レブリン酸とは
図1. レブリン酸の基本情報
レブリン酸とは、化学式がC5H8O3で示され、γ-ケト酸に分類される有機化合物です。
4-オキソペンタン酸 (英: 4-oxopentanoic acid) とも呼ばれます。実験室でレブリン酸は、デンプンと濃塩酸を加熱して生成できます。工業的には、セルロースを無機酸とともに加熱して、レブリン酸を合成可能です。
セルロースの分解によっても生じるため、レブリン酸エチル (英: Ethyl levulinate) などのバイオ燃料の前駆体です。レブリン酸の毒性は比較的小さく、半数致死量 (LD50) は1,850mg/kgです。
レブリン酸の使用用途
レブリン酸は、毛髪の酸熱トリートメントとして使用されています。毛髪にレブリン酸を含むトリートメントを施し、高温アイロンの熱をかけると、毛髪内でレブリン酸が架橋を形成可能です。レブリン酸の架橋によって、毛髪が疎水性になり、毛髪内に余分な水分が入りにくくなります。ハリやコシが出るため、トリートメント効果が得られます。
また、レブリン酸は合成ゴム、プラスチック、ナイロンなどさまざまなポリマーの原料にも利用可能です。さらに、タバコにも使われています。煙中のニコチンを送達し、神経受容体へニコチンを結合させます。光線力学療法では、光感受性物質に使用可能です。
レブリン酸の性質
レブリン酸の融点は33〜35°C、沸点は245〜246°Cです。水、エタノール、エーテルによく溶けますが、ヘキサンには溶けにくいです。
なお、レブリン酸はカルボキシ基を持っているエステルです。示性式はCH3C(O)CH2CH2CO2Hと表されます。分子量は116.11で、密度は1.1447g/cm3です。
レブリン酸のその他情報
1. レブリン酸の歴史
1840年にヨハンネス・ムルデル (英: Johannes Mulder) によって、フルクトースと塩酸を加熱して、初めてレブリン酸が調製されました。
1940年代にでんぷん製造業のA. E. Staleyによって、オートクレーブでのバッチ式プロセスとして、レブリン酸の商業生産が開始しました。1953年にクエーカーオーツカンパニー (英: Quaker Oats Company) も、レブリン酸の生産のための連続プロセスを開発しています。その後、プラットフォーム化学物質として注目されました。
2. レブリン酸の合成法
図2. レブリン酸の合成
希塩酸や希硫酸中で、グルコースやフルクトースのような六炭糖 (英: Hexose) またはデンプンから、レブリン酸を合成可能です。この反応ではギ酸のほか、不溶性の副生成物が一部生成します。これらの副生成物の色は濃く、完全な除去が技術的に困難です。
レブリン酸の商業生産では強酸を用いて、高圧高温で連続的に反応させます。リグノセルロース (英: Lignocellulose) は、レブリン酸の安価な出発原料です。リグノセルロースとは、リグニンとセルロースが結合した物質のことです。レブリン酸は抽出により鉱酸触媒から分離され、蒸留で精製されます。
3. 原料としてのレブリン酸
図3. レブリン酸の関連化合物
レブリン酸は医薬品や可塑剤を代表とする、さまざまな添加剤の前駆体として使用されています。レブリン酸の最大の使用用途は、南アジアで用いられている生分解性除草剤であるアミノレブリン酸 (英: Aminolevulinic acid) の生産です。
化粧品もレブリン酸の重要な使用用途です。レブリン酸の一次誘導体であるレブリン酸エチルは、香料や香水に幅広く使用されています。レブリン酸はγ-バレロラクトン (英: γ-valerolactone) や2-メチルテトラヒドロフラン (英: 2-methyl-THF) など、多種多様な化合物の出発物質や中間体です。