ジクロロエタンとは
図1. ジクロロエタンの基本情報
ジクロロエタンとは、ハロゲン系炭化水素です。
1,2-ジクロロエタンと1,1-ジクロロエタンが存在します。ジクロロエタンは、中枢神経系、肝臓、腎臓、肺、心臓血管系に影響を与えるため、「第一種特定有害物質」に指定されています。人体に対して発がん性がありますが、現在のところ十分な評価がされていません。
したがって、国際がん研究機関では、「人に対して発がん性の可能性がある」に分類されています。
ジクロロエタンの使用用途
ジクロロエタンは、塩化ビニルモノマー (ビニールの原材料) 、エチレンジアミン (塗料、ワニス、接着剤、殺虫剤製紙などの原材料) 、ポリアミド樹脂 (プラスチック、ナイロンの原材料) 、イオン交換樹脂の原材料 (主に水浄化に使用される) などを合成するための原料として使用されます。
また、ジクロロエタンの溶解力は強力なため、非極性非プロトン性溶媒としても有用です。そして、鉄、アルミ、ガラスなどに付着した油成分を洗浄するための、脱脂洗浄剤としても利用できます。
そのほか、塗料の溶剤、スプレー製品の溶剤、毒性を活かして殺虫剤や燻蒸剤 (家屋などのカビ発生防止、害虫の駆除) としての用途もあります。
ジクロロエタンの性質
1. 1,2-ジクロロエタン
1,2-ジクロロエタンの融点は-98°Cで、沸点は57°Cです。常温では油状であり、エーテル臭がする無色の液体です。1,2-ジクロロエタンは、水にはわずかしか溶けません。エタノール、エーテルには溶けます。高い引火性や発癌性の可能性を有します。
2. 1,1-ジクロロエタン
1,1-ジクロロエタンの融点は-35°Cで、沸点は83.5~84.0°Cです。クロロホルムのような臭気を有する無色の液体で、水には難溶ですが、ほとんどの有機溶媒に可溶です。400~500°Cで10MPaに加圧すると、熱分解によってクロロエチレンが生成します。光分解によって生じたヒドロキシラジカルと反応しやすく、大気中での半減期は62日です。
ジクロロエタンが環境に放出された場合、地中内で地下水に移行して残留します。そのため、ジクロロエタンの環境放出は地下水の汚染問題に発展する可能性もあります。
ジクロロエタンの構造
1,2-ジクロロエタンと1,1-ジクロロエタンの化学式はC2H4Cl2、モル質量は98.96です。1,2-ジクロロエタンの密度は1.253g/cm3で、二塩化エチレン (英: ethylene dichloride) とも呼ばれます。
一方で、1,1-ジクロロエタンの密度は1.2g/cm3です。エチリデンジクロリド (英: ethylidene chloride) とも呼ばれます。
ジクロロエタンのその他情報
1. 1,2-ジクロロエタンの合成法
図2. 1,2-ジクロロエタンの合成
1,2-ジクロロエタンは、触媒に塩化鉄 (III) を用いて、エチレンと塩素から合成できます。塩化銅 (II) を使用して、塩化ビニル、塩化水素、酸素の反応によっても、1,2-ジクロロエタンが生成します。
2. 1,2-ジクロロエタンの反応
図3. 1,2-ジクロロエタンの反応
1,2-ジクロロエタンの生産量の8割が、モノマーである塩化ビニルの生産に使われています。具体的には、1,2-ジクロロエタンから塩化水素が脱離して、ポリ塩化ビニルの前駆体であるクロロエチレン (英: chloroethylene) を得ることが可能です。
クロロエチレンの化学式はCH2=CHClであり、塩化ビニル (英: vinyl chloride) とも呼ばれています。クロロエチレンを得る際の副生成物である塩化水素は、1,2-ジクロロエタンを合成するために再使用できます。
そのほか、1,2-ジクロロエタンは、有機合成化学における有用な反応中間体として利用可能です。