フェニルボロン酸とは
図1. フェニルボロン酸の基本情報
フェニルボロン酸 (Phenylboronic acid) とは、有機ホウ素化合物の一種です。
分子式C6H7BO2で表され、ホウ素原子に2つのヒドロキシ基と1つのフェニル基が結合した構造をしています。フェニル基 (C6H5-) をPhと略して PhB(OH)2と書かれることもあります。フェニルホウ酸、ベンゼンホウ酸などの別名があり、CAS登録番号は98-80-6です。
分子量121.93、融点は216°Cであり、常温では白色または黄色の、無臭の結晶または粉末です。極性のある有機溶媒に溶けやすいことが特徴です。一方でヘキサンや四塩化炭素などの無極性溶媒にはほとんど溶けません。フェニルボロン酸は弱いルイス酸であり、酸解離定数pKaは8.83です。
PRTR法では、第1種指定化学物質に指定されています。また、光によって変質する恐れや水質を汚染するおそれがあるため、保管や廃棄には注意が必要です。
フェニルボロン酸の使用用途
フェニルボロン酸は、弱いルイス酸としての性質や反応性を生かして種々の有機合成に利用されています。代表的な反応の例として、鈴木・宮浦カップリング反応によるビアリール化合物の合成や、パラジウム触媒による直接的アリール化などがあります。
その他にも反応性を生かして、炭化水素のセンサーやレセプター、全ポリマー型太陽電池のためのN型ポリマーなどにも利用される化合物です。医療分野での用途は、抗生物質や酵素阻害剤、中性子捕捉療法などが挙げられます。
生化学・ケミカルバイオロジー分野では、膜透過輸送や生体共役反応、タンパク質のラベリングなど生体反応にも用いることが可能な物質です。
フェニルボロン酸の特徴
フェニルボロン酸のホウ素原子は、sp2混成しているため空のp軌道を持ち、分子構造はC2vの分子対称性を持つ平面分子です。この平面形の分子は2分子単位でC-B結合を挟んでわずかに曲がって水素結合しており、2つのPhB (OH) 2分子の平面がなす角度はそれぞれ6.6°と21.4°です。
この2量体の単位が相互に水素結合を形成することで、直方晶系の分子結晶を形成します。
フェニルボロン酸の種類
フェニルボロン酸は、主に研究開発用試薬として販売されています。容量の種類には、1g , 10g , 25g , 50g , 100g , 500 gなどがあり、室温で保管可能な試薬製品です。
また、不純物としてフェニルボロン酸無水物が含まれる場合があります。
フェニルボロン酸のその他情報
1. フェニルボロン酸の合成方法
図2. フェニルボロン酸の合成方法の例 (グリニャール試薬によるホウ酸エステルの形成とその加水分解)
フェニルボロン酸の合成方法は多くの方法があります。代表的なものをいかに列挙します。
- 臭化フェニルマグネシウム (グリニャール試薬) とホウ酸トリメチルを反応させてエステル (PhB(OMe)2) を合成し、加水分解する方法
- 求電子剤のホウ酸塩をハロゲン化フェニルまたはオルトメタル化によって合成したフェニル-金属中間体に捕捉させる方法
- フェニルシランやフェニルスタンナンをBBr3とトランスメタル化反応させ、生成物の加水分解によってフェニルホウ酸を得る方法
- ハロゲン化アリールやトリフルオロメタンスルホナートに対して、遷移金属触媒を作用させることでジボロニル試薬と結合させる方法
- 遷移金属触媒を用いた芳香族のC-H活性化によって合成する方法
2. フェニルボロン酸の化学反応
図3. フェニルボロン酸の化学反応の例
フェニルボロン酸は脱水反応によって三量体無水物であるボロキシンを生成します。この脱水反応は熱的に進行し、場合によっては乾燥剤が添加されます。
また、クロスカップリング反応の反応剤として有用な化合物です。代表例は、鈴木・宮浦カップリングであり、この反応ではパラジウム触媒と塩基の存在下において、ハロゲン化アリールとフェニルボロン酸を反応させてビアリールを合成することが可能です。
α-アミノ酸はα-ケト酸、アミン、フェニルボロン酸を反応させることにより、触媒を使用せずとも合成が可能です。また、ヘック反応でフェニルボロン酸とアルケンもしくはアルキンを使う反応も報告があります。
参考文献
https://labchem-wako.fujifilm.com/sds/W01W0116-2322JGHEJP.pdf