亜硝酸イソプロピル

亜硝酸イソプロピルとは

亜硝酸イソプロピルは他にも2-(ニトロソオキシ)プロパンと呼ばれています。
常温で淡黄色の液体で水にはほとんど溶けませんが、エタノール、ジエチルエーテルには溶けます。

消防法では第4類引火性液体第一石油類非水溶性液体に該当し、労働安全衛生法でも危険物・引火性のものとして分類しています。万が一発火した際には、水ではなく粉末消火薬剤、泡消火薬剤、二酸化炭素、砂を使用してください。毒物でもあるため取り扱いには十分な注意が必要な液体です。

亜硝酸イソプロピルの使用用途

亜硝酸イソプロピルは安易に合成できる特徴を持っていて、主にジェット燃料、医薬中間体に使用されます。

「脱法ドラッグ」として認識される物質で、危険ドラッグの原材料にもなり、薬事法第 2 条第 14 項に規定する指定薬物に指定されています。近年でも平成21年の調査でもインターネットで購入された製品「DDR-R」から亜硝酸イソブチルと共に検出されています。

引火性というだけではなく、薬事法の面でも取り扱いや保管の際には厳重な注意が必要です。

参考文献
https://www.chemicalbook.com/ChemicalProductProperty_JP_CB5775084.htm
http://www.nihs.go.jp/law/dokugeki/hyouka/2007/541-42-4.pdf
https://anzeninfo.mhlw.go.jp/anzen/gmsds/541-42-4.html

亜硝酸イソブチル

亜硝酸イソブチルとは

亜硝酸イソブチルの基本情報

図1. 亜硝酸イソブチルの基本情報

亜硝酸イソブチル (英: Isobutyl nitrite) とは、化学式C4H9NO2で表される、亜硝酸とイソブタノールから成る亜硝酸エステルの一種です。

別名に、亜硝酸2-メチルプロピルなどがあります。CAS登録番号は、542-56-3です。分子量は103.12、沸点は67℃であり、常温では密度0.87g/mLの無色透明の液体です。水へはわずかに溶解しますが分解してしまうため実質的に不溶と言えます。

エーテル、エタノールなどの有機溶媒には混和します。劇物で、引火点は-21℃と低く、引火性が高い物質です。労働安全衛生法では名称等を表示すべき危険有害物 (法第57条、施行令第18条別表第9) 、名称等を通知すべき危険有害物 (法第57条の2、施行令第18条の2別表第9) 、リスクアセスメントを実施すべき危険有害物 (法第57条の3) に指定されています。

亜硝酸イソブチルの使用用途

亜硝酸イソブチルの主な使用用途は芳香剤の添加物です。カルボキシメチルセルロース原料、農薬・医薬原料、可塑剤・医薬原料にもなります。

また、血管拡張作用がある他、シアン中毒の解毒剤としても使われます。いわゆるラッシュ系ドラッグとしても認識されている物質です。平成19年に薬事法第2条第 14項に規定する指定薬物に指定されました。

医療用および人体に危害を及ぼすおそれのない用途以外での製造・輸入・販売等は禁止されています。尚、毒物及び劇物取締法では、劇物に指定されています。

亜硝酸イソブチルの原理

亜硝酸イソブチルの原理を化学的性質の観点から解説します。

1. 亜硝酸イソブチルの化学的性質

亜硝酸イソブチルの化学反応

図2. 亜硝酸イソブチルの化学反応

亜硝酸イソブチルは、一般的な亜硝酸エステル同様、亜硝酸とイソブタノールとのエステル化反応により合成可能です。また、亜硝酸イソブチルは、塩基存在下では加水分解されて逆の反応が起こります。すなわち、この反応では元のアルコールと亜硝酸塩を与えます。

また、引火性が高く、水中で分解する化合物です。加熱によって分解し、分解生成物として窒素酸化物 (NOx) を生成します。酸化物と危険な反応を起こす可能性があるため、酸、酸化物との混触は避けるべきです。

2. 亜硝酸イソブチルによるシアン化物解毒の原理

亜硝酸イソブチルのシアン化物解毒

図3. 亜硝酸イソブチルによるシアン化物の解毒

亜硝酸イソブチルは、ヘモグロビンのヘム鉄のFe2+を酸化させてFe3+のメトヘモグロビンを形成します。この際、シアン化物イオン (CN) が存在していると、メトヘモグロビンのFe3+と配位結合しシアンメトヘモグロビンとなります。

これによって、ミトコンドリアの酸化型のシトクロム酸化酵素複合体 (COX) のFe3+へのシアンの配位結合を防ぐことが可能で、有害事象が阻害されるというメカニズムです。さらに、チオ硫酸ナトリウムを別途投与すると、シアンメトヘモグロビンから徐々に解離するシアンがチオ硫酸ナトリウムに結合してチオシアン酸になり、無毒化されます。

亜硝酸イソブチルの種類

亜硝酸イソブチルは、前述の通り指定薬物に指定されているため、所持や使用が厳しく規制されています。現状では、研究開発用の有機合成化学試薬としてのみ販売されています。

尚、指定薬物は下記のように規定されているため、目的外での使用はできません。購入の際は使用用途の届け出が必要です。

「疾病の診断、治療又は予防の用途及び人の身体に対する危害の発生を伴うおそれがない用途以外の用途に供するための製造、輸入、販売、授与、所持、購入又は販売若しくは授与の目的での貯蔵、若しくは陳列は禁止」

なお、試薬製品としての亜硝酸イソブチルは、0-10°Cにて保管が必要な試薬です。光、湿気、熱を避けて保管し、特に湿気では分解します。製品容量には、25 mL , 100mL , 500mLなどの種類があります。

参考文献
https://anzeninfo.mhlw.go.jp/anzen/gmsds/542-56-3.html
https://www.ilo.org/dyn/icsc/showcard.display?p_lang=ja&p_card_id=1651
https://bukai.pharm.or.jp/bukai_kanei/houki-kaisei/kaisei2007_02/index.html

亜硝酸アミル

亜硝酸アミルとは

亜硝酸アミル (Amyl nitrite) とは、有機化合物の一種で、分子式 C5H11NO2で表される亜硝酸エステルです。

単に亜硝酸アミルといった場合、化学的には分子式 C5H11NO2で表される亜硝酸エステルの異性体群を意味しますが、医薬品「亜硝酸アミル」として用いられるのは亜硝酸イソアミルであるため、本項では亜硝酸n-アミルと亜硝酸イソアミルの両方を指します。分子量はどちらも共に117.15です。

1. 亜硝酸n-アミル (亜硝酸n-ペンチル)

亜硝酸nアミルの基本情報

図1. 亜硝酸nアミルの基本情報

亜硝酸n-アミル (亜硝酸n-ペンチル、Pentyl Nitrite) は、沸点104-105℃であり、常温では黄色がかった透明な液体です。独特の甘い臭いを放ち、密度は0.836g/mLです。水と接触して分解し、実質的に不溶 (溶解度は3.97g/L) ですが、エタノールやエーテル、クロロホルムなどの有機溶媒に混和します。

引火点は-18℃と低く引火しやすいため、消防法では第4類引火性液体、第一石油類非水溶性液体に分類されます。CAS登録番号は、463-04-7です。

2. 亜硝酸イソアミル (亜硝酸イソペンチル)

亜硝酸イソアミルの基本情報

図2. 亜硝酸イソアミルの基本情報

亜硝酸イソアミル (亜硝酸イソペンチル、Isopentyl nitrite) は、沸点99℃であり、常温では黄色がかった透明な液体です。果実臭を呈します。密度は、 0.875g/mLです。実質的に水に不溶ですが、クロロホルム、エタノール、エーテルには混和します。

引火点は3℃と引火しやすいため、 消防法では第4類引火性液体、第一石油類非水溶性液体に分類されます。CAS登録番号は、110-46-3です。薬事法で定める「指定薬物」に該当しており、法令で許可されている用途以外には使用することができません。毒物及び劇物取締法では劇物に指定されます。

亜硝酸アミルの使用用途

亜硝酸イソアミルは、狭心症等の心臓疾患薬や、シアン化物の解毒剤に用いられます。気化しやすいため、吸入薬としての使用が一般的です。また、硫化水素もシアン化物と同様のメカニズムの毒性を有するため、硫化水素の解毒剤として使用されることもあります。

ごく少量を布片に吸収させ、鼻孔にあてて吸入させると即効的に発作をやわらげることが可能です。濫用により中枢神経系の興奮若しくは抑制又は幻覚の作用を起こす恐れがあるため、薬事法で指定薬物に指定されています。

亜硝酸アミルの原理

亜硝酸アミルの原理を化学的性質の観点から解説します。

1. 亜硝酸アミルの化学的性質

亜硝酸アミルの化学的性質

図3. 亜硝酸アミルの化学的性質

亜硝酸アミルは、亜硝酸とアルコールとのエステル化反応により合成されます。また、亜硝酸アミルは、塩基存在下では加水分解されて元のアルコールと亜硝酸塩を与えます。

合成的にも利用可能な物質です。脂溶性を利用して、第一級アミンを有機溶媒系でジアゾ化したり、第二級アミンをN-ニトロソ化したりするために用いられています。代表的な例に、ベンゼンジアゾニウムを経由して芳香環上の水素をハロゲン置換する、ザンドマイヤー反応があります。

2. 亜硝酸イソアミルのシアン化物解毒の原理

亜硝酸アミルは、ヘモグロビンのヘム鉄のFe2+を酸化させてFe3+のメトヘモグロビンを形成します。この際、シアン化物イオン (CN) が存在していると、メトヘモグロビンのFe3+と配位結合しシアンメトヘモグロビンとなります。

これによって、ミトコンドリアの酸化型のシトクロム酸化酵素複合体 (COX) のFe3+へのシアンの配位結合を防ぐことが可能で、有害事象が阻害されるというメカニズムです。さらに、チオ硫酸ナトリウムを別に投与すると、シアンメトヘモグロビンから徐々に解離するシアンがチオ硫酸ナトリウムに結合してチオシアン酸になり、無毒化されます。

亜硝酸アミルの種類

亜硝酸n-アミルと亜硝酸イソアミルは、どちらも亜硝酸アミル (Amyl Nitrite) の名称で販売されていますが、化学試薬の場合は、併記されている別名やCAS登録番号で見分けることが可能です。例えば、亜硝酸ペンチル (Pentyl Nitrite)は亜硝酸n-アミルのことを指し、亜硝酸イソペンチル (Isoamyl Nitrite)は亜硝酸イソアミルを指します。また、亜硝酸アミルの名前で販売されている医薬品は、亜硝酸イソアミルを主成分とします。

ただし、亜硝酸イソアミルは、中枢神経系に作用することから、平成19年より指定薬物として扱われている物質です。

「疾病の診断、治療又は予防の用途及び人の身体に対する危害の発生を伴うおそれがない用途以外の用途に供するための製造、輸入、販売、授与、所持、購入又は販売若しくは授与の目的での貯蔵、若しくは陳列は禁止」

上記のような規定があり、許可されている目的以外での所持はできません。

参考文献
https://internal.fdma.go.jp/kiken-info/material/m_07872.html
https://www.nite.go.jp/chem/chrip/chrip_search/dt/html/GI_10_001/GI_10_001_463-04-7.html
https://www.tcichemicals.com/JP/ja/p/A0455#docomentsSectionPDP

ホスゲン

ホスゲンとは

ホスゲン (英: Phosgene) とは、青草臭または木材や藁の腐敗臭のする無色の気体です。

ホスゲンの化学式は COCl2、分子量は98.92、CAS登録番号は75-44-5です。ホスゲンは、二塩化カルボニルなどとも呼ばれる、極めて毒性の高い窒息性ガスです。1790年にイギリスの化学者ジョン・デービーによって、一酸化炭素と塩素の混合物を日光にさらすことで合成されました。

ホスゲンは、VSEPR理論によって予測される平面分子で、ホルムアルデヒドの水素原子2つを塩素原子で置き換えた構造を持ちます。二つの塩素と炭素がなす角は111.8°で、炭素-塩素結合の長さは174pm、炭素-酸素二重結合の長さは118pmです。

ホスゲンの使用用途

ホスゲンは、ポリウレタンの原料となるイソシアン酸エステルRNCOの合成、染料および中間体の原料、イソシアネートの製造、ポリウレタン製品の処理剤、医薬品の製造、農薬の原料、可塑剤およびポリカーボネート樹脂の原料化学工業分野で使用されています。

また、代表的な窒息性毒ガスで、吸引により催涙、くしゃみ、呼吸困難などの急性症状が出て、数時間後に肺水腫を起して死に至ります。塩素と共に窒息性の物質として、重いガスであるため、敵の塹壕をすぐに満たしてしまう効果を期待され、第1次世界大戦で毒ガス兵器として使用されました。

ホスゲンの性質

ホスゲンは、融点が-128℃、沸点が8℃、液体時の相対密度が1.4で、ガス時の相対密度が3.4です。ベンゼントルエン、四塩化炭素に容易に溶けますが、水にはわずかに溶けて塩酸二酸化炭素に加水分解します。アンモニアと反応して尿素を、また第三アミンの存在下アルコールと反応してクロルギ酸エステルを生じます。

ホスゲンのその他情報

1. ホスゲンの製法

ホスゲンは、工業的には一酸化炭素塩素とを、活性炭を触媒として60~150℃で反応させると得られます (CO+Cl2→COCl2)。この反応は発熱反応であり、200℃以上ではホスゲンは一酸化炭素と塩素に戻ってしまいます。ホスゲンは他に、四塩化炭素が空気中の熱にさらされることで生成したり、クロロホルムがシトクロムP-450のはたらきで代謝されることで形成されたりします。

2. ホスゲンの反応

ホスゲンは、ジオールと反応して直鎖状または環状の炭酸塩のいずれかを生成します (HOCR2-X-CR2OH+COCl2→1/n[OCR2-X-CR2OC(O)-]n+2HCl)。また、アミンと反応すると、イソシアネートを生成します (RNH2+COCl2→RN=C=O+2HCl)。さらに、ホスゲンはカルボン酸から塩化アシルを製造するためにも使われています (RCO2H+COCl2→RC(O)Cl+HCl+CO2)。

3. 法規情報

ホスゲンは、労働基準法で「疾病化学物質」、労働安全衛生法で「名称等を表示・通知すべき危険物・有害物」、「危険性又は有害性等を調査すべき物」「特定化学物質第3類物質」などに該当します。化学物質排出把握管理促進法 (PRTR法) には指定がありませんが、毒物及び劇物取締法では「毒物」、消防法では「貯蔵等の届出を要する物質」に指定されており、使用の際には注意が必要です。

4. 取扱いおよび保管上の注意

取扱い及び保管上の注意は、下記の通りです。

  • 保管容器は、換気の良い場所で保管する。
  • 屋外や換気の良い区域のみで使用する。
  • 使用時は保護手袋、保護眼鏡、保護衣、保護面を着用する。
  • 激しく反応するため、エタノール、強酸化剤、アンモニア、アミンおよびアルミニウムとの接触を避ける。
  • 水と接触すると腐食性の塩酸を生成するため、接触を避ける。
  • 取扱い後はよく手を洗浄する。
  • 吸入した場合、空気の新鮮な場所に移し、呼吸しやすい姿勢で休息させ、医師に連絡する。
  • 皮膚に付着した場合は、多量の水と石鹸で洗い流す。
  • 眼に入った場合は、水で数分間注意深く洗う。

ヒドロキシルアミン塩酸塩

ヒドロキシルアミン塩酸塩とは

ヒドロキシルアミン塩酸塩の基本情報

図1. ヒドロキシルアミン塩酸塩の基本情報

ヒドロキシルアミン塩酸塩とは、ヒドロキシルアミンの塩酸塩です。

高濃度のヒドロキシルアミン水溶液は、それ自身または鉄イオンと反応して爆発を起こします。そのため、薄めた状態での運搬や使用が望ましいです。15%以下の濃度であれば、消防法上の危険物としての危険性はなくなります。

化学物質審査規制法 (化審法) では優先評価化学物質に分類され、毒劇法や消防法でも規制されています。1999年に米国でヒドロキシルアミンの爆発事故があり、2000年には日本国内でもヒドロキシルアミンの爆発事故が起こりました。これをきっかけとして消防法が改正され、ヒドロキシルアミン塩酸塩はヒドロキシルアミンとともに危険物として指定されました。

ヒドロキシルアミン塩酸塩の使用用途

有機合成の分野でヒドロキシル塩酸塩は、カルボン酸やN-およびO-ヒドロキシルアミンから、オキシムやヒドロキサム酸を合成する際に使用されます。炭素-炭素二重結合 (C=C) の付加反応にも利用可能です。

工業的にはバイオマスからリグニンを抽出する際に、臭素の除去に用いられます。塗料や半導体の表面処理剤として用いられるほか、医薬品や農薬の原料としても利用されます。ゴム・プラスチック工業では、抗酸化剤、加硫促進剤、ラジカル捕捉剤として使用可能です。ナイロンの原料の1つであり、繊維の染色の定着剤、染色補助剤、抗酸化剤、カラーフィルムの色素定着剤としても使われます。

ヒドロキシルアミン塩酸塩は、硝化作用や嫌気性アンモニア酸化の生物学的中間体として、窒素循環や廃水処理で重要な役割を担っています。

ヒドロキシルアミン塩酸塩の性質

ヒドロキシルアミン塩酸塩は白色の結晶です。潮解性があり、強い還元剤の1つです。水に溶けて強酸性を示し、水溶液中で徐々に分解し、湿気がある空気中では少しずつ分解します。液体アンモニアによく溶解します。メタノールエタノールにわずかに溶けますが、エーテルには溶けません。

火気や高温体に近づけると爆発の危険性があり、115°C以上に加熱しても爆発する可能性があります。152°Cで分解します。アルデヒドやケトンとオキシムを形成可能です。ヒドロキシルアミンの原料としても使われます。

ヒドロキシルアミン塩酸塩の構造

ヒドロキシルアミン塩酸塩の化学式は[NH3OH]Clで、分子量は69.49g/molであり、密度は1.68g/cm3です。窒素-酸素結合距離 (N-O) はおよそ1.45Åです。別称として、塩酸ヒドロキシルアミン、ヒドロキシアミン塩酸塩、ヒドロキシルアンモニウムクロリド、塩化ヒドロキシルアンモニウムなどがあります。単斜晶系結晶で、[NH3OH]+を含んだイオン結晶です。

硝酸を電解還元後にHClと反応させると、ヒドロキシルアミン塩酸塩が得られます。BaCl2と硫酸ヒドロキシルアンモニウム水溶液が反応しても、ヒドロキシルアミン塩酸塩を生成可能です。

ヒドロキシルアミン塩酸塩のその他情報

1. ヒドロキシルアミン塩酸塩の関連化合物

ヒドロキシルアミンの基本情報

図2. ヒドロキシルアミンの基本情報

一般的にヒドロキシルアミンは、水溶液や塩酸塩として取り扱われます。ヒドロキシルアミンの示性式はNH2OHと表され、部分的にアンモニアと水が共有した構造を有します。

分子量は33.030g/molであり、融点は33°Cで、58°Cで分解し、20°Cでの密度は1.21g/cm3です。室温でヒドロキシルアミンは結晶性の固体で、吸湿性や潮解性を持っています。

2. ヒドロキシルアミン塩類

硫酸ヒドロキシルアミンの基本情報

図3. 硫酸ヒドロキシルアミンの基本情報

ヒドロキシルアミン塩類は、ヒドロキシルアミンと酸との中和反応で生じる塩です。ヒドロキシルアミン塩酸塩以外にヒドロキシルアミン塩類には、硫酸ヒドロキシルアミンなどがあります。

硫酸ヒドロキシルアミンの化学式はH2SO4・(NH2OH)2です。分子量は164.14g/molであり、170°Cで分解します。白色の結晶で、水に溶解して強酸性を示します。

参考文献
http://www.chemicoco.env.go.jp/
https://anzeninfo.mhlw.go.jp/anzen/gmsds/5470-11-1.html

ヒドロキシルアミン

ヒドロキシルアミンとは

ヒドロキシルアミンの基本情報

図1. ヒドロキシルアミンの基本情報

ヒドロキシルアミンとは、化学式がNH2OHで表される無機化合物です。

ヒドロキシアミンとも呼ばれています。生合成で硝化作用の中間体であり、ヒドロキシルアミンオキシダーゼにより酸化されて亜硝酸が生じます。ヒドロキシルアミンは水溶液のほか、塩酸塩や硫酸塩などの塩として取り扱われることが一般的です。

化学物質審査規制法 (化審法) では「優先評価化学物質」に分類されており、水質汚濁防止法では「事故時措置 (指定物質) 」に分類されています。そのほか、消防法でも規制されています。

ヒドロキシルアミンの使用用途

ヒドロキシルアミンおよびその塩類は、多くの有機化学や無機化学の反応で、還元剤として用いられます。オキシムの合成、ナイロンの原料であるカプロラクタムの合成にも使用可能です。分析試薬、酵素の再活性化剤としての用途もあります。

工業用途は、獣皮の脱毛剤や写真現像液、半導体の洗浄剤、医薬品・農薬の原料、タバコ甘味剤、せっけん、脂肪酸の酸化防止剤および安定剤などです。さらに、硝化作用や嫌気性アンモニア酸化の生物学的中間体として、窒素循環や廃水処理で重要な役割を担っています。

ヒドロキシルアミンの性質

ヒドロキシルアミンは無色の針状結晶であり、潮解性が非常に高く、揮発性があります。融点は33°Cで、58°Cで分解します。モル質量は33.030g/mol、20°Cでの密度は1.21g/cm3です。

ヒドロキシルアミンは不安定な物質です。室温でも徐々に分解し、湿気やCO2により分解が促進されます。また、加熱や紫外線によって爆発し、アンモニア (NH3) 、窒素 (N2) 、亜酸化窒素 (N2O) などの物質に変化します。

水、液体アンモニア、メタノールに易溶ですが、エーテル、ベンゼンクロロホルムに難溶です。

ヒドロキシルアミンの構造

ヒドロキシルアミンは、水とアンモニアが互いに一部分を共有したような構造を持っています。そのため、液体のヒドロキシルアミンは水と似た溶媒として、多くの無機塩を溶かします。

ヒドロキシルアミンのその他情報

1. ヒドロキシルアミンの合成法

ラシヒ法を用いて、ヒドロキシルアミンを合成可能です。0°Cで亜硝酸アンモニウム水溶液をHSO4/SO2によって還元すると、ヒドロキシルアミド-N,N-ジスルフェートが生成し、加水分解により硫酸塩である(NH3OH)2SO4が得られます。

この硫酸塩を液体アンモニアで処理すると、固体のヒドロキシルアミンが生成します。液体アンモニアに溶けない硫酸アンモニウムを濾別して、減圧下でアンモニアを除去可能です。それ以外にも、ヒドロキシルアンモニウム塩を経由する合成法もあります。

亜硫酸イオンにより亜硝酸や亜硝酸ナトリウムを還元すると、ヒドロキシルアミド-N-スルフェートが生成し、加水分解によってヒドロキシルアンモニウム塩が得られます。ナトリウムブトキシドを用いて中和すると、ヒドロキシルアミンを生成可能です。

2. ヒドロキシルアミンの反応

ヒドロキシルアミンの反応

図2. ヒドロキシルアミンの反応

ヒドロキシルアミンはケトンやアルデヒドと反応すると、オキシムが生じます。クロロ硫酸との反応では、ヒドロキシルアミン-O-スルホン酸を生成可能です。

ヒドロキシルアミンは、アルキル化剤などの求電子試薬とも反応します。この反応では、窒素と酸素のいずれの原子も求電子攻撃されます。

3. ヒドロキシルアミンによるカプロラクタムの合成

ヒドロキシルアミンを用いたカプロラクタムの合成

図3. ヒドロキシルアミンを用いたカプロラクタムの合成

ヒドロキシルアミンのおよそ95%は、シクロヘキサノンオキシムの合成に利用されています。シクロヘキサノンオキシムは、ナイロン6の前駆体です。

ヒドロキシルアミンの硫酸塩によって、シクロヘキサノンをシクロヘキサノンオキシムに変換可能です。シクロヘキサノンオキシムを酸で処理するとベックマン転位が進行し、カプロラクタムが生成します。そして、カプロラクタムの開環重合によって、ナイロン6を合成可能です。

参考文献
https://anzeninfo.mhlw.go.jp/anzen/gmsds/7803-49-8.html
http://www.chemicoco.env.go.jp/

ヒドロキシ酪酸

ヒドロキシ酪酸とは

ヒドロキシ酪酸とは、ヒドロキシ基を有する炭素数4のカルボン酸の誘導体の1つです。

別称、ヒドロキシブタン酸と呼ばれます。ヒドロキシル基の位置が2位 (α位) 、3位 (β位) 、4位 (γ位) というように、3種類の直鎖の構造異性体が存在します。具体的には、α-ヒドロキシ酪酸 (2-ヒドロキシ酪酸) 、β-ヒドロキシ酪酸 (3-ヒドロキシ酪酸) 、γ-ヒドロキシ酪酸 (4-ヒドロキシ酪酸) です。

いずれの構造異性体も、分子式はC4H8O3、分子量は104.105です。

ヒドロキシ酪酸の使用用途

1. α-ヒドロキシ酪酸

α-ヒドロキシ酪酸は、結腸直腸癌および2型糖尿病の診断で、マーカーとして使用されています。血清中のα-ヒドロキシ酪酸の増加から、耐糖能の悪化を予測可能です。

2. β-ヒドロキシ酪酸

β-ヒドロキシ酪酸は、ポリヒドロキシ酪酸 (PHB、3-ヒドロキシ酪酸ポリマー) の原料です。種々の微生物中に貯蔵物質として存在するほか、生分解性プラスチックの原料として有望視されています。

3. γ-ヒドロキシ酪酸

γ-ヒドロキシ酪酸は、ナルコレプシーやアルコール依存症の治療薬に使用可能です。多くの欧州諸国では、治療目的で認可を受けています。もともと麻酔薬として開発された医薬品ですが、現在では多くの国で違法ドラッグとして規制されています。

ヒドロキシ酪酸の性質

ヒドロキシ酪酸の直鎖の構造異性体

図1. ヒドロキシ酪酸の直鎖の構造異性体

1. α-ヒドロキシ酪酸

α-ヒドロキシ酪酸は、融点が50〜54°Cの無色固体です。酸化ストレスに関わるアミノ酸代謝の中間体であり、スレオニン (トレオニン) Thrの異化代謝、またはグルタチオンを生合成する動物組織 (主に肝臓) で産生されます。

酸化ストレスや解毒代謝は、肝臓でのグルタチオン生合成を急激に増加して、グルタチオンの前駆体であるシステインCysが減少し、その補充代謝の副産物としてα-ヒドロキシ酪酸が生じます。

2. β-ヒドロキシ酪酸

β-ヒドロキシ酪酸は、アセト酢酸アセトンなどの他のケトン体と同様に、遊離脂肪酸の代謝で発生するケトーシスにより、絶食時や糖尿病で血中濃度が上昇し、脳や筋肉のエネルギー源となります。

縮重合によって、ポリエステルの1種であるポリヒドロキシ酪酸が得られます。

3. γ-ヒドロキシ酪酸

γ-ヒドロキシ酪酸は、中枢神経系の抑制効果を持っています。睡眠作用や性欲増強作用があり、過量に投与すると痙攣や意識障害が起きます。

ヒドロキシ酪酸の構造

ヒドロキシ酪酸の立体異性体

図2. ヒドロキシ酪酸の立体異性体

1. α-ヒドロキシ酪酸

α-ヒドロキシ酪酸は、カルボニル基のすぐ隣のα炭素上にヒドロキシ基が位置するヒドロキシ酪酸です。不斉炭素原子を持ち、D体およびL体の2つの立体異性体があります。

2. β-ヒドロキシ酪酸

β-ヒドロキシ酪酸は、広義のケトン体の一つです。ただし、ケトン基がないため、化学的にはケトンに分類されません。

カルボニル基から2つ目のβ炭素上に、ヒドロキシ基を持っています。不斉炭素原子を有し、D体とL体の2つの立体異性体が存在しますが、生理的にはD体のみが存在します。

3. γ-ヒドロキシ酪酸

γ-ヒドロキシ酪酸は、カルボニル基から3つ目のγ炭素上に、ヒドロキシ基を有するヒドロキシ酪酸です。ワイン、牛肉、柑橘類などの食品に存在します。

ヒドロキシ酪酸のその他情報

1. ヒドロキシ酪酸の分岐を持つ構造異性体

ヒドロキシ酪酸の分岐を持つ構造異性体

図3. ヒドロキシ酪酸の分岐を持つ構造異性体

ヒドロキシ酪酸には、分岐を有する構造異性体も存在します。具体的には、2-ヒドロキシイソ酪酸と3-ヒドロキシイソ酪酸です。

2. 2-ヒドロキシ酪酸の特徴

2-ヒドロキシイソ酪酸は、2-ヒドロキシイソブチリルCoAムターゼによって、3-ヒドロキシブチリルCoAが 2-ヒドロキシイソブチリルCoAに変換され、加水分解により生成します。

工業的に重要なモノマーであるメタクリル酸エチルは、五塩化リンを用いた2-ヒドロキシイソ酪酸のエチルエステルの脱水反応によって、初めて得られました。

3. 3-ヒドロキシ酪酸の特徴

3-ヒドロキシイソ酪酸は、バリンの代謝中間体の1つです。不斉炭素原子を持つため、光学異性体であるD-3-ヒドロキシイソ酪酸とL-3-ヒドロキシイソ酪酸が存在します。

ヒドロキシラジカル

ヒドロキシラジカルとは

ヒドロキシラジカルは、ヒドロキシ基に対応するラジカルです。化学式•OH で表されます。正確にはヒドロキシルラジカルとよびます。なお、遊離基・OHや原子団OHをヒドロキシルラジカルとよびますが、陽イオンOH+は、ヒドロキシリウムイオンです。また、陰イオンOH-は、水酸化物イオンとよび、配位子の場合にはヒドロキシド、またはヒドロキソで表します。化合物中の置換基-OHは、ヒドロキシ基と呼びます。

ヒドロキシラジカルは、酸素が3電子還元された形のラジカルであり、活性酸素の一種で最も反応性が強く、最も酸化力が強いものです。糖質やタンパク質や脂質などあらゆる物質と反応します。反応性がきわめて高いため、通常の環境下では長時間存在することはできず、生成後速やかに消滅します。

ヒドロキシラジカルの使用用途

ヒドロキシルラジカルは、種々の化学反応中に生成し、酸化反応を起こし速やかに消滅します。

生体外においてヒドロキシルラジカルは、過酸化水素への紫外線の照射や、酸性条件で過酸化水素と二価の鉄化合物を触媒的に反応させる方法(フェントン反応)によって生成されることが知られています。

生体内では、ヒドロキシルラジカルは、ミトコンドリア内部や細胞内において生成し、ミトコンドリア機能障害、細胞障害を誘発し、ガン、パーキンソン病、認知症といった難病の原因のひとつとして知られています。生体内でヒドロキシルラジカルを捕捉する抗酸化物質としては、水素、β-カロテン、α-カロテン、ビタミンE、尿酸、リノール酸、システイン、フラボノイド、グルタチオンが知られています。

ヒドロキシプロリン

ヒドロキシプロリンとは

ヒドロキシプロリンとは、二級環状アミノ酸の1つです。

一般的に、生体に存在する4-ヒドロキシ-L-プロリンを指します。3文字略号は、Hypです。かつてはイミノ酸の1つに分類されており、現在も広義のイミノ酸に含む場合があります。

ビタミンCの存在下で、アミノ酸のプロリンの水酸化によって生成されます。ヒドロキシプロリンは、プロリンProのγ炭素にヒドロキシ基が付加した構造です。精製したものは、白色の六角板状結晶であり、水に易溶、エタノールに微溶です。

ヒドロキシプロリンの使用用途

1. 化粧品

ヒドロキシプロリンは、皮膚組織のコラーゲンの構成成分です。また、肌のコラーゲン構造の安定化にも寄与しています。ヒドロキシプロリンを摂ることによって、コラーゲンの合成促進、線維芽細胞および表皮細胞の増殖促進が報告されています。

高い経皮吸収性と保湿性をもつことから、皮膚のハリ、弾力性を増加させ、皮膚の柔軟性を改善させるなど、皮膚の老化防止に非常に効果的な化粧品原料です。なお、消化や異化反応を経るため、ヒドロキシプロリンを経口摂取しても、コラーゲンに直接作用して肌がきれいになるわけではありません。

2. 医療

ヒドロキシプロリンは、コラーゲンに特異的に存在するため、検査マーカーとして利用されます。ヒドロキシプロリン量を測定し、検体中のコラーゲンやゼラチン量を定量することができます。

コラーゲンの破壊を伴う疾患の診断材料とすることが可能です。コラーゲン量の増加は、骨ページェット病の血清中で測定されます。

また、ヒドロキシプロリン量の増加は、前立腺癌の骨転移、肝線維症、ならびにメラミンおよびシアヌル酸誘発性の腎毒性と相関しています。

3. 食品

ゼラチン、肉類 (すじ肉) に多く含まれており、人の体内でも特に皮膚、腱、骨に多く存在しています。食品添加物や、日常生活で不足した栄養成分を補うことを目的とした健康補助食品などに利用されています。

ヒドロキシプロリンの性質

ヒドロキシプロリンは、化学式C5H9NO3、分子量131.13、CAS番号51-35-4で表される白色の結晶~結晶性粉末です。融点、沸点などのデータはありません。

水に溶けやすく、エタノール、エーテルには難溶です。通常の状態において安定な物質ですが、高温と直射日光は避けます。

混触危険物質は、強酸化剤です。危険有害な分解生成物として、一酸化炭素 (CO) 、二酸化炭素 (CO2) 、窒素酸化物 (NOx) を発生させる可能性があります。

ヒドロキシプロリンのその他情報

1. 安全性

GHS分類基準に該当せず、危険有害性は報告されていません。また、消防法、毒物及び劇物取締法において非該当物質です。

直射日光を避け、 換気のよいなるべく涼しい場所に密閉して保管を行います。容器はガラスを用い、強酸化剤と離れた場所で保管します。適切な保管条件下では安定な物質です。

2. 取扱い方法

屋内作業場で使用する場合は発生源を密閉化、または局所排気装置を設置します。取扱い場所の近くには安全シャ ワー、 手洗い・洗眼設備を設け、その位置の明瞭な表示が必要です。

作業者は、防塵マスク、保護手袋、側板付き保護眼鏡 (必要によりゴーグル型または全面保護眼鏡) 、長袖作業衣を着用します。

取扱い時は、飲食、喫煙を避け、取扱い後は手、顔をよく洗い、うがいが必要です。作業場所以外に、手袋その他汚染した保護具を持ち込まないよう注意します。

3. コラーゲン構成要素

ヒドロキシプロリンは、タンパク質の翻訳後修飾として、プロリンヒドロキシラーゼによるプロリンのヒドロキシ化によって生成します。ヒドロキシプロリンは、コラーゲンの主要な成分です。ポリペプチド鎖に含まれることで、コラーゲンのらせん構造にきつく巻きつくことが可能となり、水素結合によってコラーゲンの三重らせんを安定化させています。

プロリンのヒドロキシ化にはアスコルビン酸 (ビタミンC) が必要でることから、ビタミンCが不足するとコラーゲン中のヒドロキシプロリンが欠乏し、安定性が低下することで、壊血病を引き起こします。

参考文献
https://labchem-wako.fujifilm.com/sds/W01W0108-0164JGHEJP.pdf

ヒドロキシド

ヒドロキシドとは

ヒドロキシドとは、水酸化物イオンOH-を配位子にもつ化合物の総称です。つまり、基本的に水酸化物の総称です。別称としてはオラートがあります。

陽イオンOH+は、ヒドロキシリウムイオン、陰イオンOH-は、水酸化物イオンとよびますが、配位子の場合にはヒドロキシド、またはヒドロキソで表します。
なお、遊離基・OHや原子団OHをヒドロキシルラジカルと呼び、化合物中の置換基-OHをヒドロキシ基と呼びます。化合物中の-OH基の存在を接頭辞で示すには、ヒドロキシ酢酸のように、ヒドロキシをつけます。接尾辞で示す場合は、エタノール(ethanol)のように、オール(-ol)をつけます。

ヒドロキシドの使用用途

代表的なヒドロキシドの使用用途をあげます。

水酸化カリウムは、主に塩基としての性質を利用した用途があります。水酸化ナトリウムより強い塩基性溶液の調製、油脂の鹸化価(けんかか)を滴定といった用途があります。工業・一般用としては、業務用洗浄剤、配管詰まり洗浄剤、液体せっけんの原料があります。

テトラメチルアンモニウムヒドロキシド触媒をはじめ、工業用途に幅広く用いられます。具体的には、重合・縮合といった反応の触媒、ガスクロマトグラフィー前処理剤、写真・印刷薬品、フォトレジスト現像液、二次電池用アルカリ電解質といった用途があります。

トリシクロヘキシルスズヒドロキシドは、殺虫剤・防虫剤(ダニ駆除剤、昆虫不妊化剤など)、抗真菌剤としての用途があります。