板金ハサミとは
板金ハサミとは、2枚の刃を交差させて物を切る板金加工の道具です。
金切鋏 (かなきりはさみ、もしくは、かなきりばさみ) とも呼ばれます。古来は、切り箸 (きりはし) と呼ばれていて、鉄板やブリキなどを切ることに適したハサミです。
板金ハサミは、一般的な鋏と異なる形状をしていて、サイズや種類が豊富です。握り手が刃に対して長く、切れ味を良くするために刃部に裏スキやソリ、ネジリがつけられています。
それらの仕組みにより、大きなせん断力を発揮できますが、工具独特のくせがあるため職人向けのハサミです。
板金ハサミの使用用途
板金ハサミは、建築作業や板金加工の現場で使用され、主に鉄板、アルミ板、針金の切断に用いられます。
具体的な使用例は下記のとおりです。
- 自動車整備工場でのパーツの切断
- 屋根材やフラッシングのカット
- 自宅DIYでの金属加工
- 配管設置作業での、金属プレート加工やシートメタル切断
- ジュエリー作り
- 金属製の家具や装飾品の作成や修復
板金ハサミは、さまざまな業種で幅広く使用されています。
板金ハサミの原理
板金ハサミは通常のハサミと同様、てこの原理を利用している道具です。ハサミの回転中心を支点として、板金を切断するために必要な力が、作用点である持ち手に加わります。
この力が鋏荷重です。鋏荷重は、物を切る直線的せん断荷重、物が曲がることに伴う曲げ荷重、ハサミのフレーム摩擦荷重の和となります。
板金ハサミの選び方
板金ハサミは、各メーカーから様々なタイプの製品が販売されていて、刃の形状や素材が様々です。使用目的に応じ、最適な製品を選ぶことが重要です。
1. 刃の形状
刃の形状は、大きく分けて3種類に分類されます。被切断物をどのように切断したいのかによって、選ぶべき刃の形状は変わってきます。
直刃 (すぐば)
材料を直線的に切断するときに使用されるタイプです。刃が一直線になっているため、切断面が滑らかで均一な仕上がりとなります。
柳刃 (やなぎば)
直線や曲線など比較的自由度の高い切断加工を行うときに使用されるタイプです。刃の先端が尖っているため、切り込みが容易で、スムーズな切断を行うことができます。
抉刃 (えぐりば)
トタン板などに穴を開けるときや、急な曲線などを切断する際に使用されるタイプです。細かな作業や緻密な切断に適しています。
その他にも、板金の山に合わせて切る波板切ハサミや、DIYで使われる倍力構造の洋バサミなどがあり、作業しやすく、仕上げが美しいハサミの開発が進んでいます。
2. 刃の素材
板金ハサミを選ぶ際は、素材も重要な要素です。適切な素材を選ぶことで、ハサミの耐久性や切断能力が向上します。
安来鋼
日立金属株式会社の安来工場で生産された鋼です。硬度や成分により、青紙・白紙・黄紙などに分けられていて、日本の刃物の多くにこの鋼が使われています。
モリブデン鋼
ステンレスにモリブデンを添加した素材で、通常のステンレス鋼と比べ丈夫で切れ味が持続しやすい特徴があります。またサビに強いため、医療用メスなどにも使われる素材です。
ハイス鋼
ハイス鋼とは高速度鋼と呼ばれ、非常に硬い鉄鋼材料で、厚い板金や硬い材料を効率的に切断することできます。また、耐摩耗性に優れているため、長期間にわたり刃の鋭さを維持することができます。
SLD鋼
SLD鋼は非常に高い硬度を持ち粘りがある特徴を持ち、よく切れ、切れ味も長持ちします。また、ステンレス並みのクロームと多くの炭素やモリブデンバナジウム等を含んでいることで、他の素材より錆びに強く、性能とコストのトータルバランスに優れた鋼です。
ZDP鋼
ZDP鋼は、日立金属が粉末冶金技術により製造した新しいタイプの刃物鋼です。均一微細なミクロ組織を有し、硬度、耐食性、耐摩耗性、靭性をそなえた最高峰と言える素材です。ただし、硬度が高いため刃付けが難しく、研ぎにくいというデメリットがあります。
参考文献
http://www.kinzoku-yane.or.jp/technical/pdf/200701.pdf
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jspe/70/10/70_10_1322/_pdf/-char/ja