フェライト磁石

フェライト磁石とは

フェライト磁石

フェライト磁石は酸化鉄を主成分にしてコバルトやニッケルマンガンと混ぜて作られる磁石です。分子式は、MFe2O4(M = Mn, Fe, Co, Ni, Cu, Mg, Zn, Cdなど)と表されます。

複合金属Mは、2価の陽イオンが主流であり、M = FeであるFe3O4は黒色で磁鉄鉱と呼ばれる有名な原料です。他にも、複合金属Mが1, 3, 4価の陽イオンであっても、フェライトと呼ばれる化合物が存在します。

製造方法は、粉末のフェライトを押し固めて高温で焼き上げるという方法です。セラミックの一種でもあります。酸化鉄Fe2O4から合成できるため、安価に入手することができます。

特徴は、どんな形にも容易に整形でき加工がしやすいことと、化学的に安定であるためサビや薬品などによる腐食にも強いことです。

フェライト磁石の使用用途

フェライト磁石は、ハードフェライトとソフトフェライトの2種類によって用途が分けられます。

1. ハードフェライト

ハードフェライトとは、一度強い磁石とくっつける(強い磁界を加える)と永久磁石になるフェライト磁石です。日常生活でよく目にする磁石の大半を占めます。U字磁石が代表的です。

他にも小型モーター、スピーカー、ヘッドフォン、カセットテープに使用されます。

2. ソフトフェライト

ソフトフェライトとは、磁界に触れると磁石になり、磁界から離すと磁気がなくなり磁石ではなくなるフェライト磁石です。磁芯として利用されることが多く、トランスやコイルへの応用に適しています。

わかりやすい具体例としては無線機、テレビ、ゲーム機、自動車、パソコン、電子レンジ、掃除機、冷蔵庫に使用されます。

フェライト磁石の原理

フェライト磁石の磁気特性は、ハードフェライトとソフトフェライトで異なります。まずは磁気特性について説明します。図1はそれぞれの磁性のスピン状態を示しています。

1. 磁気特性

  • 強磁性体: 磁界を加えなくても、磁気モーメント(磁石の強さと向きを表すベクトル量)の向きが揃っている物質を強磁性体といいます。
  • フェリ磁性体: 隣り合う原子の磁気モーメントが逆向きだが大きさが違うため、物質全体として磁化を持つ物質をフェリ磁性体といいます。フェライト磁石はすべてフェリ磁性体です。
  • 常磁性体: 磁界がないとき磁気モーメントが様々な方向に向いていますが、磁界を加えると磁気モーメントの向きが揃う物質を常磁性体といいます。

図1. 磁性ごとのスピン状態

各フェライト磁石の種類と特性を図2に示しています。飽和磁化は、磁界を強めても物質の磁化が増大しない最大磁化のことです。またキュリー温度は、強磁性から常磁性に変化する温度のことです。

図2. フェライトの特性

2. ハードフェライト

ハードフェライトは、強磁性体であり永久磁石です。ハードフェライトは、分子が持つ磁極の配向によって等方性磁石と異方性磁石の二種にさらに分類できます。

  • 等方性磁石: 磁気モーメントが、様々な方向に向いています。磁性の配向がバラバラであることから、どの方向からでも着磁できますが磁力は弱くなります。
  • 異方性磁石: 分子の磁気モーメントの向きがそろっているため、指向性が有るものの強い磁力を提供することができます。焼き固める際に磁場をかけることで各フェライト分子の磁極を整列させることで製造されます。

3. ソフトフェライト

ソフトフェライトは、外部から磁場を与えている間だけ磁力を持ちます。ハードフェライトに比べると磁場は小さいですが、広範囲の周波領域で優れた磁気特性を持っています。

例えば、結晶構造がスピネル型のものは、広い周波数の範囲で透磁率(物質が磁化される度合)が高いという性質をもちます。ガーネット型は、マイクロ波の周波数帯で単結晶が壊れにくい性質があります。

アルニコ磁石との比較

アルニコ磁石とは、鉄にアルミニウム(Al)、ニッケル(Ni)、コバルト(Co)などの添加元素を加え、鋳造法や粉末の焼結によって製造される磁石です。

アルニコ磁石の特徴は、キュリー温度(永久磁石でなくなる温度)が860℃と非常に高く、高温環境でも使用できることです。室温から400℃くらいまでの温度であれば、常温に戻った際にほぼ元の磁力に回復できます。また鋳造によって製造されたものは機械強度にも優れます。

アルニコ磁石の用途は、電動機、センサ、スピーカーユニットやエレクトリックギターのマグネティック・ピックアップが挙げられます。

フェライト磁石との違い

フェライト磁石は酸化鉄が主成分ですが、アルニコ磁石は鉄を主成分にアルミニウム、ニッケル、コバルトを添加します。アルニコ磁石の磁力の保持力は、小さくて減磁しやすいです。

磁極間を長く取る必要があるため、長尺形状でなくてはならない制限があります。また原料のコバルトの供給が不安定で高価であるため、フェライト磁石の方が安価です。

サマリウムコバルト磁石との比較

サマリウムコバルト磁石とは、サマリウム(Sm)とコバルト(Co)から構成される希土類磁石です。組成比によってSmCo5(1-5系)とSm2Co17(2-17系)の2つに分かれ、現在ではサマリウム量の少ない1-5系が広く利用されています。

サマリウムコバルト磁石の特徴は、キュリー温度が最高で800℃程度と高いことです。耐食性に優れるため、表面処理をせずにそのまま使用できることや、形状の選択性が高いことも特徴です。磁気特性はフェライト磁石より高く、ネオジム磁石に次ぐ高さです。

フェライト磁石との違い

350℃程度の環境まで使用できるため、省スペースな高温環境でフェライト磁石より高い磁力が要求される場合に使用されます。一方で強度が低いため、割れや欠けが発生しやすいデメリットがあります。原料であるサマリウムとコバルトは共に希少であるため、フェライト磁石と比較して非常に高価です。

ネオジム磁石との比較

ネオジム磁石とは、ネオジウム(Nd)、鉄(Fe)、ボロン(B)を主成分とする磁石です。ネオジム磁石の特徴は、酸化しやすいことと熱依存性が高いことです。

酸化しやすいため、表面をニッケルめっき処理してから使用されます。通常80℃未満で使用されます。強度が比較的高いため、割れや欠けにも強いのも特徴です。

フェライト磁石との違い

フェライト磁石と比較して磁気特性が非常に高く、磁力の保持力は約4倍で最大エネルギー積は10倍です。フェライト磁石よりも高価ですが、サマリウムコバルト磁石に比べると安価です。

参考文献
http://sts.kahaku.go.jp/diversity/document/system/pdf/051.pdf
https://www.neomag.jp/mag_navi/column/column006.html
http://www.tp-mag.com/jishaku.html
https://www.sii.co.jp/jp/me/dianet/support/features/
https://www.jstage.jst.go.jp/article/kogyobutsurikagaku/30/7/30_519/_pdf/-char/ja
http://www.ferrite.jp/whats_ferrite.html

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です