光電子増倍管

光電子増倍管とは

光電子増倍管 (英: Photo Multiplier Tube 略語: フォトマル・PM・PMT) とは、光 (光子) を電気に変換することができる最も感度の高い光センサの1つです。

真空状態のガラス管の中に入射窓、光電面 (カソード) 、ダイノードなどの各部品が設置された構造をしています。原理としては真空中で金属に光を照射すると表面から電子が放出される、外部光電効果という現象が利用されています。

光子1個からでも大きな電気信号に高速で (10-9秒程度) 変換することができるので、光検出器として電子顕微鏡、環境分析機器、医療機器、分光光度計分光分析装置などに搭載されています。

光電増倍管の使用用途

光電子増倍管は、電子顕微鏡の2次電子検出器や、紫外可視分光光度計や発光分光分析装置など、光分析装置の検出器に用いられています。また、大気中の粒子を計測するダストカウンタ、大気中の浮遊物の散乱光を検出するレーザレーダ (LiDAR) 、がん検診などに用いられるPET (陽電子放射断層撮影法) 、CT (コンピュータ断層撮影) などの医療用装置にも使用されています。

LiDARは、自動車の周囲の物の位置や動きを検出する手段となり、全自動運転の鍵となる技術としても期待されています。ニュートリノの研究で世界最先端の設備として用いられたスーパーカミオカンデには、5万トンの水タンクの中に発生するチェレンコフ光 (電子が水中の光速を超えると発生する光) を捉えるため、径20インチの光電子増倍管が1万3,000本も使われています。

光電子増倍管は、感度の面で非常に優れており、微弱な光を充分な量の電気信号に変換することが可能です。一方で、使用に高い電圧が必要で、熱電子などに起因するノイズを拾いやすいなどのデメリットもあります。そのため、光電子増倍管の電源には極めて低ノイズで、安定性が高いことが求められます。

光電増倍管の原理

図1. 光電子増倍管の基本構造

光電子増倍管は、光を光子1個から検知し、電気信号に変換することができる光センサです。図1に光電子増倍管の全体構造を示します。

真空状態のガラス管の中に光が入射する窓、光子を外部光電効果 (電子を真空中に放出させる効果) により電子に変換する光電面、光電子を集める集束電極、2次電子を増倍する10段前後のダイノード、電子信号を発生する陽極が取り付けられています。光電面から陽極まで全体で、1,000V程度の直流電圧がかけられます。

1. 窓材

窓材には光の主に短波長側の波長領域に応じて、硼硅酸ガラス、石英ガラス、UV透過ガラス、MgF2結晶などが用いられます。

2. 光電面

図2. 光電面と外部光電効果 (イメージ)

光電面は,高真空に接する面に量子効率 (光電子発生効率) 活性層を形成します。可視領域では、バイアルカリ金属光電面,赤外領域まで感度のある3種類以上のマルチアルカリ金属光電面、紫外検出用アルカリハライド光電面や紫外から近赤外域で高い感度を持つIII‒V族化合物半導体を用いた光電面が開発されています.

3. ダイノード

図3. ダイノードの構造と機能 (イメージ)

光電子は集束電極で加速され、ダイノードに集められます。ダイノードはニッケル、ステンレスなどの基板金属に二次電子放出比を高める活性層を形成します。アルカリ金属-アンチモン (SbCsなど) や酸化ベリリウム酸化マグネシウムを蒸着させた層などが用いられるのが一般的です。

電子がダイノードに衝突することで、多数の二次電子が放出されます。放出された二次電子は次に設置されたダイノードに衝突し、そこでさらに多くの二次電子が放出されます。これを繰り返すことで最終的には電子が100万倍以上にも増え、充分な量の電気信号として検出されます。

光電子増倍管のその他情報

二次電子増倍部の構造

二次電子増倍部は、ダイノードなどの配置・形状により、サーキュラケージ型、ラインフォーカス型、ボックスアンドグリッド型、ファインメッシュ型、メタルチャンネル型など様々な構造が考案されています。

それぞれの構造について、電子軌道解析により最適な電極設計がなされます。電子は高真空中を走行するので、高速な時間特性の取得が可能です。光を粒として数えられる高感度と高速応答特性が、最前線でPMTが利用される理由です。

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