SLD光源

SLD光源とは

SLD光源とは、発光ダイオード (LED) と半導体レーザー (LD) の両方の特性を持った広帯域光源のことです。

SLDとは「スーパールミネッセントダイオード」の略で、発光ダイオードのように幅広いスペクトルと、半導体レーザーのような高輝度の光を兼ね備えています。

しかし、半導体レーザーとは異なり、低コヒーレンスであることも特徴の一つです。このような特性から、SLDは計測用の機械やセンサ機器に広く用いられています。

SLD光源の使用用途

SLD光源はLEDとLDの二つの特性を活かして、次のような機器に使われています。

1. OCT

光干渉断層計とも呼ばれ、光の干渉を利用して物体の断層イメージを計測する機器です。対象に触れること無く内部を計測できます。同様に内部を観察できるX線と比べて分解能が高く、被爆の心配が無いのも利点で、医療用として広く使用されています。

2. 原子間力顕微鏡

物質の表面で指針を動かし、指針と物質との間に働く原子間力を測定することで表面の状態を観察する顕微鏡のことです。光学顕微鏡に比べて非常に高い分解能を持っており、表面の原子レベルの凹凸も確認できます。

SLD光源の原理

ここでは、SLD光源が光を放つ原理について説明します。

SLD光源もLEDやLDと同様にpn接合に順方向の電圧がかかることで発光します。これらが励起された状態では、伝導帯には電子が多く、価電子帯には正孔が多く存在しています。この電子と正孔が再結合をする過程で発生したエネルギーが光となって放出されるのです。

このようにSLDもLEDやLDのように光を発生させますが、生まれた光を増幅させるという点で2つとは異なっています。SLDは発生させた光をそのまま放出せずに、活性層の光学利得で増幅させてから放出します。この増幅によってコヒーレンスな光を発生させることが可能です。SLDのスペクトル幅はLDと比べると広いですが、LEDと比べると狭くなります。こうして、LEDやLDの中間に位置するような特性を持つことができるのです。

この原理によってSLDは、LEDのように幅広いスペクトルの光を放ち、LDのようにコヒーレンスな光を発生させることが可能となり、医療や研究の場で活躍する光源となりました。

SLD光源のその他の情報

1. OCTへの適用

OCTとは光干渉断層像 (Optical Coherence Tomography) の略であり、光の干渉を利用して、非破壊・非接触で物体の表面粗さや生体の断層イメージを計測できる技術です。

OCTによって、X線をとらずとも人体の断面画像が取得できるようになります。このOCTになくてはならない存在がSLD光源です。OCT光源には時間コヒーレンス性が低く、かつ空間コヒーレンス性が高い特性が求められます。

時間コヒーレンス
レーザー光は一定の波長で発光する単色光であり、光の進行方向に正弦波で伝搬していきます。この正弦波の強度が長い距離にわたって維持されてしまうため、光の進行方向にそって波長の整数倍離れた複数の光が生じてしまいます。これがノイズとして観測されてしまう問題があり、時間コヒーレンス性が低い方が、つまりレーザー光と比較してLED光の方がOCT光源には適しています。

空間コヒーレンス
レーザー光は空間直進性が優れているため、所望の光量で照明することが容易です。しかしLED光の場合は、光の拡散性が強いため、所望の対象に所望の光量で照明することが難しいという問題があります。

そこで、時間コヒーレンス性が低く、かつ空間コヒーレンス性が高い光源として、両方の性質を併せ持つSLD光源が注目されています。

2. SLD光源の発光波長

SLD光源の発光波長はLDやLEDと同じく使用する半導体材料のバンドギャップにより決まります。バンドギャップの大きな半導体では短波長、小さな半導体では長波長の光源が開発可能となります。

先述の通りSLD光源はOCTへの適用に期待されています。OCTでSLD光源を用いる場合は近赤外の光源が良く使われます。これは、波長1~1.1μm付近に水の吸収が極小となる領域、通称生体の窓と呼ばれるものが存在しており、生体の窓付近では人体に含まれる水分の影響を低減しつつOCTへ適用することで高SNRが得られる可能性があるからです。

参考文献
https://www.jstage.jst.go.jp/article/isj/52/3/52_219/_pdf/-char/ja
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jpnjvissci/39/3/39_39.37/_pdf/-char/ja

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