ガスタイトシリンジとは
図1. 一般的なガスタイトシリンジ
ガスタイトシリンジとは、液体のみならずガスの取り扱いも可能となっている、気密性を有したシリンジです。
一般的な微量計量用ガラスシリンジ (マイクロシリンジ) と基本的な構造は同様ですが、プランジャ先端のPTFEチップなどにより、気密性が向上しています。ガスタイトシリンジは、通常、シリンジ (外筒) 部分とプランジャー部分がセットで販売されています。
多くの製品はシリンジ部分がガラス製ですが、プランジャー (押子) 部分は容量や用途によってガラス、金属、樹脂ライニングなどの様々な材質があります。用いる試料の状態によって適切な素材を選定することが必要です。
ガスタイトシリンジの使用用途
ガスタイトシリンジは、実験室における一般的な試料の取り扱いの他、分析などにおける定量計量用途に広く用いられています。
自動希釈装置、自動分注装置や、HPLCなどのマニュアルサンプラー/オートサンプラにおける試料溶液の取り扱いが可能です。また、気体の取り扱いが可能という特徴を利用して、GCMSなど気体分析における試料の取り扱いや、土壌汚染対策法に基づく土壌ガス検査にも使用されます。
ガスタイトシリンジの原理
図2. ガスタイトシリンジのプランジャー
ガスタイトシリンジは、外筒・プランジャー・針で構成されている点は通常のマイクロシリンジと同じですが、プランジャー先端にPTFEチップが装着されており、通常のマイクロシリンジより気密性が高くなっています。この特徴によって、気体を取り扱うことが可能です。
PTFE (テトラフルオロエチレン) は、フッ素樹脂の一つであり、耐熱性、耐摩耗性、耐腐食性、摺動性に優れています。融点は327℃と非常に強く、ほとんどの薬品、溶剤にも安定です。
取り扱い上の注意点は、以下の点が挙げられます。
- 乾燥状態でのプランジャポンピングは行わないこと。
- 内部洗浄は水や溶剤の吸排出によって行うこ。と
- 乾燥は風乾で行い60℃以上に熱しないこと。
これらは、ガスタイトシリンジが定量計量用のガラス器具に相当するためです。
ガスタイトシリンジの種類
ガスタイトシリンジの種類は、容量や形状等の観点から分類することができます。
1. ガスタイトシリンジの容量
ガスタイトシリンジは通常のマイクロシリンジと同じ程度の小容量 (数μL~数百μL) の製品が一般的ですが、大きいものの中には最大で100mL程度の容量の製品もあります。厳密な容量を計量し、注入することができます。
2. 針の取付部の形状
図3. 針取付部の形状
ガスタイトシリンジには、シリンジに針が固定されている固定針型と交換針型があります。固定針型は、安価で汎用的です。一方、交換針型は、汚れの多いサンプルや塩などが析出しやすい場合のサンプリングに適しています。また、用途によって形状 (針外径/長さ、針先形状) の異なる針に変更して使用することができます。
交換針型はさらに以下の2種類に分類されます。
- ルアーロック式
針を取り付ける部分がネジ状になっており、針が抜け落ちないようにロック機構で固定することができます。一定の耐圧性を呈します。 - ルアーチップ式
先端がテーパ状となっており、注射針を差し込んで使用します。針の着脱はより容易です。ただし、針の押し込みのみで接続されているため耐圧性は比較的低くなります。
3. その他
ガスタイトシリンジの中には、各部品を分解してオートクレーブ処理を行うことが可能な製品もあります。生化学分野などで生物試料を扱う際に最適です。尚、オートクレーブ処理を行う場合には、110℃設定で約20分間の処理が一般的です。
また、メーカーによっては、マニュアルシリンジとは別で、オートサンプラー/機器専用シリンジ製品を販売している場合もあります。用途に応じて選択することが望ましいでしょう。
ガスタイトシリンジは前述の通り、プランジャーにPTFEチップが装着されていますが、PTFEチップに加えてプランジャー全体がPTFEコーティングされた製品もあります。このような製品は、腐食性試料にも使用可能です。また、各種製品に対して交換用のプランジャーも販売されています。