ヒドロキシ酪酸とは
ヒドロキシ酪酸とは、ヒドロキシ基を有する炭素数4のカルボン酸の誘導体の1つです。
別称、ヒドロキシブタン酸と呼ばれます。ヒドロキシル基の位置が2位 (α位) 、3位 (β位) 、4位 (γ位) というように、3種類の直鎖の構造異性体が存在します。具体的には、α-ヒドロキシ酪酸 (2-ヒドロキシ酪酸) 、β-ヒドロキシ酪酸 (3-ヒドロキシ酪酸) 、γ-ヒドロキシ酪酸 (4-ヒドロキシ酪酸) です。
いずれの構造異性体も、分子式はC4H8O3、分子量は104.105です。
ヒドロキシ酪酸の使用用途
1. α-ヒドロキシ酪酸
α-ヒドロキシ酪酸は、結腸直腸癌および2型糖尿病の診断で、マーカーとして使用されています。血清中のα-ヒドロキシ酪酸の増加から、耐糖能の悪化を予測可能です。
2. β-ヒドロキシ酪酸
β-ヒドロキシ酪酸は、ポリヒドロキシ酪酸 (PHB、3-ヒドロキシ酪酸ポリマー) の原料です。種々の微生物中に貯蔵物質として存在するほか、生分解性プラスチックの原料として有望視されています。
3. γ-ヒドロキシ酪酸
γ-ヒドロキシ酪酸は、ナルコレプシーやアルコール依存症の治療薬に使用可能です。多くの欧州諸国では、治療目的で認可を受けています。もともと麻酔薬として開発された医薬品ですが、現在では多くの国で違法ドラッグとして規制されています。
ヒドロキシ酪酸の性質
図1. ヒドロキシ酪酸の直鎖の構造異性体
1. α-ヒドロキシ酪酸
α-ヒドロキシ酪酸は、融点が50〜54°Cの無色固体です。酸化ストレスに関わるアミノ酸代謝の中間体であり、スレオニン (トレオニン) Thrの異化代謝、またはグルタチオンを生合成する動物組織 (主に肝臓) で産生されます。
酸化ストレスや解毒代謝は、肝臓でのグルタチオン生合成を急激に増加して、グルタチオンの前駆体であるシステインCysが減少し、その補充代謝の副産物としてα-ヒドロキシ酪酸が生じます。
2. β-ヒドロキシ酪酸
β-ヒドロキシ酪酸は、アセト酢酸やアセトンなどの他のケトン体と同様に、遊離脂肪酸の代謝で発生するケトーシスにより、絶食時や糖尿病で血中濃度が上昇し、脳や筋肉のエネルギー源となります。
縮重合によって、ポリエステルの1種であるポリヒドロキシ酪酸が得られます。
3. γ-ヒドロキシ酪酸
γ-ヒドロキシ酪酸は、中枢神経系の抑制効果を持っています。睡眠作用や性欲増強作用があり、過量に投与すると痙攣や意識障害が起きます。
ヒドロキシ酪酸の構造
図2. ヒドロキシ酪酸の立体異性体
1. α-ヒドロキシ酪酸
α-ヒドロキシ酪酸は、カルボニル基のすぐ隣のα炭素上にヒドロキシ基が位置するヒドロキシ酪酸です。不斉炭素原子を持ち、D体およびL体の2つの立体異性体があります。
2. β-ヒドロキシ酪酸
β-ヒドロキシ酪酸は、広義のケトン体の一つです。ただし、ケトン基がないため、化学的にはケトンに分類されません。
カルボニル基から2つ目のβ炭素上に、ヒドロキシ基を持っています。不斉炭素原子を有し、D体とL体の2つの立体異性体が存在しますが、生理的にはD体のみが存在します。
3. γ-ヒドロキシ酪酸
γ-ヒドロキシ酪酸は、カルボニル基から3つ目のγ炭素上に、ヒドロキシ基を有するヒドロキシ酪酸です。ワイン、牛肉、柑橘類などの食品に存在します。
ヒドロキシ酪酸のその他情報
1. ヒドロキシ酪酸の分岐を持つ構造異性体
図3. ヒドロキシ酪酸の分岐を持つ構造異性体
ヒドロキシ酪酸には、分岐を有する構造異性体も存在します。具体的には、2-ヒドロキシイソ酪酸と3-ヒドロキシイソ酪酸です。
2. 2-ヒドロキシ酪酸の特徴
2-ヒドロキシイソ酪酸は、2-ヒドロキシイソブチリルCoAムターゼによって、3-ヒドロキシブチリルCoAが 2-ヒドロキシイソブチリルCoAに変換され、加水分解により生成します。
工業的に重要なモノマーであるメタクリル酸エチルは、五塩化リンを用いた2-ヒドロキシイソ酪酸のエチルエステルの脱水反応によって、初めて得られました。
3. 3-ヒドロキシ酪酸の特徴
3-ヒドロキシイソ酪酸は、バリンの代謝中間体の1つです。不斉炭素原子を持つため、光学異性体であるD-3-ヒドロキシイソ酪酸とL-3-ヒドロキシイソ酪酸が存在します。