真空シールとは
真空シールとは、磁石によって引き寄せられる磁性流体という液体の性質を利用した密封装置です。
磁性流体は流体を持ちながら、砂鉄のように磁石に吸い寄せられます。真空シールに備えられた磁石によって磁性流体を保持することで、装置との結合部分のすき間を密封します。密封された対象物への空気やガス、微粒子などが侵入することを防ぎ、真空環境の維持が可能です。
磁性流体の保持される力は磁石の強さ (磁力) によって決まるため、磁力が強ければ磁性流体のリングの耐圧は大きくなります。
真空シールの使用用途
真空シールは、不純物の混入や空気、水分の混入が厳禁となる製品を製造する際に、品質を維持するために使用されています。流体磁性を利用した遮断効果の高さから、高真空を有する製造業などで使用されていることが多く、例えば半導体や太陽電池、あるいはスマートフォン向けの有機ELパネル製造などが例です。
これらの製造下においては、省エネルギーや製造装置のコンパクト化が求められており、真空シールは非常に幅広い用途があります。
1. 半導体
半導体製造では、スパッタリング装置、CVD装置、イオン注入装置に利用されています。これらは均一な薄膜を形成したり、イオン注入により半導体の電気的特性を制御したりする上で、真空シールによる高い真空環境が必要とされます。
2. 太陽電池
太陽電池の製造に欠かせないシリコンインゴッドを製造するための単結晶引上装置にも使用されています。シリコンインゴッドは、製造する過程でゴミやチリなどのコンタミネーション、空気による酸化を防止するために、真空状態で行われます。真空シールは、装置内の真空環境を維持するために活用されています。
3. 有機EL
有機ELにおいては、有機EL素子の薄膜形成のために真空蒸着を行う上で真空シールが必要とされています。近年、液晶ディスプレイから有機ELへの需要が高まったことに伴い、真空シールの需要も高まってきています。
真空シールの原理
真空シールは、磁性流体と呼ばれる液体を使用します。磁性流体とは、磁性を持ったナノサイズの微粒子 (磁性微粒子) 、界面活性剤、水や油などのベース液の3成分から構成されます。
通常、磁性微粒子同士は磁石のように互いに凝集してしまうため (スパイク現象) 、これを防ぐのに界面活性剤を使用するのが一般的です。界面活性剤は極性を持つため、同極同士は反発し合います。その結果、凝集せずコロイド溶液として安定した磁性流体を作成することが可能です。
さらに真空シールでは、磁性流体に加え、永久磁石とシャフトと呼ばれる回転軸が用いられます。高速回転しながら密閉する仕組みを持つ真空シールですが、回転軸と磁極材や永久磁石との接触を防ぐことができます。オイルシートのように固体同士が接触することがないため、摩擦が発生する心配もありません。
真空シールの構造
シールの軸形は、数mmの小型製品から数m規模の大型製品まで幅広く製造されています。真空シールは、回転軸と強い磁性を持つポールピースで構成されており、2つの素材の隙間には磁界が発生します。
この磁界の隙間に磁性流体を導くことで、磁性流体がOリング状となって密着し、外部からの侵入を防ぐことができる構造です。
真空シールの特徴
回転軸と液体の接触であるため、回転軸を摩耗させず任意に回転させることができます。さらに、磁性流体が磁力線に沿って隙間を塞いでいるため、圧力の差によって流れ出すこともなく、真空環境の維持が可能です。
また、磁力が大きければ大きいほど磁性流体が形成するリングの耐圧も高くなります。リングを何段階にも形成することによって、耐圧性の高い真空シールが完成し、より大きな圧力にも耐えられます。
磁性流体は不活性で蒸気圧が低いという特徴は、真空シールの寿命にも関係しています。反応しにくい磁性流体を用いていることによって、劣化しにくく、長期間にわたって使用できるのが利点です。