ホスゲン

ホスゲンとは

ホスゲン (英: Phosgene) とは、青草臭または木材や藁の腐敗臭のする無色の気体です。

ホスゲンの化学式は COCl2、分子量は98.92、CAS登録番号は75-44-5です。ホスゲンは、二塩化カルボニルなどとも呼ばれる、極めて毒性の高い窒息性ガスです。1790年にイギリスの化学者ジョン・デービーによって、一酸化炭素と塩素の混合物を日光にさらすことで合成されました。

ホスゲンは、VSEPR理論によって予測される平面分子で、ホルムアルデヒドの水素原子2つを塩素原子で置き換えた構造を持ちます。二つの塩素と炭素がなす角は111.8°で、炭素-塩素結合の長さは174pm、炭素-酸素二重結合の長さは118pmです。

ホスゲンの使用用途

ホスゲンは、ポリウレタンの原料となるイソシアン酸エステルRNCOの合成、染料および中間体の原料、イソシアネートの製造、ポリウレタン製品の処理剤、医薬品の製造、農薬の原料、可塑剤およびポリカーボネート樹脂の原料化学工業分野で使用されています。

また、代表的な窒息性毒ガスで、吸引により催涙、くしゃみ、呼吸困難などの急性症状が出て、数時間後に肺水腫を起して死に至ります。塩素と共に窒息性の物質として、重いガスであるため、敵の塹壕をすぐに満たしてしまう効果を期待され、第1次世界大戦で毒ガス兵器として使用されました。

ホスゲンの性質

ホスゲンは、融点が-128℃、沸点が8℃、液体時の相対密度が1.4で、ガス時の相対密度が3.4です。ベンゼントルエン、四塩化炭素に容易に溶けますが、水にはわずかに溶けて塩酸二酸化炭素に加水分解します。アンモニアと反応して尿素を、また第三アミンの存在下アルコールと反応してクロルギ酸エステルを生じます。

ホスゲンのその他情報

1. ホスゲンの製法

ホスゲンは、工業的には一酸化炭素塩素とを、活性炭を触媒として60~150℃で反応させると得られます (CO+Cl2→COCl2)。この反応は発熱反応であり、200℃以上ではホスゲンは一酸化炭素と塩素に戻ってしまいます。ホスゲンは他に、四塩化炭素が空気中の熱にさらされることで生成したり、クロロホルムがシトクロムP-450のはたらきで代謝されることで形成されたりします。

2. ホスゲンの反応

ホスゲンは、ジオールと反応して直鎖状または環状の炭酸塩のいずれかを生成します (HOCR2-X-CR2OH+COCl2→1/n[OCR2-X-CR2OC(O)-]n+2HCl)。また、アミンと反応すると、イソシアネートを生成します (RNH2+COCl2→RN=C=O+2HCl)。さらに、ホスゲンはカルボン酸から塩化アシルを製造するためにも使われています (RCO2H+COCl2→RC(O)Cl+HCl+CO2)。

3. 法規情報

ホスゲンは、労働基準法で「疾病化学物質」、労働安全衛生法で「名称等を表示・通知すべき危険物・有害物」、「危険性又は有害性等を調査すべき物」「特定化学物質第3類物質」などに該当します。化学物質排出把握管理促進法 (PRTR法) には指定がありませんが、毒物及び劇物取締法では「毒物」、消防法では「貯蔵等の届出を要する物質」に指定されており、使用の際には注意が必要です。

4. 取扱いおよび保管上の注意

取扱い及び保管上の注意は、下記の通りです。

  • 保管容器は、換気の良い場所で保管する。
  • 屋外や換気の良い区域のみで使用する。
  • 使用時は保護手袋、保護眼鏡、保護衣、保護面を着用する。
  • 激しく反応するため、エタノール、強酸化剤、アンモニア、アミンおよびアルミニウムとの接触を避ける。
  • 水と接触すると腐食性の塩酸を生成するため、接触を避ける。
  • 取扱い後はよく手を洗浄する。
  • 吸入した場合、空気の新鮮な場所に移し、呼吸しやすい姿勢で休息させ、医師に連絡する。
  • 皮膚に付着した場合は、多量の水と石鹸で洗い流す。
  • 眼に入った場合は、水で数分間注意深く洗う。

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