ヘプタン酸

ヘプタン酸とは

ヘプタン酸とは、エナント酸とも呼ばれ、直鎖のカルボン酸です。

化学式はCH3(CH2)5COOHで表され、炭素数7の炭素鎖の末端にカルボキシル基を持っています。腐敗物のような悪臭を持つ無色で油状の液体です。自然界では、ブナ樹の木酢やカルムス油に含まれています。

水には溶けにくい性質を持っていますが、エタノールやエーテルなどの有機溶剤には可溶です。可燃性があり、消防法においては、第4類危険物第3石油類に指定されています。

ヘプタン酸の使用用途

1. 香料

香料として使われるヘプタン酸は、主にカルボン酸エステルの形で使用されています。ヘプタン酸アリル、ヘプタン酸メチル、ヘプタン酸プロピル、ヘプタン酸オクチルなどが知られています。

ヘプタン酸エチルが最も多く使用されており、主に食品香料として重要な原料です。リンゴ・アンズ・パイナップルなどの果物系、バター・チーズ・コーヒー・ナッツ・洋酒のフレーバーなどに使用されています。

調合香料として使用されることは少ないですが、香水にフルーツ感やシトラス感を与えるために使用されることがあります。

2. その他

エステル化によるアルキッド樹脂、金属セッケン、そのアミドはゴム添加剤、コンクリート防食助剤、潤滑油原料などに利用されることがあります。

ヘプタン酸の性質

ヘプタン酸は、分子量130.18、CAS番号111-14-8で表される特異臭のある澄明な液体です。融点および凝固点-9℃、沸点または初留点及び沸騰範囲223℃、引火点112℃で、可燃性があります。密度及び、または相対密度は0.916-0.921g/mL (20℃) です。

通常の状態において安定ですが、高温、直射日光、 熱、 炎、 火花、静電気、スパークを避け、強酸化剤との接触を避けます。危険有害な分解生成物として一酸化炭素 (CO) 、二酸化炭素 (CO2) を発生させる可能性があります。

ヘプタン酸のその他情報

1. 安全性

GHSにおいて、皮膚腐食性、刺激性、眼に対する重篤な損傷性、眼刺激性、特定標的臓器毒性 (単回ばく露) 、水生環境有害性 (急性) に分類されています。

眠気やめまいを引き起こす可能性があり、麻酔作用があるため、粉じん、煙、ガス、ミスト、蒸気、スプレーを吸入し ないよう注意が必要です。

2. 応急処置

万が一吸引した場合は、新鮮な空気のある場所に移動します。皮膚に付着した場合は、直ちに石鹸と大量の水で洗浄し、いずれも症状が続く場合は、医師への連絡、診断が必要です。

眼に入った場合は、数分間継続して洗浄し、コンタクトを装着していて、容易に取り外せる場合は取り外します。洗浄後、直ちに医師の手当てを受ける必要があります。

飲み込んだ場合は、直ちに口をすすぎ、意識が無い場合は、口になにも与えません。直ちに医師もしくは毒物管理センタ ーに連絡します。その際、薬品のSDS等を持参します。

3. 取扱い方法

屋内作業場で使用する場合は、発生源の密閉化、もしくは局所排気装置を設置します。取扱い場所の近くに安全シャワー、 手洗い、洗眼設備を設け、設置位置を明瞭に表示します。

作業者は、保護マスク、不浸透性保護手袋、側板付き保護眼鏡 (必要に応じてゴーグル型または全面保護眼鏡) 、長袖作業衣の着用が必要です。

使用時は火気厳禁とし、高温物、スパーク を避け、強酸化剤との接触を避けます。使用後は、顔、手など曝露した可能性のある皮膚を十分に洗浄します。

4. 保管

直射日光を避け、 換気のよい涼しい場所に密閉し、施錠してて保管します。ガラス製の容器を使用し、強酸化剤と接触しない場所で保管が必要です。

内容物および容器は、地域、国、現地の適切な法律、規則に則り処理を行います。一般的には、承認された廃棄物処理場に廃棄します。

5. 食品添加物としての取扱い

ヘプタン酸は、食品の着香の目的で使用される添加物で、食品衛生法第10条の規定において、人の健康を損なうおそれのない添加物として定められています。

劇物に指定されていますが、急性経口毒性、急性経皮毒性及び急性吸入毒性については、製品中の含有濃度に関わらず、有害性は確認されていないため、安全性に問題ありません。

食品添加物の規格基準において、着香の目的以外に使用してはならない等の使用基準が規定されていることから、食品における含有量は極微量であり、摂取しても安全です。

参考文献
https://www.mhlw.go.jp/content/000519575.pdf
https://labchem-wako.fujifilm.com/sds/W01W0108-0018JGHEJP.pdf

ヘキサノン

ヘキサノンとは

2-ヘキサノンと3-ヘキサノン

図1. 2-ヘキサノンと3-ヘキサノン

ヘキサノンとは、有機化合物の1種で化学式C6H12Oで表されるケトンです。

2-ヘキサノン (2-Hexanone) と3-ヘキサノン (3-Hexanone) の2つの異性体があります。これらは直鎖状の炭素鎖ヘキサンの2位もしくは3位のどちらかの部位にCOカルボニル基が置換した有機化合物です。

CAS登録番号は、それぞれ591-78-6 (2-ヘキサノン)、589-38-8 (3-ヘキサノン) です。その他の異性体には1位にカルボニル基が置換した有機化合物があり、この物質はアルデヒドに分類され、ヘキサナールと呼ばれています。 

ヘキサノンの使用用途

2-ヘキサノンは、主に溶剤や塗料などに多く使用される物質です。特に硝酸セルロース、ビニルポリマー、コポリマー、天然樹脂、合成樹脂などをよく溶解することが知られています。また、2-ヘキサノン自体は光化学的に不活性であるため、上記天然物由来の化合物や、光学的に活性な有機化合物の合成時の溶媒として有用であり、推奨されています。

3-ヘキサノンも、2-ヘキサノンと同様に有機合成における溶媒として用いられる物質です。また、2-ヘキサノン、3-ヘキサノンともに、有機合成における中間体としても使用されます。

ヘキサノンの性質

1. 2-ヘキサノンの性質

2-ヘキサノンの基本情報

図1. 2-ヘキサノンの基本情報

2-ヘキサノンは、メチルブチルケトンなどの別名があります。分子量100.16、融点-55.5℃、沸点127.6℃であり、常温での外観は無色から淡黄色の透明な液体です。激しいアセトン臭と形容される臭いを有します。密度は0.8113g/mLです。

エタノール及びアセトンに溶けやすく、水にわずかに溶ける性質を有します。引火点は35℃、発火点は530℃です。

2. 3-ヘキサノンの性質

3-ヘキサノンの基本情報

図3. 3-ヘキサノンの基本情報

3-ヘキサノンは、エチルプロピルケトンなどの別名を有します。分子量100.16、融点-55℃、沸点123℃であり、常温での外観は無色から微黄色の透明な液体です。密度は0.814g/mL、水に溶ける性質があります。水への溶解度は、14g/Lです。引火点は14℃と低く、引火性の高い性質を示します。

ヘキサノンの種類

2-ヘキサノンや3-ヘキサノンは、主に研究開発用試薬製品として販売されている物質です。容量の種類には5mLや25mLなどがあり、実験室で取り扱いやすい小容量で販売されています。通常、室温で取り扱い・保管可能な試薬製品として扱われる物質です。

ヘキサノンのその他情報

1. ヘキサノンの反応性

2-ヘキサノン、3-ヘキサノンは共に推奨保管条件下では安定な物質と考えられています。2-ヘキサノンの蒸気/空気混合物は強く温めると爆発性となるため、2-ヘキサノンの保管に際しては高温条件を避けることが必要です。

どちらの化合物も燃焼によって炭素酸化物を生じるため、火や火花などの着火源から離すことが推奨されます。混触危険物質は、酸化剤、強塩基類です。

2. ヘキサノンの有害性

2-ヘキサノン、3-ヘキサノンは、前述の通り、共に引火性液体及び蒸気として危険性の高い物質です。また、人体への有害性では、特に2-ヘキサノンは、肺や経口、真皮を介して吸収され、神経毒性のある代謝生成物2,5-ヘキサンジオンへ代謝される性質があります。指摘される具体的な有害性は下記のとおりです。

  • 強い眼刺激
  • 生殖能又は胎児への悪影響のおそれの疑い
  • 呼吸器への刺激のおそれ
  • 眠気やめまいのおそれ
  • 臓器の障害: 末梢神経系
  • 長期にわたる、又は反復暴露による臓器の障害: 神経系

3. ヘキサノンの法規制情報

2-ヘキサノン、3-ヘキサノンは前述の有害性から、共に法令によって規制を受ける物質です。2-ヘキサノンは消防法によって危険物第四類、第二石油類、危険等級Ⅲに指定されており、3-ヘキサノンは、危険物第四類、第一石油類、危険等級Ⅱに指定されています。

また、2-ヘキサノンは、労働安全衛生法において、名称等を表示すべき危険物及び有害物、名称等を通知すべき危険物及び有害物、第2種有機溶剤等、危険物・引火性の物、作業環境評価基準に指定されています。法令を遵守して正しく取り扱うことが必要です。

参考文献
https://labchem-wako.fujifilm.com/sds/W01W0113-0405JGHEJP.pdf

ヘキサナール

ヘキサナールとは

ヘキサナールの基本情報

図1. ヘキサナールの基本情報

ヘキサナール (Hexanal) とは、鎖状脂肪族アルデヒドの一種に分類される有機化合物です。化学式はC6H12Oです。別名には、ヘキシルアルデヒド、ヘキサアルデヒドやカプロンアルデヒドなどの名称があります。CAS登録番号は、66-25-1です。

分子量は100.16、融点は -56℃、沸点は131℃であり、常温において無色透明の液体です。臭いについては、青葉の臭い、未熟な臭いと形容されます。大豆や草から出る青臭い臭いは、ヘキサナールに由来するものです。エタノール及びアセトンに溶けやすく、水に溶けにくい性質があります。密度は、0.8335g/cm3です。

引火性が高いことから、消防法では、第4類引火性液体、第二石油類非水溶性液体に分類され、法規制を受けています。

ヘキサナールの使用用途

ヘキサナールの主な使用用途は下記の通りです。

  • アルコール飲料の附香剤
  • バターフレーバー
  • 化粧品の香料、香味剤
  • 染料
  • 可塑剤、合成樹脂の原料
  • 農薬の製造

具体的な例では、可塑剤原料である1-ヘキサノールはヘキサナールの水素化によって製造されています。また、ヘキサナール単体ではは青臭い臭いの原因物質であるものの、香料の成分にも使用される物質です。

例えば、リンゴの風味などのフルーツ系フレーバーにグリーン香を与えたり、バターなど乳製品や、ラム系フレーバーに用いるフレッシュ感を与えたりするなどの効果があります。

ヘキサナールの原理

ヘキサナールの原理を合成と化学的性質の観点から解説します。

1. ヘキサナールの合成

ヘキサナールの合成

図2. ヘキサナールの合成

ヘキサナールは、生物中では脂肪酸の酸化により生成される物質です。例えば、大豆中ではリノール酸がリポキシゲナーゼによってリノール酸13-ヒドロペルオキシドに変換され、更にヒドロペルオキシドリアーゼによって変換されることで、最終的にヘキサナールが生成します。

工業的には、1-ペンテンをヒドロホルミル化する反応により、ヘキサナールを得ることができます。

2. ヘキサナールの化学的性質

ヘキサナールの化学反応

図3. ヘキサナールの化学反応

ヘキサナールは、僅かでも酸が共存すると容易に酸化・重合します。これは、ホルミル基 (-CHO) の性質に由来するものです。前述の大豆においては、アルデヒドデヒドロゲナーゼにより、カプロン酸へと酸化されることが知られています。また、合成化学の観点では、Wittig反応やアルドール反応にも使用可能です。

このように、ヘキサナールに含まれているホルミル基は反応性が高い官能基ですが、一方でヘキサナールは法規制に従った保管及び取扱においては安定と考えられています。

3. 実社会におけるヘキサナール

ヘキサナールは調理中の脂質過酸化反応により、食品でも生成される可能性がある物質です。インスタントラーメンやコーヒー用ミルクなどの劣化臭成分からヘキサナールが検出されています。その他に、リンゴジュースやオレンジジュースなどのジュース類や、オリーブオイルなどでも生じることがあります。

引火点が32℃と低く、極めて燃え易い性質です。そのため、熱、火花、裸火、高温のもののような着火源からは遠ざける必要があります。尚、労働安全衛生法では、「危険物・引火性の物」に指定され、消防法では「第4類引火性液体、第二石油類非水溶性液体」に指定されるなど、各種法令による規制を受けています。

ヘキサナールの種類

現在市場に流通しているヘキサナールには、産業用の製品や、研究開発用試薬などの種類があります。産業用の製品は、主に工場における有機合成原料・香料原料などの用途を想定して販売されています。荷姿はドラムや石油缶など、工場でのニーズに合わせた大型容量が中心です。

研究開発用試薬は、2mL , 25mL , 100mL , 250mL , 1Lなど、実験室等で扱いやすい容量の種類で販売されています。室温で保管・輸送が可能な試薬として販売されている場合と、冷蔵保管試薬として販売されている場合とがあります。前述の通り、引火性が高いことから注意が必要です。

参考文献
https://anzeninfo.mhlw.go.jp/anzen/gmsds/66-25-1.html

フロログルシノール

フロログルシノールとは

フロログルシノールとは、化学式C6H6O3の天然に存在する有機化合物の1つです。

フロログルシノール類は、細菌や植物によって生合成され、さまざまな植物内の成分中に配糖体として存在します。アシル誘導体はオシダ属のドリオプテリス・アルグタ  (英: Dryopteris arguta) の葉状体に含まれます。

褐藻類からフロログルシノール類が単離でき、タンニンの1種であるフロロタンニン (英: Phlorotannin) を合成可能です。また、フロレチンヒドロラーゼによるフェノン誘導体の加水分解でも得られます。

化学式 C6H6O3
英語名 Phloroglucinol
分子量 126.11
融点 216 ~ 219℃

フロログルシノールの使用用途

多官能性であるフロログルシノールは、有機合成の中間体として有用です。主に医薬品や爆薬の合成原料などに使用されます。

例えば、フロプロピオンの合成原料に利用されます。ジアゾ染料と結合して速やかに黒色になるため、印刷のカップリング剤としても使用可能です。リグニンと呈色反応を示し、分析試薬に用いられます。ペントースなどの検出や定量 (トレンス反応) にも有用で、フロログルシノール反応と呼ばれています。

フロログルシノールの性質

フロログルシノールの反応

図1. フロログルシノールの反応

フロログルシノールの分子量は126.11で、融点は216〜219°Cです。常圧でのフロログルシノール2水和物の融点は116〜117°Cです。フロログルシノールは昇華性を有します。弱い三塩基酸で、最初の2つのpKaは8.5と8.9です。

ヒドロキシルアミンと反応して、オキシムを形成します。フロログルシノールはエノールのように、ケト互変異性体と平衡状態で存在しているためです。

フロログルシノールはベンゼントリオールのようにも振る舞い、3つのヒドロキシル基がメチル化されると、1,3,5-トリメトキシベンゼンが得られます。

フロログルシノールの構造

フロログルシノールの構造

図2. フロログルシノールの構造

フロログルシノールは1,3,5-ベンゼントリオールとも呼ばれます。ベンゼン環に3個のヒドロキシ基が置換したポリフェノールであり、ベンゼントリオール (英: benzenetriols) またはトリヒドロキシベンゼン (英: trihydroxybenzenes) の1種です。

フロログルシノールは、pHに依存した化学平衡の関係にあります。フェノール型の1,3,5-トリヒドロキシベンゼンとケトン型の1,3,5-シクロヘキサトリオンの2種の互変異性体が存在します。分光学的に中性化合物のケト互変異性体は検出できません。ただし、脱プロトン化した場合には、ケト互変異性体が優勢です。

フロログルシノールのその他情報

1. フロログルシノールの合成法

フロログルシノールの合成

図3. フロログルシノールの合成

有機合成では、1,3,5-トリニトロベンゼンの還元によりトリアミノベンゼンが生じ、得られた塩酸塩を水と煮沸して加水分解すると得られます。通常のアニリン誘導体は水酸化物イオンに不活性ですが、トリアミノベンゼンが互変異性によりイミン体になるため、加水分解を起こしやすいです。

2. フロログルシノールの反応

フロログルシノールのヘッシュ反応 (英: Hoesch reaction) によって、1-(2,4,6-トリヒドロキシフェニル)エタノンを合成可能です。塩化亜鉛触媒の存在下で、フロログルシノールとイソバレロイルニトリルが反応すると、レプトスペルモンが生成します。

低温のアンモニア水とフロログルシノールは容易に反応して、5-アミノレゾルシノール (フロラミン) を合成可能です。フロログルシノールとフロレチン酸の反応では、フロレチンが30%の収率で得られます。

3. フロログルシノールの異性体

ヒドロキシ基の位置によって異性体が3種類存在します。1,2,4-ベンゼントリオールと1,2,3-ベンゼントリオールです。1,2,4-ベンゼントリオールはヒドロキシキノール、1,2,3-ベンゼントリオールはピロガロールとも呼ばれています。

参考文献
https://labchem-wako.fujifilm.com/sds/W01W0232-5650JGHEJP.pdf

フルオロ酢酸

フルオロ酢酸とは

フルオロ酢酸の基本情報

図1. フルオロ酢酸の基本情報

フルオロ酢酸 (Fluoroacetic acid) とは、化学式C2H3FO2で表される有機化合物であり、カルボン酸の一種です。

酢酸のメチル基上の水素原子が一つフッ素原子に置き換わった構造をしています。IUPAC命名法による名称は、モノフルオロ酢酸です。CAS登録番号は、144-49-0です。

分子量は78.04、融点は35.2℃、沸点は165℃であり、常温では無色無臭の固体です。結晶は針状の形状をしています。密度は1.37g/cm3、酸性度の指標となるpKaは2.586です。水及びエタノールなどに溶解します。

毒性が高いため、「毒物および劇物取締法」において特定毒物に指定されており、許可なく所持することが禁じられています。その他には、消防法で「貯蔵等の届出を要する物質」に指定されており、道路法や航空法においても規制を受ける物質です。

フルオロ酢酸の使用用途

フルオロ酢酸は非常に高い毒性を持つため、殺虫剤や殺鼠剤に使用されている化合物です。人体にも極めて有害で、全身のけいれんを引き起こしたり、心臓に障害を起こしたりします。致死量は2~5mg/kgと言われています。

また、関連する物質では、モノフルオロ酢酸ナトリウムが殺鼠剤に、モノフルオロ酢酸アミドが殺虫剤に使われます。

フルオロ酢酸の原理

フルオロ酢酸の原理を合成方法と毒性などの観点から解説します。

1. フルオロ酢酸の合成方法

フルオロ酢酸の合成

図2. フルオロ酢酸の合成

ヨード酢酸メチルをフッ化銅またはフッ化水銀と加熱する、またはクロロ酢酸メチルをフッ化カリウムと加熱するなどの方法によって、フルオロ酢酸のエステルを得ることができます。フルオロ酢酸は、これらのエステルを加水分解することによって合成・製造が可能です。

また、フルオロ酢酸は自然界の中では植物の中から見つかっている物質です。南アフリカなどに生息する植物「ジフブラール」をはじめとして、南半球を中心に、モノフルオロ酢酸塩 (カリウム塩) を含む有毒植物があることが知られています。

2. フルオロ酢酸の生体毒性

フルオロ酢酸の生体毒性

図3. フルオロ酢酸の生体毒性

フルオロ酢酸は酢酸の水素原子が一つ置換されただけの化合物ですが、毒性が大幅に高くなっています。これは、フッ素原子の原子半径が小さいため、酢酸と間違えられて酸素呼吸に代謝経路に取り込まれてしまうことが原因です。

好気性代謝経路においてフルオロ酢酸がフルオロクエン酸に代謝され、クエン酸回路に取り込まれます。クエン酸回路は、細胞のエネルギー生産手段であるため、フルオロクエン酸による阻害を受け、細胞死へ至ります。クエン酸回路を代謝経路に持つ生物ならば、動物・植物を問わずあらゆる生物に対して有害です。人体での致死量は2~5mg/kgとされます。

似た名称のものに、トリフルオロ酢酸がありますが、こちらは毒性も低く、実験室等で強酸として汎用される物質です。トリフルオロ酢酸とフルオロ酢酸 (モノフルオロ酢酸) を混同しないように注意が必要です。

3. フルオロ酢酸の化学的性質

フルオロ酢酸は、加熱により分解すると、フッ化物などの非常に有毒な蒸気などを生じます。また、多くの化学物質と反応し、有毒で引火性のガスを生じる化合物です。強酸化剤、塩基との混触は危険性があるため、避けるべきとされます。

フルオロ酢酸の種類

フルオロ酢酸は、毒性が非常に高いため、滅多に使用されることはありません。また、毒物及び劇物取締法 (毒劇法) により、特定毒物に指定される物質であることから、取り扱いも厳しく制限されています。そのため、一般にはほとんど流通していません。

関連する物質としては、フルオロ酢酸の塩であるモノフルオロ酢酸ナトリウムが研究開発用の試薬として販売されています。1g , 25gなどの容量がありますが、こちらも特定毒物であることから、法規制のかかる化合物です。

尚、酢酸のメチル基の水素がすべてフッ素に置換されたトリフルオロ酢酸は、強酸として汎用されるため、研究開発用試薬・HPLC用など、様々な製品があります。名称が酷似していますが、フルオロ酢酸 (モノフルオロ酢酸) の方が毒性が非常に高いため、混同しないように注意が必要です。

参考文献
https://anzeninfo.mhlw.go.jp/anzen/gmsds/144-49-0.html

フラネオール

フラネオールとは

フラネオール (英: Furaneol) とは、白色~黄色の結晶または粉末です。

フラネオールという名称は、フィルメニッヒ社の商標であり、IUPAC名は、4-ヒドロキシ-2,5-ジメチル-3-フラノン (英: 4-hydroxy-2,5-dimethylfuran-3-one) と言います。また、別名として、2,5-ジメチル-4-ヒドロキシ-3(2H)-フラノン (英: 4-Hydroxy-2,5-dimethyl-3(2H)-furanone) 、ストロベリーフラノン (英: Strawberry furanone) 、英語の別名としてAlletone、Pineapple ketone、Dimethylhydroxy furanoneとも呼ばれます。

化学式C6H8O3で表され、分子量128.13の有機化合物です。CAS登録番号は3658-77-3です。

フラネオールの使用用途

ストロベリーフラノンの別名の通り、イチゴのような香りを持つ化合物です。産業的には、イチゴなどの香りの食品用香料や香水原料として使われています。

高濃度では悪臭となるため希釈して使用され、0.01%の濃度では、甘く少し焦げたキャラメル、綿菓子のような香ばしい香りです。香りの閾値はとても低く、水1 kg中に0.00004 mgもしくは0.00001〜0.000005 mgの含有でも香りが感じられます。0.10〜1.00 ppmの濃度で、甘いキャラメルやフルーティな味がします。

天然でも、イチゴやパイナップルなど多くの果物に含まれており、ソバやトマトの香り成分としても重要な成分です。

フラネオールの性質

融点は77-79 °C、沸点は216 ℃、常温で固体です。エタノールに溶け、水やクロロホルム、メタノールにはわずかに溶けます。

酸解離定数 (pKa) は8.56です。酸解離定数とは、酸の強さを定量的に表すための指標の1つです。pKa が小さいほど強い酸であることを示します。

フラネオールの種類

フラネオールには、(R)-(+)-フラネオールと(S)-(-)-フラネオールという2つのエナンチオマーがあります。なお、イチゴの香りは、(R)-体に起因します。

フラネオールのその他情報

1. フラネオールの製造法

グルコースの脱水による生成物の1つです。スクロースの脱水により得られるグルコシドから生合成されます。

工業的には、アセトアルデヒドのエチニル化によって2,5-ヘキシンジオールを合成します。次に、2,5-ヘキシンジオールとオゾンを反応させ、還元的処理によりヘキサン-2,5-ジオール-3,4-ジオンへと変換します。

その後、酸性触媒の存在下で環化することでフラネオールを合成することが可能です。もしくは、ラムノースから多段階のバイオプロセスで製造されます。

2. 取り扱い及び保管上の注意

取り扱う場合
混触危険物質である酸化剤との接触は避けます。取り扱いは換気のよい場所、または局所排気がある場所で使用することが大切です。

使用の際には、適切な保護具を着用します。粉塵が飛散しないように注意が必要です。

火災の場合
フラネオールは、液体状態では可燃性です。分解して二酸化炭素や一酸化炭素を発生する恐れがあります。消火には水噴霧や泡消火剤、粉末消火剤、炭酸ガスなどを使用します。

皮膚に付着した場合
皮膚に付着しないよう注意します。使用時は必ず白衣や作業着などの保護衣や保護手袋の着用が必要です。保護衣の袖は決して捲らず、皮膚が暴露しないようにします。

万が一皮膚に付着した場合は、水で洗い流します。衣類に付着した場合は、汚染された衣類をすべて脱いで隔離します。皮膚刺激または発疹が生じた場合は、医師の診断と手当てを受けなければなりません。

眼に入った場合
使用時は必ず保護メガネまたはゴーグルを着用します。万が一眼に入った場合は、水で数分間注意深く洗います。コンタクトを着用している場合で簡単に外せるときは外し、しっかり洗浄します。眼の刺激が続く場合は、医師の診断と手当てを受けなければなりません。

保管する場合
保管する際は、窒素ガスやアルゴンガスなどの不活性ガスを充填し、容器を密栓して冷蔵庫 (2〜8℃) で保管します。直射日光を避け、換気がよく、なるべく涼しい場所に保管します。また、酸化剤などの混触危険物質から離すこともポイントです。

参考文献
https://www.sigmaaldrich.com/JP/ja/sds/aldrich/40703
https://pubchem.ncbi.nlm.nih.gov/compound/Furaneol

フェネチルアミン

フェネチルアミンとは

フェネチルアミン (2-フェニルエチルアミン) と1-フェニルエチルアミン

図1. フェネチルアミン (2-フェニルエチルアミン) と1-フェニルエチルアミン

フェネチルアミン (Phenethylamine) とは、示性式C6H5(CH2)2NH2、化学式C8H11Nで表される有機化合物です。

アルカロイドに属すモノアミンの一種です。IUPAC命名則による名称は、2-フェニルエチルアミン (2-phenylethanamine) で、それ以外の名称には、β-フェニルエチルアミン、2-フェネチルアミンなどがあります。

CAS登録番号は64-04-0です。名称が酷似していますが、1-フェニルエチルアミン (別名α-フェニルエチルアミン、CAS登録番号 98-84-0) とは別の化合物であるため注意が必要です。

消防法では、「第4類引火性液体」「第三石油類非水溶性液体」に指定されています。

フェネチルアミンの使用用途

フェネチルアミンの主な使用用途は香料です。食品添加物として登録されています。様々な加工食品において香りの再現、風味の向上等の目的で添加されており、 欧米での使用例では、特に焼き菓子、ゼラチン・プリン類、肉製品、ソフト・キャンディー類、冷凍乳製品、清涼飲料等の加工食品です。

また、フェネチルアミンは、ヒトの脳において神経修飾物質や神経伝達物質として機能するとされます。モノアミン神経伝達物質と構造が類似するため、誘導体である置換フェネチルアミン類の多くは、薬理活性を持つことが知られています。

このため、フェネチルアミンの誘導体群は医薬品・薬物として用いられたり、医薬品の中間体原料として使用されたりしています。薬理活性のあるフェネチルアミンの誘導体として、医薬品では食欲低下薬 、気管支拡張薬、抗うつ薬など、違法薬物では覚醒剤、幻覚剤、エンパソーゲン・エンタコーゲンなどが挙げられます。

フェネチルアミンの特徴

フェネチルアミンの基本情報

図2. フェネチルアミンの基本情報

フェネチルアミンは、分子量121.18、融点-60℃、沸点198℃であり、常温では無色から黄褐色の澄明の液体です。魚臭様臭気を呈し、pHは11.5 (4.3 g/L , 20℃)、 密度は0.962g/mL (20℃) です。

エタノールジエチルエーテル、及びアセトンに極めて溶けやすく、水にも溶解します。引火点は90℃ (タグ密閉式)であり、引火性の高い液体および蒸気として扱う必要があります。

また、空気にさらすと二酸化炭素 (CO2) と反応して、炭酸塩を形成することが知られています。

フェネチルアミンの種類

フェネチルアミンは、一般的には研究開発用/試験研究用の試薬製品として販売されています。容量の種類には25mL , 50mL , 100mL , 500mLなどがあります。安定な化合物のため、室温保管可能な試薬製品です。

前述の通り、消防法で規制を受ける物質であり、法令を遵守した取り扱いが必要とされます。また、塩酸塩は固体であることから、扱いやすさの上で塩酸塩が使用される場合もあります。こちらも試薬製品として一般的に販売されている薬品です。

フェネチルアミンのその他情報

フェネチルアミンの誘導体

フェネチルアミンの誘導体

図3. フェネチルアミンの誘導体

フェネチルアミン誘導体として、フェニル基、側鎖、アミノ基に化学的修飾を受けた様々な化合物が知られています。例えば、間接型アドレナリン受容体刺激作用のある薬物 (アメリカなどでは臨床適用がありますが、日本ではありません) であるアンフェタミンは、側鎖上にアミノ基に隣接する α-メチル基を有する誘導体です。

日本で薬物乱用に広く使用されているメタンフェタミンはアンフェタミンの窒素原子上にメチル基が置換した構造の誘導体です。フェニル基の3位と4位にヒドロキシ基を持つフェネチルアミン誘導体はカテコールアミンとして分類されており、経伝達物質のレボドパ、ドーパミン、ノルアドレナリン、アドレナリンなどが該当します。

また、芳香族アミノ酸のフェニルアラニンチロシンは、α位にカルボキシル基を有するフェネチルアミン誘導体でもあります。

参考文献
https://anzeninfo.mhlw.go.jp/anzen/gmsds/64-04-0.html

フェニルボロン酸

フェニルボロン酸とは

フェニルボロン酸の基本情報

図1. フェニルボロン酸の基本情報

フェニルボロン酸 (Phenylboronic acid) とは、有機ホウ素化合物の一種です。

分子式C6H7BO2で表され、ホウ素原子に2つのヒドロキシ基と1つのフェニル基が結合した構造をしています。フェニル基 (C6H5-) をPhと略して PhB(OH)2と書かれることもあります。フェニルホウ酸、ベンゼンホウ酸などの別名があり、CAS登録番号は98-80-6です。

分子量121.93、融点は216°Cであり、常温では白色または黄色の、無臭の結晶または粉末です。極性のある有機溶媒に溶けやすいことが特徴です。一方でヘキサンや四塩化炭素などの無極性溶媒にはほとんど溶けません。フェニルボロン酸は弱いルイス酸であり、酸解離定数pKaは8.83です。

PRTR法では、第1種指定化学物質に指定されています。また、光によって変質する恐れや水質を汚染するおそれがあるため、保管や廃棄には注意が必要です。

フェニルボロン酸の使用用途

フェニルボロン酸は、弱いルイス酸としての性質や反応性を生かして種々の有機合成に利用されています。代表的な反応の例として、鈴木・宮浦カップリング反応によるビアリール化合物の合成や、パラジウム触媒による直接的アリール化などがあります。

その他にも反応性を生かして、炭化水素のセンサーやレセプター、全ポリマー型太陽電池のためのN型ポリマーなどにも利用される化合物です。医療分野での用途は、抗生物質や酵素阻害剤、中性子捕捉療法などが挙げられます。

生化学・ケミカルバイオロジー分野では、膜透過輸送や生体共役反応、タンパク質のラベリングなど生体反応にも用いることが可能な物質です。

フェニルボロン酸の特徴

フェニルボロン酸のホウ素原子は、sp2混成しているため空のp軌道を持ち、分子構造はC2vの分子対称性を持つ平面分子です。この平面形の分子は2分子単位でC-B結合を挟んでわずかに曲がって水素結合しており、2つのPhB (OH) 2分子の平面がなす角度はそれぞれ6.6°と21.4°です。

この2量体の単位が相互に水素結合を形成することで、直方晶系の分子結晶を形成します。

フェニルボロン酸の種類

フェニルボロン酸は、主に研究開発用試薬として販売されています。容量の種類には、1g , 10g , 25g , 50g , 100g , 500 gなどがあり、室温で保管可能な試薬製品です。

また、不純物としてフェニルボロン酸無水物が含まれる場合があります。

フェニルボロン酸のその他情報

1. フェニルボロン酸の合成方法

フェニルボロン酸の合成方法の例 (グリニャール試薬によるホウ酸エステルの形成とその加水分解)

図2. フェニルボロン酸の合成方法の例 (グリニャール試薬によるホウ酸エステルの形成とその加水分解)

フェニルボロン酸の合成方法は多くの方法があります。代表的なものをいかに列挙します。

  • 臭化フェニルマグネシウム (グリニャール試薬) とホウ酸トリメチルを反応させてエステル (PhB(OMe)2) を合成し、加水分解する方法
  • 求電子剤のホウ酸塩をハロゲン化フェニルまたはオルトメタル化によって合成したフェニル-金属中間体に捕捉させる方法
  • フェニルシランやフェニルスタンナンをBBr3とトランスメタル化反応させ、生成物の加水分解によってフェニルホウ酸を得る方法
  • ハロゲン化アリールやトリフルオロメタンスルホナートに対して、遷移金属触媒を作用させることでジボロニル試薬と結合させる方法
  • 遷移金属触媒を用いた芳香族のC-H活性化によって合成する方法

2. フェニルボロン酸の化学反応

フェニルボロン酸の化学反応の例

図3. フェニルボロン酸の化学反応の例

フェニルボロン酸は脱水反応によって三量体無水物であるボロキシンを生成します。この脱水反応は熱的に進行し、場合によっては乾燥剤が添加されます。

また、クロスカップリング反応の反応剤として有用な化合物です。代表例は、鈴木・宮浦カップリングであり、この反応ではパラジウム触媒と塩基の存在下において、ハロゲン化アリールとフェニルボロン酸を反応させてビアリールを合成することが可能です。

α-アミノ酸はα-ケト酸、アミン、フェニルボロン酸を反応させることにより、触媒を使用せずとも合成が可能です。また、ヘック反応でフェニルボロン酸とアルケンもしくはアルキンを使う反応も報告があります。

参考文献
https://labchem-wako.fujifilm.com/sds/W01W0116-2322JGHEJP.pdf

フェニルアセトアルデヒド

フェニルアセトアルデヒドとは

フェニルアセトアルデヒド (英: Phenylacetaldehyde) とは、フェニル置換基を持つアセトアルデヒドです。

IUPAC名は、2-フェニルアセトアルデヒド (英: 2-Phenylacetaldehyde) です。別名として、フェニルエテナール (英: Phenylethanal) やベンゼンアセトアルデヒド (英: Benzeneacetaldehyde) 、α-トリルアルデヒド (英: α-Tolyaldehyde) 、Hyacinthinと呼ばれます。

フェニルアセトアルデヒドは、アミノ酸のフェニルアラニンから生合成的に得られるため、自然界に広く存在する化合物です。チョウやハチ、甲虫類など多くの種類の昆虫は、このフェニルアセトアルデヒドを交信物質として利用しています。

フェニルアセトアルデヒドの使用用途

1. 香料

フェニルアセトアルデヒドは、主に花、果実などの調合香料として使用されています。単体では蜂蜜のような、甘いバラの香り、みずみずしい草の香りなどと表現されます。

このような香りを活かして、ヒヤシンスやスイセン、バラ、ナルシサス、アカシア、シクラメンなどのフレグランス、またはラズベリー、アンズ、サクランボ、スパイスなどのフレーバーを付加するために、他の香料に対して添加されてきました。また、タバコの香りを増すためにも有用です。

2. ポリマー合成添加剤

フェニルアセトアルデヒドは、重合中の反応速度を制御するために、ポリエステル合成系に添加されます。

フェニルアセトアルデヒドの性質

化学式はC8H8Oで表され、分子量は120.15です。CAS番号は122-78-1、化審法番号は3-2656で登録されています。融点は-10°C、沸点は195℃、引火点は68℃で、25°Cで密度1.027g/mlの無色〜淡黄色の液体です。ライラックやヒヤシンス様の甘い香りを持ちます。水へは、2.210g/Lとあまり溶けません。

フェニルアルデヒドは反応性の高い化合物です。少しの熱や光などの刺激を受け、重合により2,4,6-トリベンジル-1,3,5-トリオキサン (英: 2,4,6-tribenzyl-1,3,5-trioxane) などを生じたり、アルドール縮合により二量体を生じます。

フェニルアセトアルデヒドは、調理した松茸の主要な香気活性化合物として同定されました。体内では、加水分解後に酸化されフェニル酢酸を生成し、主に尿中に排泄されます。

フェニルアセトアルデヒドのその他情報

1. フェニルアセトアルデヒドの製造法

フェニルアセトアルデヒドは、主にスチレンオキシドの異性化により得られます。その他の方法として、以下が挙げられます。

  • 銀または金触媒を用いた2-フェニルエタノールの脱水素反応
  • ベンズアルデヒドとクロロ酢酸エステルのダルツェンス縮合反応 (英: Darzens Condensation)
  • スチレンのワッカー酸化 (英: Wacker Oxidation)
  • シンナムアミド ( (2E) -3-フェニルアクリルアミド) のホフマン転位 (英: Hofmann Rearrangement)
  • 硫酸水銀 (II) によるシクロオクタテトラエン (C8H8) の酸化
  • フェニルアラニンのストレッカー分解 (英: Strecker Degradation)

2. 法規情報

フェニルアセトアルデヒドは、以下の国内法令に指定されています。

  • 消防法
    第4類 引火性液体、第三石油類、危険等級III、非水溶性液体
  • 安衛法 (第57条)
    名称等を表示すべき有害物
  • 安衛法 (第57条の2)
    名称等を通知すべき有害物 政令番号 (478 Diethyl Phthalate)
  • 化管法 (PRTR法)
    第一種指定化学物質 (2023年4月1日以降、化管法第2種指定化学物質)

3. 取り扱い及び保管上の注意

取り扱い時の対策
フェニルアセトアルデヒドは可燃性のため、熱や高温のもの、火花、裸火、他の着火源から遠ざけます。また、使用中には飲食や喫煙を避けてください。酸化剤は混触危険物質なので、接触を避けます。

取り扱う際は、保護手袋と長袖の保護衣、ゴーグルなどの側面付きの保護メガネを着用します。必要に応じて、粉塵マスクや保護面を使用してください。使用後は、よく皮膚を洗います。

火災の場合
熱分解で、二酸化炭素や一酸化炭素などの刺激性で有毒な蒸気を放出するおそれがあります。消火の際は、粉末消火器、泡、水噴霧、二酸化炭素を使用してください。棒状放水は行わないでください。

保管する場合
保管の際は、不活性ガスを充填させた容器に密閉し、冷蔵庫内 (0〜10°C) に保管してください。保管場所は施錠します。

参考文献
https://www.sigmaaldrich.com/JP/ja/sds/aldrich/107395
https://pubchem.ncbi.nlm.nih.gov/compound/Phenylacetaldehyde

フェニルアセチレン

フェニルアセチレンとは

フェニルアセチレンの基本情報

図1. フェニルアセチレンの基本情報

フェニルアセチレン (Phenylacetylene) とは、分子式C8H6で表される有機化合物の一種です。

フェニル基とアルキンが結合した構造をしています。別名には、エチニルベンゼン (Ethynylbenzene) 、フェニルアセチリド (Phenylacetylide) 、フェニルエチン (Phenylethyne) 、1-フェニルエチン (1-Phenylethyne) などがあります。CAS登録番号は、536-74-3です。

分子量102.133、融点-44.8℃、沸点143℃であり、常温では無色または淡黄色の、透明な粘性の高い液体です。エタノール及びアセトンジエチルエーテルには極めて溶けやすいですが、水にはほとんど溶けません。密度は 0.93 g/cm3です。引火性があることから、消防法において、危険物第四類 第二石油類 危険等級Ⅲに指定されています。

フェニルアセチレンの使用用途

フェニルアセチレンは、主に有機合成原料として使用されます。代表的な反応の例として、重合反応によるポリフェニルアセチレンの生成があります。この反応は、RhおよびPt複合体や、タングステンを触媒として、進行する反応です。

トリメチルアルミニウム存在下において、ニトロンをアルキニルヒドロキシルアミンへ変換する反応などにも用いられます。また、研究ではアセチレンのアナログとしてしばしば用いられています。

これは、気体であるアセチレンに比べて、液体のフェニルアセチレンの方が扱いやすいことが理由です。有機反応化学的研究の例としては、パラジウム触媒存在下におけるフェニルアセチレンの酸化的カルボニル化反応の報告などを挙げることができます。

フェニルアセチレンの性質

1. フェニルアセチレンの合成

フェニルアセチレンの合成

図2. フェニルアセチレンの合成

フェニルアセチレンは、β‐ブロモスチレンを溶融水酸化カリウムを用いて臭化水素を脱離させたり、二臭化スチレンに対してアンモニア中でナトリウムアミドを塩基として用いて臭化水素を脱離させたりする反応により合成が可能です。

2. フェニルアセチレンの化学反応

フェニルアセチレンの化学反応

図3. フェニルアセチレンの化学反応

フェニルアセチレンは、リンドラー触媒 (炭酸カルシウムに担持させたパラジウム触媒) によって部分水素化することができます。この反応によってスチレンを得ることができます。また、臭化コバルト (II) を用いてフェニルアセチレンを環化三量化させると 1,2,4-トリフェニルベンゼン (97%) と 1,3,5-トリフェニルベンゼンを生成可能です。

アセチレンと同様に、フェニルアセチレンも、アンモニア性銅塩および銀塩溶液と反応して爆発性の金属塩を生成します。

3. フェニルアセチレンの安全管理上の情報

フェニルアセチレンは、光によって変質する可能性があります。また、引火点が31℃と低いため、高温、直射日光、熱、火花、静電気を避けて保管することが必要です。強酸化剤との混触は危険とされており、有害な分解生成物として一酸化炭素及び二酸化炭素が挙げられます。

これらの性質により、消防法においては「危険物第四類 第二石油類 危険等級Ⅲ」に指定されており、労働安全衛生法では「危険物・引火性の物」に指定されています。危険物船舶運送及び貯蔵規則においては「引火性液体類」、航空法でも「引火性液体」とされています。法令を遵守して適切に使用することが必要です。

フェニルアセチレンの種類

フェニルアセチレンは、主に開発研究用試薬製品として販売されています。

製品には、25g , 25mL , 100mL , 500mLなどの容量の種類があり、実験室で取り扱いやすい容量で提供されています。冷蔵保管が必要な試薬製品です。フェニルアセチレンは引火点が31℃と低く、消防法でも危険物に指定されているため、法令を遵守して取り扱う必要があります。

参考文献
https://www.sigmaaldrich.com/JP/ja/product/aldrich/117706