ワイヤー電極線とは
ワイヤー電極線とは、放電加工機で使用する金属線です。
この金属線を電極として使い、放電加工を行います。直径は0.05~0.3㎜と非常に細いのが特長です。
ワイヤー電極線の材質には黄銅 (銅と亜鉛の合金) が用いられることが一般的です。黄銅は安価であるだけでなく導電性や加工性に優れています。他にも、タングステンやピアノ線などがあります。
ここでは、ワイヤー電極線の使用用途・原理・選び方などを詳しく解説します。
ワイヤー電極線の使用用途
ワイヤー電極線を使えば、鋼・ステンレス・アルミニウム・銅など、通電可能な工作物をであれば硬度を問わず精度の高い加工が可能です。形状が複雑な加工にも適しています。
具体的な使用用途は次の通りです。
このように工業・医療・宇宙・芸術といった幅広い産業分野で活用されています。では次に、この加工技術がどのような原理を用いているのかを説明します。
ワイヤー電極線の原理
ワイヤー電極線は放電による熱を原理とした加工技術です。その原理を、放電加工技術の工程から解説します。次の4つの段階が、放電加工工程の1サイクルです。
- 第1段階:電圧をかけて加工物に近づけ、加工物との間にイオン化を促し、コロナ放電を発生させる
- 第2段階:さらに加工物に近づけてイオン化をさらに促進、火花放電を発生させる
- 第3段階:電子なだれを起こして加工物との間に放電柱を発生させ、加工物の放電点を溶解させる
- 第4段階:加工くずが発生するため加工液で排出、システムを冷却し、絶縁を回復させる
この工程サイクルを1秒間に数万回繰り返して加工物を切削します。この加工方法は「ワイヤーカット」とも呼ばれます。
ワイヤー電極線の選び方
ワイヤー電極線を選択する際は、「材質」「線径」「表面処理」「加工液」の4つの項目を考慮することが重要です。それぞれの項目の内容を以下に詳しく説明します。
1. 材質
ワイヤー電極線に使われる材質は、主に次の3つです。
- 黄銅
- タングステン
- ピアノ線
一般的に使われるのは黄銅ですが、高精度で微細な加工物にはタングステンが使われます。耐摩耗性に優れており、寿命が長いのがタングステンの特長です。
ピアノ線は黄銅をコーティングして用います。加工性能は黄銅より上、タングステンよりは下ですが、比較的安価のためバランスの点で評価が高い材質です。
2. 線径
切断や加工する金属の形や厚さで、ワイヤー電極線の線径を決めます。寸法が小さい加工物、精度の高さを求められる加工工程、加工速度をアップさせたい場合には、細めの線径を選ぶことが必要です。
また、放電加工機に使用するダイス径により電極線の直径を変えます。太すぎるとダイスを通らず、細すぎると電極線が振れてしまいますので注意してください。
3. 表面処理
導電性の高い黄銅の次に使用される頻度が高いのが、コーディングワイヤーと呼ばれるタイプです。黄銅の表層に電気メッキで高純度亜鉛をコーティングします。
表面処理をすることで、加工速度がアップし、加工物の表面を均一に仕上げることができます。また、電極線の寿命を延ばせることも表面処理のメリットです。
4. 加工液
加工物の材質、加工条件、加工精度、コストパフォーマンスによって最適な加工液が異なります。主な加工液は次の3種類です。
- 油系
- 水溶性
- 合成油系
加工液と相性の良い電極線を探します。加工液の冷却性や潤滑性は電極線の寿命に影響を与え、濃度は加工速度を左右するため、使用する加工液に最適な電極線を選んでください。
ワイヤー電極線のその他情報
導電性があればどのような加工物でも対応可能なワイヤー電極線ですが、次の加工には適していません。
- 加工速度が求められる量産
- 導電性のない加工物
- 底部を残す形状の加工
- 水平方向加工
ワイヤー電極線を使った加工が不向きの加工物には、レーザーカット加工を採り入れた複合加工を検討する場合があります。
また、性能を悪化させないよう保管環境に注意することや、加工液に引火性がある場合には、電極線の取扱い時の火災防止を徹底することが重要です。
参考文献
https://jp.misumi-ec.com/vona2/detail/110610283319/?list=PageCategory
https://sunroxedm.co.jp/product/
https://edm-expertnavi.com/492/
https://chb.co.jp/products-ct-wire/