亜硝酸アミル

亜硝酸アミルとは

亜硝酸アミル (Amyl nitrite) とは、有機化合物の一種で、分子式 C5H11NO2で表される亜硝酸エステルです。

単に亜硝酸アミルといった場合、化学的には分子式 C5H11NO2で表される亜硝酸エステルの異性体群を意味しますが、医薬品「亜硝酸アミル」として用いられるのは亜硝酸イソアミルであるため、本項では亜硝酸n-アミルと亜硝酸イソアミルの両方を指します。分子量はどちらも共に117.15です。

1. 亜硝酸n-アミル (亜硝酸n-ペンチル)

亜硝酸nアミルの基本情報

図1. 亜硝酸nアミルの基本情報

亜硝酸n-アミル (亜硝酸n-ペンチル、Pentyl Nitrite) は、沸点104-105℃であり、常温では黄色がかった透明な液体です。独特の甘い臭いを放ち、密度は0.836g/mLです。水と接触して分解し、実質的に不溶 (溶解度は3.97g/L) ですが、エタノールやエーテル、クロロホルムなどの有機溶媒に混和します。

引火点は-18℃と低く引火しやすいため、消防法では第4類引火性液体、第一石油類非水溶性液体に分類されます。CAS登録番号は、463-04-7です。

2. 亜硝酸イソアミル (亜硝酸イソペンチル)

亜硝酸イソアミルの基本情報

図2. 亜硝酸イソアミルの基本情報

亜硝酸イソアミル (亜硝酸イソペンチル、Isopentyl nitrite) は、沸点99℃であり、常温では黄色がかった透明な液体です。果実臭を呈します。密度は、 0.875g/mLです。実質的に水に不溶ですが、クロロホルム、エタノール、エーテルには混和します。

引火点は3℃と引火しやすいため、 消防法では第4類引火性液体、第一石油類非水溶性液体に分類されます。CAS登録番号は、110-46-3です。薬事法で定める「指定薬物」に該当しており、法令で許可されている用途以外には使用することができません。毒物及び劇物取締法では劇物に指定されます。

亜硝酸アミルの使用用途

亜硝酸イソアミルは、狭心症等の心臓疾患薬や、シアン化物の解毒剤に用いられます。気化しやすいため、吸入薬としての使用が一般的です。また、硫化水素もシアン化物と同様のメカニズムの毒性を有するため、硫化水素の解毒剤として使用されることもあります。

ごく少量を布片に吸収させ、鼻孔にあてて吸入させると即効的に発作をやわらげることが可能です。濫用により中枢神経系の興奮若しくは抑制又は幻覚の作用を起こす恐れがあるため、薬事法で指定薬物に指定されています。

亜硝酸アミルの原理

亜硝酸アミルの原理を化学的性質の観点から解説します。

1. 亜硝酸アミルの化学的性質

亜硝酸アミルの化学的性質

図3. 亜硝酸アミルの化学的性質

亜硝酸アミルは、亜硝酸とアルコールとのエステル化反応により合成されます。また、亜硝酸アミルは、塩基存在下では加水分解されて元のアルコールと亜硝酸塩を与えます。

合成的にも利用可能な物質です。脂溶性を利用して、第一級アミンを有機溶媒系でジアゾ化したり、第二級アミンをN-ニトロソ化したりするために用いられています。代表的な例に、ベンゼンジアゾニウムを経由して芳香環上の水素をハロゲン置換する、ザンドマイヤー反応があります。

2. 亜硝酸イソアミルのシアン化物解毒の原理

亜硝酸アミルは、ヘモグロビンのヘム鉄のFe2+を酸化させてFe3+のメトヘモグロビンを形成します。この際、シアン化物イオン (CN) が存在していると、メトヘモグロビンのFe3+と配位結合しシアンメトヘモグロビンとなります。

これによって、ミトコンドリアの酸化型のシトクロム酸化酵素複合体 (COX) のFe3+へのシアンの配位結合を防ぐことが可能で、有害事象が阻害されるというメカニズムです。さらに、チオ硫酸ナトリウムを別に投与すると、シアンメトヘモグロビンから徐々に解離するシアンがチオ硫酸ナトリウムに結合してチオシアン酸になり、無毒化されます。

亜硝酸アミルの種類

亜硝酸n-アミルと亜硝酸イソアミルは、どちらも亜硝酸アミル (Amyl Nitrite) の名称で販売されていますが、化学試薬の場合は、併記されている別名やCAS登録番号で見分けることが可能です。例えば、亜硝酸ペンチル (Pentyl Nitrite)は亜硝酸n-アミルのことを指し、亜硝酸イソペンチル (Isoamyl Nitrite)は亜硝酸イソアミルを指します。また、亜硝酸アミルの名前で販売されている医薬品は、亜硝酸イソアミルを主成分とします。

ただし、亜硝酸イソアミルは、中枢神経系に作用することから、平成19年より指定薬物として扱われている物質です。

「疾病の診断、治療又は予防の用途及び人の身体に対する危害の発生を伴うおそれがない用途以外の用途に供するための製造、輸入、販売、授与、所持、購入又は販売若しくは授与の目的での貯蔵、若しくは陳列は禁止」

上記のような規定があり、許可されている目的以外での所持はできません。

参考文献
https://internal.fdma.go.jp/kiken-info/material/m_07872.html
https://www.nite.go.jp/chem/chrip/chrip_search/dt/html/GI_10_001/GI_10_001_463-04-7.html
https://www.tcichemicals.com/JP/ja/p/A0455#docomentsSectionPDP

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