塩化白金酸

塩化白金酸とは

ヘキサクロリド白金(IV)酸とテトラクロリド白金(II)酸の化合物

図1. ヘキサクロリド白金(IV)酸とテトラクロリド白金(II)酸の化合物

塩化白金酸とは、クロロ白金酸とも呼ばれる白金錯体の1種です。

酸化数の違いにより、ヘキサクロリド白金(IV)酸 (H2[PtCl6])  とテトラクロリド白金(II)酸 (H2[PtCl4])の2種類が存在しますが、一般にはヘキサクロリド白金酸の方がよく利用されています。

塩化白金酸の使用用途

塩化白金酸の主な用途は、白金化合物合成、触媒の製造の出発物質、分析における白金イオンの供給源、分析試薬などです。塩化白金酸の濃溶液に、グラスウールなどを浸し、焼いて分解させることにより、白金石綿という酸化触媒を得ることができます。白金石綿は、水素や酸素の生成などに使われています。

また、ヘキサクロリド白金酸水溶液に塩化物水溶液を加え、濃縮することでヘキサクロリド白金酸塩が析出します。ヘキサクロリド白金酸塩は、さまざまな場面で使用されています。例えば、ヘキサクロリド白金酸アンモニウムは、白金メッキに使われる物質です。

塩化白金酸の性質

ヘキサクロリド白金(IV)酸六水和物の基本情報

図2. ヘキサクロリド白金(IV)酸六水和物の基本情報

ヘキサクロリド白金(IV)酸は (英: Hexachloroplatinic(IV) acid)  六水和物として取り扱われることの多い物質です。

この六水和物は、分子量517.891、融点60℃であり、常温では赤褐色の固体です。強い潮解性を示し、水に極めてよく溶けます。水溶液は、強酸を示し、また、エタノールジエチルエーテルにも溶けます。密度は2.431g/mLであり、CAS登録番号は16941-12-1です。

塩化白金酸の種類

塩化白金酸は、前述の通り、ヘキサクロリド白金(IV)酸 (H2[PtCl6]) とテトラクロリド白金(II)酸 (H2[PtCl4]) の2種類が存在しますが、主に販売されているのはヘキサクロリド白金(IV)酸であり、テトラクロリド白金(II)酸はカリウム塩などの状態で販売されています。

1. ヘキサクロリド白金(IV)酸

ヘキサクロリド白金(IV)酸は、主に水和物の状態で研究開発用試薬や、貴金属薬品として販売されています。研究開発用試薬製品は、主に六水和物 (H2[PtCl6]・6H2O) として販売されており、1g、5g、25gなどの小容量で提供されています。通常、冷蔵で保管されることの多い試薬製品です。

また、貴金属薬品としては、白金試薬合成用材料や触媒製造、メッキ材料として、n水和物の他、塩酸溶液製品も販売されています。貴金属薬品であることから、工業用薬品としても100gなどの比較的小容量で提供されている物質です。

2. テトラクロリド白金(II)酸

テトラクロリド白金(II)酸は、基本的には一般販売されておらず、ナトリウム塩の水和物 (テトラクロロ白金酸(II)ナトリウム水和物: Na2[PtCl4]・nH2O) や、カリウム塩(テトラクロロ白金(II)酸カリウム: K2[PtCl4]) などとして販売されています。

試薬製品として販売されていることが一般的であり、1g、5g、10gなどの小容量で提供されている物質です。通常、室温で保管可能な試薬製品として取り扱われています。

塩化白金酸のその他情報

塩化白金酸の合成

ヘキサクロリド白金(IV)酸の合成

図3. ヘキサクロリド白金(IV)酸の合成

ヘキサクロリド白金(IV)酸の合成方法の一つは、白金を熱王水に溶かすことです。この方法ではニトロシル (NO+配位子) が生じやすいため、濃塩酸を加え蒸発乾固によって濃縮することを繰り返します。ただし、ニトロシルを完全に除去することは難しいため、次の2つの方法によって合成する方が純粋なヘキサクロリド白金(IV)酸を得やすいとされています。

  • 白金粉末を温めた濃塩酸に懸濁させ、撹拌しながら塩素ガスを通じる
  • 白金粉末を温めた濃塩酸に懸濁させ、過酸化水素水を滴下して発生する塩素により酸化溶解させる

参考文献
https://anzeninfo.mhlw.go.jp/anzen/gmsds/16941-12-1.html

塩化水銀

塩化水銀とは

塩化水銀とは、塩素と水銀から成る無機化合物です。

塩化第一水銀と塩化第二水銀の2種類があります。塩化第一水銀Hg2Cl2は、白色の粉末で王水には可溶ですが、水、エタノールジエチルエーテルには不溶です。甘汞とも呼ばれています。毒物及び劇物取締法の劇物に指定されています。

塩化第二水銀HgCl2は白色の結晶または粉末で無臭です。水、メタノールアセトン、エチル酢酸には可溶ですが、ベンゼン二硫化炭素には、微溶です。昇汞ともいいます。毒物及び劇物取締法の毒物に指定されており、非常に強力な腐食性を持っています。

塩化水銀の使用用途

塩化第一水銀は医薬品、基準電極、試薬として利用されています。塩化第一水銀を使った電極をカロメル電極、甘汞電極といいます。ほかの電極の電位を測定する基準電極として使用されています。

塩化第二水銀の主な用途は医薬品、水銀化合物の原料、試薬、有機合成・塩化ビニルの触媒、マンガン電池の陰極用などです。かつては昇汞水、昇汞錠として消毒剤や防腐剤などに用いられていましたが、猛毒のため現在は使われていません。

塩化水銀の性質

塩化第一水銀は、水にはほとんど溶けません。 (2×10-4g/100ml) さらに、アルコールやエーテルにも溶解しません。また、光の影響を受けることで塩化第二水銀HgCl2 と水銀Hgに分解します。さらに、封管中で加熱されると無色から黄色へ可逆的に変化します。

一方、塩化第二水銀は共有結合性が強く、水溶液はほとんど電離していません。しかし、メタノールやエタノール、アセトンには溶けます。また、ベンゼンにも少し溶けます。

1. 塩化第一水銀の反応

塩化第一水銀は、酸化剤と反応すると塩化酸化水銀 (Ⅱ) HgCl2・HgOを生成します。また、アンモニア水溶液と反応すると、水銀とアミド塩化水銀(Ⅱ) HgCl(NH2)などの黒色混合物が得られます。熱硫酸と反応すると、二酸化硫黄、硫酸水銀、塩化第二水銀HgCl2を生成し、硝酸とはNOx、硝酸水銀を生成します。さらに、塩酸中で、SnCl2やヒドロキシアミンによって水銀に還元されます。

  • 光による分解
      Hg2Cl2 → HgCl2 + Hg

  • 酸化
      2Hg2Cl2 + O2 → 2HgCl2・HgO

  • アンモニアとの反応
      Hg2Cl2 + 2NH3 → Hg + HgCl (NH2) + NH4+ + Cl

2. 塩化第二水銀

塩化第二水銀は、王水などの塩化物イオンを含む溶液中では[HgCl₄]2-を生成します。空気中200℃でHgOを生成し、Fe(Ⅱ)、Sn(Ⅱ)、ギ酸イオンなどで塩化第一水銀 Hg2Cl2 に還元されます。アンモニアと反応すると、アミド塩化水銀(Ⅱ) HgCl(NH₂)、Hg2・2NH3、Hg2NCl・H2Oなどを生成します。ホスフィン PH3と反応すると、P(HgCl)3やHg3P3を生成します。

  • 塩化物イオンとの反応
      HgCl2 + 2Cl → [HgCl₄]2-

  • 酸化
      2Hg2Cl2+O2 → 2Cl2 + 2HgO

  • アンモニアとの反応
      HgCl2+2NH3 → HgCl (NH2)+NH4++Cl

塩化水銀のその他情報

1. 塩化水銀の製造方法

塩化第一水銀は、硝酸水銀(I) Hg2(NO3)2水溶液にNaClか希塩酸を加えると沈澱が生じます。また、Hgと塩酸を反応させることでも合成できます。

  • 硝酸水銀 (I) より
      Hg2(NO3)2 + 2HCl → Hg2Cl2 + 2HNO3

  • 水銀単体より
      2Hg + 2HCl → Hg2Cl2 + H2

一方、塩化第二水銀は、水銀と塩素の直接反応、または硝酸水銀(I) と塩酸を高温下で反応させることによって得られます。また、HgOを硫酸中で加熱しても合成できます。得られた粗製物は、昇華やアルコール抽出によって精製することができます。

  • 硝酸水銀 (I) より
      Hg2(NO3)2 + 4HCl → 2Hg2Cl2 + 2H2O + 2NO2

  • 水銀単体より
      Hg + 2HCl → HgCl2 + H2

2. 塩化水銀の安全性情報

塩化第二水銀は、強い毒性があるため、摂取すると吐き気、腹痛、下痢などの症状を引き起こし、腎臓に障害を与えて衰弱する可能性があります。この物質の致死量は1~2グラムであり、摂取した場合には、解毒剤としてジメチルカプロール(BAL)が使用されます。さらに、反復または長期にわたる接触により、皮膚が感作され、中枢神経系、末梢神経系、腎臓に影響を与え、運動失調、筋力低下、疲労、感覚や記憶障害、腎臓障害などを引き起こす可能性があります。

一方、塩化第一水銀の毒性は塩化第二水銀よりも弱いですが、毒物及び劇物取締法で劇物に指定されています。適切な処理が必要であり、取り扱いには十分な注意が必要です。

参考文献
https://anzeninfo.mhlw.go.jp/anzen/gmsds/10112-91-1.html

塩化リチウム

塩化リチウムとは

塩化リチウム (英: Lithium Chloride) とは、リチウム塩素からなるイオン性化合物塩です。

別名は、クロロリチウム (英: Chlorolithium) やリチウムクロリド、リチウムクロライドなどです。溶液中で塩化物イオンを発生させます。また、リチウムイオンはルイス酸としての作用が期待できます。

塩化リチウムの使用用途

1. リチウム金属原料

塩化リチウムは、リチウム金属を製造するために使用されます。リチウム金属は、塩化リチウムと塩化カリウムの混合物を450℃で融解させて電気分解することにより製造されます。

2. カップリング反応の添加剤

塩化リチウムは、右田・小杉・スティルカップリング (英: Migita-Kosugi-Stille coupling) の添加剤として用いられます。右田・小杉・スティルカップリングとは、パラジウム触媒存在下、有機スズ化合物とハロゲン化物をクロスカップリングさせ、炭素‐炭素結合を形成する反応です。

塩化リチウムを添加すると、スズ‐塩化物イオン結合が形成されトランスメタル化が促進されるため反応速度が加速するとされています。

3. その他

溶融した塩化リチウムは、金属酸化物を溶解することから、アルミはんだの補助剤として、自動車部品の製造に利用されます。

吸湿性を持つことから、空調装置の除湿剤としても利用されています。塩化リチウムは、引火すると赤く燃えることから、花火などの炎色剤の1種です。

塩化リチウムの性質

化学式はLiClで表され、分子量は42.39です。CAS番号は7447-41-8で登録されています。塩化リチウムは融点614°C、沸点は1357°Cで、常温で無色の結晶、密度2.07g/mlの固体です。

吸湿性で、無臭、塩味を持ちます。アルコーやエーテル、アセトンピリジンに可溶です。塩化ナトリウムや塩化カリウムと比べて、メタノールなどの極性の有機溶媒によく溶けます。水へは非常に溶けやすく、25 °Cで100gの水には84.5 g溶けます。水溶液はpH5.0〜7.0と、中性~弱アルカリ性です (50g/L、25℃) 。

塩化リチウムは、塩化物イオンの発生源として、金属塩と混合すると、不溶性の塩化物塩を沈殿させます。

塩化リチウムの種類

塩化リチウムは、数種類の水和物が存在します。他のアルカリ金属とは異なり、一水和物、三水和物、五水和物の水和物を形成します。

塩化リチウムのその他情報

1. 塩化リチウムの製造法

炭酸リチウムまたは水酸化リチウム塩酸を作用させることで、塩化リチウムが得られます。塩化リチウムを含む水溶液は強い腐食性を持つため、反応には特殊なスチール製、またはニッケル製の装置が必要です。

反応後の溶液を濃縮することで、塩化リチウムは結晶化します。その後母液から分離して乾燥させます。無水塩化リチウムは、塩化水素気流中で加熱することによって水和物から調製可能です。

2. 取り扱い及び保管上の注意

取り扱い時の対策
強酸化剤は、塩化リチウムの混触危険物質です。取り扱い時および保管時の接触を避けてください。塩化リチウム水溶液は、強い腐食性を持つため、目や皮膚に接触しないように、慎重に取り扱う必要があります。

取り扱う際は、保護手袋と側板付きの保護メガネ、袖の長い保護衣を着用し、ドラフトチャンバー内で使用してください。使用後は、手をよく洗います。

火災の場合
燃焼により、ハロゲン化物と金属酸化物など、刺激性で有毒なガスと蒸気を放出するおそれがあります。消火には、水噴霧や泡消火剤、粉末消火剤、炭酸ガス、乾燥砂などを用いてください。

皮膚に付着した場合
塩化リチウムは、皮膚腐食性や刺激性を持ちます。皮膚に付いた際は、多量の水と石鹸で優しく洗います。汚染された衣類は脱ぎ、再利用する場合は洗濯します。皮膚に刺激が生じた場合は、医師の手当てを受けてください。

飲み込んだ場合
塩化リチウムは、経口摂取で急性毒性を持ちます。生殖能や胎児への悪影響の恐れや神経系臓器の障害の恐れがあります。飲み込んだ場合は、すぐに口をすすいでください。気分が悪い場合は、医師に連絡します。

保管する場合
ポリエチレン製の容器に密閉し、直射日光を避けた涼しい場所に保管してください。保管場所は施錠します。

参考文献
https://anzeninfo.mhlw.go.jp/anzen/gmsds/7447-41-8.html
https://labchem-wako.fujifilm.com/sds/W01W0112-0116JGHEJP.pdf
https://pubchem.ncbi.nlm.nih.gov/compound/Lithium-Chloride

塩化スズ

塩化スズとは

塩化スズとは、酸化数2の二塩化スズと酸化数4の四塩化スズの2種類が存在するスズの塩化物です。

非常に強い還元剤であり、空気中で酸化されると、酸化スズに変化します。二塩化スズは、無色の結晶で、四塩化スズは、無色の液体です。工業用用途に広く利用される他、スズの製造においても重要な原材料の1つです。

二塩化スズと四塩化スズは、どちらも毒物及び劇物取締法の「劇物」に指定されています。人体に有毒であるため、取扱時は注意が必要です。

塩化スズの使用用途

1. 二塩化スズ

二塩化スズの酸性水溶液は、強力な還元性を有します。この性質を利用して、二塩化スズは、水溶有機化合物の還元剤や反応触媒、分析化学の分野で分析試薬として使用されています。

その他、インク消しや鏡の銀めっき、革なめし剤、染色時の色止めに利用される媒染液の原料など、強い還元性を生かした用途が特徴です。

2. 四塩化スズ

四塩化スズは、工業用用途として、有機スズ化合物の合成原料、媒染剤、縮合剤、反応触媒、伝導性塗料などで用いられています。

塩化スズの性質

1. 二塩化スズ

二塩化スズは、化学式SnCl2で示され、分子量は189.62です。CAS番号は7772-99-8で登録されています。

二塩化スズの融点は246℃、沸点、初留点及び沸騰範囲は623℃、引火点および爆発範囲に関する情報はありません。水への溶解度は900g/kg (20℃) であることから、水に非常によく溶けます。

加熱すると分解し、有害で腐食性のある気体を生じる他、強力な還元剤であり、酸化剤 (硝酸塩、過酸化物、塩基など) と反応するため、取扱時は注意が必要です。

2. 四塩化スズ

四塩化スズは、化学式SnCl4で示され、分子量は260.52です。CAS番号は、7646-78-8で登録されています。

四塩化スズの融点は-33 ℃、沸点は114.1 ℃、自然発火温度は654℃以上で、引火点および爆発範囲に関する情報はありません。

標準的な大気条件においては化学的に安定ですが、アルミニウム、金属、酸化物、空気、湿気と反応します。また、火災時は塩化水素ガス、スズ酸化物などの有毒ガスが発生する場合があるため注意が必要です。

塩化スズのその他情報

1. 塩化スズの製造方法

二塩化スズは、金属スズを塩酸に溶かし、二水和物を形成する方法が用いられます。また、その二水和物を無水酢酸と反応させることにより、無水物の二塩化スズが生成されます。

四塩化スズは、金属スズに直接的に塩素ガスを反応させ、その後、蒸留することで、四塩化スズを生成する手法が、一般的な製造方法です。

2. 塩化スズの安全性

二塩化スズは、呼吸器への刺激の恐れがある他、長期または反復ばく露による肝臓、腎臓、血液系への障害の危険性があります。また、水生生物に対し、非常に強い毒性を持つころから、取扱い時および廃棄時は注意が必要です。

四塩化スズは、重篤な皮膚の薬傷、および眼の損傷の危険性の他、呼吸器系への刺激、吸引すると生命の危険のおそれがあります。また、長期継続的な影響によって水生生物に有害です。

火災時は、棒状放水を避け、水噴霧、泡消火剤、粉末消火剤、炭酸ガス、乾燥砂類での消火を行います。火災により刺激性、腐食性、毒性ガスを発生する危険性があるため、消火時は適切な空気呼吸器、化学用保護衣の着用が必要です。

3. 取扱い方法

二塩化スズ、四塩化スズいずれも共通して、適切な保護手袋、保護衣、保護眼鏡、保護面を着用して作業を行う必要があります。取扱い時は飲食または喫煙を避け、取扱い後は皮膚の洗浄が必要です。

二塩化スズは、局所排気もしくは全体換気設備のある作業場で取扱い、粉塵、蒸気、スプレーを吸引しないよう注意が必要です。四塩化スズは空気および湿気と反応することから、不活性ガス下で取り扱います。また、フィルター式呼吸器保護具の着用が推奨されています。

4. 保管方法

二塩化スズは、換気の良い場所で、容器を密閉、施錠して保管します。四塩化スズは、耐腐食性、耐腐食性内張りのあるものなど、適切な材料容器で保管する必要があります。また、湿気や酸素と反応することから、不活性ガスを封入し、冷乾所での保管が必要です。

参考文献
https://anzeninfo.mhlw.go.jp/anzen/gmsds/7772-99-8.html
https://anzeninfo.mhlw.go.jp/anzen/gmsds/7646-78-8.html

塩化インジウム

塩化インジウムとは

塩化インジウムとは、インジウムの塩化物です。

一般的には塩化インジウム(I) (英: Indium(I) chloride)と塩化インジウム(Ⅲ) (英: Indium(III) chloride) の2種類が存在します。塩化インジウム(I)は組成式InClで表される物質で、CAS登録番号は13465-10-6です。

一塩化インジウムの別名があります。塩化インジウム(Ⅲ)は組成式InCl3で表される物質で、CAS登録番号は10025-82-8です。別名である、三塩化インジウムの名称で呼ばれる場合もあります。一般的には、塩化インジウム(III)の方が、取り扱われたり販売されたりすることが多いです。

塩化インジウムの使用用途

塩素インジウムは、有機合成化学においてルイス酸として用いられたり、放射性医薬品・造血骨髄診断薬として医療の現場で使用されたりしている物質です。例えば、化学・物理学分野では、色素増感太陽光電池の光陽極の作製、シリレノールおよびインドールのマイケル付加反応における触媒などに用いられます。

医薬品としては、塩化インジウム111InClが塩素インジウム(111In)注として発売されています。塩素インジウム(111In)注を静脈内に注射して、骨髄シンチグラムをとることによって、骨髄の造血機能の診断が可能です。塩素インジウム(111In)の作用機序は次の通りです。

まず、111Inが血清中のトランスフェリンと結合し、それから、幼若赤血球に取り込まれて111Inが活性骨髄に集積します。この作用を用いて、造血骨髄の分布や機能、造血骨髄疾患の診断が行われています。

塩化インジウムの性質

1. 塩化インジウム(I)

塩化インジウム(I)の基本情報

図1. 塩化インジウム(I)の基本情報

塩化インジウム(I)は、分子量150.27、融点225℃、沸点608℃であり、常温では暗黄色の粉末です。

2. 塩化インジウム(III)

塩化インジウム(III)の基本情報

図2. 塩化インジウム(III)の基本情報

塩化インジウム(III)は、分子量221.18、融点586℃、沸点655℃であり、常温では白色粉末の固体です。密度は3.46g/mLであり、潮解性を示し、水に溶解します。

塩化インジウムの種類

塩化インジウムは、主に研究開発用試薬製品や、放射線医薬品塩素インジウム (111In) 注として販売されている物質です。

1. 研究開発用試薬製品

研究開発用試薬製品としては、塩化インジウム(I)も塩化インジウム(III)も共に製品化されていますが、どちらかというと塩化インジウム(III)の方が市場流通の多い物質です。

無水物の他、塩化インジウム(III)については、四水和物も市販されています。10g、25g、50g、250gなどの容量で販売されており、実験室で取り扱いやすい容量での提供が一般的です。基本的には室温保管可能な試薬製品ですが、塩化インジウム(III)四水和物は冷蔵保管が必要な試薬製品です。

2. 放射線医薬品

放射線医薬品としては、塩化インジウム(I)の放射性同位体である111InClが製品化されています。剤形は注射液で、骨髄シンチグラムによる造血骨髄の診断などに用いられる薬剤です。

塩化インジウムのその他情報

1. 塩化インジウム(III)の合成

塩化インジウム(III)は、単体のインジウムを塩素と反応させることによって合成が可能です。この反応は直ちに進行する速い反応です。また、塩化インジウム(III)は、メタノール-ベンゼン混合溶媒中、電気化学電池を用いた合成が報告されています。

2. 塩化インジウム(III)の化学反応

塩化インジウム(III)の化学反応

図3. 塩化インジウム(III)の化学反応

塩化インジウム(III)はルイス酸であり、ドナーリガンドと複合体を形成します。また、ジエチルエーテル溶液中で、塩化インジウム(III)は水素化リチウムLiHと反応してLiInH4を形成します。この物質は、in situで還元剤と反応して、第4級アミンや水素化インジウム(InH3)とリンの複合体などを形成する物質です。

ジエチルエーテル中で塩化インジウム(III)をグリニャール試薬 (MeMgI) またはメチルリチウム (LiMe) などと反応させることにより、トリメチルインジウムInMe3が合成できます。また、ルイス酸触媒としての塩化インジウムは、フリーデル・クラフツ反応やディールス・アルダー反応などに用いられる物質です。

参考文献
https://www.sigmaaldrich.com/JP/ja/sds/aldrich/334065

六フッ化硫黄

六フッ化硫黄とは

六フッ化硫黄 (英: sulfur hexafluoride) とは、硫黄の六フッ化物のことです。

不燃性、耐熱性、非腐食性に優れ、高い絶縁性能を持っています。化学的にも非常に安定性が高く、大気中での寿命は約3,200年です。

温室効果ガスの1つで、地球温暖化係数は二酸化炭素の2万倍以上であり、排出抑制対象ガスの一つに指定されています。使用量はあまり多くありませんが、新しい用途開発の進展に伴って、近年需要量が増加しており、大気へ放出される六フッ化硫黄のほとんどは、人為的な理由だと考えられています。

六フッ化硫黄の使用用途

六フッ化硫黄は高い絶縁性能を有する気体で、大気中で非常に安定性が高く、人体に対しても安全性が高いです。そのため、電子機器の絶縁材として幅広く使用されています。具体例として、ガス遮断器、ガス変圧器、ガス絶縁開閉装置のような電力機器などが挙げられます。

また、マグネシウム合金溶解炉の酸化を防止可能です。それに加えて、液晶パネルや半導体製品のドライエッチング工程にも利用可能です。特殊な使用例として、リチウムと組み合わせた魚雷用エンジンの燃料もあります。

さらに眼科領域では、網膜を眼球壁へ押し付けるために使用可能です。具体的には、網膜剥離治療のための硝子体手術後に、六フッ化硫黄を眼内に充満させます。その後、1週間程度うつむき姿勢を取り、網膜を眼球壁に押し付けて、網膜が眼球壁に吸着する力を高めます。

六フッ化硫黄の性質

六フッ化硫黄は、無色、無臭、無毒の気体です。常温常圧では化学的な安定度が高く、不燃性です。融点は-50.8°Cで、昇華点は-63.8°Cです。水に溶けにくいですが、エチルアルコールにはやや溶けます。

六フッ化硫黄を吸い込んで声を出すと、音域が低くなります。空気より重い気体では、音が低くなるためです。

六フッ化硫黄の構造

六フッ化硫黄は硫黄原子1つとフッ素原子6つから構成され、化学式はSF6で示されます。分子量は146.06です。硫黄原子を中心として、フッ素原子は正八面体構造を取っています。

六フッ化硫黄のその他情報

1. 六フッ化硫黄の合成法

六フッ化硫黄はそれぞれの元素の単体であるS8とF2から合成可能です。副生成物として他のフッ化硫黄類も生じます。S2F10は加熱によって不均化し、SF4は水酸化ナトリウム水溶液で洗浄すると分解できるため除去可能です。

原料にSF4を用いて、六フッ化硫黄と構造がよく似たSF5Clを合成できます。SF5Clの酸化力は強く、加水分解によって硫酸になります。

2. 六フッ化硫黄の反応

六フッ化硫黄の反応はあまり知られておらず、溶融した金属ナトリウムとも反応しません。硫黄中心がフッ素で囲まれており、分子全体の極性がほぼないためです。

金属リチウムとは反応し、フッ化リチウムと硫化リチウムが生成します。この反応で生じた熱エネルギーは、魚雷の推進力に利用されています。反応生成物の体積は六フッ化硫黄とリチウムよりも小さく、従来の魚雷のように機外へ生成物を排出する必要もありません。そのため、魚雷の性能の向上に寄与しています。ジシラン (英: disilane) とは激しく反応して、爆発します。

3. フッ化硫黄の特徴

フッ素と硫黄から構成される無機化合物には、異性体を含めて6種類知られています。常温常圧で十フッ化二硫黄のみが液体で、それ以外は気体です。

二フッ化二硫黄は一フッ化硫黄とも呼ばれます。二フッ化二硫黄には2種類の異性体が存在し、S=SF2とF−S−S−Fです。二フッ化硫黄の化学式はSF2ですが、生成が困難であり、気相中で観測されているのみです。

四フッ化硫黄は無色気体の化合物で、化学式はSF4と表されます。十フッ化二硫黄は化学式がS2F10の、揮発性の無色の液体です。十フッ化二硫黄は五フッ化硫黄とも呼ばれます。

参考文献
https://www.info.pmda.go.jp/downfiles/md/PDF/400487/400487_22000BZX00485000_A_01_03.pdf

亜硫酸ナトリウム

亜硫酸ナトリウムとは

亜硫酸ナトリウムとは、化学式がNa2SO3で示される無機化合物です。

水酸化ナトリウム水溶液に二酸化硫黄を反応させて冷却すると、亜硫酸ナトリウムの七水和物が生成します。七水和物を加熱すると、亜硫酸ナトリウムの無水物が生じます。

二酸化硫黄と炭酸ナトリウム水溶液によって生じた亜硫酸水素ナトリウムを、炭酸ナトリウムと反応させても合成可能です。重油燃焼の排煙に含まれる二酸化硫黄を回収し、工業的に生産されています。

亜硫酸ナトリウムの使用用途

亜硫酸ナトリウムは、防腐剤、漂白剤、褐色化防止剤、酸化防止剤として、化粧品や食品などに添加されています。具体的には、ワインに添加すると、亜硫酸ナトリウムが酸化防止剤として働きます。防腐剤として、化粧品のクリームやヘアカラーにも使用可能です。ドライフルーツに亜硫酸ナトリウムを添加すると退色を防げます。

さらに亜硫酸ナトリウムは、食物を漂白可能です。亜硫酸ナトリウムが分解して発生する亜硫酸によって、食物の色素が還元されるためです。漂白剤として、かんぴょうや煮豆などに添加されています。

医薬品ではゲンタマイシン、ドキシサイクリン、メトクロプラミド、プロポフォールなどに使用されています。写真工業では、現像液の酸化を防ぐための保恒剤や定着液をフィルムから洗い流す際に利用可能です。

亜硫酸ナトリウムの性質

亜硫酸ナトリウムの飽和水溶液のpHはおよそ9で、弱アルカリ性を呈します。水溶液の再結晶によって、室温以下で七水和物を晶出可能です。

亜硫酸ナトリウムの七水和物は風解性があります。亜硫酸ナトリウムの溶液が空気に触れると少しずつ酸化して硫酸ナトリウムになり、七水和物の結晶も空気により酸化されて硫酸塩を与えます。無水物は水和物よりも安定で、空気によって酸化されにくいです。

亜硫酸ナトリウムは弱い酸とも反応し、二酸化硫黄が発生します。

亜硫酸ナトリウムの構造

亜硫酸ナトリウムの無水物の分子量は126.043g/molです。七水和物は無色の単斜晶で、密度は1.56g/cm3であり、無水物は六方晶系で、密度は2.63g/cm3です。

X線結晶構造解析によると、亜硫酸ナトリウムの七水和物はピラミッド型のSO32-を有しています。 S-Oの距離は1.50Åで、O-S-Oの角度は約106°です。

亜硫酸ナトリウムのその他情報

1. 亜硫酸ナトリウムの危険性

亜硫酸ナトリウムによる副作用が報告されたのは1970年ごろです。亜硫酸ナトリウムを含有する食品を摂取すると、低血圧、皮膚炎、蕁麻疹、紅潮、下痢、腹痛、アナフィラキシー、喘息などの症状が出る場合があります。とくに喘息によって気管支収縮を誘発し、喘息の人々の3〜10%は呼吸症状の原因になります。1986年にアメリカ食品医薬品局 (FDA) によって、新鮮な食品への添加が禁止され、10ppm以上の濃度では成分表示をする措置を取りました。

亜硫酸ナトリウムを含んだ化粧品、点眼薬、抗真菌薬などを使うと、皮膚反応を起こす可能性があります。接触アレルギーでは、亜硫酸ナトリウムの陽性反応が3.8%の人にあると報告されました。ほとんどの場合には、二亜硫酸ナトリウムにも反応を示します。二亜硫酸ナトリウムはメタ重亜硫酸ナトリウムやピロ亜硫酸ナトリウムとも呼ばれます。

2. 亜硫酸ナトリウムの関連化合物

亜硫酸ナトリウムの製造と同様の原理で、多く二酸化硫黄が反応すると、亜硫酸水素ナトリウムが得られます。亜硫酸水素ナトリウムの化学式はNaHSO3で、分子量は104.06g/molです。固体は単斜晶系で、密度は1.48g/cm3です。空気中で少しずつ酸化して硫酸塩に変わります。

2分子の亜硫酸水素ナトリウムから1分子の水を失った二亜硫酸ナトリウムは、水溶液では亜硫酸塩と同様の性質を示します。実用上、同じ目的で使用可能です。二亜硫酸ナトリウムの化学式はNa2[O2S-SO3]と表されます。

二酸化塩素

二酸化塩素とは

二酸化塩素とは、化学式がClO2で表される無機化合物です。

1811年にハンフリー・デービー (英: Humphry Davy) によって、初めて調製されました。工業的に二酸化塩素は、「塩素酸塩の還元」もしくは「亜塩素酸塩の酸化」により製造されます。ただし常温で二酸化塩素は気体であり、多少の光や熱で分解されるため、長期保存に適していません。

労働安全衛生法で「名称等を通知すべき有害物」に指定されています。

二酸化塩素の使用用途

二酸化塩素は酸化作用を持ち、反応性が高いです。強い酸化力によって、ウイルス除去、除菌、消臭、坑カビなどの作用があります。そのため、紙・パルプの漂白、水道水・プール水の消毒などに使用されます。

また、二酸化塩素は水に溶けやすいです。二酸化塩素を気体のまま用いる以外にも、気体を溶かして水溶液状に加工して使用できます。さらに、タブレット状にして水中に投げ入れて使用でき、必要用量や状況に応じて柔軟な使い分けが可能です。

二酸化塩素の性質

二酸化塩素の融点は-59.5°C、沸点は11°Cです。常温常圧では黄色味がかった気体です。オゾンや塩素に似た刺激臭を持っています。空気よりも重い気体で、濃度によって臭気や色調は違います。固体は橙黄色で、液体は赤褐色です。

光や熱に対して不安定です。20°Cで100mLの水に0.8g溶けます。塩素原子上に不対電子を有するため、反応性が高いです。

二酸化塩素の構造

二酸化塩素は塩素の酸化物です。塩素の酸化数は+4です。化学式はClO2で表されます。モル質量は67.45g/molで、密度は3.04g/cm3です。

塩素原子と酸素原子の距離は147.3pmで、O-Cl-Oの結合角は117.6°です。

二酸化塩素のその他情報

1. 二酸化塩素の合成法

実験室では、塩素を用いて亜塩素酸ナトリウムを酸化すると、二酸化塩素が得られます。消毒用途の二酸化塩素は、亜塩素酸ナトリウムと次亜塩素酸、亜塩素酸ナトリウムと 塩酸、または亜塩素酸塩と硫酸によって生じます。いずれも高い収率で、二酸化塩素を生成可能です。

塩素酸カリウムとシュウ酸の反応によっても、二酸化塩素を合成可能です。世界で生産される二酸化塩素の95%以上は、塩素酸ナトリウムの還元によって作られており、パルプの漂白に使用されています。過酸化水素、メタノール、二酸化硫黄、塩酸のような、適切な還元剤を含んだ強酸溶液中で、効率的に生成可能です。

2. 二酸化塩素による除菌の仕組み

二酸化塩素の酸化作用によって、標的となる細菌やウイルスのタンパク質を変性させます。具体的には、タンパク質を構成しているアミノ酸残基であるチロシンやトリプトファンに反応して、ドーパやN-ホルミルキヌレニンに変換可能です。細菌やウイルスの構造が変化するため、機能の低下に繋がると考えられています。直接カビにも働き、構造を変えて除菌できます。

3. 二酸化塩素の危険性

10kPa以上の分圧で二酸化塩素は、酸素と塩素に爆発的に分解する可能性があります。光、熱、化学反応、圧力などによって、反応が開始します。したがって二酸化塩素は、通常ガスとして取り扱われることはありません。多くの場合には、1Lあたり0.5~10gの濃度の水溶液で取り扱われています。溶解度は低温で増加するため、1Lあたり3g以上の濃度で保管する場合には、一般的に5°Cの冷水を使用します。

4. 二酸化塩素の関連化合物

酸化塩素には二酸化塩素以外にも、一酸化二塩素 (Cl2O) 、四酸化二塩素 (Cl2O4) 、六酸化二塩素 (Cl2O6) 、七酸化二塩素 (Cl2O7) などがあります。ほかにも、ClO2を熱分解して生じるラジカルであるClOや、ClO3の熱分解によって生じる短寿命のラジカルのClO4なども存在します。ClO2を-78°Cで光分解して生じる固体のCl2O3は、O-Cl-ClO2だと考えられています。

参考文献
参照SDS
https://anzeninfo.mhlw.go.jp/anzen/gmsds/0873.html

レブリン酸

レブリン酸とは

レブリン酸の基本情報

図1. レブリン酸の基本情報

レブリン酸とは、化学式がC5H8O3で示され、γ-ケト酸に分類される有機化合物です。

4-オキソペンタン酸 (英: 4-oxopentanoic acid) とも呼ばれます。実験室でレブリン酸は、デンプンと濃塩酸を加熱して生成できます。工業的には、セルロースを無機酸とともに加熱して、レブリン酸を合成可能です。

セルロースの分解によっても生じるため、レブリン酸エチル (英: Ethyl levulinate) などのバイオ燃料の前駆体です。レブリン酸の毒性は比較的小さく、半数致死量 (LD50) は1,850mg/kgです。

レブリン酸の使用用途

レブリン酸は、毛髪の酸熱トリートメントとして使用されています。毛髪にレブリン酸を含むトリートメントを施し、高温アイロンの熱をかけると、毛髪内でレブリン酸が架橋を形成可能です。レブリン酸の架橋によって、毛髪が疎水性になり、毛髪内に余分な水分が入りにくくなります。ハリやコシが出るため、トリートメント効果が得られます。

また、レブリン酸は合成ゴム、プラスチック、ナイロンなどさまざまなポリマーの原料にも利用可能です。さらに、タバコにも使われています。煙中のニコチンを送達し、神経受容体へニコチンを結合させます。光線力学療法では、光感受性物質に使用可能です。

レブリン酸の性質

レブリン酸の融点は33〜35°C、沸点は245〜246°Cです。水、エタノール、エーテルによく溶けますが、ヘキサンには溶けにくいです。

なお、レブリン酸はカルボキシ基を持っているエステルです。示性式はCH3C(O)CH2CH2CO2Hと表されます。分子量は116.11で、密度は1.1447g/cm3です。

レブリン酸のその他情報

1. レブリン酸の歴史

1840年にヨハンネス・ムルデル (英: Johannes Mulder) によって、フルクトースと塩酸を加熱して、初めてレブリン酸が調製されました。

1940年代にでんぷん製造業のA. E. Staleyによって、オートクレーブでのバッチ式プロセスとして、レブリン酸の商業生産が開始しました。1953年にクエーカーオーツカンパニー (英: Quaker Oats Company) も、レブリン酸の生産のための連続プロセスを開発しています。その後、プラットフォーム化学物質として注目されました。

2. レブリン酸の合成法

レブリン酸の合成

図2. レブリン酸の合成

希塩酸や希硫酸中で、グルコースやフルクトースのような六炭糖 (英: Hexose) またはデンプンから、レブリン酸を合成可能です。この反応ではギ酸のほか、不溶性の副生成物が一部生成します。これらの副生成物の色は濃く、完全な除去が技術的に困難です。

レブリン酸の商業生産では強酸を用いて、高圧高温で連続的に反応させます。リグノセルロース  (英: Lignocellulose) は、レブリン酸の安価な出発原料です。リグノセルロースとは、リグニンとセルロースが結合した物質のことです。レブリン酸は抽出により鉱酸触媒から分離され、蒸留で精製されます。

3. 原料としてのレブリン酸

レブリン酸の関連化合物

図3. レブリン酸の関連化合物

レブリン酸は医薬品や可塑剤を代表とする、さまざまな添加剤の前駆体として使用されています。レブリン酸の最大の使用用途は、南アジアで用いられている生分解性除草剤であるアミノレブリン酸 (英: Aminolevulinic acid) の生産です。

化粧品もレブリン酸の重要な使用用途です。レブリン酸の一次誘導体であるレブリン酸エチルは、香料や香水に幅広く使用されています。レブリン酸はγ-バレロラクトン (英: γ-valerolactone) や2-メチルテトラヒドロフラン (英: 2-methyl-THF) など、多種多様な化合物の出発物質や中間体です。

リン酸カリウム

リン酸カリウムとは

リン酸カリウムとは、カリウムのリン酸塩の総称です。

カリウムのリン酸塩には、リン酸二水素カリウム (KH2PO4) 、リン酸水素二カリウム (K2HPO4) 、リン酸三カリウム (K3PO4) があり、これらを総称して「リン酸カリウム」と呼びます。

リン酸カリウムの使用用途

リン酸カリウムは、3種類のどの物質も食品添加物として広く使用されています。食品添加物としての主な使用例は、ソーセージなどの食肉加工品・魚肉練り製品の結着剤やプロセスチーズの乳化剤などが挙げられます。また、リン酸カリウムは、中華めんのかんすいの原料にも使用されている物質です。

また、リン酸二水素カリウムは、醸造工業の培養剤、pH調整剤、合成清酒の味覚調整用、脱鉄剤、醗酵促進剤、醸造用添加剤、緩衝剤、肥料などにも用いられています。これら以外にも工業的に幅広い用途があり、例えばリン酸水素カリウムの50%水溶液製品は、微生物培養基材、加工食品添加剤、石油化学触媒、不凍液配合剤、清缶剤などに用いられている物質です。

リン酸カリウムの性質

1. リン酸三カリウム

リン酸三カリウムの基本情報

図1. リン酸三カリウムの基本情報

リン酸三カリウム(英: Tripotassium phosphate) は、化学式K3PO4で示される無機化合物であり、CAS登録番号は7778-53-2です。リン酸トリカリウムの別名で呼ばれる場合もあります。

分子量212.27、融点は1380℃であり、常温では吸湿性のある白色粉末です。密度は2.564g/mLであり、水溶液はpH11.5から12.5程度のアルカリ性を示します。アルコールには溶解せず、水への溶解度は、90g/100mL (20℃) です。

2. リン酸水素二カリウム

リン酸水素二カリウムの基本情報

図2. リン酸水素二カリウムの基本情報

リン酸水素ニカリウム (英: Dipotassium hydrogenphosphate) は、化学式K2HPO4で示される無機化合物であり、CAS登録番号は7758-11-4です。リン酸二カリウムの別名で呼ばれる場合もあります。分子量174.2、融点は465℃ (分解) であり、常温では潮解性のある無色の結晶です。

密度は2.44g/mL、酸解離定数 pKaは12.35、アルコールに容易に溶解します。水への溶解度は、167g/100mL (20℃) です。また、水溶液は、弱アルカリ性を示します。

3. リン酸二水素カリウム

リン酸二水素カリウムの基本情報

図3. リン酸二水素カリウムの基本情報

リン酸二水素カリウム(英: Potassium dihydrogenphosphate) は、化学式KH2PO4で示される無機化合物であり、CAS登録番号は7778-77-0です。リン酸一カリウムの別名で呼ばれる場合もあります。

分子量136.086、融点は400℃ (分解) であり、常温では吸湿性のある白色結晶性粉末です。密度は2.338g/mL、酸解離定数 pKaは7.20であり、アルコールには溶解しません。水への溶解度は、22g/100mL (25℃) です。

リン酸カリウムの種類

リン酸カリウムは、前述の通りリン酸二水素カリウム 、リン酸水素二カリウム、リン酸三カリウムの3種類があり、どれも一般的に販売されています。研究開発用試薬製品として販売されている他、食品添加物、工業用原料、食品用原料などとして販売されています。

1. 研究開発用試薬製品

研究開発用試薬製品としては、500mg、5g、25g、100g、500g、4kg、25kgなど、実験室で取り扱いやすい小容量からやや大型容量まで幅広く販売されています。なお、試薬製品グレードも様々なものがあるため、用途に合わせて選択することが必要です。

純粋な物質以外では、リン酸水素二カリウムの50%溶液や1.0M溶液、リン酸カリウムの三塩基酸 一水和物なども、販売されています。

2. 産業用製品

リン酸カリウムは、3種類とも産業用にも販売されています。1kgから販売されているものや、25kg紙袋から販売されているものなど、メーカーによって容量は様々です。例えば、リン酸水素カリウムの50%は、30kg/300kgなどの容量規格で販売されています。食品添加物など、食品用途が多いですが、産業用・工業用の広い用途を想定して提供されています。

その他関連物質としては、(KPO3)xで表されるメタリン酸カリウムも食品加工、食肉結着剤用途を想定して販売されている物質です。

参考文献
https://anzeninfo.mhlw.go.jp/anzen/gmsds/7778-53-2.html