には、容易に溶解します。溶解度積はKsp = 1.6 × 10-13です。溶解度積は他の重金属水酸化物と比較するとやや大きく、塩基性も強いです。

水酸化マンガン (II) は、ほとんど希アルカリ水溶液に溶解しません。ただし、熱濃アルカリ水溶液には溶解して、マンガン (II) 酸塩を生成します。

水酸化マンガンの構造

水酸化マンガン (II) の化学式はMn(OH)2で、モル質量は88.9527g/molです。酸化マンガン (II) 一水和物とも呼ばれています。

水酸化マンガン (II) は六方晶系の、ヨウ化カドミウム型構造を取っています。密度は3.26g/cm3で、格子定数はa = 3.34Å、c = 4.68Åです。

マンガン(IV)を含む水酸化物には、褐色の粉末であるMn3O4・nH2Oや黒色の粉末のMnO2・nH2Oなどが存在します。Mn3O4・nH2Oは2MnIIO・MnO2・nH2Oと書くことも可能です。

水酸化マンガンのその他情報

1. 水酸化マンガン (III) の反応

Mn(OH)2の沈殿が空気酸化によって、Mn2O3・nH2Oとなります。Mn2O3・nH2Oを100℃で乾燥すると、Mn2O3・H2Oになります。Mn2O3・H2OはMnO(OH)と書くことも可能です。MnO(OH)のCAS登録番号は1332-63-4、分子量は87.94です。

水酸化マンガン (III) には、斜方 (α形) と単斜 (γ形) の2変態が存在します。α形の密度は4.2~4.4g/cm3、γ形の密度は3.26g/cm3です。

天然で水酸化マンガン (III) は、スイマンガン鉱 (英: Manganite) として産出されます。また、水酸化マンガン (III) は、Mn(OH)3という形では得られません。

2. 水酸化マンガンの関連化合物

水酸化マンガンは水酸化鉄と比較されることもあります。水酸化鉄は鉄の水酸化物で、鉄の酸化数によって水酸化鉄 (II) や水酸化鉄 (III) が存在します。水酸化鉄 (II) の化学式はFe(OH)2、水酸化鉄 (III) の化学式はFe(OH)3です。

水酸化マンガン (II) は水酸化鉄 (II) と比べると還元作用が弱いものの、塩基性で還元作用を示します。水酸化鉄 (II) の標準酸化還元電位はE° = -0.556Vで、水酸化マンガン (II) の標準酸化還元電位はE° = -0.25Vです。

ヒ酸

ヒ酸とは

ヒ酸の基本情報

図1. ヒ酸の基本情報

ヒ酸 (Arsenic acid) とは、ヒ素のオキソ酸の一種である無機化合物です。

化学式H3AsO4で、別名にはオルトヒ酸 (Orthoarsenic acid) という名称があります。CAS登録番号は7778-39-4です。

式量は141.943、融点は35.5℃ (1/2水和物)、融点は160℃であり、常温では無色結晶 (1/2水和物) です。密度は2.5 gcm-3、水への溶解度は96.2g /100g (20℃) となっており、水に溶けやすい物質です。酸解離定数pKaは、2.24, 6.96, 11.50です。

亜ヒ酸ほど強くはないものの、毒性は極めて強く、ヒ酸およびヒ酸塩は医薬用外毒物に指定されています。労働安全衛生法においては、砒素及びその化合物として名称等を表示すべき危険物及び有害物に指定されている化合物です。

ヒ酸の使用用途

ヒ酸の主な用途は、殺虫剤、殺鼠剤の他、有機色素工業における利用、有機および無機のヒ素製剤の原料があります。特に、殺虫剤としてはシロアリの駆除などに使用されてきました。しかし、有毒性が高く環境汚染や健康被害が問題となったため、現在は日本では使用することができません。

ヒ酸は、1/2水和物が無色結晶として単離されていますが、これは吸湿性で水に極めて溶解しやすい物質です。潮解性の高さから水溶液や水和物の状態で用いられたり、あるいは亜ヒ酸が使用されることが多くあります。

ヒ酸の特徴

ヒ酸水溶液の電離平衡

図2. ヒ酸水溶液の電離平衡

ヒ酸の無水物及び0.5水和物は、吸湿性で潮解しやすい物質です。無水物結晶は水に対しやや吸熱的に溶解するとされます。また、ヒ酸においてヒ素原子の酸化数は+V (+5) と最高酸化状態であり、3価の酸としての性質を示す物質です。

このような点は、リン酸と類似していると言えます。潮解性をもち、水にも可溶なことから、保管の際には密閉した状態を保つことが重要です。

ヒ酸の水溶液は、3段階の電解を起こす弱酸です。第一段階電離により、ヒ酸二水素イオン (H2AsO4-) 、第二段階解離によりヒ酸水素イオン (HAsO42-) 、第三段階解離によりヒ酸イオン (AsO43-) を生成します。ヒ酸イオンは正四面体型構造でありリン酸イオンに類似しています。

電解の一段目はやや強く解離し、0.1mol dm-3の水溶液では電離度は約0.25です。2段目以降は逐次減少し、酸性水溶液中の解離は無視できるとされています。

ヒ酸の種類

ヒ酸そのものは潮解性が高く、取り扱いが難しいため無水物での製品販売は基本的にはありません。ヒ酸溶液として60%程度の濃度で販売されている他、固体では塩の状態で販売されています。基本的には、研究開発用の薬品や工業用の薬品として販売されます。

ヒ酸塩として最も一般的なものは、ひ酸水素二ナトリウム七水和物 (Na2HAsO4・7H2O) です。この物質は、常温では白色の結晶または結晶性粉末で、水に溶けやすく、エタノールにほとんど溶けません。室温保管可能な試薬製品として取り扱われ、アルカロイドの検出試薬などの用途があります。 

ヒ酸のその他情報

1. ヒ酸の製法

ヒ酸の製造方法

図3. ヒ酸の製造方法

ヒ酸の製造方法は、単体ヒ素または三酸化二ヒ素の濃硝酸による酸化です。この溶液を濃縮すると29.5℃以下で0.5水和物の細かい板状結晶が析出し、29.5℃以上ならば三ヒ酸 (H5As3O
10) が析出します。

また、別の方法では、五酸化二ヒ素を水に溶かすことで得られます。

2. ヒ酸の化学反応

ヒ酸の水溶液は弱い酸化作用を示し、例えば、ヨウ化物イオンをヨウ素に酸化します。また、ヒ酸は穏やかな加熱により脱する物質です。三ヒ酸 (H5As3O10) を生成し、さらに加熱すると250℃から五酸化二ヒ素となりますが、完全な脱水には500 ℃以上の高温が必要であるとされています。

二ヒ酸 (H4As2O7) あるいはポリヒ酸 (Hn+2AsnO3n+1、(HAsO3)n) およびそのイオンは水溶液中では不安定であり、速やかに加水分解され、ヒ酸あるいはヒ酸イオンとなります。

参考文献
http://www.st.rim.or.jp/~shw/MSDS/01571939.pdf

ニトロアセトアニリド

ニトロアセトアニリドとは

ニトロアセトアニリドの3つの位置異性体

図1. ニトロアセトアニリドの3つの位置異性体

ニトロアセトアニリド (英: Nitroacetanilide) とは、化学式C8H8N2O3で表されるアセトアニリドのニトロ誘導体化合物です。

ニトロ基の置換位置により、2-ニトロアセトアニリド (o-ニトロアセトアニリド)、3-ニトロアセトアニリド (m-ニトロアセトアニリド)、4-ニトロアセトアニリド (p-ニトロアセトアニリド) の3つの位置異性体が存在します。

分子量は180.16であり、3つの異性体とも常温では固体の状態で存在します。

ニトロアセトアニリドの使用用途

ニトロアセトアニリドの主な用途は、有機合成原料・有機合成中間体です。

例えば、4-ニトロアニリンを合成する際は、アニリンのアミノ基を保護してアセトアニリドとした後、ニトロ化反応によって4-ニトロアセトアニリドを中間体として経由します。アニリンを直接ニトロ化しようとすると酸化による分解やアニリニウム塩形成による配向性の変化が起こるためです。

4-ニトロアニリンは、色素や医薬品合成の中間体、酸化防止剤、ガソリンのガム状化防止剤、など、工業的に種々の利用法がある有用な化合物です。

ニトロアセトアニリドの性質

1. 2-ニトロアセトアニリド

2-ニトロアセトアニリド (o-ニトロアセトアニリド) は、融点93℃であり、常温では薄い黄色もしくは褐色の結晶性粉末です。アミド基から見てオルト位 (2位) にニトロ基が結合しています。CAS登録番号は、552-32-9です。

光によって変質する可能性があるため、保管時には高温と直射日光を避ける必要があります。強酸化剤とも反応するため、混触を避けるべきとされます。

2. 3-ニトロアセトアニリド

3-ニトロアセトアニリド (m-ニトロアセトアニリド) は、アミド基から見て、メタ位 (3位) にニトロ基が結合しています。融点は151-154℃であり、常温では薄い黄色から黄褐色の結晶性粉末です。CAS登録番号は、122-28-1です。

光によって変質する可能性があるため、保管時には高温と直射日光を避ける必要があります。強酸化剤とも反応するため、混触を避けるべきとされます。

3. 4-ニトロアセトアニリド

4-ニトロアセトアニリド (p-ニトロアセトアニリド) は、アミド基から見て、パラ位 (4位) にニトロ基が結合しています。融点は213-216℃であり、黄色から黄褐色の結晶性粉末です。エタノールアセトンには溶けますが、水には溶けにくい性質を示します。CAS登録番号は、104-04-1です。

光によって変質する可能性があるため、保管時には高温と直射日光を避ける必要があります。強酸化剤とも反応するため、混触を避けるべきとされます。

ニトロアセトアニリドの種類

ニトロアセトアニリドの誘導体

図2. ニトロアセトアニリドの誘導体

ニトロアセトアニリドは、前述の通り3種類の位置異性体が存在しますが、どれも研究開発用試薬製品として市販されています。容量の種類は、25g、100gなどです。常温で取り扱い可能な試薬製品として販売されています。

関連してその他に販売されている誘導体には、2′-メチル-4′-ニトロアセトアニリド、4′-フルオロ-2′-ニトロアセトアニリド、4-アセトキシ-1-アセチルアミノ-2-ニトロベンゼンなどがあります。

ニトロアセトアニリドのその他情報

ニトロアセトアニリドの合成

ニトロアセトアニリドの合成

図3. ニトロアセトアニリドの合成

2-ニトロアセトアニリドと4-ニトロアセトアニリドは下記の工程で得ることが可能です。

  1. アニリンからアセトアニリドを合成する (アニリンのアミノ基のアセチル化反応)
  2. アセトアニリドを混酸によってニトロ化する (芳香族求核置換反応)
  3. 生成した2-ニトロアセトアニリドと4-ニトロアセトアニリドの混合物を精製する

2の芳香族求核置換反応は、オルトパラ配向性の反応であり、特にパラ位が有利です。このため、この反応では、4-ニトロアセトアニリドが主生成物として生成し、副生成物として2-ニトロアセトアニリドが生成します。3-ニトロアセトアニリドを合成するためには、また別の合成経路からの合成となります。

参考文献
https://labchem-wako.fujifilm.com/sds/W01W0235-0357JGHEJP.pdf

ジメチルシクロヘキサン

ジメチルシクロヘキサンとは

ジメチルシクロヘキサンの基本情報

図1. ジメチルシクロヘキサンの基本情報

ジメチルシクロヘキサン (Dimethylcyclohexane) とは、シクロアルカン (脂環式有機化合物) の一種であるシクロヘキサンにメチル基が2つ結合した構造をしている化合物の総称です。

メチル基の結合する場所によっていくつかの種類があります。構造異性体は、「1,1-ジメチルシクロヘキサン」「1,2-ジメチルシクロヘキサン」「1,3-ジメチルシクロヘキサン」「1,4-ジメチルシクロヘキサン」の4つです。

そのうち、「1,2-ジメチルシクロヘキサン」「1,3-ジメチルシクロヘキサン」「1,4-ジメチルシクロヘキサン」については、cis/transの立体異性体があります。2つのメチル基がシクロヘキサン環を基準として同じ方向を向いているものをcis体、反対の方向を向いているものをtrans体と呼びます。

cis体とtrans体 (1,2-ジメチルシクロヘキサンを例に)

図2. cis体とtrans体 (例:1,2-ジメチルシクロヘキサン)

どれも分子式はC8H16で表され、分子量は112.216です。引火性があるため、消防法では「危険物第四類 第一石油類 危険等級Ⅱ」に指定されており、労働安全衛生法では「危険物・引火性の物」に指定されています。

ジメチルシクロヘキサンの使用用途

ジメチルシクロヘキサンは、主に有機合成中間体として用いられます。無極性のシクロアルカンであるため、無極性溶媒としての用途も可能ではありますが、実際は他の薬品が汎用されているので、無極性溶媒としての用途は少ないです。あくまでも、特殊なビルディングブロックとしての用途が主体です。

なお、1,1-ジメチルシクロヘキサンは、天然ガス水和の中程度の圧力での操作を促進する添加物として用いられます。1,3-ジメチルシクロヘキサンは、イリジウム触媒による開環反応の検討に用いられたことがあります。

また、メチル基が立体障害のモデル置換基となることから、ジメチルシクロヘキサンの化合物群は、シクロヘキサンの安定配座の研究に古くより用いられてきた歴史的経緯があります。

ジメチルシクロヘキサンの特徴

ジメチルシクロヘキサンの異性体群

図3. ジメチルシクロヘキサンの異性体群

1. 1,1-ジメチルシクロヘキサン

1,1-ジメチルシクロヘキサンは、沸点118-120℃であり、常温では無色の液体です。密度は0.777g/cm3であり、CAS登録番号は590-66-9です。

引火点が11℃と低いことから、消防法において「第4類引火性液体、第一石油類、危険等級II、非水溶性液体」に指定されています。

2. 1,2-ジメチルシクロヘキサン

1,2-ジメチルシクロヘキサンには、原理上cis/transの2種類の立体異性体がありますが、一般的に販売されているのはcis体がほとんどです。これは合成経路や化合物の安定性の都合によるものとされています。

cis-1,2-ジメチルシクロヘキサンのCAS番号は2207-01-4です。沸点129〜130℃であり、常温では淡黄色の液体です。密度は0.796g/cm3となっています。

trans-1,2-ジメチルシクロヘキサンのCAS番号は2207-01-4です。沸点124℃であり、常温では無色の液体です。密度は0.78g/cm3となっています。

引火点が11℃ (cis体) / 7℃ (trans体) と低いことから、消防法において「第4類引火性液体、第一石油類、危険等級II、非水溶性液体」に指定されています。

3. 1,3-ジメチルシクロヘキサン

1,3-ジメチルシクロヘキサンは、cis体、trans体、cis体とtrans体の混合物の3種類が販売されています。CAS登録番号は、順に638-04-0、2207-03-6、591-21-9です。

室温ではいずれもほぼ無色の液体であり、沸点は120℃ (cis体) と124℃ (trans体) 、比重は0.77 (cis体) と0.78 (trans体) です。引火点が6℃ (cis体) / 9℃ (trans体) と低いことから、消防法において「第4類引火性液体、第一石油類、危険等級II、非水溶性液体」に指定されています。

4. 1,4-ジメチルシクロヘキサン

1,4-ジメチルシクロヘキサンは、cis体、trans体、cis体とtrans体の混合物の3種類が販売されています。CAS登録番号は、順に624-29-3、2207-04-7、589-90-2です。

室温ではいずれもほぼ無色の液体であり、沸点は125℃ (cis体) と119℃ (trans体) 、比重は0.78 (cis体) と0.76 (trans体) です。いずれも引火点が6℃と低いことから、消防法において「第4類引火性液体、第一石油類、危険等級II、非水溶性液体」に指定されています。

ジメチルシクロヘキサンの種類

ジメチルシクロヘキサンは、主に研究開発用の試薬製品として販売されています。前述の通りいくつか異性体が存在しますが、製品化されているものは、下記の通りです。

  • 1,1-ジメチルシクロヘキサン
  • cis-1,2-ジメチルシクロヘキサン
  • cis-1,3-ジメチルシクロヘキサン
  • trans-1,3-ジメチルシクロヘキサン
  • cis-1,4-ジメチルシクロヘキサン
  • trans-1,4-ジメチルシクロヘキサン
  • 1,3-ジメチルシクロヘキサン (cis体とtrans体の混合物)
  • 1,4-ジメチルシクロヘキサン (cis体とtrans体の混合物)

どれも室温保管が可能な試薬製品として取り扱われます。容量の種類には、1g , 5g , 10g , 25g , 50g , 25mL , 500mLなどがあり、実験室で取り扱いやすい小型の容量で販売されています。

シトシン

シトシンとは

シトシン (英: cytosine)とは、白色もしくは、ほとんど白色の結晶性粉末または粉末の有機化合物であり、ピリミジン誘導体のひとつです。

「化学式:C4H5N3O」「分子量:111.10」「CAS登録番号:71-30-7」です。

シトシンの構造

シトシンは遺伝情報をもつDNA (デオキシリボ核酸) やRNA (リボ核酸) といった核酸を構成する5種類ある主要な塩基のひとつです。構造としては、ピリミジン骨格の4’炭素にアミノ基がついています。

DNAの二重らせん構造においてはグアニンと3か所の水素結合を形成します。

シトシンなどの塩基はデオキシリボースまたはリボースといった糖およびリン酸と結合してヌクレオチドの構成要素となります。ヌクレオチドが多数連なったものは核酸とよばれ、その塩基配列が細胞の遺伝情報をになっています。

シトシンの性質

シトシンは熱水に溶けやすく、常温の水やエタノールアセトンには溶けにくいです。化学的安定性は「光により変質するおそれがある」程度で、比較的安定した性質を有します。

消防法をはじめ毒劇法、安衛法、危規則、航空法、PRTR法、輸出令といった、おもな国内法規による指定はありません。

シトシンの使用用途

シトシンは、主に有機合成の原料として利用されています。生命活動に重要な遺伝情報をになう分子として、すべての生物の細胞に含まれています。したがってシトシンは、医療関連分野への応用が期待されています。

シトシンの実用化に向けた研究開発の動向は、動物実験による研究成果の発表や特許出願といった限られた方法しか今のところはありません。

参考文献
https://labchem-wako.fujifilm.com/sds/W01W0101-1230JGHEJP.pdf
https://www.nite.go.jp/chem/chrip/chrip_search/dt/html/GI_10_001/GI_10_001_71-30-7.html

グアヤコールスルホン酸カリウム

グアヤコールスルホン酸カリウムとは

グアヤコールスルホン酸カリウム (Potassium guaiacolsulfonate / 日本薬局方一般名) とは、去痰作用を持つ化合物の1種です。

4-ヒドロキシ-3-メトキシベンゼンスルホン酸カリウム (Potassium 4-hydroxy-3-methoxy benzene sulfonate / IUPAC命名法) 、Sulfoguaiacolとも呼ばれています。CAS番号は16241-25-1,1321-14-8,78247-49-1と複数の番号で表されることがあるようです。

ただし、1321-14-8は位置異性体を許容するようで、現行の日本薬局方では16241-25-1に改められています。組成式はC7H7KO5Sですが、市販品には1/2水和物であることを明示しているものもあります (C7H7KO5S · 0.5H2O) 。

グアヤコールスルホン酸カリウムの使用用途

グアヤコールスルホン酸カリウムは、主に一般用医薬品の成分として使用されます。気道分泌を促進し、痰の粘稠度を低下減少させることによって、痰を出しやすくする作用を持っており、弱い消毒作用も有します。

そのため、総合感冒薬や鎮咳・去痰薬の成分の1つになっていることが多いです。いわゆる「のどに絡む痰」を出しやすくする成分です。日本薬局方にも収載されています。

グアヤコールスルホン酸カリウムの性質

通常では、白色の結晶粉末状態で存在しています。水には溶けやすいものの、メタノールにやや溶けにくく、エタノールやエーテルには溶けにくいです。

水溶液は弱酸性を示します。5w/v%溶液でpH4.0~5.5です。融点は231~232℃であり、化学的に安定な化合物ですが、粉末は吸湿性を有します。また、光によって変質するおそれがあるため、保管には遮光が必要です。

グアヤコールスルホン酸カリウムの選び方

グアヤコールスルホン酸カリウムには、位置異性体があります。すなわち、本項で扱っている去痰剤のグアヤコールスルホン酸カリウム (4-ヒドロキシ-3-メトキシベンゼンスルホン酸カリウム) は、ベンゼン環の3つの炭素のうち、1位がスルホン酸基 (カリウム塩) 、3位がメトキシル基、4位がフェノール性水酸基で置換されています。

しかし、「グアヤコールスルホン酸カリウム」「Potassium guaiacolsulfonate」「Sulfogaiacol」という呼び名だけでは、どの位置異性体を指しているのか (グアヤコールのどこがスルホン酸になっているのか) 明確ではない状態です。

そのため、購入しようとしているものが4-ヒドロキシ-3-メトキシベンゼンスルホン酸カリウムであるのか、よく確認する必要があります。流通量は多くありませんが、3-ヒドロキシ-4-メトキシベンゼンスルホン酸カリウムも販売されています。

ただし、表記が「グアヤコールスルホン酸カリウム (日本薬局方) 」であれば、日本薬局方収載品は4-ヒドロキシ-3-メトキシベンゼンスルホン酸カリウムだけであるので、異性体が特定されている状態です。

グアヤコールスルホン酸カリウムのその他情報

1. グアヤコールスルホン酸カリウムの製造法

1881年にグアヤコールからスルホン酸カリウム誘導体が合成されることで作られました。その後も、グアヤコールスルホン酸カリウムの製造法は化学合成です。一般には、グアヤコールのスルホン化によりグアヤコールスルホン酸を獲得し、それをカリウム塩にすることで合成されます。

グアヤコールは、ユソウボク (Guaiacum officinale) から得られるグアヤク樹脂 (Gum guaicumまたはguaiac resin ) から1826年に初めて単離された物質です。古くはグアヤコールも去痰剤として使われていました。

2. グアヤコールスルホン酸カリウムの適用法令

強い毒性・危険性は知られておらず、危険有害性区分は急性毒性 (経口・吸入) がカテゴリー4、皮膚刺激性・眼刺激性がカテゴリー2です。消防法や労働安全衛生法といった国内法規には非該当となっています。

ただし、化学物質の一般的な留意点として、防塵マスクと保護手袋を着用し、局所排気装置がある環境で取り扱う必要があります。また、強酸化剤との混在も避けましょう。

線材

線材とは

線材

線材とは、コイル状に巻かれている線状の金属材料です。

熱間圧延ままの熱間圧延材 (英: As Rollled) と熱間圧延材をさらに伸線した鋼線 (英: Wire) があります。材質は軟質線材、ハイカーボン線材、ピアノ線、溶接棒心線、冷間鍛造用線材、ステンレス線材などに分類されます。

熱間圧延機を複数台使用した圧延によって、鋼片から5~20ミリメートルまでの細径へ加工されます。さらに細くする場合に行うのが、伸線加工です。伸線の前加工として焼鈍 (熱処理) 、酸洗 (スケール除去と潤滑皮膜塗布) が実施される場合が多いです。

線材の使用用途

1. 普通鋼線材

主に針金や釘および金網、ねじ類などの強度をあまり必要としない製品の素材となります。また、魚礁の石の固定、堤防のテトラポットの固定、崖斜面の岩石固定用途のワイヤネット用素材としても有用です。

2. 特殊線材

高い靭性や耐久性などを要求される鋼索線用途、鋼撚り線用途、線ばね素材、スティールコードと呼ばれるタイヤ芯素材などに使用されます。その他、溶接の被覆アーク溶接棒や心線用途、建築の構造用部材と使用されるポールやパイルの芯金材 (主筋・補助筋) としても有用です。

線材の特徴

線材の特徴は、導電性、引張強度、柔軟性、耐食性、温度耐性、電磁遮蔽性、可塑性などをもつことです。これらの特徴は、電気信号の伝達や機械的な要件、環境条件に対する適応性を示しています。

例えば、銅やアルミニウムなどの導電性の高い素材は電気ケーブルや機器の電力供給に適しています。その一方で、耐食性が重視される場合にはステンレス鋼が使用され、柔軟性が求められる場合には柔軟性のある材料が使用されます。

線材の種類

線材は様々な工業分野で広く活用され、その特性によって異なる種類が存在します。

1. 軟鋼線

軟鋼線は、鉄と一定の割合の炭素から成る鋼鉄の一種です。柔軟性と強度のバランスが良いため、様々な用途に適しています。軟鋼線の製造プロセスは、熱間圧延された圧延材を冷却後伸線機で伸線加工を行うことで作られます。

軟鋼線はその柔軟性から、金鋼やばねとして広く利用されています。建築機械製造においても重要な素材であり、その扱いやすさと加工しやすさから、様々な形状やサイズに加工されています。強度の点では硬鋼に劣りますが、その柔軟性が要求される場面では欠かせない素材です。

さらに、ボルト・ナットや釘などの素材にもなります。ボルトも自動車用途、機械用途だけでなく、ビルの基礎用アンカーボルトなどにも有用です。

2. 硬鋼線

硬鋼線は軟鋼線よりも高い炭素含有量を有する鋼鉄の一種です。その特異な性質から様々な産業分野で広く利用されています。硬鋼線の製造プロセスは、まず炭化鉄Fe3C (セメンタイト) 金属組織にパテンティング処理を実施することで、微細なミクロン間隔のパーライト組織にします。その後、伸線することにより、パーライトの間隔をさらに狭め、強度を高くします。

0.65~0.95%の炭素を含む硬鋼線は結晶構造や炭素の配置によって硬度が向上しているため、特殊な環境下や高負荷下での使用に耐えることが可能です。この硬鋼線はハイカーボン材と呼ばれ、コンクリート構造物の芯金、長大橋の吊ロープ、タイヤのゴムに内装されるスチールコードなどになります。

3. 鉄以外の線材

鉄以外の素材で作られた線材には、様々な特性を持つものがあります。主なものとしては、銅覆鋼線、電気用銅線、燐青銅線が挙げられます。

銅覆鋼線
銅覆鋼線 (CP線) は銅で覆われた鋼線です。この構造は銅の高い導電性と強度を組み合わせたものです。電気配線等、高い電気電導性が求められるところで利用されます。また、柔軟性もあり、取り回しやすいのが特徴です。

電気用銅線
電気用銅線 (FR線) は高純度の銅から作られ、非常に高い導電性をとともに、柔軟性も持ち合わせています。銅覆鋼線 (CP線) と同様に、高い電気電導性が求められるところで利用されます。

燐青銅線
燐青銅線 (PBW) は銅とリンの合金で作られた鋼線です。耐食性に優れており、湿気の多い環境や腐食の影響を受けやすい場所で使用されます。形状は丸線、角線、平角線、ローレットワイヤーがあります。

メッキ処理を施して使用する場合、めっき層は錫および融点の異なる色々な半田組成のものがあり、使用条件、用途により選択します。

線材の選び方

線材を選ぶ際には、用途や要件に応じて様々な要因を考慮する必要があります。以下は、線材を選ぶ際の主要なポイントです。

1. 導電性と電気抵抗

導電性が必要な場合は、高導電性の素材を選びます。例えば、CP線やFR線などです。電気抵抗が低いほど、電流がスムーズに流れ、効率が向上します。

2. 強度と硬度

構造物や機械部品などで強度が求められる場合は、硬鋼や強靭な合金を選びます。これにより、材料が耐久性を持ち、負荷に強くなります。

3. 柔軟性と可撓性

線材が曲げやすく、柔軟性が求められる場合は、軟鋼や特殊な合金を選ぶと良いです。特に、ケーブルやばねとして使用される場合に重要な要素です。

4. 耐食性と環境への適応性

線材が湿気や腐食の影響を受ける可能性がある場合は、耐食性が高い素材(例: ステンレス鋼、燐青銅)を選ぶと良いです。

ジンクリッチプライマー

ジンクリッチプライマーとは

ジンクリッチプライマー (英: Zinc Rich Primer) とは、金属表面の保護や防錆のために用いられる特殊な下塗り塗料です。

亜鉛 (Zinc) の含有量が豊富であり、金属素材に塗布されることで優れた保護効果を発揮します。ジンクリッチプライマーは、金属表面に塗布される際、塗料中に含まれる高濃度な亜鉛末が金属素材よりも優先的に腐食を受けることで、金属の表面を保護します。

この亜鉛の特性により、ジンクリッチプライマーは鉄やその他の金属に対して非常に効果的な防錆層を形成します。

ジンクリッチプライマーの使用用途

1. 金属加工業界

ジンクリッチプライマーは、金属の防錆や保護において重要な役割を果たします。鉄、鋼、アルミニウムなどの金属表面に塗布することで、耐食性を高め、環境からの影響を防ぐことが可能です。

特に屋外の鉄骨や鋼構造物に使用され、長期間の耐久性を確保できます。

2. 海洋産業

船舶や海洋施設は塩分や湿度の高い環境下に置かれるため、錆びが深刻な問題です。ジンクリッチプライマーはこのような環境での金属の保護に広く使用されます。

船体や海洋プラットフォームの下塗りに利用され、長寿命化を促進します。

3. 自動車産業

自動車のボディやフレームなどの金属部品にジンクリッチプライマーを使用することで、耐久性が向上し、腐食から保護されます。また、道路散塩や悪天候からくる影響を軽減する効果もあります。

4. 建築業界

建築物の鉄骨や鋼構造物は長期間にわたって風雨にさらされるため、錆びが進行する可能性があります。ジンクリッチプライマーはこれらの構造物の耐久性を向上させ、美観を保つために利用できます。

5. 工業設備

工業施設内の金属部品や機器も腐食の影響を受ける可能性があります。ジンクリッチプライマーは工業設備の長寿命化や適切な機能の維持に寄与します。

ジンクリッチプライマーの特徴

1. 高濃度亜鉛末の含有

ジンクリッチプライマーは、高濃度の亜鉛末を含有しています。この亜鉛末が塗装対象の金属表面に均一に分布し、優れた防錆特性を実現可能です。亜鉛は金属の腐食を防ぐ役割を果たし、金属の長寿命化に寄与する効果があります。

2. 腐食防止効果

ジンクリッチプライマーは、塗布後に亜鉛末が金属基材よりも先に腐食することによって、金属表面を保護します。この効果により、金属部品や構造物の腐食が防がれ、耐久性が向上します。

3. 密着性と付着性

ジンクリッチプライマーは金属表面に高い密着性と付着性を示します。これにより、塗膜が安定して剥がれることなく金属表面に密着し、効果的な防錆層を形成します。

4. 環境変化の耐性

ジンクリッチプライマーは、外部の気候変化や環境要因に対しても耐性を持っています。極端な温度変化、湿度、化学物質などから金属を保護する役割を果たしてくれます。

5. 多様な塗布方法

ジンクリッチプライマーは、塗布方法に制約が少なく、スプレー、ブラシ、ローラーなどを用いて塗布できます。これによって、異なる用途や形状の金属部品にも適用が可能です。

ジンクリッチプライマーの種類

1. 有機系ジンクリッチプライマー

有機系ジンクリッチプライマーは、有機樹脂と亜鉛粉末を組み合わせたものです。この種類のジンクリッチプライマーは、金属表面に均一に塗布されると、有機樹脂による密着性と亜鉛の防錆効果を組み合わせて提供します。

2. 水系ジンクリッチプライマー

水系ジンクリッチプライマーは、水を基にした塗料であり、環境への配慮が高まる中で注目されています。水を媒体とすることで有機溶剤の使用を抑えつつ、亜鉛の防錆効果を発揮します。

3. 高耐久性ジンクリッチプライマー

高耐久性ジンクリッチプライマーは、特に厳しい環境下での使用に適しています。高耐久性の特性により、外部要因からの保護が必要な構造物や装置に使用が可能です。

4. 耐高温ジンクリッチプライマー

高温環境で使用される金属部品に対しては、耐高温ジンクリッチプライマーが適しています。耐熱性を持つ特殊な組成により、高温下でも亜鉛の効果を発揮します。

5. 応用用途別ジンクリッチプライマー

特定の用途に特化したジンクリッチプライマーも存在します。例えば、海洋環境での使用に適した海洋用ジンクリッチプライマーや、自動車部品などの自動車産業向けのジンクリッチプライマーなどがあります。

アクリル樹脂系非水分散型塗料

アクリル樹脂系非水分散型塗料とは

アクリル樹脂系非水分散型塗料とは、塗料の成分であるアクリル樹脂を微粒子状にして有機溶媒に分散させた塗料です。

英語では「Non Aqueous Dispersion」なので、頭文字をとってNAD塗料と呼ばれています。その他にも、「非水分散型塗料」「非水エマルション塗料」と呼ばれる場合があります。

アクリル樹脂系非水分散型塗料の使用用途

アクリル樹脂系非水分散型塗料に通常使用される溶媒は、ミネラルスピリット (塗料用シンナー) を使用した弱溶剤タイプの塗料です。弱溶剤塗料はトルエンキシレン、ケトン、エステル系などの強溶剤に比べて、臭気がマイルドで、下地や旧塗膜を侵しにくいことから、外壁や屋根といった場所の塗り替え工事などで幅広く使用されています。

アクリル樹脂系非水分散型塗料は、外壁や屋根、コンクリート、モルタル、木材、金属などの建材に使用されます。耐候性や耐久性が高く、外部の環境に対して優れた防水性能を発揮します。

アクリル樹脂系非水分散型塗料の原理

アクリル樹脂系非水分散型塗料は、塗装後の乾燥過程で溶剤が蒸発することによって、分散されていた粒子が結合し、塗膜を形成することで塗料が固定されます。そのため、水を溶媒としている合成樹脂エマルションペイント(EP) に比べて、塗装素地への付着性や結露水などに対する耐水性が高いことが特徴です。

品質において、発色が良い点や塗替え用途においては旧塗膜の影響を受けにくい点、木部塗装においてはヤニやシミ止め性が良い点も長所の1つです。また、作業面においても、硬化性、特に初期硬化が良く、速乾性があるため、1日に2回塗りが可能であったり、乾燥に時間がかかる寒冷地でも使いやすいです。

効果性や速乾性の良さは、微粒子分散系の塗料であることが理由として挙げられます。塗工時に粘度が下がり、静置時に粘度が上がるチキソ性があるため、塗りやすくてタレにくくなっています。また、強溶剤を使用した溶剤系塗料に比べると臭気も穏やかと言えます。

ただし、デメリットとして、水系塗料と比較すると臭気が強い点や強溶剤系塗料と比較すると塗膜のツヤや強度は劣る点が挙げられます。

アクリル樹脂系非水分散型塗料の構造

アクリル樹脂系非水分散型塗料は、JIS K 5670にて規格などが定められています。JISによると、アクリル樹脂系非水分散型塗料とは、脂肪族炭化水素系の溶剤中で0.1μm~数μmの樹脂粒子を分散させた塗料であり、 ホルムアルデヒド系防腐剤、ユリア系樹脂、フェノール系樹脂及びメラミン系樹脂のいずれも含まないものが条件です。

アクリル樹脂系非水分散型塗料には、アクリル樹脂粒子と分散媒となるミネラルスピリットの他にも、着色成分である顔料、樹脂粒子や顔料を分散させる分散剤が含まれています。ミネラルスピリットとは、石油系炭化水素系の化合物の混合物で沸点が160~200℃程度であり、適度な乾燥性を有しているものです。塗料の希釈剤としても使用されています。

アクリル樹脂系非水分散型塗料のその他情報

アクリル樹脂粒子分散液の製造方法

アクリル樹脂系非水分散型塗料は、アクリル樹脂粒子が分散した塗料のベースが作られます。そこに顔料などの着色成分が添加されて、さまざまな色の製品が作られます。アクリル樹脂粒子が分散したベース塗料は、以下のような手順で作られます。

1. 原料準備
分散媒となるミネラルスピリットに分散剤を溶解させます。この分散剤は低分子系のものではなく、高分子系のものが主に用いられます。

2. 重合
分散剤を溶解させた分散媒に、アクリル樹脂の原料となるアクリルモノマーと開始剤を一括または滴下で添加していき、重合を開始します。この際に必要により加温します。アクリルモノマーと開始剤は分散媒中に溶解していますが、重合が進行し、高分子量化すると分散媒に対して不溶になるため、分散媒中に粒子として析出してきます。

粒子が析出してくると、分散剤が粒子表面に吸着して、粒子同士が集合、合一して粗大粒子になったりしないように保護したり、粒子が沈降しないように安定化させます。

3. 熟成
未反応のモノマーが残存しないように、必要により開始剤を追加したり、加温などを行います。